転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第867話 転生勇者、新入生と言葉を交わす

“コンコンコン”

「失礼します。ジェイク・クロー、エミリー・ホーンラビット、お呼びにより参りました」

「あぁ、すまない、入ってくれ」

 

“カチャッ”

開かれた扉、部屋の中に揃えられた品の良い調度品。初めてこの部屋を訪れた時は“流石王都学園、王族が生徒会長を務めるような場所は俺たちのような田舎者からしたら別世界だな”と思ったのを覚えている。

これ、前世の世界からの転生者が見たら“学園ものの異世界RPGかよ”ってツッコミ入れたんだろうなって思ったことは内緒だ。だってしょうがないじゃん、アルデンティア第四王子殿下をはじめとした生徒会役員ってみんなキラキライケメンだし、アリスやラビアナお嬢様みたいないかにもな美少女まで揃ってるんだもん。

 

まぁその生徒会も王都教会出身のピエールはケビンお兄ちゃんのお嫁さんズ相手にやらかしてメルビン司祭長の付き人になっちゃったし、ラグラは実家が取り潰されて入り婿先のバルデン侯爵家で後継ぎ教育を受けながらヒーヒー言ってるし、ガーベルはアリスと一緒にフィリーとディアにしごかれてすっかり準マルセル人化しちゃってるし。アルデンティア第四王子殿下に至ってはブライアント第二王子殿下が造反の罪で平民落ちしてワイバーンの飼育係になっちゃったし、クロッカス第三王子殿下は今まさに自ら墓穴に嵌りにいってるし。

・・・うん、普通に崩壊してるな。あの入学当初のキラキラした王子と側近といった雰囲気は一体どこへ。

 

「ジェイク、わざわざ呼び出して悪かったね。新学期が始まってから一月、王都学園もそれなりに動きがあったところでジェイクの話を聞きたくてね」

ここは生徒会執務室、王都学園の中に用意された王家や公爵家・侯爵家出身の生徒会長の為の相談部屋。そのセキュリティーは学園長執務室と同等レベルで盗聴や覗きの対策は勿論魔法防御や物理防御などの各種対策がなされ学園内における緊急時シェルターの役割まで担っている特別な場所。

そりゃ王族や公爵家・侯爵家の令嬢令息を守る為にそうした場所が必要だったのは当然のことだし、王家がスポンサーの王都学園にそうした設備がない方がむしろ不自然ですからね。

ラビアナお嬢様の甥にあたるクルドア先輩は公爵家次男であったものの家の関係で周囲との折り合いが悪く、生徒会入りを拒絶したとの事でしたが。

生徒会役員が高位貴族家の令息令嬢で固められているのには、安全確保の意味合いも強いとかなんとか。

 

「そうですね、まぁ俺の方は去年と変わらないというか、去年よりも下級生からの当たりが強くなったくらいでしょうか」

昨年の夏も終わりという頃に起きたドラゴンの王都襲来、当時俺はいち早くその気配に気が付き腹痛を理由に授業を抜け出したのはいいものの、その後姿を一切見せなかった事から肝心な時にトイレに引き籠る役立たずという噂が立ち“トイレの勇者”という大変不名誉な二つ名を頂戴する事に。

これにより今代の勇者は腰抜けの役立たずだという嘲りが王都学園内に広がりまして。

これで卒業までゆっくり生活できると安心していたんですけどね、ボルグ教国が阿呆な発表するんだもんな~。お陰で俺に対する注目が再燃しちゃったんだよな~。

 

「あぁ、あの後私が何度説明しても下級生たちは聞く耳を持たなかったからね。ジェイクとジミーが黒蜜とシルバリアンだという事は剣術部や一部の生徒の間では公然の秘密だったし、二年生三年生の生徒たちがジェイクたちに何も言っていないところを見れば何かある事ぐらいすぐに分かりそうなものだったんだが、彼らは見たいもの聞きたい事しか頭に入らなかったと見える。

今だって騒いでいるのは何も分かっていない新入生と一部の二年生だけなんだが、彼らは冬季の社交界で関係性を強めてしまっている。この状態で現実を分からせることは中々に難しいんだよ」

そう言い大変疲れた表情をなさるアルデンティア第四王子殿下。社交界は魑魅魍魎蠢く魔境だってデイマリア奥様が言ってたし、パトリシア様も「出来る事なら関わらないに越したことはないですよ」って言ってたくらいだもんな。その最前線で戦うアルデンティア第四王子殿下の心労はどれほどの物か、俺は収納の腕輪からホーンラビット伯爵閣下絶賛、ミランダ奥様特製の胃薬を取り出すと、アルデンティア第四王子殿下の執務机にそっと差し出すのでした。

 

―――――――――――

 

「アルデンティア第四王子殿下、疲れちゃってたね」

校舎の廊下、隣を歩くエミリーの呟きに「そうだな、殿下の心労は俺たちなんかじゃ計り知れないものだろうけどな」と言葉を返す。実際アルデンティア第四王子殿下はご立派になられて、ブライアント第二王子殿下の造反の時は巻き込まれそうになっている軍閥貴族を少しでも救う為様々な集まりに顔を出して説得を試みてたみたいだし、今だって上に逆らう事の出来ない下っ端中央貴族の救済に走ってるみたいだし。

残念ながら王都学園に入学するような伯爵クラスで未だ中央貴族派閥に属している者たちは完全に勝ち馬気分で浮かれちゃってるみたいで碌に話も聞かないみたいだけど、それでもアルデンティア第四王子殿下の働きでどれ程の貴族家が救われているか分かったもんじゃない。

俺たち王都学園生徒の中で誰が一番社会人として世に出ているのかと聞かれれば、間違いなくアルデンティア第四王子殿下だって言えるくらいには活発に様々な貴族への働き掛けを行っている。

 

「でも一年生のオルト君、私たちだけじゃなくてアリスちゃんにも積極的に接触してたんだね」

「そうだな、アリスは教会の慈善奉仕にも積極的に参加して治療魔法の訓練に取り組んでいるから教会としても取り込みたい人材だろうし、中央貴族派閥としても教会と中央貴族を結ぶ人材として手に入れておきたいだろうしな。

確かアリスの実家のブレイク男爵家はオーランド王国南部地域だし、一度リットン侯爵家王都屋敷のマリルドア王都屋敷代官様にお引き合わせしてもいいんじゃないのか? リットン侯爵家としても聖女との繋がりが出来ることは歓迎すべき事だろうし、中央貴族から守ってくれるんじゃないのか?」

 

「う~ん、それがどうも難しいみたい。前にお米の事でラビアナ様と話したんだけど、今の当主のデリルブル・リットン侯爵様は八方美人なところがあって、あちこちにいい顔をして何とか自分が利益を得ようとするところがあるみたいなの。マリルドア王都屋敷代官様は領民の事を一番に考える方だけど、前の侯爵様は典型的な王都貴族だったし、デリルブル侯爵様はその影響を強く引き継いでるんだって。だから下手にリットン侯爵家に頼るより、今のままアルデンティア第四王子殿下の傘の下にいた方が安全なんじゃないかな?」

エミリーの言葉に思わす額に手を当てる。直ぐ側の一番頼りになるはずの大貴族が役に立たない、位置的に周辺貴族からみそっかす扱いされていたことがかえって身を守る結果に繋がるとはどんな皮肉なんだと、まるで自身のことのように苦笑いを浮かべる。

 

「勇者ジェイク、聖女エミリー、いいところで会いましたね。先日のお話、ご検討いただけましたか?」

そんな事を考えていた俺の耳に飛び込んできたのは、何とも上から目線の鼻につく声音。

 

「あっ、オルト君だ。こんにちはオルト君、今日もいっぱい取り巻きを従えてるんだね、まさに一学年の代表っていった感じ? 二年生が見当たらないみたいだけど、どうしちゃったのかな?」

オルト・ラーゲン、ラーゲン伯爵家の長男で中央貴族の中心的人物であるマルス侯爵の甥にあたる男子生徒。社交界でもその立場を全面的に押し出して、同年代の少年少女の取りまとめを行っていたとか。

仲間内でこの話題になった時、「貴族ってそんな年から既に家の為に働いてるのかよ」って言ったらアルジミールから「中央に近しい高位貴族の子はそれが普通」って返された時は、心底辺境育ちでよかったと思ったもんです。まぁ食生活が豊かだったのは偏にケビンお兄ちゃんのお陰なんですが。

“干し肉の勇者ケビン”、マルセル村の健康広場に石像を建ててもいいくらいの偉業です。今度マルセル村に帰ったらホーンラビット伯爵閣下に進言しておこう、直ぐ隣に魔王カオスの石像も立ちそうだけど。

エミリーズの土属性に作らせたらいい感じの石像作ってくれないかな? やってみる価値はあるかも。

 

俺が割とどうでもいい事に考えを巡らせていると何故かにやつきながら「あぁ、先輩方には聖女アリスの説得に向かってもらってるんですよ」と答えるオルト。アリスの説得って、アリスの隣には常にカーベルが付いてるんだけど? カーベルってばああ見えてハンセン侯爵家三男なんだけど?

王都学園の平等が建前だなんて分かってるだろうに、俺やエミリーに対して“たかが地方伯爵家令嬢とお付きの騎士風情が”って態度で完全に見下しているのに、上位貴族家にあたるカーベルに対しても強く出るって、マジでこいつら頭お花畑なんじゃないんだろうか。

 

「そうか、それで懲りずにまた俺たちを“説得”しに来たと。まぁ何度来られても答えは一緒なんだけどな、俺たちはお前たちに協力するつもりはないぞ」

「ハァ~、いい加減分を弁えて欲しいものだ。ジェイク・クロー、確かにお前は“勇者”だがそれは偶々女神様より<勇者>という職業を授かったからに過ぎない。お前が何かをなした訳でもなくお前が偉い訳でもない。

騎士の息子と言いたいのだろうが、騎士など平民と何が違う。

勘違いするなよ? 貴族とは男爵以上の身分を指す、お前は貴族でもなんでもないのだ、分かったら口を慎め」

う~わ、言っちゃったよ。王都学園の建前を正面から否定しちゃったよ、しかも周囲の取り巻きたちも同調しちゃってるし。これってば目茶苦茶まずい発言なんだけど、コイツ分かってないだろう。

 

「それは申し訳ない、であれば話す事もないだろう。行きましょうか、エミリーお嬢様」

「そうですね、私たちのような辺境育ちがオルト様のような高貴な御方と言葉を交わすなど、無礼極まりないこと。直ぐにこの場を下がりましょう」

そう言い一礼をして退こうと「待て、一体どこへ行こうというのだ」・・・まだ何か用件があるようでございます。

 

「まったく、ハッキリ言わねば理解出来ぬとは、この学園で一体何を学んできたというのだ。一度しか言わぬからよく聞け、貴様らにはもはや選択肢など無いのだ。

貴様らの故郷ホーンラビット伯爵領に魔王が発生した事は世界中が知る事実、勇者グロリアス率いる魔王討伐軍の到着が目前に迫っている今、貴様らが助かる道は我らの軍門に下る他ないと何故わからん。これまでは貴様らの立場を慮って対等な態度で接してやっていたというのに、その温情にすら気が付かぬ程愚かだとは、情けないにもほどがあるだろう」

オルトの言葉に同調し、嘲りの表情を向ける取り巻きたち。こいつら本気で何も分かってないんだろうな~。

 

「なるほど、オルト様、一つお聞かせ願えませんでしょうか? オルト様はもしやこの度の魔王討伐に参戦なさるのでしょうか?」

俺の関心、それはこの馬鹿たちの中に祭りの参加者がいるかどうか。

 

「あぁ、その事か。残念ながら許可は下りなかった、初陣にはふさわしい舞台であったのだがな。父上は参戦なさるが、そのお話を聞く事しか出来ないのが悔やまれる。これも高位貴族家の者としての務め、皆を纏め上げライトニー・マルス侯爵閣下をはじめとした勇猛なる方々のお帰りをお待ちする事も大切な役割であるからな」

なるほどなるほど、流石に役立たずのドラ息子たちを連れていくような愚行は侵さないと。でもな~、親父さんたちが参戦しちゃったら連座制の対象なんだけどな~。

 

「しかし宜しいのでしょうか? 魔王討伐は勇者様をはじめとした魔王討伐軍が行うとしても、御当主自らが参戦なさるのは危険なのでは? 一年戦争のような事もございます、いくらホーンラビット伯爵家の商業ギルド口座預入金が消えていたとはいえ、皆様が向かわれる事はないかと思うのですが」

俺の言葉に目の色を変えるオルト、ケビンお兄ちゃんが言っていたようにやっぱりそっちが本命って事なのかな? 現場にいないと誰がちょろまかすか分からないしね、王都オークションの収益金って物凄い金額になってたって言うしね。

欲に目のくらんだ王都中央貴族、戦力は魔王討伐軍の兵士たちで十二分に揃っている、ならば美味しいところを奪い取ってしまえばいい。

ボルグ教国が欲しいのは“祝福されし礼拝堂”、マルセル村を占拠できればいい彼らにとって、オーランド王国側からの後押しがあるに越したことはない。その為の金は現地に転がっている(と思い込んでいる)、利害の一致、まさにWin-Winの関係。

 

「あぁ、やっぱり馬鹿な俺たちは従えないかな? 蛮族は身内が害されると聞かされて命惜しさに媚びを売ることが出来ないんだ、わざわざ足を運んでもらったのに悪かったね」

「そうだね、それにケビンお兄ちゃんは私の大切な義兄ちゃんだしね。要するに私たちは魔王の身内って事になるのかな? こうやって言葉にすると何か凄いね、ジェイク君」

エミリーの言葉に“そういえば称号に<理不尽の弟子>ってのがあった”と思い出す。って事はマルセル村出身者は名実ともに魔王配下って事? これまでの歴史で魔王配下の勇者や聖女っていたんだろうか? やっぱりケビンお兄ちゃんってとんでもないよ、歴史に名を刻んじゃったよ、魔王って段階で今更だけど。

 

エミリーの言葉になぜか悔しげに歯噛みするオルト。魔王討伐軍に参加する者として、流石に魔王の身内を引き込む事は不味いとでも思っているんだろうか?

 

「オルト様にいい事を教えてあげましょう。俺とエミリーはアルデンティア第四王子殿下派閥の人間です。これが一体どういう意味を持つのか、高貴なるオルト様であればお分かりになりますね?

後はオルト様次第、我々は歴史の陰で皆様のご活躍をお祈りしております」

そう言い一礼をする俺の言葉に、眉を顰めつつも何かを思案するオルト。すると何かに思い至ったのか「死地を求めるとは、やはり蛮族は蛮族であったという事か。無駄な時間を使ったようだな、行くぞ」と言って取り巻きを引き連れ返っていく。

 

「ねえジェイク君、今のって一体どういう意味だったの? あれだけしつこかったオルト君が素直に下がるって」

「あぁ、アイツの頭の中では自分たちの勝利は決定事項だったって事だよ。だからこう言ってやったのさ、“俺たちを泳がせておけばアルデンティア第四王子殿下の醜聞に繋がりますよ”ってね。

まぁそれも今度の魔王討伐で勇者様方が勝利を収めることが大前提の話なんだけどね」

そう言い肩を竦める俺に「凄い、ジェイク君ケビンお兄ちゃんみたい」と笑顔を向けるエミリー。ちょっと待ってエミリーさん、俺、そこまで酷くないからね?

勇者グロリアス来訪まであと少し、エミリーからの誉め言葉に最大のダメージを受けつつも、当面の面倒事は先送りに出来たと一先ず胸を撫で下ろす俺なのでありました。




いってらっしゃい。
by@aozora
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