転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第872話 転生勇者、光の勇者と出会う

「フッフッフッ、そうか、漸く勇者グロリアスが王都に到着したか」

貴族街に大きく存在を示すマルス侯爵邸、この屋敷の主でもあるマルス侯爵家当主ライトニー・マルスはオーランド王国の権力構造が大きく変わることを確信し、その原動力となる光の勇者グロリアス・ブリッジの王都到着の知らせに口元を緩める。

 

「では手筈通り勇者グロリアスと勇者パーティーの方々を我が屋敷にお招きせねばな。歓迎パーティーの準備は整っているのであろうな?」

「はい、中央貴族派閥の各貴族家並びに王都教会枢機卿の方々にはご連絡申し上げてございます」

マルス侯爵の問い掛けに傍に控える執事が言葉を返す。

 

「して、勇者グロリアスと勇者パーティーの方々の我が屋敷への到着はいつぐらいになるのだ? 魔王討伐軍の指揮官としては王都教会へ顔を出す必要もあるだろうからその分遅れるであろうが」

「ハッ、勇者グロリアス様をはじめとした勇者パーティーの皆様方は、南街門から入街後、真っ直ぐ王都商業ギルドに向かわれました。王都教会へはその後に向かわれるとの事でございます」

報告者の言葉にマルス侯爵は眉根を寄せ、不機嫌そうに仔細を問い質す。

 

「ハッ、魔王討伐軍幹部の話によれば、王都商業ギルドより食料品販売の打診がありその提案に勇者グロリアス様が応じたとの事でございます。勇者グロリアス様方は食料品の買い付けならびに引き取りの為に向かわれたとの由にございます」

「なんと、あの守銭奴どもめ。魔王討伐という大義の為に立たれた勇者グロリアスを愚弄しおって。我らの援助要請を断ったばかりかあろうことか食料品の販売とは何たる無礼、即刻その首を落としてくれる!!」

“ダンッ”

激高しテーブルに掌を叩きつけるマルス侯爵、周囲の者たちは頭を垂れ口を噤む。

 

「恐れながら申し上げます。裁きは魔王討伐という大義を成し遂げられ、名実ともにオーランド王国の実権を握られてからの方がよろしいかと愚考いたします。魔王討伐を成し女神様の使徒として凱旋された暁には国民の支持は完全にクロッカス第三王子殿下に移りましょう。

それは日和見を決めている地方貴族の愚か者どもも同様、であれば先を見る事の出来ぬ愚者を統率する事こそ侯爵閣下の為すべき事であるかと。

その際に魔王討伐軍を食い物にした逆賊にしかるべき鉄槌を下す事で、侯爵閣下の確固たる意思を示すことに繋がりましょう」

控えていた執事の言葉に顎に手を当て“ふむ”と考え込むマルス侯爵。

 

「愚か者にも役立つ道を与えるという事か、ただ潰すのではなく効果的に潰せと」

「余計なことを申し上げました。全ては侯爵閣下の思し召しのままに」

深々と頭を下げ、謝罪の言葉を口にする執事。マルス侯爵は口元をニヤリと歪め「構わぬ、許す」と言葉を掛ける。

 

「今は余計なことにかまけている場合ではない、我らがオーランド王国を手中に収めることは既に決定しているのだからな。歓迎パーティーの準備を急がせよ、我らの結束を一つにし、新たなる時代の始まりを告げるのだ」

「「「ハッ、マルス侯爵閣下の思し召しのままに」」」

思惑は遂に形を以って結実する。中央貴族たちの野望は現実へ、誰にも止める事の出来ない時代の必然に、人々はただ翻弄される事しか出来ないのであった。

 

――――――――――――

 

王都三大学園交流会、一年に一度開かれるこの催しは、多くの才能集う王都三大学園の更なる発展と優秀な人材の発掘を目指した、学園教職員ならびに生徒・生徒保護者にとっての一大イベントである。

各学園から選ばれた代表生徒たちは武術学園・魔法学園のそれぞれに足を運んだ王都学園代表生徒との対戦を行い、その技術や研鑽の成果を披露する。代表生徒として優秀な成績を収めた生徒は卒業後の就職先として様々な方面から声を掛けられるほか、王都学園への編入のチャンスもあり、人生を大きく変える機会でもある交流会にかける意気込みは並大抵ではない。

本来であればそれほど重要である交流会ではあるが、今回に限っては生徒たちを浮足だたせるとんでもないサプライズが用意されていた。

 

「なぁ、あれって本物の勇者グロリアス様だよな」

「あぁ、間違いない。モルガン商会で買った肖像画と全く一緒って、どれだけだよ。それに後ろに控えているのって、聖女セレーナ様に大賢者バニア様、剣聖コーネリア様に弓聖オルガノ様じゃねえかよ。何だよあの美女軍団、意味が分かんねえよ。っていうか本物のエルフだよ、物語で語られてた通り、めっちゃ美人だよ。俺、武術学園の生徒でよかった!!」

武術学園武術修練場、コロシアムを彷彿とさせるその造りのそこは、武術学園の全生徒を収容し尚且つ生徒保護者も観覧席へ座ることのできる規模を誇る大闘技場でもある。その観覧席の一角、言わば来賓席と呼べる場所に姿を現した勇者グロリアスと勇者パーティーたちの姿に、観客席からは大きな歓声が沸き起こる。

 

「おぉ~、アレが噂の光の勇者グロリアス・ブリッジ様。なんか俺とは持ってるものが違うっていうか、溢れ出す存在感が半端ないんですけど?

俺、あの御方と一緒に並びたくないんですけど?

それに何、あの美女軍団。まるで全解放状態のジミーとフィリーとディアとクルンじゃん、俺、あの中に混じれって言われたら泣くよ?」

「残念なお知らせだよジェイク君、ジミーはもっとジミーだよ、女殺しのジゴロだよ」

隣のエミリーから告げられた言葉に、「そうだった~、ジミーはハーレムパーティーを崩壊させた実績があったんだった~」と頭を抱える俺。卒業したら全解放ジミーと一緒に暗黒大陸に渡ることが決定している俺たち、絶対問題が起きるじゃん、ジミーハーレムがパーティーから傭兵団クラスに拡大しちゃうじゃん!! そんな天然ジゴロに振り回される自身を想像しただけでミランダ奥様の胃薬が欲しくなる、マルセル村に帰ったらホーンラビット伯爵閣下にご相談申し上げよう。

今なら分かる、ドレイク村長がどれ程頑張ってこられたのかが。ドラゴンロード家の兄弟は皆ストマックブレイカーだったんですね。(涙目)

 

来賓席のキラキラした方々の周りにいる整った容姿の方々、アレが俺たちをこの場に引き摺り出した首謀者であるクロッカス第三王子殿下とその側近たち、壮年のお貴族様方が中央貴族の方々、それと教会関係者といった服装の方々は枢機卿様方なんでしょう。

 

「ケベック先生、今日は学園長に言われたんで武術学園との交流会に来てますけど、俺たちって一体どうしたらいいんですか? 代表生徒は既に決まってますし、やる事ないですよね?」

俺は王都学園の引率者である武術教官のケベック先生に言葉を向ける。代表生徒以外でこの場にいるのは俺とジミーとエミリー、フィリーは武術学園との交流会なので来ていない。アリスは元々治療担当で呼ばれていたので参加しており、アリスの護衛にはラグラが付いている。アルデンティア第四王子殿下とカーベルは心配していたようだが、こればかりは仕方がない。

 

というかラグラは大将です、あれだけ色々なことがあったにもかかわらず訓練を休む事なく続けた結果、めっちゃ強くなっちゃいました。

バネロハって言う丁度いいライバルがいたのも良かったみたい、二人してどんどん実力を上げてたもんな~、バネロハは編入生なので代表生徒になれなかった事が残念ですが。

バネロハが凱旋したら武術学園生徒も驚いたと思いますよ? アイツ、とんでもないから。魔纏いどころか覇気まで身に付けるって、あれって一般的には死線を何度も潜り抜けた冒険者なんかが身に付ける技術よ? ボビー師匠やヘンリー師匠なんかは気が付いたら身に付いてたって言ってたくらいだし、何でそんな技術を学園生徒なのに身に付けられるんだい、お前の人生に何があったの?

まぁ俺なんかとは持ってるものが違うって事なんでしょう。

 

「あぁ、それなんだがな、クロッカス第三王子殿下のご提案で急遽勇者パーティーの方々と模擬戦を行う事になってな。十分間の時間制、審判が止めの合図を出したら即終了。王都学園からはジェイクとジミー、勇者パーティーからは勇者グロリアス様と剣聖コーネリア様がお相手して下さる。

というか勝つなよ、時間切れの引き分けにするんだぞ? 特にジミー、お前に言ってるんだからな、その愉悦の籠った獰猛な顔は止めろ、本当にお願いします!!」

そう言い頭を下げるケベック先生、でもジミーがこうなったら俺でも止められないんですけど。

 

「オホンッ、ジミー君、ジェイク君、エミリー嬢、三人に手紙を預かってきております。お渡ししますので目を通していただけますか?」

そんな俺たちに声を掛けてきたのはもう一人の引率者であるネイチャーマン先生、俺たち一人一人に渡された手紙、ジミーがその手紙に目を通すと先程までの獰猛さが一気に霧散し、いつぞやの爽やかジミーのような笑顔に変わるのでした。

・・・なにそれ、怖いんですけど。ジミーの手紙に一体何が書かれていたの? 俺とエミリーは互いに顔を見合わせてからそれぞれ手紙を開きます。

 

“ジェイクお兄ちゃんへ

 

お元気ですか? チェリーは元気です。

最近は今度のお祭りに向けてマルセル村飛行隊の訓練を頑張っています。

相手は光の勇者様率いる魔王討伐軍、ジェイクお兄ちゃんにもチェリーの勇姿を見て欲しいな。

マルセル村のみんなも、光の勇者様方が来てくれる事を毎日楽しみにしています。

王都で頑張っているジェイクお兄ちゃん、光の勇者様が来てもいじめちゃ駄目だからね?

一緒にお祭りに参加できる日を楽しみにしています。

 

お兄ちゃんが大好きなチェリーより”

 

「・・・ジミー、分かってるよな、ここで勇者様方の御心をへし折ったりしたら許さないからな?」

「そうだよジミー、ロバート君とバーミリオン君とマリアンヌちゃんが勇者様の訪れを待ってるんだからね。いくらジミーでも、今回ばかりは許さないからね」

俺とエミリーの言葉に、ジミーは全身から爽やか王子様オーラを漂わせながら言葉を返す。

 

「何を言ってるんだい二人とも、僕がそんな過ちを犯すはずないじゃないか。なんて言ってもミッシェルちゃんが“大好きなジミーお兄ちゃんにお願いがあります”って言ってきたんだよ?

僕が可愛い妹のお願いを聞かないとでも思っているのかい?

大丈夫、勇者様方には失礼のないように、礼儀正しくお相手させていただくよ。何といっても僕は“頼りになるお兄ちゃん”だからね」

そう言い心外だとばかりに肩を竦めるジミー。そうか、ジミーも分かってるのか、妹は最高だよね♪

 

俺たちの思いは一つ、“妹(弟)の願いは全力で叶える!!”。俺たちはケベック先生に「任せてください」と答えると、控えの椅子に座り自分たちの出番を待つのでした。

 

―――――――――――――

 

“キンキンキンキンッ、ハッ、シュタンシュタン、キンキンキンキン”

鋭い打ち込みが四方から襲う。

 

“シュタンシュタン、キンキンッ、シュタンシュタン、キンキン”

体捌きで躱し、足を使い、受け流し、隙を伺って反撃を行う。無言の連携でジミーと立ち位置を変えると、対戦相手が変わった事で勇者グロリアス様と剣聖コーネリア様に若干の動揺が生まれる。

動きを変え、技を変え、様々な変化をつける事で未熟であっても勇者様方のお相手になれることを証明し続ける。

 

「そこまで!! 双方後ろに下がり剣を収めるように」

「「ありがとうございました!!」」

俺とジミーは審判の掛け声に後方に下がるも、警戒心を忘れないようにしながら剣を収め礼の言葉を向ける。

 

「いや、思った以上だったよ。オーランド王国の勇者ジェイク・クロー君、まだ実戦に出ていないにもかかわらずそれだけ動けるとは驚きだ。それにジミー君といったかな、彼との連携も素晴らしい、余程訓練を積んできたであろうことが窺える素晴らしい模擬戦だったよ」

長い髪をふわりと靡かせ、キラキラオーラを振り撒きながらお褒めの言葉を下さる光の勇者グロリアス様。

 

「えぇ、とても学園生徒とは思えない程の戦いぶりでした。王都学園、武術学園、双方の代表生徒の皆さんの戦いぶりも素晴らしいものがありましたが、お二人は頭一つ飛び抜けているといいますか、光るものを感じました。

このまま真摯に剣に向かい合えば、いずれ私たちと肩を並べる事も出来るでしょう。大変有意義な模擬戦でした」

剣聖コーネリア様が俺とジミーを優しく褒め称える。

 

“パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ”

王都学園の控え席から起きた拍手は武術修練場全体に広がり、素晴らしい剣技を披露した勇者グロリアスと剣聖コーネリアスを褒め称えるとともに、そんな二人に最後まで喰らい付いた俺とジミーの健闘を温かく見守ってくれる。

 

“パチパチパチパチ”

「うむ、オーランド王国の次代を支える勇者ジェイク・クローの戦い、見事であった。ジミー・ドラゴンロード、其方の剣技も見るべきものがあった、褒めておこう」

互いの健闘を称えていた俺たちの背後から掛けられた声、何事かと振り返るとそこには来賓席にいたはずの複数の高貴なる方々の姿。俺とジミーは互いに顔を見合わせてから、この無粋な闖入者に深々と頭を下げる。

 

「「クロッカス第三王子殿下並びに高貴なる御方様方の御前にて、稚拙ながら我々の剣技をご披露出来ました事、恐悦至極に存じます」」

「うむ、殊勝な心掛けであるな。その方らに此度の魔王討伐において先陣を切る栄誉を与えよう、心して取り組むがよい」

俺たちの言葉に満足そうな笑みを浮かべたクロッカス第三王子殿下は、まるで自身の思いの及ばない事など無いかのように、一方的な宣言を向けてくる。俺たちはそのあまりの物言いに心底呆れつつ、勇者グロリアスと剣聖コーネリアスに挨拶をするとその場を無言で立ち去るのであった。

 




いってらっしゃい。
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