転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第856話 転生勇者、村の春祭りを楽しむ

「負けちゃったね・・・」

「あぁ、完膚なきまでの敗北だったな」

 

テーブルに並ぶ料理の数々、成人前の子供たち用には果実水や蜂蜜水、マルセル茶や甘木汁水が用意され、村人たちはそれぞれの席で思い思いの話に花を咲かせる。

春祭り会場となった村門脇の闘技場には巨大スクリーンがいくつも浮かび、演習の時の映像が様々な角度から映し出されている。

 

「ブー太郎に言われちゃったよ、「お前たちは王都を襲ったドラゴンを押し止めたことで、どこか心に油断が生まれちまったんじゃないのか?」って。俺は全くそんな気はなかったし、むしろ自分たちの力のなさを嘆いていたけど、どこかにそんな慢心があったのかもしれないな」

「そうかもな、俺はブー太郎と相打ちになったけど、俺のやった事はただの自己満足。これは演習ではあったけど、マルセル村と侵略者との戦い、だったらもっと戦いようがあったんじゃなかったのかって後から反省したよ」

俺はカップに注がれたマルセル茶に手を伸ばし、静かに口を潤す。正面のスクリーンにはジミーがブー太郎と相打ちになるシーンが映し出されている。

 

「どうしたどうした、マルセル村の希望の星が二人して暗い顔をして」

掛けられた声に目を向ければ、そこには料理を盛った小皿を手にしたグルゴさんとギースさんの姿。

 

「グルゴさん、ギースさん、どうしてここに? 二人とも奥さんとお子さんたちのところにいたんじゃ」

「あぁ、ガブリエラは女衆と一緒にオークとオーガのメスたちと盛り上がってるよ。大森林に棲む種族たちは考え方が明快というか、日常と死が隣り合わせだからか、かなり考えさせられるところがあるらしい」

 

「子供たちはミッシェルちゃんのところだな。マルセル村航空隊の今後の方針について話し合うとか、今回の戦闘を目にして、今まで通りのやり方では村の防衛に役立たないとかなんとか。

あの子たち本当に子供か? 話の内容が俺たち以上なんだが」

いつの間にか村の子供たちを掌握して航空戦力を作り上げたミッシェルちゃん、あの子、まだ五歳なんだよな~。俺が五歳の頃は、毎日エミリーとおままごとをして遊んでたんだよな、ジミーは一足先にボビー師匠に弟子入りして剣の修行に励んでいたけど。ケビンお兄ちゃんはヘンリー師匠と一緒に村中の家壁の修理に走り回って、生活魔法の<ブロック>で土属性魔導士ごっこをしてたとか。

・・・ドラゴンロード男爵家の子供たちって、皆おかしいと思います。

 

「それで一体どうしたんだ? 悩みがあるんならおじさんが聞いてやるぞ?」

ギースさんはそう言うと小皿をテーブルに置き、椅子を引いて席に着きます。

 

「いえ、さっきの演習の事で少し。俺たちこれまで懸命に訓練してきたのにあんな感じで負けちゃって、確かにブー太郎は強かったですけど、もっとやりようはあったはずなんですよ。大福ヒドラドラゴンモードも互角に戦えるようになって来たし、王都を襲ったドラゴンだって押しとどめることが出来た、なのにあまりにも不甲斐なかったなって」

「「あぁ、それか~」」

俺の言葉に口を揃えるグルゴさんとギースさん、俺たちはそんな二人の反応に顔を見合わせる。

 

「これは仕方がないっていえば仕方がないんだけどな、お前たちは集団戦って物を体験してこなかっただろう? やったとしても魔の森のホーンラビット討伐くらいか。

単体や少数の群れの魔物と戦うのと集団戦闘とでは、戦い方がまるで違うんだよ。これはスタンピードが発生した際に動員される冒険者パーティーが必ず経験する戸惑いなんだけどな、勝手が違い過ぎてどう動いたらいいのかが分からなくなる。だからスタンピードの際は、経験豊富な上位冒険者が指揮に当たったりするんだけどな」

戦い方の違い、ギースさんの言葉に訳が分からず、二人して首を傾げる俺たち。そんな俺たちに苦笑いを向けるギースさんとグルゴさん。

 

「前に話したと思うが、俺は昔ある伯爵家の騎士団で騎士長を務めていた、その関係で集団戦闘に関して学ぶことが出来た」

「俺は王都武術学園で学んだな、あそこは各貴族家の騎士団に就職する人間の訓練場みたいな側面もあったからな。成績優秀者には王都騎士団への道も拓けるって煽られればやる気も増すってもんだが、実際は親の爵位が物を言う世界だったんだけどな」

 

「ジェイクたちの戦いを見ると、パーティー戦の延長で集団戦を行おうとしていたように見えた、これはこれまでの訓練と成功体験からくるしかたのない判断だったんだろうが、今回はこれが悪い方向へ作用した。密集する集団との戦闘に於いて、パーティーの役割分担を十全に機能させることは難しいからな。

それと混戦においては大技の使用も制限されてしまう、敵も味方も一緒に吹き飛ばしてしまう事になりかねないからな。ヘンリーさんとボビー師匠が開戦時に大技を放った後、一切大技を出さなかった理由がこれになる。

映像にあったパトリシアさんとアナスタシアさん、ケイトがトンデモ技を放った時は、三人が会話でケビンの気を引いている隙に後退して体勢を立て直そうとしていたんだよ。

結果的にはケビンの次元斬で崩壊させられてしまったんだけどな」

肩を竦めながら「ケビンの奴なんでもあり過ぎだろう、生ける理不尽め!!」と文句を言うギースさん。

 

「国家間の争いで突出した個人が活躍しないのはこれが理由だ、味方の攻撃が最大の脅威になってしまっては意味がないからな。

ヘンリーさんとボビー師匠はブー太郎に吹き飛ばされたと見せかけてこっそり敵大将であるケビンの討伐に向かった、今回の演習のように数の不利が明らかな場合、そうした戦術もありだ。

過去の魔王戦においては勇者がこうした戦い方をする事が多くあった、敵を全滅させるよりも魔王を叩く事で戦力の弱体化を図る、魔王の力によって強化された集団は魔王を倒す事で急速に圧力を弱めることが知られているからな。

ただケビンは死なないからな。やっぱりあいつには制約を付けないと駄目だな、反撃禁止くらいにしないと勝負にならん」

グルゴさんがとんでもないことを言ってるけど、これには俺も賛成。なんでケイトさんの大魔法を喰らって余裕なのさ、あれだけ苦戦した魔王軍を一瞬で打ち破ったケイトさんもケイトさんだけど、そんな魔法を受けながら笑ってるって意味が分からないよ。ボルグ教国の魔王認定に村人全員が納得する訳だよ、誰がどう見ても魔王だよ!!

 

「まぁそうは言ってもこういったことは慣れだ、実際に集団での戦闘経験を積んでいくしかない面もある。ましてや見渡す限り全て敵といった状況で連携しろという方が無理がある、そうした場合個々で動きつつ結果的に連携を取るといった目に見えない協力が必要となるんだ。

な、意味分からないだろう? この辺は何度も死線を潜った者同士の暗黙の了解みたいなものだからな。

でもジェイクやジミーたちだって大福ヒドラと戦っているときにやってたはずだぞ? じゃないと大福ヒドラは倒せないからな。今度はそれを敵の集団に置き換える必要があるって事だ、その辺はパーティーでよく話し合うんだな。

悩め若人、お前たちは予め起きうる悲劇を体験する事が出来た、それは得難い幸せなんだからな」

そう言い巨大スクリーンを指差すギースさん、そこにはオークたちに剣で貫かれたエミリーの姿。

 

「ジェイ・・・ク君・・・よかった、今ケガを治してあげるね。<ヒール>ガハッ」

手を伸ばし回復魔法<ヒール>を唱えてから吐血し崩れるエミリー。

 

「エミリーーーーー!! エミリー、エミリー、エミリー・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

その姿に絶望に染まった表情で泣き崩れる俺。

 

「戦場に散る愛、カーッ、堪んないね。俺なんか婚約者と親友に裏切られた上に命迄狙われたっていうのに、この、色男!!」

巨大スクリーンではエミリーを失い絶望の淵にあったところをディアに叱責され立ち上がった俺が、目の前でディアを殺され放心するシーンが映し出されている。

 

「「ここは戦場、そして俺はマルセル村を守る為の兵士。俺のすべきことは敵を殲滅する事」、ジェイク、いい事を言うじゃないか。冒険者もそうだが、戦場では自身が何をすべきなのかを明確にしその為に出来る事をする、これが一番重要なんだ。ジェイクはこの演習で多くの大切な事を学んだんだな」

そう言い優しい笑みを向けてくれるグルゴさん。離れたテーブルではエミリーが「ジェイク君ったら“俺のエミリー”って、キャーー、恥ずかしい~❤」と言って喜んでいる。

 

「・・・ぐうぉ~~~~~~、殺せ~~~、ジミー、そのにやけ顔は止めろ~~~!!」

戦場という追い詰められた状況と記録映像という死体蹴りのような追い打ち、この公開処刑に俺が羞恥にもだえ苦しむ事になったのは言うまでもないのであった。

 

「ケビンお兄ちゃんの馬鹿野郎~~~~~~!!」

 

――――――――――――――

 

「ケビン君、お疲れ様。演習は無事に終わったみたいだけど、勇者様方の歓迎会準備はこれで整ったとみてもいいのかな?」

「はい、ホーンラビット伯爵閣下。展望塔の耐久性、フィールド型ダンジョンの物理・魔法の両面からの耐性試験は滞りなく終了いたしました。

今回の演習では勇者が使用するであろう聖剣術<次元斬>での耐久試験、並びに最上級魔法に匹敵するケイトの歌魔法による魔法耐久試験を行いました。

展望塔建物及び展望台結界の被害はゼロ、結界は想定通りの結果を示してくれました。草原に関しては大地が焼ける被害はありましたが、大きく抉れたり大穴が開くような被害は見られませんでした。これは想定しうる勇者パーティーの攻撃にも耐えられる施設であることを示しているものかと」

そう言い一礼をする俺にどこか呆れを含んだ頷きで応えるホーンラビット伯爵。あれ? なんか問題でもあったんでしょうか。

 

「ハァ、その“僕頑張ったんだけど何か問題でもありましたか?”といった顔は止めようね、問題しかないからね?

大体マルセル村の前の草原地帯を巨大なフィールド型ダンジョンにしちゃいましょうって意味が分からないから、普通フィールド型ダンジョンは魔物蔓延る危険地帯だから、なんで一切魔物が出ないのかな? 大体何でケビン君がダンジョンを造れるのかな?

それと“聖剣術<次元斬>”は勇者の技だよね? <勇者>であるジェイク君が使える事は分かるけど、どうしてブー太郎君やケビン君が使用できるのかな?」

ホーンラビット伯爵閣下、エールが進まれて大分酔いが回われたのか、ぐいぐい来る来る。俺は身を正して閣下のご質問にお答えします。

 

「先ずどうやってダンジョンを造ったのかとのご質問ですが、ダンジョンコアとダンジョンマスターを雇って造ってもらいました。因みに昨年と一昨年の春祭りの時も闘技場を一時的にダンジョン化してもらって、ジミーたちが倒された後の復活処理を手伝ってもらっていました。

あと大福ヒドラドラゴンモードの訓練場はフィールド型ダンジョンです、じゃないと草原が戦闘によってボロボロになっちゃいますんで」

俺からの説明に「いつの間にそんな事を」と頭を抱えるホーンラビット伯爵閣下、でも説明はまだ残ってますからお聞きください。

 

「それと魔物ですが、いますよ? 白の騎士たちがダンジョン魔物になります。ただ普通のダンジョン魔物と違って意思や思考能力を持たせた者たちで、一般的には深層のダンジョンボスと呼ばれるクラスの魔物となります。

因みに一週間くらいでしたらダンジョン外でも活動が可能です、村の収穫作業の戦力として期待しています」

「えっ、彼らってダンジョン魔物なの? てっきりケビン君の謎人脈でどこかから雇ってきたとばかり。でも収穫作業を手伝ってくれるのは正直助かるよ、勇者軍が来たら畑をどうしようかと悩んでいたからね、それなら作物を無駄にしないで済みそうだよ」

白の騎士はヒュンゲル先生との共同開発、ダンジョンコアに複製して貰った生活支援機構の核である魔力結晶をヒュンゲル先生が作り出した人型に埋め込む事で出来上がった新たなダンジョン生命体。ヒュンゲル先生自身が体験した事を生活支援機構の核で再現した形です。

状態としては残月に近い感じですかね。

 

「それと聖剣術<次元斬>ですが、ブー太郎が使えるのはブー太郎が“オークの勇者”だからですね。愛剣のグランゾートは聖霊剣、鍛冶の神が造りし聖剣です。

俺が<次元斬>を使えるのは練習したから、俺ってスキルの複合効果で人の技を習得できるんですよ、結構頑張ったんですよ? 聖霊剣グランゾートのお墨付きだから、ただ形だけのモノマネじゃなく本物です」

そう言いどや顔をする俺に口を開けたままポカンとするホーンラビット伯爵閣下。

 

「ケビンさ~ん、ちょっとこれどうにかしてくださいよ~!!」

「「「「「ブー太郎様~、どうか私たちもお傍に~」」」」」

「「「「「ブー太郎、種族繁栄ハ大事、協力スル!!」」」」」

勇者はハーレムを作るって伝承は本当だったんだな~、ナミビア王国の勇者様もハーレムパーティーを作り上げていたしな~。

こっちに向かって走ってくる勇者ブー太郎、モテモテ(肉食オークと進化体オーガ)で大変な様子。何が大変って、ブー太郎の上で聖霊剣グランゾートが“こいつら皆殺しにしましょう、ブー太郎様❤”ってヤンデレなセリフを吐いてるところがですね。

 

「“落ち着いて食事を楽しめ、<グラビティ―>”」

“ズオン、グシャ”

 

「よし、全員静かになったな、問題解決。えっと、何処までご報告いたしましたでしょうか」

「あっ、うん、ケビン君が大魔王だって事がよく分かったからもういいかな? そういえばさっきパトリシアたちが探していたよ、月影さんのことで話があるとかなんとか、行ってあげるといいよ」

そう言いにこやかな笑顔で俺を送り出すホーンラビット伯爵閣下。ちょっと待とう、あれは誤解だから~~!!

マルセル村の春祭りの賑わいは、まだまだ終わりそうにないのでした。

誤解だから~~!!




いってらっしゃい。
by@aozora
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