転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第855話 辺境の村人たち、予行演習を行う (3)

“““ガチャンッ”””

「「「かんぱ~い!!」」」

打ち付けられたジョッキ、男たちは並々と注がれたエールを口に運びゴクリゴクリと喉を鳴らす。

 

「おう、デッカイの、飲んでるか? しっかしいい身体付きだな、一体何を食えばそんな身体になるんだ?」

「ニク!! オレ、エモノ、マルカジリ!!」

 

「「「おぉ~、男らしい。食え食え、今日の料理はケビンの奢りだ、好きなだけ食っていけ~、かんぱ~い!!」」」

男も、女も、老人も、子供も、魔物達も。皆が思い思いの席に着き、エールと料理に舌鼓を打つ。

そこはマルセル村の村門前に作られた闘技場、多くの戦士たちが集まり己の技量を尽くし戦いを繰り広げる舞台にはテーブルと椅子が並べられ、エールのジョッキと大皿に盛られた料理が所狭しと置かれている。

 

「白のお兄~さん、あなたたちも椅子に座って楽しみなさいよ。配膳はケビンの影魔法で出来ちゃうんだから~」

エールに酔ったご婦人が配膳を行う白い騎士の一人に話し掛ける。

 

「いえ、我々はダンジョンからの魔力供給があればいつまでも動き続けることが出来ますので。それよりも皆さんに楽しんでいただく事の方が重要ですので、どうぞお気になさらずお料理をお楽しみください。

ですがお言葉を向けていただきました事には心よりの感謝を、あなたのようなお心の美しい女性の為に尽くす事が出来、私共は幸せでございます」(ニコッ)

「「「「「キャ~~~、お兄さん素敵~♡」」」」」

一礼をしその場を離れる白い騎士に感激の声を上げるご婦人たち。

 

「「「「「ブー太郎様~~、一緒にお食事を」」」」」

「「「「「ブー太郎ー、コノ肉食ベル、ソシテ私タチガブー太郎食ベル!!」」」」」

「やめろ~~~~!! お前らは黙って料理食べてろ、この肉食(性的に)ども~~~!!」

大きな盛り上がりを見せるマルセル村の春祭り、闘技場の観客席の上には幾つもの巨大モニターが浮かび、先程まで行われていた演習の映像が流される。

 

「あ~疲れた。漸く一休みできるわ」

俺は会場隅のテーブル席にドカリと腰を下ろすと、エールのジョッキに手を伸ばす。

 

“コトッ”

「ご主人様、お疲れ様でございました。新たな試みである“演習”も無事に終わりました、皆様大変楽しまれたご様子、大剣聖クルーガル様からは定期的に開催して欲しいとの意見が届いております」

テーブルに置かれたのは取り皿に盛られた料理、俺は一口箸で摘まんでからエールで腹に流し込む。

 

「プハ~、旨! 旨い酒に旨い料理、仕事の後は最高だよね。月影と残月もご苦労だったね、魔王軍幹部の役は月影のシャドームーンと残月のムーンナイト、それとブー太郎のクレーターが定番だからね。

他のみんなには裏方でもしもの場合に備えてもらったし、本当にお疲れ様でした。

さっきシステム管理室に寄ってトライデントに今回の演習の結果を聞いて来たんだけど、すべて想定内に収まったって言ってたよ。最悪あなた様が堕天しても耐えられるように設計してあるけど、実稼働状態でそれだけの性能が発揮できるか不安だったからね、今回の結果には大変満足してるよ。

復活システムは御神木様の聖域結界内ダンジョンでの使用試験データを活用、漏れのない運用が確認できたことが大きかったかな。

後心配だったのが魔法戦闘における耐久度だったんだけどね」

 

俺はそこまで言うと、取り皿に盛られた串肉に手を伸ばす。扶桑国の醤油と米酒と砂糖、そこに甘木汁を混ぜて作ったタレをボア肉にぬって焼き上げた一品、要はボア肉の照り焼きですね。

こんな料理を作り出すホーンラビット伯爵家料理人のグリルさんって最高、これからも色んな調味料を持ち込もう。広がれマルセル村の食文化、俺はその活動を応援します。

 

目の前の巨大スクリーンに映し出されるのはジミーとブー太郎が壮絶な戦闘の末相打ちになるシーン、あれは酷かったな~。周辺のオークとオーガが余波で吹き飛ぶ吹き飛ぶ、マルコお爺さんの奥さんもこの時お亡くなりになったんだよな、可哀想に。

というかあの戦いの中で最前線に駆け付けるお婆さんって一体、マルコお爺さん、強く生きて。

俺は再びエールに口を付けると、その後の戦闘を振り返りながらスクリーンの記録映像に集中するのでした。

 

――――――――――――――――

 

「<龍牙一閃:鬼切り>!!」

「<轟雷閃光:落命散華>!!」

“チュインッ、ズドドドドドドドドドドドドーーーン”

魂が走る、命が迸る、思いと思いがぶつかり合い、激しい爆発を作り出す。

 

「カオス様、クレーターが破られました。オーク族、オーガ族に多くの犠牲者が見られます」

「そうか、クレーターが逝ったか。あの者は自らの使命を完璧にこなした、クレーターの行い、この胸に留め置こう」

激しい戦闘が続く、双方に多くの犠牲が発生するも、元より数の有利は明白。ホーンラビット伯爵家騎士団は、ホーンラビット伯爵自ら剣を取り最後の抵抗を試みていた。

 

“ユラ~~、ズバズバッ、ドサ”

「ほう、遂にここまで辿り着いたか、鬼神ヘンリー、剣鬼ボビー。クレーターに吹き飛ばされてからどうしていたのかと思えば、あのどさくさに気配を消失し、静かに戦場をすり抜けていたとはな。

人の恐ろしいところは目的の為であればこれまでの戦い様を呆気なく捨ててしまうところよ、その潔さは尊敬に値する」

白一色に染まった騎士が突然その場に倒れ伏し、まるで陽炎のように二人の戦士が姿を現す。その身から漂う気配はとても自然で、ともすれば目の前にいるにもかかわらずそれがあたり前過ぎてその存在を認識できなくなる。

 

「あぁ、俺たちはこの機会をずっと待ち望んでいたからな。他の者には悪いが我が儘を通させてもらった」

「クックックッ、ほんに待ち遠しかったわい。この冬潜り続けたダンジョンでの日々は、今この瞬間の為にあると言っても過言ではない程にの」

そこには殺気もなく、闘気もない。ただあるがまま、空に雲が浮かぶ如く、風が吹き枯草が揺れる如く、岩が岩としてその場にあり続けるが如く。

 

「“石は誰が思おうとしなくても石である”、これは儂の剣の師が常々口にしていた言葉じゃ。儂はケビン、お主に出会って初めてこの言葉の意味を理解する事が出来た。それと同時に儂に足りなかったものが少しずつではあるが見えてきた。

ケビン、礼を言うぞ、儂らの前に現れてくれてありがとう」

「そうだな。俺はこれまで酷く飢えていた、冒険者として剣を握っていた頃も、いや、もっと幼い頃、マルセル村で過ごした日々は俺に飢えの記憶として刻まれていたのかもしれない。

それはメアリーと出会い、お前という子を授かっても俺の心の奥に燻り続けていた。

ケビン、お前のお陰だ、俺の飢えは満たされた。お前との戦いが、剣の道が、俺をここまで導いてくれた」

 

それはとても静かでありながらとてつもなく大きな流れ。まるで夜空を照らす星々のように、一日を造る大地のように、あまりにも大き過ぎて気付くことの難しい力そのもの。

 

「そうか、人の身でそこまで。だがそこは始まり、気付きの一歩、最早他者との比較は不要であり無意味、ただあるがまま思うがままに。

シャドームーン、ムーンナイト、全ての枷を外すことを許す。この愛おしき人類に夢の続きを」

「「ハッ、全ては魔王カオス様の思し召しのままに」」

魔王カオスの言葉に前へと出る二人の女性。

 

「では、お手合わせ願おうかの。儂の相手はどちらがしてくれるのかの?」

「僭越ながらこのムーンナイトがお相手しましょう。あなた方の立っている場所は嘗て私たちが通った道、ようこそ、こちら側の世界へ」

“シュピンシュピンシュピンシュピンシュピンシュピン”

切り裂かれる大気、訪れる静寂、その場に走る剣線だけが互いの存在を示し続ける。

 

「それでは私たちも参りましょうか、ダンスの舞台へ」

「あぁ、俺も“笑うオーガ”と呼ばれたころはよく誘われたものだが、あの頃は退屈だとしか思わなかった。今思えばもったいない事をしたよ、言葉ではない語らいとはこれ程に奥行きの深い物であったんだな」

“サッサッシュシュッサッシュシュシュシュッササッシュッ”

それは互いに申し合わせたかのような美しい剣舞、あらかじめ決められていたかのように巨剣とサーベルが空を舞う。時を置き去りにした素早さを持っているにもかかわらず、優雅でゆったりとした動きに感じてしまう不思議な光景。

 

戦いに生きる者にとって至福の時間とはどういうものであろうか、圧倒的な力で敵をねじ伏せた時であろうか、それとも遥か格上の相手を打ち負かした時であろうか。どちらも勝者に得も言われぬ愉悦を与える物であろう。

だが真に得がたい物とは己の全力を以ってしても尚対等以上の力を以って戦いあえる者との出会い、遥かなる頂ではなく届きそうで届かない好敵手の出現。

 

「クックックッ、アッハッハッハッ、堪らん、堪らんの。このヒリヒリするような緊張、ムーンナイト、貴様の思いが全てこちらに伝わってくるような感覚じゃわい」

「えぇ、そうですね、このような感覚は今まで感じたことがありません。これが胸躍る戦いというものなのでしょう。ですが時は有限です、そろそろお終いに致しましょう」

 

「そうじゃな、名残惜しいがこれ以上若い娘さんと戯れておると嫁に怒られてしまうからの。<無幻夢想:残剣>」

それは剣士の夢、無数の剣鬼が己の積み上げた剣術の全てを懸けて全方向から切り掛かる。

 

「あぁ、本当に名残惜しい。では私も無限の時をドラゴンに挑み続けた者の全てを賭して応えましょう。理屈ではなく、圧倒的な強者に挑み続けた者の執念の剣、とくとご覧あれ。<万状穿孔:那由多>」

“バンッ、パリーーーン”

世界が砕ける、夢が覚める、静寂は現実へ、全ての時が動き出す。

 

「“ゴフッ”、遠いの・・・じゃが、それもまた一興・・・」

“ドサッ”

崩れ落ちる剣鬼、漆黒の甲冑の騎士はサーベルを持つ手をだらりと下げ、好敵手に目を向ける。

 

「利き腕一本、見事に持っていかれましたか。私も精進しなければいけませんね、いずれ追い抜かれてしまわぬように」

戦士たちの語らい、そこに多くの言葉はいらない。ムーンナイトは視線を剣鬼からもう一つの戦いへと向ける。

 

それは違う時の流れが進む別空間、ゆっくりでありながら瞬きの瞬間、呼吸を忘れるほどの集中を以って見つめ続けてしまう濃厚な戦い。

 

「隣は終わってしまったのだな」

「そうですね、ですが悔いはないものかと。それだけは確かでしょう」

視線ではなく魂による共鳴、戦いの中にしか存在しない崇高な繋がり。

 

「では俺たちも終いにするか、礼を言う。それと息子の事、よろしく頼む」

「畏まりました。これからはお義父様とお呼びいたしましょうか?」

そう言い悪戯な笑みを浮かべるシャドームーンに釣られ、くすりと笑いの漏れる剣鬼。

少しの間合い、互いの間の空気が陽炎のように歪む。

 

「<終剣:一閃>」

それは巨剣による横薙ぎ、基本にして究極、研ぎ澄まされたその一刀はあらゆる存在を断ち切る絶対の秘剣。

 

「<空蝉:陽炎>」

“ズバンッ”

断ち切られる胴体、逃れる術のない鬼神の刃が勝負を決めた、誰の目にもそう映った。

 

“ゴフッ”

飛び散る鮮血、吐血しその場に崩れ落ちる鬼神ヘンリー、その背中には長いサーベルの剣先が怪しく光る。

 

「目に見えるもの、身体で感じるものが全て正しいとは限らない。ましてや私たちの戦いにおいては魂の響きすら欺くのが常道、私たちは御主人様のお傍に仕える為、常に前へ進み続けておりますので」

「・・・息子の為に苦労を掛ける。アイツは幸せ者だな・・・」

“ドサッ”

 

「いいえ、幸せ者は私たちでございます。御主人様にお仕えすることが私たちの幸せ、これ以上の喜びはございませんので」

勝負は決した。シャドームーンとムーンナイトが片膝を突き、敬愛する主に首を垂れる。

 

「聞け、者どもよ。これより人間に最後の試練を与える。残り僅かな生き残りを一気に殲滅し、塔を落とす。全軍、突げ「そうはさせません。魔王カオス、あなたの野望は私たちが砕きます」・・・ほう、威勢がいいではないか。三英雄、パトリシア夫人」

魔王カオスが見つめる先、そこには深紅のマントを翻す甲冑姿の女性、女傑パトリシア・ワイルドウッド男爵夫人の姿。

 

「魔王カオス、聞こえなかったのですか? 彼女は私たちと言ったのです。それと月影、何ですか先程のヘンリーお義父様との会話は、冗談としても見過ごす訳にはいきません、二人にはしっかり説明してもらいます!!」

構える長杖、流れる銀糸をサラリと揺らす美の結晶、エルフの姫アナスタシア・ワイルドウッド男爵夫人。

 

「真打は最後に現れる、これ、お約束」

「あ、すみませんケイトさん、この戦いってモニターで映し出されてますんで、歌姫モードでお願いします。ケーナが不機嫌になりますんで」

 

「・・・ハァ~、これは育児疲れ、ケーナには四角い聖地の覇者になってもらいたい。“変身、歌姫モード”」

輝く黄金の髪がふわりと揺れる、美しい面立ちの聖母が優雅に微笑む。

 

「魔王カオス、これで最後です。マルセル村をあなたに渡す訳にはいきません。

あなたにはこれから私と一緒にお布団様の中でキャタピラーに「お~い、ケイトさ~ん、最後までちゃんとやろうね~、最終テストが残ってるからね~」・・・覚悟しなさい」

 

「ほう、これは面白い。この地を守護する女神様の祝福を受けし者どもよ、我が試練、見事乗り越えられるかな? 者どもよ、叩き潰せ」

“““““GAAAAAAAAAAAAAAAAAAA”””””

走り出す魔物たち、数を減らしたホーンラビット伯爵家騎士団は魔物の波に飲み込まれる。

 

「させません。“大いなる女神よ、我を守護せし大いなる魂よ、我が声に応え我が敵を穿つ剣となれ、一角兎大突進(ホーンラビットスタンピード)”!!」

パトリシアの剣が振り下ろされる、その瞬間背後から無数のホーンラビットが飛び出しオークとオーガの鋼鉄の肉体に鋭い角を突き立てていく。

 

「“火よ、水よ、風よ、踊れ、踊れ、踊りて遊べ、大気を狂わせ大いなる光を作り出せ、雷撃降雨”」

“ビカビカビカビカ、ズドンッズドンッズドンッズドンッズドンッズドンッズドンッ!!”

天より落ちる神々の鉄槌、激しい落雷の嵐に、次々と魔物が吹き飛ばされる。

 

「“壊れゆく世界の中でも 人は希望を忘れはしない

全ての思い束ねて束ねて 祈りは天に夢は大地に

創世の光我らの前に 回れ回れ時の狭間に 

願いが一つ叶うのならば この世の全てを白にする”」

“ブワーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー“

それは天から落ちる光の柱、魔王軍を一人残らず包み込み白光の中に吞み込んでいく。

 

「クックックックッ、アッハッハッハッ、素晴らしい、素晴らしきかな人間。わが配下の突進を遮るばかりか焼き尽くし、天の光に呑み込み消滅させる。

無慈悲であり無常、己の思いを貫くその強さ。女神様よ、ご覧ください、あなたの子供たちはこの魔物蔓延る厳しい世界で力強く生き抜いておられますぞ。

ではこれが最後の試練、耐え抜いて見せよ人間、<次元斬:乱空>」

それは光の中から聞こえる魔王カオスの歓喜の叫び、絶望の始まり。

 

“ババババババババババババババババババババババババッ”

何かが飛び出し空間を抜けていく、それは展望塔にぶつかり激しい衝撃音を奏で続ける。その音に背後を振り返った戦士たちは、視界が天に向かいまわり始めたことに驚く。そして自身がいつの間にか切り裂かれ、絶命していた事に気が付くのであった。

 

「ほう、展望塔は無傷、上部の展望台も結界に守られて手出しすることが叶わぬのか。人間よ、流石であるな。今日のところは手を引くこととしよう、だが歩むことを忘れるな、我は必ずこの地を手に入れて見せようぞ。

さらばだ人間、我はお前たちの成長を期待しているぞ、ワハハハハハ」

遠ざかる笑い、光は消え、そこにはすべてが掻き消えた剥き出しの大地が広がるだけなのであった。

 




いってらっしゃい。
by@aozora
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