転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第863話 辺境男爵、O・HA・NA・SHIする

夜の酒場、そこでは男達がエールのジョッキを打ち合わせ日々の噂話で盛り上がる。近頃の話題の中心と言えばボルグ教国からやってくる光の勇者グロリアス率いる魔王討伐軍の状況。教会の司祭やシスターが街頭に立ち語る教えの中で触れられる彼らの状況は、王都民にとっての最大の関心事であり、酒場の壁には魔王討伐軍の現在地を示す地図が飾られているほどであった。

 

「魔王発生の発表があってから一月ちょっと、勇者様方は今どのあたりまでいらしてるのかね」

「何でもサルベール女王国とスロバニア王国との国境辺りだって話だぞ。通常であれば五万もの大軍を率いての行軍でそれ程早く移動できるわけがないんだが、そこはやっぱり勇者様だよな、<統率>ってスキルのお陰で全体を一糸乱れぬ動きで導くことが出来るらしい。

しかもこの統率の支配下にある兵士は長距離の行軍の後でも疲れる事無く作戦行動に移れるんだと、行商人の便利スキルで<健脚>って奴があるけどよ、それを支配下にある集団全体に行き渡らせるとんでもないスキルなんだとよ」

 

大皿に盛られたホーンラビットの炙り焼きに手を伸ばし、大口でかぶりついてからエールで流し込む。豪快な食べっぷりこそが冒険者だと言わんばかりの健啖家ぶりに、テーブル席は盛り上がる。

 

「そうか、だったら納得だ。いくら何でも五万もの兵士たちがみんな騎兵だとは考えられないからよ、何処をどうやったらそんなに早く移動できるのかってずっと疑問だったんだよ。

でもそうなると後は食料と排便か? 話は冒険者パーティーの移動って訳じゃない、軍隊が国を超えての大遠征だ、その辺は相当大変なんじゃねえのか?」

「どうだろうな、でもボルグ教国は昔から魔王発生の際に討伐軍を派遣していたような国だろう? その分装備品も確りしてるんじゃないのか? 当然マジックバッグだって数を揃えてるだろうし、マジックポーチだって大型の物であれば半年分の食糧くらい賄える。そうはいっても虚しい非常食にはなっちまうが、その辺は軍隊だからな、頑張ってと応援するくらいしか出来ねえな。

排便は一人一スライムってか? まぁ飯の席でする話じゃねえよな」

男の話にテーブルには笑いが広がり、「「「アッハッハッハッ、ちげえねえ」」」と同意の声が広がっていく。

 

「ところで肝心の魔王様はどうなってるんだ? 確かちょっと前に“商人街の悪夢”の持ち主が辺境の魔王だって噂が流れただろう」

「あぁ、あれか。俺も何度か魔王討伐隊に参加したんだけどよ、屋敷に張られている結界が目茶苦茶強力なんだわ。<身体強化>のスキル持ちが大剣で思いっきり切り付けてもびくともしない、魔法使いがランス系の魔法を打ち込んでも傷一つ付かないってんだからほぼお手上げ状態よ。

今でも色んな冒険者パーティーが挑戦してるらしいんだが、全くといって歯が立たないって話だ」

 

冒険者の男の言葉に「ほう、流石は魔王だ、やっぱりスゲエんだな」という声がテーブルに広がる。それは男の一人が酒場の給仕に向かいエールの追加注文を頼む声を発した時であった。

 

「銀級冒険者のダミアンだな」

「あん? 何だ手前らは」

それは音もなくその場に現れた騎士たち、皆統一した白い甲冑を着込んでいる事から、どこかの貴族家の私兵である事が窺える。

 

「お前は先月三度ワイルドウッド男爵家王都屋敷に襲撃を試みたな? 貴族家の屋敷を襲う事が重罪であることは子供でも分かることだ。明確な王国法違反、よって捕縛する。大人しく従って貰おう」

「はぁ? 手前ら何言ってやがる。ワイルドウッド男爵って言ったら教会が認めた魔王じゃねえか。人類の敵に対して勇敢にも立ち向かった俺様に対して王国法違反だ? 寝言は寝てから言いやがれ」

激高し椅子から立ち上がって剣の柄に手を掛ける冒険者、白騎士はそんな冒険者の顔をガシッと摑むと、ギシッと周囲に音が聞こえる程の力で握り込む。

 

「貴様はゾルバ国王陛下のお言葉を聞いていなかったのか? “ケビン・ワイルドウッド男爵はオーランド王国の貴族である”、たとえどのような疑いが掛けられようともワイルドウッド男爵閣下が正式な貴族である以上、貴様には王国法による反逆罪が適応される。

この席には他に愚か者はいないか、騒がせたようで悪かった、我らも任務でな。後四人捕縛したらこの場を下がるとしよう」

白騎士はそう言うと酒場の中を見回し始める。途端別の席の冒険者たちが酒場出口に向かい走っていく。

 

“ドカドカドカドカッ”

外から聞こえる打撃音、その音は静まり返った酒場にやけに鮮明に響き渡る。

 

「店主、騒がせて悪かったな、これで皆にエールでも振る舞ってやってくれ」

白騎士はそう言うと、金貨を一枚カウンターに立つ店主に向かい弾き飛ばす。気を失った冒険者を担ぎ立ち去っていく集団、その光景を息を飲み見送る冒険者たち。この夜、王都の各地で同様の捕縛劇が発生し、王都は騒然とした空気に包まれるのだが、それは次に起こるより大きな騒動の始まりに過ぎないのであった。

 

―――――――――――――

 

「ギルド長、大変です!!」

王都で起きた異変、その一報は執務室で書類の決裁を行っていた冒険者ギルド本部ギルド長ガリウス・ナックルの下に届けられた。

 

「何だ騒がしい、こっちはこんな遅い時間まで書類仕事を熟してるんだ、静かにしやがれ」

「すみません、しかし一大事です。王都の各地で冒険者たちが謎の白騎士の集団に次々と捕縛されていっています」

 

「はぁ? 何だそれは。ここは王都だぞ? 冒険者ギルド本部があるオーランド王国の中枢だぞ? そんな場所で冒険者たちを襲うのはどこの馬鹿だ!!」

執務室に轟く怒声、覇気を含んだその怒鳴り声に、報告者は身を震わせながら言葉を続ける。

 

「そ、それが白騎士の集団は冒険者たちを王国法に違反した反逆者として捕らえると宣言しているようでして、捕縛された者の中には金級冒険者も含まれているとの報告が」

「王国法に違反した反逆者だと? 捕らえられた冒険者たちの共通点は分かっているのか」

 

「はい、全員魔王討伐隊を名乗り“商人街の悪夢”に襲撃を仕掛けた者たちです」

「・・・チッ、クソッ。ケビン・ワイルドウッド男爵が動いたって事か、まさか本人が王都に来ている? いや、あり得ないだろう、そんな事になって見ろ、王都中が大騒ぎだぞ?」

考え付く可能性、だがそれはあまりにも荒唐無稽で常識はずれな行為。

 

「それで、それ程の騒ぎが起きているんだ、捕まった者たちがどこに集められているのかは分かっているんだろうな」

「それがさっぱり。分かっているだけでも三百は超える数の冒険者が捕縛されているにもかかわらず、依然消息は不明です」

ガリウスギルド長は席を立つと、頭をガリガリと掻きながら指示を出す。

 

「捜索は引き続き続けろ、王都騎士団の各駐屯地、街の衛兵事務所にも問い合わせるんだ。今は情報が少なすぎる、直ぐに取り掛かれ」

「はい、畏まりましたギルド長」

急ぎ執務室を下がる報告者、ガリウスギルド長は窓の外に広がる夜の街並みに目を向け苦々しげに顔を顰める。

 

「ケビン・ワイルドウッド男爵、一体何を考えていやがる」

王都の夜は更ける、ガリウスギルド長の眠れぬ夜は、まだ始まったばかりなのであった。

 

―――――――――――

 

王都の街は多くの人と物とが行き交い常に活気に溢れている。そんな喧騒漂う王都の大通りを、その集団は異様な雰囲気を漂わせながら進んでいく。

 

「おい、あれは一体何なんだ? 見たところ皆冒険者みたいなんだが」

「さぁ? でもあの大男、どこかで見たことがあるような・・・そうだ、金級冒険者のバルカンだよ、後ろの女性はパーティーメンバーで魔導士のメロリーナ、金級冒険者パーティー“グリフォンの翼”のパーティーメンバーたちじゃないか。それがどうしてあんな姿に」

 

それはまるで囚われた犯罪者のように首にロープが掛けられ、両手を前で縛られた冒険者たちが数珠繋ぎにされて一列に行進していく光景。その顔は今にも倒れそうな病人のように苦しげで、思わず手を差し出したくなるほどの悲壮感を漂わせる。

そしてそんな集団の左右には白い甲冑に身を包んだ騎士と、王宮騎士団の甲冑を着た騎士が等間隔に配置されている。

 

王都民たちは皆その異様な光景に驚き、彼らが一体どこに向かっているのかと噂する。そして彼らの視線の先に聳える建物、それはオーランド王国の力の象徴の一つ、冒険者ギルド本部建物なのであった。

 

「ギルド長、大変です!!」

その頃、冒険者ギルド本部大会議室では一つの騒動が持ち上がっていた。それは昨夜王都内の各地で相次いで発生した冒険者捕縛事件への対応であった。

 

「今度は何だ!! こっちは昨夜からの事件の対応で一睡もしていないんだぞ!!」

見えぬ全容、焦りと苛立ち、白金級冒険者を擁する冒険者ギルド本部にとって、自分たちの庭とも呼んでいい王都でこうも堂々と好き放題されて黙っている訳にはいかない。大会議室に詰め掛けた冒険者ギルド本部の幹部たちの目が、飛び込んできた報告者に集中する。

 

「それが、昨夜から行方不明になっていました冒険者たちが、目撃された白騎士と王宮騎士団の甲冑を着込んだ者たちに囲まれながらこちらに向かって来ています」

「なに!? 王宮騎士団と衛兵たちはこの件に関して何も言って来なかっただろう、連中は俺たちを謀ってやがったのか!!」

湧き上がる怒り、冒険者ギルドに対して嘗めた行動に出た王宮騎士団に対し、その場の者全員が敵意を剥き出しにする。

 

「会議はここまでだ、全員ギルド建物前に集合、ふざけた真似をしやがった連中を叩き潰す!!」

“ガタガタガタガタ”

立ち上がる冒険者ギルド本部の幹部たち、彼らは皆多くの戦場を潜り抜け生き残ってきた精鋭たち。その身から吹き上がる覇気は、怒りの色に染まる。

 

「ギルド長、大変です!!」

「分かってる! ふざけた連中がギルド本部前に到着したってことだろう。今から俺たち全員で向かってそいつらに誰に対して喧嘩を売ったのか骨の髄まで分からせてやる!!」

「「「「オォォォォォ!!」」」」

上がる雄たけび、獰猛な笑いを浮かべるガリウスギルド長、だが報告者は尚焦りの表情のまま言葉を続ける。

 

「集団の代表がギルド長に対し玄関前での面会を求めています。代表者の名は“ケビン・ワイルドウッド男爵”です」

「「「「・・・・・」」」」

その場の空気が止まる、先程まで憤怒の表情を浮かべていた者たちの顔が、困惑と焦りの色を浮かべる。

 

「それは本当なのか? 本当に相手は自身を“ケビン・ワイルドウッド男爵”と名乗ったのか?」

「はい、“ホーンラビット伯爵家旗下騎士ケビン・ワイルドウッド男爵”であるとはっきりと。その上で“この度の冒険者ギルドの所業について説明を求める”と要求しています」

ガリウスギルド長の顔色が変わる、ケビン・ワイルドウッド男爵が冒険者ギルドに説明を要求する事など一つしかない。

 

「いかがなさいますか?」

「あぁ、行こう。いや、行くしかないだろう。ここから先は何が起こるのか分からん、全員気を引き締めて向かえ」

ガリウスギルド長の号令の下幹部たちが動き出す。彼らは湧き上がる不安を押し殺し、“狡猾の魔王”と対峙する為ギルド建物前に歩を進めるのだった。

 

そこは既に多くの群衆が取り囲み騒然とした空気に包まれていた。

 

「待たせたな、俺が冒険者ギルド本部ギルド長のガリウス・ナックルだ。ケビン・ワイルドウッド男爵、“冒険者ギルドの所業について説明を求める”との話だが、一体何の事だ。それとうちの大切な冒険者たちを冒険者ギルドに何の相談もなく捕縛するとはどういうつもりだ、今直ぐそいつらを解放してもらおうか」

冒険者ギルドとは様々な権力から冒険者を守り、健全な冒険者活動を支援するために生まれた互助組織である。冒険者ギルドの基本理念として冒険者が権力者により不当に扱われる事は、断固として許すわけにはいかない。

 

「ほう、貴様の名はガリウス・ナックルといったのか。貴様と会うのはこれで二度目だが、貴様は全く変わっていないようだな。あの時、王城の王宮第二訓練場で私が何と言ったのか、どうやら貴様は忘れてしまったようだな。

そんな貴様にも分かるように説明してやろう。ここオーランド王国はゾルバ国王陛下を頂点とした王政国家だ。オーランド王国において身分は絶対であり貴族と平民の間には決して覆す事の出来ぬ大きな開きがある。

つまり貴様のその不遜極まりない言葉遣いも貴族に対する不敬行為であり、王国法によって固く禁じられている犯罪行為となる。

その上で、冒険者ギルドは何をした? いや、正確には何故何もしなかった?

今回捕縛したこの冒険者共はワイルドウッド男爵家王都屋敷前に詰め掛け襲撃行為に及んだ者たちだ。全体数であればもっと多くの者たちが祭りにでも参加するかのようにこの騒ぎに駆け付けた。

そしてこともあろうか武技や魔法によって我が家に攻撃を加える者たちまでいた。

貴様に問う、王都内において武技や魔法を使い貴族屋敷を襲撃する行為を冒険者ギルドは奨励しているのか?」

 

ケビン・ワイルドウッド男爵の言葉、それは明らかな冒険者による王国法に反する行い、その場で首を落とされても文句の言えない犯罪行為。

 

「だが問題はそれだけじゃない、貴様ら冒険者ギルドがその行為を一切取り締まらなかったという事だ。これが一日や二日の事であれば駆け付けることが出来なかったとの言い訳も出来よう、だが騒動が始まって一月以上経つのに貴様らは何をしていた? 冒険者の犯罪行為を未然に防ぐ事も冒険者ギルドの役割なのではないのか?

冒険者は自己責任、だから冒険者が王都で何をしようが冒険者ギルドは一切関知しない、それが貴様らのやり方か? それでは貴様らに特権を与える意味がどこにある」

ケビン・ワイルドウッド男爵の言葉に何も言い返すことが出来ずただ黙り込むガリウスギルド長、その姿に周りを取り囲んでいた冒険者たちから不満と怒りの声が噴出する。

 

「黙りやがれ魔王が!! 好き勝手言いやがって、貴様こそ人類の敵だろうが、今すぐ息の根を止めてやる!!」

「「「「そうだそうだ、魔王は王都から出ていけ!!」」」」

騒ぎ出す群衆、ケビン・ワイルドウッド男爵はそんな群衆に冷ややかな視線を送ると、再びガリウスギルド長に向き直る。

 

「貴様はどうする、我がワイルドウッド男爵家、ひいてはホーンラビット伯爵家に敵対するというのか? 我らは止まらんぞ? この国の全ての冒険者を敵に回そうと、この世界の冒険者の全てが我らの命を狙おうと、我がホーンラビット伯爵家の意地を通すのみ。

“ケビン・ワイルドウッド男爵はオーランド王国の貴族である”、ゾルバ国王陛下のお言葉の下、王国法に則り貴様らを粛清する用意は出来ている」

‟ブワーーーーーーーーッ”

広がる気配、それは覇気でも魔力でもない、ただ“殺す”という明確な意思の伝達。震える身体、流れる汗と涙、魂に刻まれた原初の恐怖という感情が、存在の全てを支配する。

 

「冒険者ギルド本部側の謝罪と賠償に関してだが、王家主催のオークションで得た収益金の全てをホーンラビット伯爵家に戻して貰う。我らが大森林より集めた素材を使いオークションを行っておいて、我らを愚弄した冒険者ギルド本部の対応を許すわけにはいかんのでな。

それとワイルドウッド男爵家に対し襲撃を仕掛けた冒険者共に関しては犯罪者として裁かれる。その行為は国家反逆罪として極刑が適応されるべきものではあるが、鉱山に送られることがすでに決定している。ゾルバ国王陛下の慈悲の心に感謝する事だ。話は以上だ、賠償金の支払いに関してはベルツシュタイン伯爵閣下が間に入っていただけるとのご提案をいただいている、詳しくはベルツシュタイン伯爵家の者と行うように」

 

“バッ”

踵を返し立ち去っていく集団、その光景をただ見つめることしか出来ない冒険者ギルド本部の幹部たち。

“魔王の断罪”、後にそう呼ばれる事になるこの出来事は、貴族と平民との在り方を見直す切っ掛けとして長く語り継がれることになるのであった。




いってらっしゃい。
by@aozora
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