「なぁ、今日だろう? 光の勇者グロリアス様が魔王討伐軍を率いて王都に到着なさるのって」
「あぁ、三日前に先ぶれが来ていたって話だから間違いないはずだ。総勢七万五千にも及ぶ大部隊、一年戦争の時王都を出発した貴族軍の軍行を彷彿させる壮観な光景だろうさ」
オーランド王国王都バルセン、そこは国内各地からだけではなく近隣諸国からも多くの人や物とが集まる経済の中心地。そんな人と物との流れを監視し王都を守る最終防衛線でもある王都街門では、その日も多くの人々が集まり門兵たちは忙しない入街業務に追われていた。
“ザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッ”
それはそんな王都街門の日常を切り裂くように、靴音を響かせ大地を揺らし現れた。
「・・・なぁ、勇者様方魔王討伐軍がお越しになるのってスロバニア王国側からだよな。リットン侯爵領を抜けて王都入りするはずだよな」
「・・・そうだな、南街門の連中が勇者様御一行をお出迎えするって張り切ってたからな。じゃあ西街門に迫ってきているあれはなんだって話だよな、俺ちょっと班長に知らせてくるわ。お前は民衆の誘導を頼む、あんなのに巻き込まれたら洒落じゃ済まん」
それは本来現れるはずのない兵士の集団、その淀みない歩みは昨年の夏に起きた“第二王子の造反”を想起させるに余りあるもの。
“パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ、ヒヒ~~~ン”
「注目せよ!! 我らはクロッカス第三王子殿下の旗の下、世界の敵である魔王を討伐する為に立ち上がった憂国の士である。光の勇者グロリアス・ブリッジ殿と共に魔王に奪われし聖地を奪還する為、魔王討伐軍に参加すべくやってまいった。入街を許可されたし!!」
現れた騎士の口上、その姿に驚き目を見開く門兵たち。
““““こいつら、ブライアント第二王子殿下と共に造反を起こした憂国騎士団じゃん。鉱山送りになったんじゃなかったのかよ””””
その場にいた者たちの心に浮かぶ疑問、騎士はそのようなことはどこ吹く風と返答を待つ。
「静粛にせよ!! 勇敢なる戦士に申し上げる。貴殿らは魔王討伐軍に参加するため王都にやって来たとの事であるが、その言葉に嘘偽りはないか?」
「無論、我らは志高き憂国の者、この命果てようとも必ずや魔王を打ち倒して見せようぞ」
門兵士たちを束ねる班長は、一歩前に出ると堂々と騎乗の騎士に問い掛ける。
「ならば貴殿らは魔王討伐軍の一団、勇者グロリアスの指揮下にある一兵団という事であろう。であるのなら西街門脇の野営地にて留まられよ。
本日勇者グロリアス・ブリッジ殿は魔王討伐軍を率い南街門へ到着する旨が知らされている。
こちらより魔王討伐軍へは連絡を入れよう、以降は魔王討伐軍の指揮官の指示に従われたし」
「なに、貴様たかだか門兵の分際で我らに対し無礼千万であろうが!! 我らはクロッカス第三王子の御心に従い行動を起こしておるのだ、貴様らのごとき下級兵士にとやかく言われる筋合いはないわ、そこをどき道を開けよ!!」
班長の言葉に苛立たしげに声を荒らげる騎士、だが班長は冷静に、かつ鮮烈に言葉を返す。
「貴殿に問う、貴殿らは光の勇者グロリアス・ブリッジ殿の名誉に泥を塗るおつもりか? 自軍に参加を表明する義勇兵すら統率できぬ名ばかりの指揮官と笑いものにすることが貴殿らの真の目的であるのか?
貴殿らも知っているように我らが敬愛すべきゾルバ・グラン・オーランド国王陛下は此度の魔王討伐に反対の姿勢を取っておられる。ボルグ教国聖教会より魔王として発表されたケビン・ワイルドウッド男爵を自国の貴族であるとし、聖地奪還と称する魔王討伐軍の侵攻を許されざる内政干渉であるとして強く抗議の声を上げている。
そのことは勇者グロリアス殿もよくよく承知しており、この行軍に多大な配慮を向けていると聞く。
貴殿らはそのような気高きお心を持つ勇者グロリアス殿のご指示を蔑ろにし、王都に足を踏み入れようというのか? 我らは何も拒絶しているのではない、魔王討伐軍指揮官の指示を待つように言っているのだ。
貴殿も騎士であるのなら上官の指示を聞かぬ兵士が如何に作戦行動を乱すものであるのか分からぬわけではあるまい。
もう一度告げる、西街門脇の野営地にて留まられよ。魔王討伐軍へは我々が責任をもって連絡を入れよう、以降は魔王討伐軍の指揮官の指示に従われよ」
毅然と言い放つ班長、にらみ合う両者、騎士は「我らはクロッカス第三王子の旗下にある者たちであるぞ!!」と主張するも班長は「王都への入街は認められない」として門兵たちに街門を封鎖するよう指示を出す。
「クッ、貴様の顔は忘れん、必ずや後悔させて見せよう」
騎馬を操り集団へと戻っていく騎士、班長は集団が西門脇の草原へと移動していく様子をジッと睨み続ける。
「班長、よろしかったのでしょうか、あのような態度を示してしまって」
「あぁ、構わん、どうせ奴らには何も出来ん。俺は前の造反の時のような後悔は二度としたくない。俺の仕事は王都を守り王都民の命を守る事だ、お偉いさん方の顔色を窺って仕事をおろそかにすることじゃない。
もう街門を開けてもいいぞ、入街業務を再開する」
この王都西街門で起きた騒動は、王都を囲う東街門・北街門でもほぼ同時刻に発生した。だがそのどちらでも門兵たちは集団の侵入を許さなかった。それは王都を守る事、オーランド王国兵士としての矜持を強く示す行動であった。
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“コンコンコン”
「失礼いたします、三年ジェイク・クロー、エミリー・ホーンラビット、ジミー・ドラゴンロード、フィリー・ソード、学園長のお呼びにより参りました」
「どうぞ、入ってください」
扉の向こうから聞こえる入室を許可する声、ジェイクは扉を開くと仲間たちと共に学園長執務室へと足を踏み入れる。
華美にならず落ち着いた雰囲気の漂う室内、正面の執務机ではシュテル・バウマン学園長が机の書類を脇へ置き、立ち上がって生徒たちにテーブル席へ座るよう声を掛ける。
「授業中にもかかわらず呼び出しを行ってすまなかったね。これは君たちに直接かかわる事でもあったのでね、ホーンラビット伯爵領出身の皆に集まってもらったんだよ。
君たちも既に噂で聞いていると思うが、本日勇者グロリアス・ブリッジ率いる魔王討伐軍が王都へ到着する。この勇者グロリアス到着を受けクロッカス第三王子殿下より勇者ジェイク・クロー、聖女エミリー・ホーンラビット、聖女アリス・ブレイクへの魔王討伐軍参加要請が届いた。
また交流会参加生徒への魔王討伐軍への推薦要請も来ている。明日行われる武術学園との交流会に勇者パーティーの訪問を提案し、勇者との顔合わせを行うと通達してきた」
「「「「・・・・・」」」」
学園長から聞かされたあまりの話の内容に、それぞれに頭を抱える生徒たち。
「学園長、失礼を承知で申し上げますが、クロッカス第三王子殿下は一体何をお考えなのでしょうか?
俺たちホーンラビット伯爵領出身者は周囲への影響も考慮し、今回の学園交流会への参加を辞退させていただき、その事は武術学園・魔法学園にもお知らせしご理解をいただいていたはずなのですが」
困惑顔で言葉を向けるジェイクに、疲れた表情でため息を吐く学園長。
「その話は使者として訪れたクロッカス第三王子の側近にも伝えたのですけどね、まったく聞き入れてくださいませんでした。私としては下手に関わらせないようにしたかったのですが、王都学園は王家には強く出れません。たとえそれがゾルバ国王陛下のご意向に反していても、余程の無法でもない限り、その要求にはなるべく従う必要がある。情けない限りですが」
学園長は申し訳なさそうに肩を落とすと、改めて一人一人の顔を見つめてから言葉を向ける。
「ジェイク・クロー君、エミリー・ホーンラビット嬢、ジミー・ドラゴンロード君、フィリー・ソード嬢、皆さんにお聞きします。皆さんはこの要請にどう答えますか? 無視を決め込んでも彼らは学園に訪れます、クロッカス第三王子殿下という王族の特権を活かし直接圧力を掛けてくるでしょう。
仮に要請に応え武術学園との交流会に赴けばその場で既成事実をでっちあげ参加を強要してくるかもしれません、どちらにしても皆さんが不利な立場になることは明白です」
それは警告、王都学園の長として生徒たちの安全を第一に考える教育者としての最大限の思いやり。
「学園長、一つお聞きしてもよろしいでしょうか? アリスさんについてはどう対応されるおつもりですか? この場には呼ばれていないようですが」
「あぁ、アリス・ブレイク嬢に関してはアルデンティア第四王子殿下の庇護をお願いしてあります。アリス嬢の立場は聖女の職を授かった男爵令嬢というものでしかない、既にアルデンティア第四王子殿下の傘下にあるとしてしまえばクロッカス第三王子殿下もそれ以上強くは出れません。アルデンティア第四王子殿下はゾルバ国王陛下と同じく、今回の魔王討伐軍に否定的な立場を取っていますから。
代表生徒たちに関しても魔王討伐に参加しようという生徒はいません、アリス嬢とエミリー嬢による治療により心身ともに健康になった彼らは、王都に蔓延している熱狂という病から回復したようですので」
ニコリと疲れた笑みを浮かべる学園長に乾いた笑いを浮かべるジェイクたち、エミリーは一人“私頑張りました!!”と拳を握り胸を張る。
「ジミー、どうする?」
「そうだな、一度本物の勇者がどういうものか見ておくのもいいかもしれないな」
ジェイクの問い掛けに口元をニヤケさせるジミー。エミリーは任せてとばかりに鼻息を荒くし、フィリーは両手で眼鏡位置を直しレンズをキランッと光らせる。
「学園長、クロッカス第三王子殿下の要請に応え、武術学園との学園交流会には顔を出させていただこうと思います。魔王討伐軍への参加はお断りさせていただきます、いくらクロッカス第三王子殿下からの要請であろうとも家族へ剣を向けることなどありえませんので」
「なるほど、それが皆さんの答えなのですね。そういう事だそうです、ネイチャーマン先生」
学園長はジェイクからの返答を聞くと、何も置いていない壁に向かい声を掛ける。
「はい、承知いたしました。皆さんのお気持ちはよく分かりました、ですが無理だけはなさらないように。明日は私も同行しますので、何かありましたらすぐにお声がけください。ブラッキー」
“ニュイン”
不意に姿を現した生活魔法講師ビーン・ネイチャーマンに生徒たちが驚きの表情を浮かべていると、ネイチャーマン講師の影が横に広がり、中から一体の黒い魔獣が姿を見せる。
「「「「ブラッキー!?」」」」
「はい、ワイルドウッド男爵様よりこちらの魔獣をお預かりしておりますのでご安心を、どのような場所からであろうとお救いいたしましょう。こう見えても昔からかくれんぼは得意なのですよ」(ニッコリ)
“唐突なネイチャーマン講師の登場と救出宣言に、自分たちが大きな愛によって支えられてることに気が付き感動に打ち震える若者たちなのであった~”
「どうしたジミー」
「いや、何かネイチャーマン先生からくだらない妄想をしている時のケビンお兄ちゃんと同じような雰囲気を感じたもんでな。やはり類は友を呼ぶというか、似た者同士なのかと思ってな」
「「「あ~、何か分かる」」」
ネイチャーマン講師(擬態中)の微妙な心の変化を敏感に感じ取るジミー、その鋭さに“ジミーってヤベー”と戦慄するネイチャーマン講師(擬態中)なのであった。
いってらっしゃい。
by@aozora