転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第859話 転生勇者、王都学園へ戻る (2)

王都学園卒業式、それはオーランド王国の中枢でもある高位貴族の令息令嬢と、上位職と呼ばれる優秀な職業を女神様より授かった選ばれし若者たちが、国の最高学府である王都学園で共に学び交流してきた三年間を締めくくる一大行事であり、オーランド王国を支える重要人物として巣立っていく門出である。

出会いと別れ、若者たちは王都学園で育んだ友人との別れを惜しみ、再びの出会いと途切れる事のない友情を確かめあう。

立場を超え結ばれた友情はやがて強い絆としてオーランド王国を守る盾となり、国家を作り上げる礎となる。先人たちの築き上げたこの人と人との繋がりが、四千年もの長きに渡りオーランド王国を大国として維持し続けてきたという事を彼らは知っているのであろう。

 

「ジェイクさん、大丈夫ですか?」

卒業生たちが後輩たちに囲まれ祝いの言葉を掛けられている光景を眺めていた俺に、バネロハが声を掛ける。

 

「どうしたバネロハ、お前は剣術部の先輩を見送りに行かなくていいのか?」

「はい、そうなんですが、それよりもジェイクさんの事が気になってしまって。本来なら一緒に見送りをするはずだったのにこんな事になってしまって」

昨年の武術学園との交流会の後優秀生徒として王都学園に編入してきたバネロハは、一年の時の粗暴で自己中心的な態度はすっかりなくなり、多くの生徒から信頼を寄せられる中心的な人物に成長していた。

その態度は王都学園に編入してきてからも変わることなく、剣術部の同級生や後輩から慕われ、先輩から可愛がられるばかりか編入生であるにもかかわらず新部長として抜擢される程の厚い信頼を勝ち取っていたのであった。

 

「あぁ、だが俺たちホーンラビット伯爵領の人間がこの晴れの舞台に混じるのは立場上不味いだろう? ゾルバ国王陛下は国の正式な声明として“ケビン・ワイルドウッド男爵はオーランド王国の貴族であり、ボルグ教国の行いは明確な内政干渉である”と抗議を行っているが、王都の流れは完全に魔王討伐へ向かっている。

本来であれば俺がここで卒業される先輩方を見送るのもよくは思われないんだろうが、全く顔を見せないのも義理を欠くからな。

剣術部や魔法研究部の先輩方には世話になったし、他にも色々挨拶したい先輩方もいたんだが状況が状況だろう? 各貴族家の当主が揃っているこの場で俺が場を乱すのもな」

そう言い肩を竦める俺に、バネロハは悲しそうな目を向ける。俺はそんなバネロハの背中をバシッと叩き、「お前がそんな顔をしてどうする、俺の分までしっかり先輩方を見送ってこい、後輩たちが待ってるぞ」と言って剣術部の仲間たちの下へ送り出すのだった。

 

「よう、ジェイク、流石勇者様だな、いい場面を見せてもらったよ」

「ブッ、クルドア先輩にナバル先輩、止めてくださいよ恥ずかしい。っていうかいいんですか、こんな所に来て。さっきもバネロハに言いましたけど、俺たちホーンラビット伯爵領出身者は非常にまずい立場にあるんです、そんな俺たちに関わったら」

“サッ”

俺が言葉を言い終える前に手で話を遮ったクルドア先輩は、ニヤリと笑ってから口を開く。

 

「ジェイク、忘れてないか? 俺をどこの家の者だと思ってる、バルーセン公爵家だぞ? 今やバルーセン公爵家は完全にゾルバ国王派として動いている、そしてゾルバ国王陛下が自らのお言葉としてボルグ教国による魔王討伐軍の派兵に異議を唱えている。

そんな中バルーセン公爵家当主オルセナ・フォン・バルーセンの次男である俺がホーンラビット伯爵家出身者を避けるってのは筋が通らないだろうが。

それに騒いでるのは民衆や彼らを扇動する教会・中央貴族だけで、領地持ちの地方貴族たちは一様に静観の構えだぞ?」

「そうだな、うちもそうだが中央寄りだった地方貴族連中は一年戦争で痛い目を見てるし、あの戦争をたった三十騎の騎士団で制圧したホーンラビット伯爵家のヤバさを実感として知ってるからな。一年戦争の後代替わりして頭お花畑でホーンラビット伯爵家にちょっかいを出した貴族家は悉くホーンラビット伯爵の()()を受けてるしな」

 

ナバル先輩の言葉に顔を引き攣らせ、「それってうちのことだろうが」と呟くクルドア先輩。・・・ホーンラビット伯爵閣下、バルーセン公爵家に対して一体何をなさったんですか!? それってケビンお兄ちゃんのことをどうこう言えないレベルの所業なんですけど!!

 

「ナバル、こんな所にいた。お義父様方が探していらしたわよ? あら、勇者ジェイクじゃない、あなたも色々と大変ね。でも負けないでね、あなたならきっとこの状況も打開できると信じているわよ」

「ミリー先輩、どうもありがとうございます。それとご卒業おめでとうございます」

ミリー先輩は俺が一年の時に出場した三大学園交流会の際に魔法学園代表としてナバル先輩と戦った相手。その年の成績優秀者として王都学園に編入していた魔法の天才で、俺も魔法訓練の際随分と助言を貰っていた。

こうして見ると、俺は王都学園で多くの先輩方に世話になっていたんだと思い知らされる。

辺境マルセル村で年上の頼れる存在はケビンお兄ちゃんだけだった。シルビア師匠とイザベル師匠は“王都学園に入ったらがっかりするかもしれないけど頑張って”と言っていた。

実際王都学園に入学した当初はあまりにマルセル村で教わってきた内容と違い過ぎる授業に、王都に来たことを後悔したりもした。

でもケビンお兄ちゃんが言った“どんなところにも学びはある”という言葉は本当だった、調子に乗って周りを馬鹿にしていたら決して物事の本質は見えてこない、その事を自らの背中で示し続けてくれていたケビンお兄ちゃん、そしてその教えがこれほど多くの素晴らしい先輩に出会わせてくれた。

 

「悪いジェイク、どうも親父が呼んでるようだ。ミリー、ありがとうな」

「フフフ、どういたしまして。それじゃね、ジェイクもエミリーちゃんを大切にしなさいよ、後悔してからじゃ遅いんだから」

優しく微笑んで手を振るミリー先輩、俺は離れていく二人に深く礼をして感謝の意を伝える。

 

「フッ、ナバルの奴、完全にミリーに操られてるな」

「えっ、それってどういう事なんですか? 確かナバル先輩とミリー先輩は元婚約者同士で、一年戦争の後の後継者争いのゴタゴタで引き離されて、ナバル先輩には新しい婚約者がいるって話じゃ」

ナバル先輩とミリー先輩の話はエミリーから詳しく聞いている。というか見守る会を立ち上げていなかったっけ? 悲劇から始まる大人の純愛が堪らないとかなんとか。

 

「<ファイヤーボールに込めた想い ~あなたに送る愛の詩~>、うちの母親がド嵌りしている学園恋愛小説なんだがな、その物語の主人公の元になってるのがアイツらだ」

そう言いポケットから取り出した小説を見せてくれるクルドア先輩。出版元はモルガン商会で著者はマドモアゼール・イザヨイ・・・ブホッ、イザヨイってケビンお兄ちゃんのところでメイドをしている十六夜さん!?

 

「因みにこの作家、ラビアナの専属メイドをしているコリアンダの友人らしい。他にもバルド先輩とリリアーナ先輩の恋模様を元にした<侯爵令息の花嫁>が売れに売れたらしいぞ? 

それであの二人は家同士の確執やら奪われた実家の問題やらがあっただろう? 本来ならああして仲良くなるのも難しいんだが、例の如く“見守る会”が暗躍したらしくてな。

王都の遠縁に引き取られていたミリーと彼女の妹をうちの縁戚が養子に迎えて、シュティンガー侯爵家の寄り子であるパイロン伯爵家と縁を結ぶ名目で第二夫人としてねじ込んだんだよ。

ナバルの婚約者とミリーは親友だったらしくてな、ナバルが婿に入る婚約であるにもかかわらずバルーセン侯爵家との繋がりが出来ることもあって温かく迎え入れられたらしい。

中央と違って地方では王都の流れが冷静に見えるみたいでな、勇者率いる魔王討伐軍の派兵は失敗に終わるだろうって見方が強いようだ。そうなると教会と中央貴族が旗頭にするクロッカス第三王子殿下よりもゾルバ国王派に付いた方が賢明だってことになる。

この婚約はただ二人の仲を応援するってだけじゃなくその裏にある政治的駆け引きもあっての流れなのさ」

 

・・・まずい、頭が。何だよその裏の読み合い、貴族恐い、本当に怖い、そしてケビンお兄ちゃんは異常!! 何で俺と同じ辺境育ちなのに高位貴族や大商人相手に渡り合えるのさ、意味が解らない!!

 

「で、今うちの母親が最も注目しているのがあれだ」

そう言ってクルドア先輩が視線を向けた先には、剣術部の卒業生に挨拶するジミーと少し離れた場所から不安げな表情でジミーの姿を見つめるラビアナお嬢様。

 

「・・・乙女?」

「な、面白いだろう? 今日なんか俺の卒業にかこつけてナバルとミリーの様子と、ラビアナとジミーの再会を覗きに来てるんだぜ? しかも俺には婚約者がいないんだぜ? 笑っちゃうだろう?

親父には“半年もすれば貴族社会の再編も終わるからそれまで待て”って言われるしさ、本当にとんでもない時代に生まれちまったもんだよな」

そう言い肩を竦めるクルドア先輩。・・・言えない、多分その騒ぎの中心が全部ケビンお兄ちゃんかも知れないだなんて事は口が裂けても言えない。

 

「だ、大丈夫ですよ、きっとすぐに世の中も落ち着きますし、変に権力に固執しない素晴らしい女性と巡り合えますよ。それにクルドア先輩のお母様は見守る会の会長、素晴らしい出会いが大好きですから」

「ハハハ、そうかもな。俺は小さい頃から爺さんに“バルーセン公爵家の為の駒になれ”って言われて育ってきたからな、王都学園に入学して暫く経った頃に親父から“自分の好きなように生きていい”って言われた時は、嬉しさよりも困惑しか感じなかったんだよ。

一年の時は前の年に爺さん率いる貴族軍が第二回アスターナ開戦で惨敗した事を受けぼろくそ言われてた時だったから、結構荒れてたんだよ。

親父が別人のように変わっちまって、それに釣られるように母親が自分の意見を言うようになって。今の俺じゃそれがいい事なのか悪い事なのか断言できないけど、悪くない気分だとは思ってるよ。

ジェイク、負けるなよ。お前が命懸けで王都を守ってくれたって事は俺たち皆が知ってる事だ、一部の馬鹿が“トイレの勇者”なんてふざけたことを言っているが、黒蜜がジェイクだって事を知ってる俺たちからしたら阿呆としか言いようがないんだけどな」

そう言い俺の胸に拳を当てニヤリと笑うクルドア先輩。

 

「任せてください、ナミビア王国の勇者にはホーンラビット伯爵家騎士団所属騎士ジェイク・クローとして確り現実を刻み付けてやりますよ」

「ハハハハ、そいつは頼もしい。王都学園のことは頼んだぞ、後輩」

手を振り他の卒業生の輪に戻っていくクルドア先輩、俺たちホーンラビット伯爵領出身者のことを気にしてくれた先輩には感謝しかない。

俺は深々と頭を下げ、クルドア先輩にいい婚約者が出来ることを心から願うのだった。

 

「あれ、さっきのクルドア先輩じゃないのか? 今の状況でジェイクに声を掛けるなんて、あの先輩も度胸があるというか、己の信念を曲げない強さを持ってるよな」

そんな俺の背後から掛けられた声、顔を上げ振り向けば。

 

「アルジミールとライオネスじゃないか。っていうかお前らこそ俺に声なんて掛けていいのかよ、お前らの立場はスロバニア王国の代表なんだろう? お前らの行動一つでスロバニア王国は魔王に味方するのかって反発が起きかねないんじゃないのか?」

そこにいたのはスロバニア王国からの留学生でフレアリーズ第五王女殿下の婚約者でもあるアルジミール・マルローニ侯爵令息と、付き人のライオネス・ベルーガ子爵令息。

 

「ん? 問題ないぞ。スロバニア王国は公式にオーランド王国の主張を支持すると表明しているからな。ただ表立ってボルグ教国と敵対しない為に、今回の魔王討伐軍派兵を大規模な視察団であるとして通過を容認する事にしたらしい。

ただうちの国にも馬鹿がな~、本当に馬鹿は何をするのか分からないからな~」

そう言い胃の辺りを摩るアルジミール、コイツこの歳でホーンラビット伯爵閣下と同じ症状を。後で土産に買ってきたマルセル茶を分けてやろう、胃薬は自分で買ってくれ。

 

「そうだ、今回の件でフレアリーズ第五王女殿下に悪い噂が立ったりしてなかったか? フレアリーズ殿下は俺たちと親しくしていたから心配だったんだが」

「今のところ特に問題にはなってないぞ、フレアはマルセル村との関係よりもスロバニア王国との懸け橋としての側面の方が広く知られているからな。

それよりも卒業後移り住むはずだったアーメリア別邸に引っ越せなくなった事の方が問題でな、宥めるのが大変だったんだよ」

そう言い疲れた顔をするアルジミール、ライオネスも苦笑いしてるし本当に大変だったんだろう。

 

「アルジミール、嫁の愚痴を聞くことが旦那の務めだってマルセル村の男衆も言ってたぞ、頑張れ。

でも急にどうしてそんなことになったんだ? あそこは王家の持ち物で、誰も住みたがらないから丁度いいって話だったんじゃないのか?」

「あぁ、何でもベルトナ・オーランド教皇猊下が教皇の座を退くとかで、引退後の住まいとして提供されることになったらしい。元々アーメリア別邸は教会が管理していたから、そうした意味でも都合がよかったんだろうけどな。

ただフレアがアーメリア様との思い出の地に住めなくなったことを残念がってな、ベルトナ教皇猊下とは親しくされていたとかで遊びに行く分には問題ないんだが、やっぱり住むのと遊びに行くのとでは話が変わるだろう?」

そう言い肩を竦めるアルジミール。・・・アーメリア様、ワイルドウッド男爵家王都屋敷と一緒にマルセル村へお引越しされちゃいました。

俺は乾いた笑いを浮かべながら、「アルジミール、頑張れ」と声を掛けることしか出来ないのでした。




いってらっしゃい。
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