転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第879話 蛮族の宴 (2)

「これより、ホーンラビット伯爵領の制圧を開始する。降参の意思を示す者は捕縛する、抵抗の意思を示す者は全力で倒す、決して油断するな、一人に対し複数で掛かることを是とせよ。

これは決闘ではない、ましてや己の身を案じての狩りでもない。

剣を掲げよ、誇りを胸に秘めよ、我らは戦士、己のすべてを賭して敵を殲滅せよ。

ボルグ教国聖教会の旗の下に!!」

「「「「「オォォォォ!! 勝利を我らに、世界を平和に導く為に!!」」」」」

 

光の勇者グロリアスの号令の下、魔王討伐軍八万七千の軍勢が一斉に動き出す。それは一つの巨大な生物、地を這うドラゴンがホーンラビット伯爵領マルセル村を呑み込まんと侵攻を開始する。

 

「ホーンラビット伯爵家騎士団よ、我らが目指すはただ一つ、敵総大将グロリアス・ブリッジの首である。数の不利など考えるな、絶対数の違いなど分かり切ったこと、己の信念を刃に載せ、マルセル村の意地を世界に刻み付けよ!!」

「「「「「ホーンラビット伯爵家万歳、我らに勝利を!!」」」」」

マルセル村村門脇の展望塔の前に並んでいたホーンラビット伯爵家騎士団の騎馬が走り出す。目指すは魔王討伐軍の中心、勇者グロリアス・ブリッジの首。

 

「特殊生活魔法<防御城壁>!!」

“ズゴガガガガガガガガガガガガガガガガ”

突如地面からせり上がる巨大な壁、それはまさしく王都を囲う長大な城壁のようにマルセル村全体を覆い隠す。

 

「ハハハハハハ、ケビン、やるではないか。では私も暗黒大陸での成果を見せんとな。<重爆千刃斬撃>」

“ズババババババババババババババババババババババババババババババ”

それは大剣聖クルーガル・ウォーレンが暗黒大陸の個性豊かな魔獣を相手に生み出した技、無数の敵を相手にした際に無類の力を発揮する超絶剣技。

 

「怯むな、我らの防具に武技は利かん。武技とはスキルによる闘技、つまり魔力現象。魔法防御の鎧の前には児戯も同ぜ“ザシュ”グハーー!!」

血を吹き出し崩れていく魔王討伐軍の騎馬隊、ホーンラビット伯爵家騎士団の突進は立ち塞がる壁に突き立てられた槍のように、深く内部に差し込まれていく。

 

「クルーガルのクソ爺!! <覇魔混合>は使うなって言っておいただろうが!!」

「ワッハッハッハッ、ケビンよ、そう固いことを言うな。それにボルグ教国軍の鎧は皆魔法防御が掛かっておる、特に前衛の騎士鎧は魔法攻撃に対する盾の役割も持っている故、最上級魔法でも撃たん限りびくともせんわい。武技も同様、故に各国が恐れる最強の軍隊と言われておるのじゃ。

怯ませるだけならまだしも突進するとなるとの、という訳で<重爆千剣乱舞>!! ワッハッハッハッ、愉快愉快♪」

駆け抜けるホーンラビット伯爵家騎士団の騎馬隊、吹き飛ばされる魔王討伐軍の騎乗騎士たち。想定外の事態に魔王討伐軍に動揺が走る。

 

だが彼らの悪夢はまだ始まりに過ぎなかった。それは戦場となる草原の遥か千五百メート上空、魔獣に跨った空の悪魔たちが更なる悪夢を作り出そうと動き出していた。

 

“バッ、ババッ、バッバッ”

(戦場に於ける事態の進展を確認、これより作戦行動を開始する)

“““““ババッ”””””

(了解!!)

 

「良狼、前進開始。予定位置で旋回」

“ガル”

 

「エッガード、下方からの魔法攻撃に対処、警戒を怠るな」

“キュワ♪”

 

走り出した悪夢、それは純粋が故に残酷、恐れを知らぬ故に凶悪。魔王討伐軍にトラウマとして植え付けられる凶行は、幼き司令官の号令の下、実行に移されるのだった。

 

――――――――

 

「状況報告、敵ホーンラビット伯爵家騎士団、止まりません!!左右からの挟み撃ちもその足を止めること叶わず、被害甚大!!」

それは誰しもが予測し得ない事態であった。敵は五十にも満たない騎兵団、八万七千の魔王討伐軍を相手にするにはあまりにも少数、誤差と呼んでも差し支えのない兵数で挑むなどただの自殺行為。その行いはホーンラビット伯爵家による貴族としての矜持を示す最後の抵抗であると思われていた。

だがそれは全くの誤りであった、彼らは決して諦めてなどいなかった、むしろ正面から八万七千の魔王討伐軍を打ち破る準備を仕込んでいた。

 

「突如現れた長大な城壁、初めからあのようなものが確認されていれば我々の作戦行動は大きく変わっていた。彼らは我々を誘い込む目的で隠し続けていたというのか」

「それだけではありません、針の一刺しの如く穿たれた突進は数の不利を簡単に覆しました。彼らは八万七千の魔王討伐軍を相手にする必要など初めからなかった、彼らの狙いは勇者グロリアス、あなただ。

彼らは我々の全てと戦う必要などない、ただ真っ直ぐ、我らの懐に入り込めばいい。我々は同士討ちを避ける為武技などの大技を使えないのに対し、彼らはやりたい放題だ。我々に彼らを止める術がないという事は既に証明されてしまっている」

それはこれまでの魔王討伐の歴史の中には記されていない未知の戦い、少数で大多数に対抗しうる最適解。

 

「道を開けさせろ、聖騎士を前面に出し彼らの足を止める。その上で私たち勇者パーティーが事に当たろう。彼らの有利は敵陣に潜り込めた一点、その優位性を潰す!!」

「ハッ、直ちに!!」

動き出す将兵、勇者グロリアスは腰の聖剣バルボアに手を添えると大きく息を吐き覚悟を決める。

彼が周りに待機していたパーティーメンバーに目を向け、言葉を掛けようとした、まさにその時であった。

 

“ヒュ~~、ヒュ~~、ヒュ~~、ヒュ~~、ヒュ~~、ヒュ~~、ヒュ~~、ヒュ~~、ヒュ~~、ヒュ~~、ヒュ~~、ヒュ~~、ヒュ~~、ヒュ~~、ヒュ~~、ヒュ~~”

その奇妙な風切り音は、突然空から聞こえてきた。何事かと天を見上げた者たちは、理解の及ばぬ光景に呆気にとられる。それは黒い点、突如空に現れたいくつもの黒い点が、音を鳴らし地面に向け迫ってくる。

 

「不味い、グロリアス、こちらに来るのだ!! 聖杖グランディア、今こそその偉大なる力を示せ、<絶対防御結界>!!」

それは三角錐の巨大な範囲結界、半径二十メート圏内の者たちをあらゆる障害から防ぐ絶対の盾。

 

「バニア、一体何をしているんだ。これでは外の者たちが」

「グロリアス、私たちは大きな勘違いをしていたようだ。彼らは、ホーンラビット伯爵家の者たちは、私たちに最後の意地を見せるなどと言う殊勝な考えなど端からなかったのだよ。彼らの目指したもの、それは魔王討伐軍八万七千の殲滅。目の前の塔も、突如姿を現した城壁も、快進撃を続けるホーンラビット伯爵家騎士団も、ホーンラビット伯爵自身ですら私たちを引き付ける為の手段。

彼らの本命は空から落ちる圧倒的な質量、今はその第一陣に耐え切る事だけを考える時、これほど用意周到な者たちがたった一回でこの悪夢のような攻撃を止めるとは思えない。

“狡猾の魔王”ケビン・ワイルドウッド男爵、彼がこの作戦を考え実行したのだとしたら、彼は文字通り魔王と名乗るにふさわしい人物。真に恐ろしいのは人であるという事なのだろうさ」

そう言い震える身体を両手で抑える大賢者バニアの様子に、ただ事ではないと周囲に目を向ける勇者グロリアス。そしてそれは現実となった。

 

“ドゴーーーーン、ドゴーーーーン、ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ”

激しく波打つ大地、衝撃で真っ直ぐ立っている事も出来ず地面へ吹き飛ばされる自分たち。鳴りやまぬ轟音、激しく舞い上がる土煙により辺りは暗闇に包まれる。

 

「一体何が、何が起きたというんだ!?」

起き上がり、周囲の者たちに声を掛ける勇者グロリアスに大賢者バニアが言葉を向ける。

 

「これは以前私が王宮魔術師団に提案し荒唐無稽と馬鹿にされた作戦だ。<魔纏い>により身体能力を強化した者が魔力障壁を足場に高高度に駆け上がり、上空から大岩を落とせば最上級魔法に匹敵する攻撃力を得られるというもの、要は高い所から岩を落とせばそれだけで恐ろしい武器になるという話だ。

投石器という攻城兵器があるだろう、発想はそれと変わらない、渓谷の上から岩を落とせば大軍の進行も壊滅せしめる事が出来る、遥か古代から続く軍略の一つだ。

そしてこの荒唐無稽とされた作戦を実行しうる条件を、オーランド王国とバルカン帝国は満たした。それがワイバーンに騎乗する技術。

マジックバッグとワイバーンの組み合わせは、これまでの戦争を大きく変える可能性を示してしまった、“狡猾の魔王”はその可能性に全てを懸けた。

方法は分からない、だが敵は確実に空にいる、そして彼らは私の想定よりも遥かに高い位置から投石を行っている。

どれ程の訓練を積めばこれほど正確な投石が行えるのかは分からないが、彼らはそれを実行せしめた。どれ程の兵が生き残っているのかは分からないが、既に魔王討伐軍は瓦解したと見ていいだろう」

 

大賢者バニアの言葉に、この場の者たち全員が言葉なく顔面蒼白となる。それは八万七千の魔王討伐軍が事実上敗北したことを意味していたからであった。

 

「セレーナ、オルガノ、呆けている場合ではないぞ。私たちはこれから撤退戦を始めなければならない、生きてこの地獄を脱出するには上空の悪魔を打ち落とす必要がある。

音がしないという事は第二波に向けて移動しているということ。<遠見>のスキル持ちはいるか、上空の敵を発見してほしい。巨石の出現が合図だ、この結界は既に上空から確認されているとみていい、私たちの命は敵の投石が行われるか否かに掛かっている、必ず発見するのだ!!」

「「ハッ、大賢者バニアの指示に従います」」

 

「セレーナとオルガノは観測手の指示に従い攻撃を行うのだ。セレーナの魔法が届くかどうかは賭けになるが落下する大岩の方向を逸らす事が出来れば上出来だ。私も極大魔法で対抗しよう、聖杖グランディアがあれば空を焼き尽くす事も可能であろう。だが発動まで猶予が欲しい、その間の時間稼ぎを頼みたい」

大賢者バニアの言葉に頷きで応える聖女セレーナと弓聖オルガノ。バニアは勇者グロリアスに目配せをすると、サッと手を上げ結界を取り除く。

 

“ブワッ”

流れ込む土埃、周囲には大岩が散乱し、多くの兵士が血を流し倒れ伏している。

 

「何ていう事を、こんな事が許されるはずない、こんな無慈悲で残酷なまねを女神様がお許しになるはずが・・・」

「落ち着けセレーナ、これが私たちが行おうとしていた事の罪、私たちはホーンラビット伯爵家から全てを奪おうとしたのだ、聖教会がどんなに言葉を飾ろうとその事実に変わりはない。彼らは備え、やり返した、ただそれだけだ。

今私たちに出来ることは嘆くことではない、生き延びるために全力を尽くすこと、未だ自分たちが戦場にいるという事を忘れるな!!」

大賢者バニアの言葉が地獄の戦場に響く、その時上空を監視していた兵士の声が周囲に轟く。

 

「投石を確認、距離、約千五百メート上空。南西の方角、数十二、二十四、三十六、どんどん増えていきます!!」

「セレーナ、オルガノ、頼んだぞ!! “大いなる創造の女神よ、天上世界に居られる神々よ、我が名はバニア・ルーベル、創造の女神の造形物にして神々の子供なり”」

大賢者バニアの詠唱が始まる、聖女セレーナは<ライトランス>を放ち続け、弓聖オルガノは天に向け聖弓アテナを引き絞る。

 

「“我が敵を打ち滅ぼせ、スターダストアロー”」

“バシュッ、ババババババババババババババババババババババババババッ”

聖弓アテナから撃ち放たれた閃光は、無数の星屑の煌めきとなって上空の敵に向かい襲い掛かる。

 

“クルワ~、グォ~~~”

だがその閃光はまるで何かに引き寄せられるように天空に姿を消していく。

 

「クソッ、“我が敵を打ち滅ぼせ、スターダストアロー”」

“バシュッ、ババババババババババババババババババババババババババッ”

放たれた第二射、だがそれもまた同様に上空の遥か彼方に姿を消していく。その間も投石は続き、それは自分たちの目前に迫りつつあった。

 

「バニア!!」

勇者グロリアスの声が響く、大賢者バニアが聖杖グランディアを掲げ、最後の言葉を解き放つ。

 

「“世界の理を以って我が願いを解き放たん、業炎の終末”」

“ドブワーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー”

天を穿つ極大の豪炎、女神の裁きといわんばかりの極大魔法による一撃は降り注ぐ大岩を消し飛ばし、正しくすべての敵を焼き尽くす。

 

“クルルルル~♪ ゲフッ”

だが炎が消え去った空からはまるで何事もなかったかのように大岩が降り注ぎ、大賢者バニアの表情が絶望に染まる。

 

「ハッハッハッハッ、流石は勇者パーティー、中々楽しい花火を見せてくれる」

「これクルーガル、そんな揶揄うような軽口を叩くでない。ミッシェル嬢ちゃんの試練を生き残っただけでも立派なもんじゃろうが。

全くヘンリーのところは一体どんな教育をしておるんじゃ。まさか勇者に辿り着く為の最大の障壁が味方の投石とは思わんかったわい」

戦場にそぐわぬ陽気な声に、その場の者たちの視線が一斉に注がれる。

 

「流石は俺の天使、ミッシェルは可愛さだけでなく司令官としても最高だな」

「イヤイヤイヤ、お父様、ここは将来の為にちょっと物申しておいたほうがいいと思いますよ? ホーンラビット伯爵閣下が腰を抜かしておられましたから、俺が結界を張らなかったら終わってましたからね?

あぁ、どうも、ホーンラビット伯爵家騎士団で~す。いや~、皆さん災難でしたね~、それじゃ“()()()魔王討伐軍侵攻作戦”の最後を飾りましょうか」

それは絶望の終わり、辺境の修羅たちの訪れを告げる言葉なのであった。




いってらっしゃい。
by@aozora
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