転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第862話 生活魔法講師、新入生を見守る

春、それは始まりの季節。農村では畑を耕し種を蒔き、商人は様々な商品を馬車に積み各地へ運び込む。人の流れ、物の流れが活発になるこの季節、厳しい冬を乗り越えた人々は新たな一年に向け動き出す。

 

“ガヤガヤガヤガヤガヤガヤ”

多くの若者が真新しい制服に身を包み学び舎の門を潜る。生徒たちの両親はそんな彼らの姿を誇らしい気持ちで見つめながら、我が子の成長を心から喜ぶ。

ここはオーランド王国の最高学府王都学園、高位貴族の令息令嬢と授けの儀に於いて有用な上位職を授かった選ばれし国民が集い、共に学び共に笑うオーランド王国の次代を担う若者を育てる教育機関。

 

「オルト、分かっているとは思うがお前の役割は重い。本年度の王都学園入学者に公爵家及び侯爵家の令息令嬢はいない、これは多くの貴族家が王家のお子様方の誕生に合わせ子を儲けたことによる弊害でもあるのだが、今はこれが良い方向に転がっていると言ってもいい。

ではお前がそんな王都学園に於いて何をすべきか、分かっているな?」

「はい、先ずは一学年生徒の掌握、次いで数の力を背景に<勇者>ジェイク・クロー、<聖女>エミリー・ホーンラビット、<聖女>アリス・ブレイクを我らの陣営に引き込むことです。

目前に迫る聖戦、今や我らの声は女神さまのご意思に他ならない。我らの言葉に背くことは光の勇者グロリアス率いる魔王討伐軍に敵対すること、魔王に与する人類の敵となる事に他ならないのですから」

瞳を輝かせ力強い言葉を返す息子の姿に、父親であるナイザック・ラーゲン伯爵は満足げな頷きを見せる。

 

「では参るぞ、戦いはすでに始まっている、我らがオーランド王国を正しい道に導くための戦いがな」

「はい、父上。全てはライトニー・マルス侯爵閣下のお心のままに」

“カチャッ”

馬車の扉が開かれる。それは新たなる時代の始まり、栄光の新時代の訪れを告げる第一歩なのであった。

 

―――――――――――――

 

「ネイチャーマン、こんな正門前に立って何してるのよ、教職員は大講堂控室に集合するように言われているでしょう?」

「おはようございます、シルビーナ先生。いつも遅刻ギリギリで出勤なさっていたシルビーナ先生が時間に余裕をもって学園に来られるようになるとは。清掃員のオータム・ロックケイプさんに聞いたのですが、最近では臨時教務棟に泊まり込むこともなくなったとか、やはり恋をすると女性は変わるということ“ガバッ、モゴモゴ”」

王都学園魔法講師シルビーナは余計なことを口走りそうになった生活魔法講座講師ビーン・ネイチャーマンの口を素早く手で塞ぐと、キョロキョロと周りに目をやり周囲に聞かれていないか確認してから声を潜め言葉を向ける。

 

「いい、ネイチャーマン、今は時期が悪いの。私がモルガン商会王都支店のロイドと付き合っていることがばれたらどうなると思う? モルガン商会はグロリア辺境伯領に本店があるだけじゃない、ホーンラビット伯爵家とも深い繋がりがあるの。王都学園は王立機関で王家の直轄とはいえ内部は一枚岩じゃないのよ?」

学園内教職員の政治力学、王都の最高学府の教職員であっても足の引っ張り合いや潰し合いと無関係ではいられない。

 

「ただでさえ私は平民出身という事で疎まれてるの、私のことを引き摺り下ろしたい人たちにとって“魔王と関係しているかもしれない”という言い掛かりはこれ以上ない攻撃材料になるのよ。

それは私だけじゃない、私のことを潰したい連中だったら勇者関連商品を展開して魔王とのかかわりを噂されないよう話題逸らしを行っているロイドたちモルガン商会王都支店の人たちに迷惑を掛けかねない。だからそんな事にならないよう、私は努めて今まで通りでいなくちゃいけないのよ」

そう言い“分かってるわよね?”と視線で語るシルビーナに、小さく頷きで応えるネイチャーマン。

 

「分かればいいの、分かれば。で、一体何をやってたのよ」

「プハッ、あ~、苦しかった。でもそういう事でしたら臨時教務棟の罠をどうにかしていただけませんでしょうか? つい先日も私の教務員室を訪ねてきたジェイク・クロー君が、扉を開けた瞬間「王子様、あなたが私の王子様なのですね!?」とか言ってきたんですよ?

驚いて振り向けばまるで夜会にでも出るようなフリフリのドレスに身を包んだジェイク君が胸の前で手を組んで瞳をキラキラ輝かせているじゃないですか、それはもう直ぐに呪い解除薬を飲ませましたよ。

ジェイク君は自身の行動に落ち込むし、エミリー嬢は「ジェイク君可愛い~♪」とか言って追い打ちを掛けるし、ジミー君に至っては笑い過ぎによる過呼吸症状で廊下に崩れてるし、大変だったんですからね。

あからさまに浮かれているのが分かるような罠は控えた方がよろしいかと」

ネイチャーマンの言葉にバツが悪そうにそっぽを向くシルビーナ、ネイチャーマンは大きなため息を吐いてからシルビーナの質問に答えを返す。

 

「私が正門前にいたのは今年の新入学生徒の確認です。世間がこのような状況ですからね、いくら高位貴族の令息令嬢とは言え影響は免れないかと。

それに毎年の事ですが、新入学生徒は何故か全能感と言いますか、自分こそが選ばれた民であるといったような雰囲気を纏いながら正門を潜るのですよ。そんな若者たちが勇者と共に魔王討伐軍がやってくると聞いて冷静でいられるか。シュテル・バウマン学園長もその点を大変危惧されておられまして、正門前で問題が起きないようにと私に監視を頼んできたのですよ。おっと失礼します」

シルビーナに自身の説明をしていたネイチャーマンは急に会話を切ると、そのまま人混みに紛れるように生徒の間に入っていく。

 

「おい貴様、何処の家の者だ。私の前を横切るとはさぞや位の高い家の出の者であろうな?」

「えっ、あっ、いえ、その、私は教会の授けの儀で魔導士の職を授かりまして・・・」

高圧的な態度で迫る男子生徒に圧倒された女子生徒がしどろもどろになりながらも自身のことを答える、その言葉に周囲からはどこか冷たい視線が注がれる。

ある者は「平民はこれだから、礼儀というものを教わってこなかったのかしら」と冷笑を浮かべ、ある者は「全くこれだから我が国の教育はおかしいのだ。平民と我々を同じ学び舎に通わせて何がしたいというのだ」と王都学園の在り方を根底から否定するような言葉を口にする。

 

「ほう、魔導士か、ならば我が家に仕えることを許可してやろう。貴様はこの先我が言葉を“グラッ”「おっと、大丈夫かな? 入学式を前にして、緊張してしまったんだろうね。あぁ、君、新入学生徒だね、早く大講堂へ向かいなさい。私は学園講師のビーン・ネイチャーマン、彼のことは私が医務室へ連れていくとしよう」」

話の途中で崩れ落ちた男子生徒を咄嗟に抱えたネイチャーマンは、話し掛けられていた女子生徒に大講堂へ向かうよう指示を出すと男子生徒を連れ正門脇の芝生の庭へと移動する。

 

「・・・ちょっとネイチャーマン、あんたね」

「いや~、やはり入学式という晴れの日は極度に緊張するのでしょうか、彼で本日五人目ですよ。学園長もこうした事態に備えて私を配置したのでしょう。

医務室には既に事前連絡を行っていますので、そろそろ搬送係の生徒が来るかと。「ネイチャーマン先生、先ほどの新入生は医務室で受け入れてってまたですか?」あぁ、ジェイク君にジミー君、すまないけどこの生徒も頼めるかな? 入学式を前に昨夜はよく眠れなかったと見える、やはり身体付きは大きくとも年相応の青年という事なのだろうね」

ネイチャーマンの言葉に手伝いを頼まれた男子生徒たちは担架を下ろし、気を失った新入学生徒を乗せると医務室に向かい運んでいく。

 

「さて、私は今しばらく生徒たちの様子を窺っていますので、シルビーナ先生は先に大講堂控室に向かってください」

「そうね、ここにいたら余計な心労を抱えそうだわ。本当にほどほどにしておきなさいね?」

ネイチャーマンに一言残しその場を離れるシルビーナ、ネイチャーマンはその後姿を見送ると再び生徒たちの見守りに意識を切り替える。

 

“ガチャッ”

到着した馬車の扉が開かれ、父兄であろう壮年の男性が正門前に降り立つ。その後ろからは新入学生徒らしき真新しい制服に身を包んだ男子生徒、その瞳は周囲の生徒たちを威圧するかのように獰猛な光を宿す。

 

「新入生保護者の皆様方、本日は誠におめでとうございます。生徒保護者の皆様方はこちらに記帳の上、コサージュをお受け取りになり胸にお付けください。

こちらは学園の通行許可証の代わりとなります。くれぐれも無くされませんようお願い申し上げます」

手伝いを行う女子生徒の呼び掛けに受付に向かいコサージュを受け取った男性は、胸にコサージュを付けると男子生徒に目配せをし、関係者通用門を潜っていく。男子生徒は暫く正門を見つめると、口元をニヤリと歪めてから正門を潜っていく。

 

「今の二人がナイザック・ラーゲン伯爵と息子のオルト・ラーゲンになります。おはようございます、ネイチャーマン先生」

「そうですか、あの二人が。中々愉快そうな方々ですね。おはようございます、バケット先生。そうでした、今度“貴族制度と王国法に関する特別授業”を行おうと思うのですが、受講生の処分はいかがいたしましょうか? 労働体験を行っている皆さんは遠足に行かれるようですし、労働体験に追加で参加していただいてからその流れで遠足に加わっていただいても一向にかまわないのですが。

既に参加者名簿の作成は終了していますし、後はお迎えに行くだけとなっておりますので」

正門脇から生徒たちの様子を眺めていたネイチャーマンに声を掛けてきたのは、王宮料理人であり学園で特別講座を受け持つサンドニッチ・バケット講師。バケットは暫く笑みを浮かべたまま沈黙すると、小さく息を吐いてから口を開く。

 

「そうですね、体験型学習は大変好評をいただいておりますから主催者側としてもやぶさかではないかと。ただそちらだけで行われると観客の皆様にいらぬ誤解を与えかねませんので、こちらから正式に迎えを派遣しましょう。

授業においては伝えたいことを分かり易く明確にするという事が重要ですから。それに今の時期赤いドレスは時期外れですので」

「そうですか、私としてはお客様の手で作り上げてもらう事で実感していただくことも一つの手かとは思っていたのですが、そう辺は難しいところでしょうかね。

では詳しい日程については後程、本日は若者たちの門出ですので」

そう言い続々と集まる新入学生徒たちを優しい眼差しで見つめるネイチャーマン。バケットはそんなネイチャーマンに軽く頭を下げると、「それでは後程」と言って通用門を潜っていくのでした。

 

――――――――――――――

 

「新入生の諸君、入学おめでとう。諸君らはこれから三年間、多くを学び多くを体験していくこととなるだろう。その中で共に学ぶ仲間たちとの友情を育み、大きく成長してくれることを強く望む。

諸君らも知っての通り、現在オーランド王国はボルグ教国からの強い干渉を受けている。これは我が国の在り方に対する挑戦であり、到底受け入れる事は出来ない。今後とも我々は他国による不当な要求や干渉には断固抗議し、国家としての自主独立を守り続けていく。

諸君らにはオーランド王国の次代を切り拓く礎として、オーランド王国の中枢を支える人物に育ってもらいたい。

今後の諸君らの活躍を大いに期待する」

壇上に立ち威厳ある面持ちで祝辞を送るゾルバ国王、生徒たちは身を正し、それぞれの思いを胸に壇上を見つめる。

 

「ゾルバ国王陛下、御退場」

““““ザッ””””

下げられた頭、それはゾルバ国王に対する敬意か、王家に対する忠誠か、それともまったく異なる何かか。

時代の流れは止まらない、止められない。若者たちは皆時代に翻弄され、その中でもがき続ける。ゾルバ国王は自分に対し礼をする大講堂の人々に目を向け、“この中から果たしてどれくらいの若者たちが三年後の卒業式に参加できるのだろうか”と、悲しみとも苦しみともつかぬ気持ちに苛まれながら壇上を下がっていくのであった。




いってらっしゃい。
by@aozora
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