転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第864話 辺境男爵、O・HA・NA・SHIする (2)

“ガタガタガタガタガタガタ”

一台の馬車が王都の街並みを走り抜ける。

 

“ガタガタガタ、カチャッ”

牽き馬の脚が止まり、壁に囲まれた大きな門の前で馬車の扉が開かれる。降り立ったのは一人の男性、きっちりとした騎士服を着込んだ彼は通用口の前に立つ門番に声を掛け、門の内側へと入っていく。

 

「ようこそおいで下さいました、ケビン・ワイルドウッド男爵様。中央学園のシュテル・バウマン学園長よりお話をいただいた時は非常に驚きました。しかし宜しかったのでしょうか、現在の王都はワイルドウッド男爵様にとって非常に危険な状態にあります」

壁の向こう側にはこの施設の関係者が集まり、来訪したケビン・ワイルドウッド男爵に対し驚きと困惑の表情を向ける。

 

「学園長、突然の提案に賛同いただけたこと、オーランド王国の貴族として感謝申し上げる。王都の騒ぎは重々承知している、だがそれを踏まえてもこの熱狂に侵され冷静な判断を見失った若者たちに立ち止まる機会を与えることが先達の務めと考える。

彼らは若い、社会の事を知らず銅貨一枚を得ることの重みも知らない。自分達の判断と行動が自分だけでなく多くの者たちを巻き込んでしまうという事を全く理解せず、激情のままに行動しようとしている。

後悔とは常に後からやってくる、だが後悔したとして失ったもの、失われた命は決して戻らず、その悲しみと怒りを他者に押し付けようとする。

それは崩壊の始まりであり、オーランド王国を揺るがす事態に繋がっていくのだ。

ここは武の学び舎、あなた方の中にもなぜ彼らが批判されなければならないのか本当の意味で納得していない方もおられるだろう。

だから私はここにいる、あなた方自身の在り方を問う為に」

 

ワイルドウッド男爵はそう語ると、案内に従い施設内を進んでいく。その歩みは傲慢さや恐れなどといったものではない、だだ真摯にこの国を憂う貴族の矜持を感じさせるものであった。

 

“ザワザワザワザワザワザワ”

そこは王都三大学園の一つ武術学園の大演習場、学年対抗の大規模演習も行われる広いグラウンドには、武術学園に所属する全生徒並び教職員が集まり、学園長の登壇を待っていた。

 

「なぁ、今日の緊急全校集会って一体何の話なんだ?」

「なんだ、お前知らないのか? 魔王による大規模な捕縛劇、何百人って冒険者が魔王の手先に捕縛されたって話、今王都じゃその話題で持ちきりだぜ?」

 

「はぁ? 何で魔王が王都に現れるんだよ、アイツは“辺境の最果て”に引き籠ってるんじゃなかったのか? 王宮騎士団は一体何をやってるんだよ。魔王を野放しにするって、それで王都を守っているだなんてどの面下げて言えるってんだよ」

「いや、どうもその王宮騎士団が魔王の暴挙に協力していたらしい。これはいよいよ王家が魔王に乗っ取られているって噂は本当なんじゃないかって事で、上を下に大騒ぎだってよ」

ざわつく生徒達、彼らは口々に冒険者ギルド本部前で起きた冒険者の大量捕縛事件について噂し合い、魔王の許されざる所業に怒りの声を上げる。

 

「注目ーー!! 学園長のお話である、前向け~、前!!」

“““““ザッザッ”””””

日々の訓練により全体の動きが揃う。武術学園の生徒はその高い戦闘力を望まれ学園卒業後各貴族家の騎士団や王都の衛兵、王国軍兵士の上級士官としての道を期待される人材である。その為日頃から全体行動の厳しい訓練を受けており、どのような場合でも規律を重んじる意識が強く刷り込まれている。

 

「皆、楽にせよ。本日の緊急全校集会は、皆も知っての通り先日起きた冒険者ギルド本部前冒険者捕縛事件を受けてのものとなる。この事件は王都騎士団とホーンラビット伯爵家騎士団との合同で行われたものであり、王国法に基づいた法の執行の結果である。

だが諸君の中にはこの決定に対し不満を覚える者、疑念を抱く者もいるだろう。この緊急全校集会では諸君らの疑念を晴らすべく、特別に騒動の中心となっている御方に来ていただいた。皆失礼なきよう迎えるように」

生徒達に注意を促し壇上を降りる学園長、静まり返った生徒達、彼らは皆この後壇上に上がる者が誰であるのか想像を膨らませる。

 

“カツンッ、カツンッ、カツンッ、カツンッ”

その者は揺ぎ無い足取りで壇上へと向かう。威圧するでもなく、さりとて媚びるでもない、ただ自然体に。演習場に並ぶ数百人という生徒たちを前に全く動じる事なく、男性は壇上から彼らを見下ろしている。

 

「先ずはこのような機会を設けてくれた武術学園学園長並びに教職員の皆様方にオーランド王国の貴族として感謝申し上げる。そしてこの場にいる生徒諸君、貴重な授業時間を割き集まってくれた事、礼を言う。

さて、皆は私の事を見てもどこの誰だか見当もつかないだろう、まず間違いなくこの場で私の顔を知る者はいないはずだ。

だが皆は私の事を知っている、それはこの場の生徒諸君だけではない、今や王都民で私の事を知らぬ者は皆無であろう」

壇上の男性の言葉に生徒たちの間からざわめきが起こる。一部の教職員はその意味に気が付き、ゴクリと生唾を飲む。

 

「分からないかな? 皆が望み、打ち破りたいと願う絶対悪、ボルグ教国が名指しした人類の敵。

はじめまして、わたしがケビン・ワイルドウッド男爵だ」

“ザワザワザワザワザワザワザワザワ”

驚きとどよめき、驚愕と興奮。闘気を滾らせる者あり、恐怖に涙を浮かべる者あり、どうせ教職員の仕込んだ偽物だろうとあざ笑う者あり。

 

「静粛に!! 静かにしろ!! 黙らんかー!!」

武術教官たちの怒声が響く、だがそんな中壇上のワイルドウッド男爵はただ静かに生徒たちを見つめ続ける。

そして一人の生徒がその異変に気が付く、“自分は見られている”。

それは視線、誰かの視線がジッと自身を捉えていることに。それは怒りや悲しみ、憤りといった激しい感情の籠ったものではない。ただ静かに、だが確実に自身を見つめ続ける視線。

一人、また一人、その視線から逃れようとするかのように口を噤み、姿勢を正す生徒達。そしてそれは生徒ばかりではなく、その場にいる教職員も同様であった。彼らは額にうっすらとした汗を掻き、視線の主からの静かな問い掛けに身を正す。

 

「戦場、そこは己の全てを賭し敵を倒さんと剣を振るう武人の花道。武を高め、己の腕と剣を頼りにのし上がろうとする諸君が人類の敵を前に心穏やかでいられぬ事は当然であろう。

だが諸君は分かっているのか? 諸君らはオーランド王国国王ゾルバ・グラン・オーランド陛下のお言葉を聞いていなかったのか?

“ケビン・ワイルドウッド男爵はオーランド王国の貴族であり、ボルグ教国の行いは明確な内政干渉である”、これは単に私を擁護しての言葉ではない、オーランド王国の国体、王政貴族国家としての尊厳の問題である。

 

諸君らは何故多くの冒険者が王宮騎士団とホーンラビット伯爵家騎士団によって捕らえられたのか理解しているのかな? 彼らは我が屋敷、ワイルドウッド男爵家王都屋敷に襲撃を仕掛けたのだよ。ボルグ教国で魔王発生の発表があったと知らされてから一月、毎日のように行われた襲撃。

これは我がワイルドウッド男爵家に対しでだけでなくホーンラビット伯爵家、ひいては王政貴族国家であるオーランド王国に対する明確な反逆行為、平民が貴族家に襲撃を掛けるなど言語道断、本人の極刑で済まされる話ではない。連座制によりその家族にも処刑が適用されるべき行いなのだ」

言葉を切り周囲を見つめる瞳、その視線がその場にいる一人一人と重なり合う。

 

「諸君らは武人だ、己の信念に従い剣を取ることを否定はしない。だがその行いには責任が生じることを忘れるな。全ての結果は己の行動により齎される、考えることを、己の意思で行動する事を諦めるな。

最後に、諸君らが目指すべき一つの道を示そう。<魔纏い>」

“ブワッ”

ワイルドウッド男爵から溢れる濃厚な魔力、それは彼の身体を包みその場の者全てを圧倒する。

 

「<覇気>」

“ズオンッ”

大気が重くのしかかる、ワイルドウッド男爵から放出される強大な覇気が、武術学園全体を包み込む。

 

「“覇気”と“魔纏い”、この技術は多くの高位冒険者が身に付け騎士団の中でもその使い手は敬意を向けられるものだ。だがこの技術には先がある、諸君らの戦う相手、“辺境の蛮族”が使う技だ。<覇魔混合>」

“ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ”

それはこの世の終わり、武力などという生易しいものでは覆す事の出来ぬ絶対的な存在の違い。

 

「ここが戦いの入り口、我がホーンラビット伯爵家騎士団の最低基準だ。家も、家族も、一族全てを処刑台に送る覚悟を決め魔王と呼ばれる私に挑まんとする信念を持つ者たちよ。私は歓迎しよう、四肢を断たれ、苦しみ藻掻く諸君らに治療を施そう。何度でも立ち上がる機会を与え、何度でも死の淵に追いやろう。そして諸君らが戦う気力を失った時、諸君らが怨嗟の声を上げる親族の下へ帰ることを許そう。

諸君らの訪れを我がホーンラビット伯爵家は心より歓迎する」

“ブワッ”

失われる力、その場に崩れ落ちる生徒と教職員。

 

「ヤベッ、やりすぎた。<広域クリーン:広域リフレッシュ:癒しの覇気>」

ケビン・ワイルドウッド男爵の慌てたような呟きを聞く者は、誰一人として存在しないのであった。

 

―――――――――――――

 

「あの、大丈夫でしょうか? 武術学園ではかなりの騒動になったんじゃないんですか?」

「ハハハ、武術学園の生徒たちは皆血気盛んですからね。ですが魔法学園の生徒達のように理知的な者であれば騒動になることもないでしょう」

やってしまった、武術学園の皆様をめっちゃビビらせてしまった。武術学園の大演習場での講演の後、直立姿勢で冷や汗をダラダラ垂らしながら一切目を合わせようとしない生徒並びに教職員の方々に見送られ移動した先は魔法学園。どちらの学園もオーランド王国にとって必要な優れた才能の集う学び舎ですからね、汚い大人の企みに巻き込んで人生を目茶苦茶にしてしまうには惜しい人材の宝庫、注意喚起は大切です。

これは王都学園のシュテル・バウマン学園長も頭を悩ませていた事、ゾルバ国王陛下が入学式であれだけはっきり警告していたにもかかわらず、現在王都学園ではオルト・ラーゲン伯爵令息が頑張って派閥攻勢を仕掛けております。

二学年の元ミルキー・バルデン侯爵令嬢派閥にいた生徒達なんかがこぞって合流、かなりの勢力が出来上がっているんだとか。それでもアルデンティア第四王子殿下が密かに一年生たちを引き込んで傘下に置く事で守ってはいるんですけどね、オルト君、声がでかいから~。

お父上にどんなプレッシャーを懸けられたのかは知らないけどほぼ恫喝、彼って本当に高位貴族なんだろうか? 貴族とは品の良い盗賊とはよく言ったものです、確かメルビン司祭長の言葉だったかな?

 

「ではこちらへ」

向かった先は魔法訓練場、別名“魔法演舞場”と呼ばれるここは去年ジェイク君が二体のエミリーちゃん像を作っちゃったところですね。あまりの精巧さから譲って欲しいって声が様々なところから上がったらしいんですが、どうやっても動かすことが出来なかったとか。今では魔法学園の守護神的に崇められてるらしいです。

 

訓練場の観客席に集められたのは全校生徒並び教職員の皆さん、彼らはこれから一体何が始まるのかとざわつきながら噂し合っているようです。

 

「静粛に、これより臨時全校集会を行います」

司会の先生の挨拶に静かになる生徒達、学園長の話を黙って聞く辺り教育が行き届いているというか、武術学園との違いを感じさせられます。学園長の話が終わり、次いで俺が演台に向かうと「あれは誰だ」といった声がちらほらと。

 

「はじめまして、魔法学園の皆さん。私の名前はケビン・ワイルドウッド男爵、ボルグ教国より魔王と認定された者です。これから皆さんにお話ししたいことは「「「「「引っ込め魔王!! 王都で大きな顔をするな、とっとと辺境に引っ込みやがれ!!」」」」」・・・え~、皆さんはゾルバ・グラン・オーランド国王陛下の「「「「「黙りなさい、魔王!! 王家を支配下に置いたからと言って私達までだまされるとはおもわないことですわ!!」」」」」・・・・」

“パチパチパチパチパチパチパチパチ”

鳴り響く拍手。

「「「「「か・え・れ、か・え・れ、か・え・れ、か・え・れ」」」」」

止まることのない帰れコール。

ふと視線を教職員席に向ければ、焦った表情をするのは学園長一人だけで、他の者たちは楽しげな催し物でも見るかのように興味深げな顔を向けるかニヤニヤした表情を浮かべる者ばかり。皆この先俺がこの事態をどう治めるのか、もしくはすごすごと逃げ帰るのかと高みの見物を決め込んでいる。

 

「“・・・いっぺん死んでみるか?”」

“ドンッ”

それは思い、それは決意、質量を伴った絶対的なプレッシャー。その場にいる者たちは皆気付かされる、目の前にいる人物こそボルグ教国が恐れ勇者を筆頭に五万もの軍勢を差し向けて討伐を行おうとしている者、“狡猾の魔王”だという事を。

 

「“ハッハッハッ、すまない、つい大人げない真似をしてしまった。私もまだまだという事かな? これは皆に詫びをしなければならんな、皆は魔法学園の生徒並びに教職員だ、ならば「魔法の書」というものを知っているだろう。現代魔法の入門書、私も魔法に対する憧れから魔法適性がないにもかかわらず手に入れ読みふけった者の一人だよ。

その一節にかつてエルフの魔術すらも身に付けようとした大魔法使いの残した言葉として次のような一文が紹介されている。

“魔力枯渇を恐れるな、我が強大な魔力を身に付け今日大魔法使いと呼ばれる様になったのは、全て若かりし頃に無謀にも魔力枯渇を繰り返しながら魔法の習得に努め、繊細な魔法の運用を身に付けたからである。努力は決して裏切らない、全ては結果として返って来る”

私はこの言葉に大変感銘を受けたものだ、魔法使いとは己に厳しく決して諦めること知らぬ真の勇者であると。これは私からできるささやかな詫びの証、皆の研鑽を手伝わせて欲しい。<広域マジックドレイン>”」

“バタバタバタバタバタバタバタバタ”

瞬間その場にいる者全員が魔力枯渇症状を起こし意識を失う、だがケビン・ワイルドウッド男爵の()()は終わらない。

 

「“<広域マナトランスファー>、ご機嫌いかがかな? ではもう一度、<広域マジックドレイン>。<広域マナトランスファー>、ほらほら、ひっくり返っている場合ではないぞ? “魔力枯渇を恐れるな、我が強大な魔力を身に付け今日大魔法使いと呼ばれる様になったのは、全て若かりし頃に無謀にも魔力枯渇を繰り返しながら魔法の習得に努め、繊細な魔法の運用を身に付けたからである。努力は決して裏切らない、全ては結果として返って来る”、偉大な先達が皆の成長を心から願っているのだ、その思いに応えなければな。<広域マジックドレイン>”」

 

“狡猾の魔王”、ケビン・ワイルドウッド男爵の“詫び”はその後十回ほど行われ、その誠実な対応に静かに話を聞く姿勢になった生徒並びに教職員たちは、王都の置かれた現状、無暗に魔王討伐に参加することによる法的な問題とその際に発生する損害について熱心に耳を傾けるのであった。




いってらっしゃい。
by@aozora
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