転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第878話 蛮族の宴 (1)

<この門を抜けし者よ、すべての希望を捨てよ。

信仰篤き者よ、その信仰は果たして何処へ向けられているのか今一度考えよ。

名声を求めし者よ、その勝利の先にあるものは果たして人に誇れるものであるのか、自らの行いを見つめよ。

富を求めし者よ、他者より奪った富は決して長くは持たない。富を奪うのではなく、富を生み出す方法を考えよ。

権力を求めし者よ、自らを磨き民の為に生きよ、権力はおのずと寄ってこよう。

多くを望むものよ、この先に汝らの望むものはない。

奪うこと、手に入れること、その為であればありとあらゆる手段をいとわぬ者たちよ。

汝らは何を差し出すのか。

労力か、財産か、人望か、未来か、己の命か。

それでも尚進まんとする心強き者たちよ。

我らは汝らを歓迎しよう。

我らは蛮族、財産も、地位も、名誉も、命すら奪われし者たちの末裔。

すべてを捨て、すべてを賭けよ、それでも叶えたい思いがあるのなら。

*現在ホーンラビット伯爵領は誠に勝手ながら来訪者の受け入れを停止しております。大変ご迷惑をお掛けしておりますが、ご理解ご協力のほど、なにとぞよろしくお願いいたします。

ホーンラビット伯爵領マルセル村観光事業部>

 

風が吹く、草原が波立つ、草の大地の先に聳える塔の上、一人の幼女が集まる者たちに言葉を向ける。

 

「注目せよ。時は来た、我々マルセル村航空隊はこの日の為に多くの訓練を積んできた。

諸君らの頑張りは誰よりもこのミッシェル・ドラゴンロードが知っている。

諸君らは正しく戦士である、マルセル村の空を守る精鋭である。

顔を上げよ、胸を張れ、ホーンラビット伯爵家の旗の下、我らは一丸となって戦いに臨むのだ」

“コクッ”

ミッシェルの目配せにロバート・ホーンラビットが頷きで応える。

 

「各隊員の装備品を確認する。特殊行動ブレスレットは装着しているか!!」

「「「「「はい、ロバート隊長!!」」」」」

 

「グラスウルフ隊の騎乗用隠密装備の点検を行え!!」

「「「「「はい、ロバート隊長!! “カチャカチャ”問題ありません!!」」」」」

 

“バッ”

「ミッシェル司令官、総員、出撃準備完了いたしました!!」

“““““バッ”””””

右の拳を握り胸に当て、ミッシェルに報告するロバート。その言葉に合わせるようにすべての隊員が拳を胸に当てる。それは決意、必ず使命を果たすという戦士たちの誓い。

 

「敵はすでに視認距離に入った、これより作戦行動を開始する。第一期航空隊、騎乗!!」

“““““バッ”””””

 

「諸君らの健闘を祈る、隠密の外套のフードを被り出撃せよ!!」

「「「「「マルセル村に栄光あれ!!」」」」」

“““““バッ、シュタンッ、シュタンッ、シュタンッ、シュタンッ、シュタンッ、シュタンッ”””””

塔の屋上展望台から五体の魔獣が空に向け走り出す。宙を蹴り、その背に幼子を乗せ、魔獣たちは青空に向け駆け上がる。

 

「第二期航空隊、騎乗!!」

““““““バッ””””””

 

「もう一度言おう、諸君らは正しくマルセル村の戦士である。この短い期間でよくぞここまで訓練をやり抜いた、ミッシェル・ドラゴンロードは諸君らのことを誇りに思う。

気負うことはない、諸君らはこれまで培った力を存分に発揮するのだ」

“バッ”

ミッシェルは隣に控えていたレッサーフェンリルの良狼に跨ると、すぐ脇で翼をはためかせる子ドラゴンのエッガードに言葉を向ける。

 

「行くぞ、エッガード。皆の守りは任せる」

“クルワッ♪”

嬉しげに声を上げるエッガード、そこには互いに結ばれた強い絆が感じられる。

 

「総員、隠密の外套のフードを被れ!! 第二期航空隊、出撃する!!」

「「「「「「マルセル村に栄光あれ!!」」」」」」

“““““““バッ、シュタンッ、シュタンッ、シュタンッ、シュタンッ、シュタンッ、シュタンッ”””””””

 

屋上展望台から七体の魔獣と一体の子ドラゴンが空に向け走り出す。青く澄み渡った空を駆ける彼らの姿に、展望台に集まった村人たちから声援と拍手が送られる。

広大な草原を貫く街道の先からは、マルセル村に向かい進軍してくる魔王討伐隊八万七千の姿。戦いの時は刻一刻と迫る、村人たちは各々の思いを胸に戦場となる草原を見つめる。

 

「さてと、それじゃ俺もそろそろ舞台に向かうとするか」

「お父さん、頑張ってね。僕、お父さんのことを応援してるよ」

カシムは子供たちの頭をクシャクシャと撫でると、妻に子供たちのことを託し戦場へと足を向ける。

 

「あなた、無理はしないで、無事に帰ってきてください」

「ハハハ、それはちょっと難しいかな、俺はボビー師匠たちとは違ってただの門兵だからな。でもまぁ、やれるだけのことはやってくるさ、あんなちびっ子たちがマルセル村のために頑張ろうっていうのに大人の俺が泣き言を言ってたら格好悪いからな」

“フッ”

笑みを浮かべ手を振りながら去っていくカシム。妻は愛する夫の身を案じ、去り行く背中に祈り続けるのだった。

 

――――――――――――

 

「前方、ホーンラビット伯爵領マルセル村、目標地点に到着しました。<遠見>のスキルによる監視により村門脇の塔の屋上に複数の人の姿が確認されました。

おそらくは我々魔王討伐軍の訪れに備え建設された建物ではないかと。情報によれば“狡猾の魔王”ケビン・ワイルドウッド男爵は高い建築技術を有し短期間で建物や街道を作り上げる力があるとのこと、塔の脇の闘技場やゴルド村からマルセル村に向かう街道もワイルドウッド男爵の手によるものとのことであります」

魔王討伐軍がホーンラビット伯爵領に到着してまず驚いたことは、辺境の地にはありえないほどの均一さを以って整備された石畳の街道であった。エルセルの街からゴルド村に至るまでの街道も素晴らしく整備された街道であったが、ホーンラビット伯爵領の街道は各国の王都を含めこれまで見たどの街道よりも美しく丈夫な物であった。

 

「分かりました、では塔を中心に陣形を構築しましょう。城攻めの形になりますが周辺にどのような罠が仕掛けられているのか分かりません、斥候部隊を先行させ、爆薬等の設置がないか確認してください。

オーランド王国で起きた一年戦争ではバルカン帝国から持ち込まれた爆薬により数万の将兵が命を落としています。数に絶対的な戦力差のあるホーンラビット伯爵家がそうした兵器を導入しないとは考えにくい。

斥候部隊には塔の上からの石火矢による攻撃にも十分注意を払うように通達を」

「畏まりました、勇者グロリアス」

 

ボルグ教国聖教会から齎された魔王発生の発表、ナミビア王国の王宮からの呼び出しにより登城した自分たちに告げられた言葉は、オーランド王国での魔王発生の知らせと魔王討伐軍への参加打診。

これまでナミビア王国の勇者として様々な地域に赴き多くの敵と戦ってきた、パーティーメンバーと共に力を合わせ、知恵を出し合い、そしてついに魔王との戦いという勇者としての真価が試される時がやってきた。

自分は浮かれていたのだろう、魔王と戦うという勇者として最も輝ける舞台を用意されたことで、舞い上がっていたのだろう。

その裏にある人間の本質、歴史に埋もれた真実に目を向けることなく、ただ勇者であること、求められる戦いに赴くことこそが正しいと思い込んでいた。

 

バニアは知っていた、疑問を抱き、情報を集め、真実に辿り着いていた。セレーナは視線を落とした、教会の中枢ともかかわりあいのある彼女は、人には言えない多くの秘密を抱えていたのだろう。その上で俺やパーティーメンバーがそうした人の悪意に害されぬよう立ち回っていた、私はそんなこと少しも考えることなくただ自分の正しさを、理想の勇者像を追い求めていた。

 

「サルーン騎士団長、まず我々勇者パーティーが先行します。塔にいるであろうホーンラビット伯爵に呼び掛けを行いたい、戦いの意思を確認し、投降の呼び掛けを行うことを許していただきたい」

「それは危険です、ホーンラビット伯爵家が我々に対し決して屈するつもりがないことはあの塔を見れば明らかだ!!」

サルーン騎士団長の言葉は正しい、だがこのまま流れに任せて戦いに臨むことは自身の中に大きな迷いを生むことになる。

バニアは言った、「お前の罪は私も一緒に背負ってやる」と。セレーナは言った、「私も一緒ですよグロリアス」と。コーネリアが、オルガノが、呆れた表情を浮かべながら共に進んでくれると約束してくれた。

私たちは引き返せないところに来ている。私がナミビア王国の王宮で考えなしに選んだ道、すべてはそこから始まっている。

 

「すまない、だがこれは必要なことなんだ。我々勇者パーティーは人類の正義を貫く勇者ではなく、一人の戦士として戦いに赴く必要がある。

この戦いに正義を掲げてはいけない、これは互いの主張のぶつかり合い、譲れぬものがある者同士が剣を向け合う、そういう戦いなのだから」

サルーン騎士団長の視線が私を捉える。沈黙が場を支配し、緊張が流れる。

 

「分かりました、ですが勇者グロリアスの守りには我々騎士団の者が付きます。騎士団には多くの聖騎士がいる、彼らは守ることにかけては一流の者たちですから。これが私にできる最大限の譲歩です」

ボルグ教国としては三種の神器を持つ勇者パーティーに寝返られるわけにはいかない、パーティーメンバーを人質にとることで私が反旗を翻すことを防ぐ、そういうことなのだろう。

 

「サルーン騎士団長の心遣い、感謝する。パーティーメンバーのことをよろしく頼む」

魔王討伐軍を纏める者として、ボルグ教国の代表として間違いなく出してはいけない許可を出してくれたサルーン騎士団長に礼を言い、その場を離れる。

私は向かい合わなければいけない、魔王討伐軍を率いる者としてホーンラビット伯爵領の者たちに。決して忘れてはならない誇りある戦士たちの姿をその目に焼き付ける為に。

 

――――――――――――

 

彼らは遂にやってきた。遥か遠くボルグ王国の大聖堂から、遠征の中で数を増やし辿り着いた魔王討伐軍の数およそ八万七千。

それはマルセル村の村門脇に建てられた展望塔の前に陣形を築き、今にも牙を突き立てんと剣を抜く。

 

「壮観だな。長く待った甲斐があるというものだ」

「うむ、まさにの。この日の為に儂らも収穫作業に精を出しておったからの。しばらくはケビンのところの白騎士が代わってくれるとはいえ、あまり畑の手入れをさぼる訳にはいかん。この祭り、十二分に楽しんで秋の収穫に備えねばの」

鬼神ヘンリーと剣鬼ボビーは目の前に広がる尽きることのない敵の訪れに、子供のように目を輝かせる。

 

「二人とも、いきなり大技を使ったら駄目ですからね。始めは魔力纏と覇気の併用、威力は落とし気味でお願いします。王都の王宮騎士団の時みたいに覇気だけで全滅なんてことになったら目も当てられないんですから、せっかくのお客さんです、最後まで戦いを堪能してもらわないといけないんですからね」

俺はそんな暴走寸前の二人に声を掛け自重を促す。二人の騎馬の黒龍号とシルバーが、“任せておけ”と嘶きを見せる。

イヤイヤイヤ、お前ら突っ込む気満々だろう、自重しろ、自重。

 

「ホーンラビット伯爵閣下、誰かがこちらに来ます。あれは肖像画にあった光の勇者グロリアス・ブリッジですね」

ギースさんの声に、その場の者全員の視線が軍勢から飛び出した数名の騎馬隊に向けられる。

 

「突然の声掛け失礼する。私の名はグロリアス・ブリッジ、魔王討伐軍の全権を任された者である。塔におられるドレイク・ホーンラビット伯爵閣下に申し上げたき事があり参った、伝言を頼まれたし。

我らの目的は“狡猾の魔王”ケビン・ワイルドウッド男爵の捕縛と聖地“祝福されし礼拝堂”の確保である。ホーンラビット伯爵領の者たちの命を奪うことを目的としているわけではない。投降し、我らの管理下に入られることを切に望む。ホーンラビット伯爵家の者たち並びに領民の身の安全はグロリアス・ブリッジの名において保証すると誓うものである。

ドレイク・ホーンラビット伯爵閣下の賢明な判断を期待する」

それは投降の勧告、光の勇者グロリアス・ブリッジの最後の良心。

 

「勇者グロリアス・ブリッジ殿にお聞きする。この戦いはいったい何の為に行われるものであるのか。ケビン・ワイルドウッド男爵は我がホーンラビット伯爵家の大切な家臣である。ホーンラビット伯爵領の民であり、我が娘パトリシアの夫である。

勇者グロリアス・ブリッジ殿にホーンラビット伯爵家当主ドレイク・ホーンラビットの名においてお聞きする、返答はいかに!!」

それはホーンラビット伯爵領の領主として、家族を守る家長としての言葉。皆の中から前に馬を進めたドレイク・ホーンラビット伯爵閣下は、まっすぐな瞳で勇者グロリアス・ブリッジに問い掛ける。

 

「・・・この戦いは、ボルグ教国聖教会による侵略戦争である。私グロリアス・ブリッジは侵略軍の指揮を任された者として、戦いを最小限の被害で済ませる為に交渉に赴いた。

ホーンラビット伯爵領の人々の命を預かる領主ドレイク・ホーンラビット伯爵閣下に申し上げる、投降勧告を受け入れられたし!!」

それは一人の人間として、戦士として戦いに赴いた者の覚悟の言葉。己は正義などではない、自身を侵略者であると認め、尚も相手を思う心からの訴え。

 

「・・・グロリアス・ブリッジ殿、そう自身を貶めなさるな。他領の利益を狙い攻め入るは貴族間ではよくあること、そうして滅びた家など数えることもばからしい。

領地にしろ、国にしろ、常に外敵に備え兵を置くは、そうしたことが人の世の習いであるからに他ならない。

顔を上げよ、グロリアス殿。我らは相容れぬ立場なれど共に兵を率いる者同士、ホーンラビット伯爵家の意地、その目に刻まれよ。

皆の者、剣を掲げよ、敵総大将、グロリアス・ブリッジ殿をお送りするのだ。抜剣!!“バッ” 掲げよ、剣!!“ザッ”」

それは騎士が敵に対し向ける最高の礼儀、敵を尊重し、それでもなお戦いに臨む戦士たちの高き誇り。

 

「・・・ドレイク・ホーンラビット伯爵閣下に申し上げる。貴殿を、ホーンラビット伯爵家の者たちを、ホーンラビット伯爵領の領民を、そして誇り高きホーンラビット伯爵家騎士団の者たちを、私は生涯忘れぬと誓おう。

さらば、誇り高き戦士たちよ、グロリアス・ブリッジ、侵略軍の指揮官として全力で挑ませていただく!!」

漢と漢、戦士たちの顔合わせは終わった。

 

「光の勇者グロリアス・ブリッジ、思った以上にいい戦士だったの」

「あぁ、先が楽しみな若者だ。この戦いに折れずに立ち向かうことができたら、いい線まで行くんじゃないのか? ぜひ頑張ってほしいものだ」(ニチャ~)

・・・哀れ勇者グロリアス・ブリッジ、あなた様は完全に修羅たちにロックオン(お気に入り登録)されてしまったようでございます。

俺は最高の盛り上がりを演出してくれた光の勇者様の今後を思い、自陣へと戻られる後ろ姿に、静かに黙祷を捧げるのでした。

 




いってらっしゃい。
by@aozora
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