転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第866話 揺れる王都、動く人々

“ガランガラン、ガランガラン、ガランガラン、ガランガラン”

王都教会の大鐘楼がけたたましく鐘を打ち鳴らす。大聖堂前の広場に数名の司祭とシスターが集まり、空に向け特大のライトボールを打ち上げ続ける。

コンクラーベの終了、オーランド王国教会を取り仕切る王都教会のトップにして女神信仰の指導者となる新たなる教皇の誕生を告げる鐘の音は、宵闇迫る王都の空にいつまでも鳴り響いていく。

 

「王都の皆様、並びにオーランド王国の全ての方々にお伝えいたします。オーランド王国教会の新しい教皇猊下にはルビアン・ポートランド枢機卿が選ばれました。

ルビアン・ポートランド枢機卿はこれを受諾、五日後の宣誓式を以って新教皇となられます。誠におめでとうございます」

大聖堂前に集まった多くの群衆、人々は教会の発表に沸き立ち歓声を上げる。この知らせは直ぐに王城へと届けられ、国王ゾルバ・グラン・オーランドは正式な表明として新教皇の誕生に祝福の言葉を送る。

時代の変革、これまでの歴史が終わり新たな指導者が誕生する。王都の人々はこの変化に歓迎の意を示し、街のあちこちで新教皇ルビアン・ポートランド猊下がどのような宣誓を行うのか噂し合うのだった。

 

「新教皇はルビアン枢機卿に決まったのか。我らが後押しをしていた他の枢機卿たちは何をしていたのだ」

場所は変わり貴族街、王都貴族街でいま最も力を持つと噂されている人物である中央貴族派閥の長ライトニー・マルス侯爵は、自分たちが支持していた枢機卿たちのあまりの不甲斐なさに苦々しげに顔を歪める。

 

「はい、コンクラーベの様子を見守っていた司祭の話では各枢機卿の主張は真っ向から対立、それぞれが自身こそが新たな教皇に相応しいと立場を譲らなかったそうでございます。

勇者グロリアス率いる魔王討伐軍が隣国スロバニア王国に入り、順調にオーランド王国を目指している事も彼らにとっては後押しになっていたものかと。ゾルバ国王陛下の立場を擁護するベルトナ・オーランド教皇猊下を支持していた者たちを自身の派閥に取り込み、新たな教皇となる為に裏工作にそれぞれが奔走していたようでございます」

「ではなぜこのような結果となる、我らの支持する枢機卿の中から教皇が選ばれないのはおかしいではないか!!」

憤り声を荒らげるマルス侯爵に報告者は淡々と言葉を続ける。

 

「いえ、そうではありません。この状態こそ全てベルトナ教皇猊下の掌の上だったのでございます。此度のコンクラーベは教皇猊下死去によるものではありません、ベルトナ教皇猊下は投票者として特別に二票の投票権が与えられている。新教皇として声を上げた枢機卿は四名、内三名が我々が支持を表明している枢機卿となります。

ルビアン枢機卿と三名の枢機卿たちはルビアン枢機卿が一歩先んじてはいましたが派閥的な力関係は互角、そこにベルトナ教皇猊下の支持者たちが分散する事で状況は逆転し彼らの中に強い野心が働いた。誰しもが教皇となることの出来る可能性に目がくらんだ。

互いに協力を約束しつつ最終投票を行った結果、我らの後押ししていた枢機卿たちは自分こそがと自我を通し自滅した。票の分散が全てを最悪の結果へと導いたのです」

「馬鹿どもが、あれほど硬く協力を誓い合っておきながらなぜ一番大事な場面でそれが出来んのだ!! 三者の協力により一人の候補を押し上げれば教皇となることなど容易かったであろうが!!」

激しくテーブルを叩き怒りを爆発させるマルス侯爵、だが報告者の言葉は更に続く。

 

「マルス侯爵閣下にご報告申し上げます。新教皇選出において我らの支持する枢機卿を押し出すことは難しかったものかと。理由として今回のコンクラーベではベルトナ教皇猊下がご存命であったことが上げられます。つまりベルトナ教皇猊下はお力を保持したままコンクラーベに臨まれた、ベルトナ教皇猊下を支持する者たちはその御意思に従ったのです。たとえ我らの支持する枢機卿たちが候補者を一人に絞っていたとしても、その場合はルビアン枢機卿の支持者となっていた事でしょう。そして最終投票においては人数的に同数となる、ですがベルトナ教皇猊下は二票持っていますから得票差一票で新教皇はルビアン枢機卿に決定していたのです。

ベルトナ教皇猊下が引退を発表された時点で我々の負けは決定していた、ですがそれが分かってしまえば誰かが強硬策に出るかもしれない。

このコンクラーベは緻密に計算されたベルトナ教皇猊下による権限の委譲だったのです」

報告者の言葉に悔しげに拳を握るマルス侯爵、だがその怒りを押し殺し、大きく深呼吸をする事で憤怒の感情を鎮めていく。

 

「残念ではあるが致し方あるまい、此度の件は苦い教訓として胸に留めることとしよう。勇者により魔王の討伐が為され国民の支持がクロッカス第三王子に集まれば状況は一変する、未だゾルバ国王を支持している者たちも我らに迎合せざるを得なくなる。

それはルビアン枢機卿とて同じ事、形ばかりの教皇となるか我らとともに時代を作っていくのかはルビアン新教皇の今後の在り方次第。

各枢機卿共に伝えよ、支持基盤を固め王都教会内での発言力を堅持せよと。魔王討伐軍の到着は目前、我らの時代はすぐ目の前に迫っているのだと。

これだけ言ってまだ馬鹿な派閥争いに明け暮れるようでは、どちらにしろ先はあるまい。こちらも誰かひとりに支持を固める必要があるやもしれんな」

「ハッ、マルス侯爵閣下のお言葉、確かにお伝えいたします」

一礼をしその場を下がる報告者、部屋に控えていた執事がさり気なくグラスとワインを用意する。

 

「まったく、宗教家共の欲というものは度し難い、あれで女神様にお仕えしていると言い張るのだから厚顔無恥も極まれりといったところか」

窓の外に広がる王都は、新教皇誕生の知らせに沸く王都民で溢れている。

踊る者、躍らせる者、真の支配者は誰であるのか。

グラスに揺れる赤ワインの波紋、マルス侯爵は口元を愉悦に歪めながら、静かにグラスを傾けるのであった。

 

――――――――――――――

 

「資金を出せないとはどういうことか?」

王城の一室、クロッカス第三王子は側近からの報告に眉を顰める。

 

「はい、王都商業ギルド及び各大手商会は悉く今度の魔王討伐における我々への資金援助を断ってまいりました。魔王討伐後の便宜に関しての条件も交渉材料としてちらつかせましたが全く効く耳を持たず、商人としてあるまじき蒙昧ぶりには呆れを通り越して憐れみすら感じざるを得ません。

更にこちらが譲歩し借財としての借り入れを提案したにもかかわらずそれすら理解せぬ愚鈍ぶり、本当に彼らはオーランド王国を支えるに足りる商人なのでしょうか?」

側近の言葉、それはオーランド王国経済を支える商人たちの質の低下を示すもの。時勢を読み違え古きに流れる彼らにこの先のオーランド王国を任せる事は出来ない。

 

「冒険者ギルドは何と言ってきている、魔王討伐軍に参加したという称号は一生をかけても得る事の出来ない栄誉、冒険者たちは自ら参加を申し出ているのではないのか?」

クロッカス第三王子の言葉に、別の側近が呆れたように首を横に振る。

 

「ご報告申し上げます。冒険者ギルド本部は公式な見解として、今回の魔王討伐に対し冒険者ギルドとして人員の募集を行う事はないと明言致しました。各貴族家が自分たちで私兵を募集し冒険者が応じる事を冒険者ギルドとして規制する事はしないものの、募集に参加した冒険者を冒険者ギルドとして擁護する事はしないとのことです。

扱いとしては貴族間の紛争に参加する冒険者と同等、犯罪者としない代わりに自己責任の原則を貫く方針のようです」

「何だそれは、魔王討伐だぞ? 彼らは戦う者としての矜持すら持ち合わせていないというのか?」

側近の言葉に苛立ちを露にするクロッカス第三王子、商人と言い、冒険者と言い、女神様に対する信仰心を失った国民に対する苛立ちと悲しみに大きくため息を漏らす。

 

「分かった、もうよい。先見を失った組織に未来はない、その事がはっきりしただけでも収穫と思わねばならんか。

あの者たちは先のオーランド王国にとって不要な者という事であろう。その処遇は全てが終わってからゆっくりと考えるものとしよう。

いま必要なことは出来る事、行わなければならぬ事の選定である。マルス侯爵にはその旨伝え於いているのであろうな?」

「はい、既に手配は済んでいるとの返答をいただいております。勇者グロリアスと魔王討伐軍の到着に合わせ行動を起こすように賛同者に指示を出しているとの事でございます」

 

「よし、では我らは勇者グロリアスを歓迎する為の準備を行うものとする。既に魔王討伐軍はスロバニア王国を進みスロバニア王国王都を目指しているとの情報も入っている。魔王討伐が行われるオーランド王国王家として、我らが遅れを取ることは許されぬ、よいな」

「「「ハッ、クロッカス第三王子殿下の御心のままに」」」

時は進む、思い通りに事が運ばなくとも時は全ての者を平等に押し流していく。魔王討伐軍の到着が目前に迫る中、クロッカス第三王子とその支持者たちは、忙しなく勇者歓迎の準備に追われるのであった。

 

―――――――――――――

 

王都は揺れる、ボルグ教国聖教会によるオーランド王国北西部地域での魔王発生の知らせ、魔王討伐に立ち上がった光の勇者グロリアスと三種の神器を貸与された勇者パーティー率いるボルグ教国兵士五万の魔王討伐軍による遠征、商人街に佇む“狡猾の魔王”ケビン・ワイルドウッド男爵の王都屋敷“商人街の悪夢”を襲撃した冒険者たちの一斉検挙と、彼らの行動を冒険者ギルド本部に問いただした“狡猾の魔王”ケビン・ワイルドウッド男爵。

ゾルバ国王陛下は公式の声明として“ケビン・ワイルドウッド男爵はオーランド王国の貴族である”とし、ボルグ教国の軍事行動を内政干渉であると非難している。

何が正しく何が間違っているのか、王都民の間では光の勇者グロリアスと勇者パーティーの見目麗しい女性パーティーメンバーたちの肖像画が飛ぶように売れ、様々な勇者関連商品が出回り歓迎ムード一色であった。その最中に起きた冒険者の捕縛劇は、彼らの熱狂に冷や水を浴びせるに十分なものであった。

 

「おい、聞いたか? “狡猾の魔王”の話。どうやら魔王閣下は冒険者たちを大量捕縛しただけじゃ飽き足らず、武術学園と魔法学園にも出没したらしいぜ」

「あぁ、そうらしいな。俺の知り合いに息子が武術学園に通ってる奴がいるんだが、ついこないだまで「俺は勇者様方と共に魔王討伐に向かって武功を立てるんだ」とか言って聞かなかったのが、あの日以来ぱったりとそんな話をしなくなったんだよ。

知り合いもその事が気になってそれとなく話を聞こうとしたんだが、魔王の話をした途端ビシッと姿勢を正して「大変申し訳ありませんでした、自分が間違っておりました!!」って言って動かなくなっちまうらしい。

俺も気になったんでな、直接本人に聞きに行ったんだが魔王の話をした途端ガタガタ震え始めちまってな、マジで一体何があったんだって話だよ」

街の酒場、今最も熱い魔王の噂は瞬く間に周囲に拡散され、口の端に上がるたびに更なる憶測をよぶ。

 

「アレは駄目だ、アレに関わっちゃいけない。ボルグ教国も勇者グロリアスですら気が付いてない、アレは本物の魔王だ。魔王自身が辺境の地に引き籠ると言っているものをわざわざ刺激してどうするというんだ。

これは魔王討伐軍による聖戦なんかじゃない、魔王による壮大な遊戯なんだ」

酒場の隅、一人背中を丸め酒に溺れていた者が誰に聞かせるでもなく口を開く。だがここは酒場、噂に飢えた酔っ払いが興味深げに男に声を掛ける。

 

「おいおいおっさん、何馬鹿なこと言ってるんだ。この遠征はただの遠征なんかじゃない、長年女神様の剣として魔王の脅威から世界を守り続けて来たボルグ教国が五万の精鋭を差し向けた大遠征なんだぞ? しかも魔王討伐軍を率いるのはナミビア王国の光の勇者グロリアス・ブリッジと勇者パーティーだぞ? それに数々の魔王討伐の物語に登場した伝説の至宝“三種の神器”を貸与されてるんだぞ?

この最強の布陣を前にどこをどう考えたらそんな台詞になるってんだよ。

もしかして冒険者ギルド本部前で魔王の姿でも見ちまったってか? まぁ実物を見てビビっちまうのは分かるけどよ、そんなんじゃこの先「俺は魔法学園の助教をしているんだ。お前らは魔王の本当の恐ろしさを知らない、ケビン・ワイルドウッド男爵は魔王の役割を押し付けられたただの倒され役なんかじゃない。これまで人類が作り続けてきた都合のいい魔王たちの集合体、長年積もり積もった憎悪は形を作り力をより合わせ、人類に復讐する機会を待っていたんだ。ハハハ、もうお終いだ。俺たちは本物の魔王を目覚めさせてしまったんだ」・・・おい、お前は一体何を言ってるんだ。本物の魔王を目覚めさせたってどういうことだよ」

虚ろな瞳で虚空を見つめる男の不気味な笑い声が、夜の酒場に広がっていく。オーランド王国に訪れるものは希望か、それとも絶望か。続く喧騒、楽観と憶測と見えぬ真実。噂は噂を呼び、王都は混沌の渦に呑み込まれていくのであった。




いってらっしゃい。
by@aozora
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