転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第86話 村人転生者、ミルガルの教会に赴く (4)

世の中には知らない事がたくさんある。知ってしまう事もたくさんある。

何も知らなければ平気で渡れた橋も、老朽化の状態を知りその危険性を知れば怖くて渡れなくなる。情報とは斯くも人の心を苦しめ、人の身を守る武器なのだ。

 

・・・でもこの情報は知りたくなかったっす。

魔王の選定が何者かによって行われていた。相手の正体を推察する事は出来ても絶対に推察したくない、そんな相手方のご相談。“魔王を決めないといけないんだけどどうしたらいい?”

もうね、胃がキリキリしちゃいそうなのよ、ポーションビッグワームの衝撃?伝説のハイエルフ、アナスタシア・エルファンドラ?そんなものは些事ですわ、些事。

止めて、本気で止めて。俺ってばただの村人ケビン君よ?多少人から見れば変わってるとは思うけど、そんなのは普人族のオーランド王国の狭い常識の範囲内よ?飛び抜けて異常って訳じゃないし、勇者様の一撃を受ければ一瞬でコロリよ?

そんな相手になんて重い相談を持ち掛けるかね、この超常。

 

「ちょっと胃が大変な事になってるんでポーション飲んでいいですか?と言うかポーションビッグワーム食べます?この空間って干し肉焼いたり出来ます?大丈夫ですか、なら早速」

 

俺は腕輪収納から自作のキャンプグッズを取り出して干し肉をあぶり始めます。念の為床にはブロックシートを設置、その上にバーベキューコンロを並べます。

これ、頑張ってトンテンカン鉄を叩いて作りました。材料の鉄はどうしたのか?いや~、時々村に訪れる粗大ごみがですね~。金属資源は貴重ですから、身包み剥いで中身はポイです。そうやって集めた金属を魔力で強化したヤスリで粉にしたり刃物で細かく削ったり。

で、それを土属性生活魔法ブロックでこさえた肉厚の容器に移して中身の鉄に火属性魔力をガンガン与えてから魔力マシマシプチファイヤーで高火力燃焼を行い溶かし切るって言う荒業を、マジで魔力様々でございます。後は溶けた鉄を魔力で覆って陶器を作る時の要領で形成、かなり強引な手法ですが所謂鋳物と同じ作り方って事でしょうか。最後の仕上げはお馴染みのブロック。金属類は土属性だったみたいで、溶け切った金属ならかなり自由に形成硬化が行えました。

で、上から灰を被せた状態で数日放置、完成したのがこの一品です。でもかなり重いんですよねこれ、鋳物だから仕方がないんですけど今後に課題アリって奴です。

ん?トンテンカンしてないじゃん?したんだよ!修正部分が多かったんだよ!その辺は察して!

 

「え~っと、お名前を御呼びするのも色々と(はばか)られると思いますので“あなた様”と呼ばせて頂きます。あなた様はこの空間内に発生した臭いなどを取り除くことは可能でしょうか?これから干し肉を焼くのですが残り香が心配でして」

 

“問題ありません、クリーンアップの魔法は得意ですから。この教会全体を神域並みに綺麗にする事も可能でしょうか”

 

「あ、それは止めてください、あくまでこれから発生する臭いだけでお願いします。あまり綺麗にし過ぎるのも何かと問題になりますので」

 

“そうですね、人族とは何かと面倒が多い種族、その辺は理解しています”

 

“ジュ~”

バーベキューコンロの上に焚かれた炎に炙られ旨そうな匂いを漂わせるポーションビッグワーム干し肉。その味わいは天上の食べ物と表現しても良い程の味わい。さて、この旨味がどう評価されるのか、今、その真価が試される。

切り分けられ皿に盛られたビッグワーム干し肉をじっと眺める何か。その内の一切れをフォークを使い口に運ぶ。

 

“!?”

“ガツガツガツ”

はい、流石は大福まっしぐらのポーションビッグワーム肉、何かも認める天上の味わい。それでは私も自分の胃の痛みを治める事に致しましょう。

“ハム”

やっぱり旨いな~、決め手は岩塩の絶妙な塩加減だよな。掛け過ぎても少なすぎてもダメ、ちょうどいい塩梅ってのがあると思います。これはまだまだ修行ですな、ビッグワーム肉職人に、俺はなる!ウナギの白焼きじゃないけど、まだまだ工夫の余地はありそうですしね。

俺と何かは無言のまま、只管干し肉を貪るのでした。

 

“はぁ~、大変美味しかったです。先程の飲み物もそうだけど、地上でこれほどの美味に出会えるとは思いませんでした、礼を言います”

 

「どういたしまして。こちらが勝手に行った事、気になさらないでください。

それで先ほどの話しですが、あなた様は何について悩まれておいでなのでしょうか?その辺が分からなければ御答えも出来ないのですが」

 

“そうですね、私はこの仕事自体に疑問を持っているのですが、これは仕方のない事だとも理解しています。全てはバランスの関係、良し悪しではなく力の偏りが起きないようにする為の措置なのです。

この世界では繁栄の為に人族に職業と言うものを与えています。これは弱い人族が魔力溢れる世界で魔力に適応進化した動植物、所謂魔物たちに対抗する為の救済でもあります。但し職業と言うものはどちらかと言えば光属性に偏った構成になっています。これはケガや病気を治療する為の魔法が光属性に類するものであると言うのが一番の理由になっています。そしてこの構成は基本的に欲と言うものを進化の糧にする人類にとっては最適の割合であると思われていました。

 

我々は人類の欲望を甘く見ていた。人類に内包される欲から発生する悪意や悪感情の量は、光属性魔法優位なバランス構成を優に凌駕するものであった。それはそのまま放置すれば様々な災害を引き起こしかねない量の闇属性魔力を生み出した。

そこで我々はその闇属性魔力を集積する為の生贄、<魔王>を作る事でこれに対処したのです。魔王が引き起こす災害は大きな魔力を持つが故に起きる暴走。これまでも魔王でありながら穏やかに生涯を終える魔物も多く存在しました。これは既に存在しませんがトレント種の魔物が魔王化した事があります、その者は千年の長きに渡りただ森に佇み森を見守り続けました。その間も人類は多くの争いに明け暮れましたが、魔王と名乗るものが暴れる事はあっても、実際の魔王による災害は発生しませんでした。

魔王とは人類が生み出し続ける闇属性魔力を集積する運命を背負わされたものの総称なのです”

 

うわ~、これやたらな魔物に与えちゃダメな奴じゃん。基本あいつら本能に忠実だもん。で、これがいわゆる人型に与えられたとする、まあ大侵略の合図ですがな。ブー太郎みたいな大人しい奴なんてほとんどいないしね。

剣の勇者の話しに出てきたオークって実はブー太郎みたいな心根のオークだったんじゃないんだろうか。

虐げられるものを救っているうちにいつの間にか魔物の王となっていた。そんな相手がいたら王侯貴族が放置なんてしないだろうしね、人類の脅威になるならない関係なしに己の欲望の為に討伐、ありうるわ~、って言うかそれしか考えられないわ~。

オークの魔王様のご冥福をお祈りいたします。

 

「で、闇魔法属性魔力の集積業務って絶対生命体じゃないといけないって決まりでもあるの?別に石碑みたいなものや岩山みたいな場所にそう言った機能を持たせてもいいと思うんだけど」

 

“あ~、それですか。以前試した事があったんですが、人類がですね~。その力を我が物にしようと戦争を始めちゃいまして。

結局あの時は二カ国ほど壊滅し数カ国が分裂騒ぎを起こしたと記憶しています。最終的には魔力暴走を起こして大爆発、その跡地は今では湖になってるはずですよ”

 

「うわ~、人類ダメダメじゃん。って言うかそれって目立つ様な場所にあったか教会関係者もしくは王侯貴族に神託の様なものでお知らせしたりしませんでした?かなり大々的に」

 

“はい、我々としても初の試みだったために慎重を期して注意を呼び掛けていたかと・・・ってもしかしてそれが切っ掛けだったと言う事ですか?なんて愚かな”

 

「アハハハハハ、否定出来ませんね。でも闇属性魔力の集積か~。その集積した魔力ってどうなってるんです?集めた以上どこかで処理しないといけませんよね」

 

“はい、その者の死後回収したり、石碑の場合はある程度力の溜まった状態、百年ごととかに回収する予定でした”

 

「それってもっと頻繁にそれこそ自動回収とか出来ません?あまり力が溜まり過ぎると目立つじゃないですか、ある程度敏感な者ならその力に寄せられちゃうと思うんですよ、それこそ魔物なんかは魔力が大好きですから。

魔王による厄災ってその辺が発生の原因の様な気がするんですよね。石碑の魔王に人類が群がったみたいに。

大きな力は多くの悪意を引き寄せる。だったら小さな力の内に頻繁に回収してしまえばいい。それなら魔王なんて仰々しい呼び名じゃなくて単なる“環境改善装置”ってくらいで済むんじゃないんですか?それこそ大都市で行われるゴミの回収と同じですね。溜め過ぎると大変な事になりますから」

 

“そうか、そうよ、そうすればいいんじゃない。何も難しい事じゃないわよ、それくらい私にでも構築できるシステムじゃない。でも実際どうなのかしら、稼働実験が必要ね。

ねぇあなた、悪いんだけど実験に付き合ってくれないかしら。上手くすれば所謂<魔王>を無くすことが出来るかもしれないわよ?それってあなた方からにしても利益になるんじゃない?”

 

「そうですね、私としても平和な田舎暮らしが守れるのなら異論はありませんけど、何をすればいいんですか?」

 

“難しい事じゃないわ、この腕輪を付けていてくれればいいだけ。大気中の闇属性系余剰魔力を吸い取って私たちに送り届けてくれる、ただそれだけの腕輪よ。良かったらある程度魔力を使う事も出来る様にしてあげるけど、回収した魔力の百分の一程度だから大した事は出来ないと思うわよ”

 

「あぁ、それだったら俺の魔力を預かってもらう事って出来ますかね。俺って人より魔力量が多いみたいで悪目立ちするんですよ。ですんである一定の量をあらかじめ設定しておいてそれ以上の魔力をこの腕輪に溜め込む事が出来れば目立たない上に困らないかと。

 

自然回収した闇魔法系の余剰魔力は全部そちらに送っていただいて構いません。と言うかその様な力を持ってしまったら使いたくなってしまうじゃないですか、使えるかどうかは授けの儀の結果次第なんですけどね」

 

“そう言えばそうだったわ、あなた授けの儀の前で先天的魔法適性もないんだったわね。それじゃ魔力を使えるようにしても仕方ないじゃない、いいわ、あなたの言った通りの設定にしてあげる。どうせ大した手間じゃないしね。

はい、これ。でもお陰で助かったわ、先ずは帰って会議に掛けてみるわね、どんな結果になるのかは分からないけどいずれにしても結果は知らせてあげる。十年二十年以内にはハッキリすると思うわよ”

 

「うわ、先が長。でも良かったです。この試みが上手く行く事を祈っています。でも集めた魔力をこの世界の者が使える様にするのだけは止めてください、余計な諍いが起こる原因になりますから」

 

“えぇ、よく覚えておくわ。それじゃいずれ、小さな賢者さん”

 

その言葉を残し光りと共に消えた何か。先ずはバーベキューセットを収納、しまい残しはって、あのお方飲み掛けのお酒とグラスそのままじゃん。ヤバいヤバい、収納収納。周辺チェック完了、臭いも無し、完璧です。

 

「おいケビンや、そんなところで一人芝居をしてどうしたんじゃ。今は人が少ないからよいとはいえここはマルセル村ではないからの?奇異の目は避けられんぞ」

 

「あ、ボビー師匠、申し訳ありません。エミリーちゃんが凄いスキルに目覚めたみたいなんで、自分も何か授かったんじゃないかと思って色々と試していたものですから」

 

「イヤイヤイヤ、エミリーちゃんの様な事はめったに起こらんからな?誰もが教会に来る度に何かに目覚めておるようなら、司祭様やシスター殿はものすごい事になってると思わんかの?

そんなに焦らんでもお主は今度の冬には授けの儀を受けるのじゃ、何らかのスキルを得る事は確実じゃろうて。でないとこちらの立つ瀬がないのでな」

 

「ハハハ、そうなるといいですね」

 

「お待たせいたしました、聖水をお求めになられているマルセル村の皆さんでしょうか?司祭様がお会いになられるとの事です、司祭様の下にご案内いたします」

 

そう言い声を掛けて下さったのは先程とは別のシスター様でした。俺達マルセル村一行はこうして無事聖水を購入する為に司祭様に会う事になったのでした。

 

「ねぇケビンお兄ちゃん、なんかお兄ちゃんの口からビッグワーム干し肉の臭いがするんだけど、もしかして一人でこっそり食べてたりする?」

“ギクッ”

弟のジミー君には、隠し事は出来ない様です。(ガクブル)




本日二話目です。
昼間は暑いくらいなのに夜が冷えるって。
タイツからステテコに替える時期なのか?
いってらっしゃい。
by@aozora
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