転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第880話 蛮族の宴 (3)

“ヒュ~~、ヒュ~~、ヒュ~~、ヒュ~~、ヒュ~~、ヒュ~~、ヒュ~~、ヒュ~~、ヒュ~~、ヒュ~~、ヒュ~~、ヒュ~~、ヒュ~~、ヒュ~~、ヒュ~~、ヒュ~~”

雲一つない青空の下、地上千五百メートから降り注ぐ大岩は大地を穿ち、砂塵を巻き上げ、ホーンラビット伯爵領に集結した総勢八万七千の魔王討伐軍を壊滅寸前にまで追い込んでいた。

 

“グァ、グワッグ、キュワッ”

小型化したレッサーフェンリルの良狼に跨ったマルセル村航空隊司令官ミッシェル・ドラゴンロードは、隣を飛ぶ子ドラゴンのエッガードの呼び掛けに視線を向ける。

 

「そうか、ホーンラビット伯爵家騎士団が勇者パーティーの下に辿り着いたか。分かった、ケビンには“マルセル村航空隊は敵の殲滅行動に移行する”と伝えてくれ」

“グワッ!!”

ミッシェル司令官の言葉に“任せろ!!”と答えるエッガード。

 

「良狼、前方五百メートに<音玉>を放て」

“ガルッ、パシューーーーッ、ドンッ”

 

上空千五百メートに響く炸裂音、マルセル村航空隊の各機から落とされていた投石が止まり、全機が空中に待機し視線を司令官であるミッシェルに向ける。

 

“バッバババッ、バッバッバッ、バババッ、バッバッ”

(これより敵殲滅行動に移行する。第一期航空隊は予定通りマルセル村方面からの絨毯爆撃を開始せよ、第二期航空隊は私に続け)

 

“““““““““““ババッ、バッ”””””””””””

(了解、作戦行動に入ります)

走り出した悪魔たち、彼らは純粋に、無邪気に、敵の息の根を止めていく。

 

“ババッバッ、バッバッ”

(高度八百メートまで降下、絨毯爆撃を開始せよ!!)

 

““““““ババッ””””””

(マルセル村万歳!!)

 

“シューーーー、シュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパッ”

それは魔法、それぞれの騎乗するレッサーフェンリルたちが作り出す風属性魔力による魔力球。作り出された魔力球は不意に降り始めたにわか雨のように、青空の下、地上の戦場に向け降り注ぐ。

 

“ドサドサドサドサドサドサドサドサドサ”

「うわっ、今度は一体なんだって言うんだ」

戦場に残る生き残りたちは降り注ぐ魔力球に混乱しながらも、身をかがめそれらから自身を守ろうとする。だが恐れていたような被害は起きず、直撃した者でさえ強い衝撃を受けただけでこれといったケガを負わなかったことに当惑する。

その攻撃とも呼べない魔力球の投下は戦場全体に対して行われ、中央部にいる勇者パーティーを取り囲むように徐々に範囲を埋めていく。

 

“バッ、バババッバッ”

(報告いたします、遅行型炸裂魔力球、投下完了しました)

それは第一期航空隊隊長ロバート・ホーンラビットからの報告。ミッシェル司令官は受け取った報告に確認の頷きを向けると、眼下で戦うホーンラビット伯爵家騎士団と勇者パーティーに目を向けてから全機に向け指示を出す。

 

“バッバババッバッバッ、バババッ、バッバッ”

(マルセル村航空隊全隊員に告げる。我々の戦いは終わった、後はホーンラビット伯爵閣下率いるホーンラビット伯爵家騎士団に全てを任せ勝利を祈ることとする。全機、展望台へ帰投する)

 

“““““““““““バッ、ババッ”””””””””””

(了解、マルセル村に勝利を!!)

跳び去っていく悪魔たち、彼らは未だ地上で戦いを繰り広げる戦士たちの勝利を信じ、展望台へと帰っていく。彼らの無事な帰りを待つマルセル村の家族の下へ、テーブルいっぱいに用意された大量のおやつを心行くまで楽しむ為に。

 

―――――――――――

 

時は少し遡る。それはホーンラビット伯爵家騎士団が魔王討伐軍の中枢である勇者パーティーの下に辿り着いてすぐ、ケビン・ワイルドウッド男爵がマルセル村航空隊司令官ミッシェル・ドラゴンロードに投石の終了をお願いした時であった。

 

“ドンッ”

上空から響く破裂音、何事かと空に意識を向ける勇者グロリアスに、ホーンラビット伯爵家騎士団の一人が声を掛ける。

 

「よそ見してると危ないですよ、目の前のおじさんたちは勇者グロリアスと命を懸けた戦いを繰り広げることを夢見て、日々訓練に励んでいた頭のイカレた人たちですから。

普通勇者パーティーが三種の神器を携えて数万の魔王討伐軍と共に攻め込んでくるって聞いたら家財を纏めて逃げ出すと思うんですけどね、この方たちってばもろ手を挙げて大歓迎するって張り切っちゃって、皆さんが無事に到着してくれて本当によかったですよ。

それと今の音は投石の終了を知らせる音ですね。ホーンラビット伯爵家騎士団が勇者の下に到着したら投石を終了するように、予め決めていたんですよ。

折角勇者様方と剣を交えようってのに、空から大岩が降ってきたら戦いに集中できませんからね」

 

その言葉に安堵の表情を浮かべる勇者パーティーのメンバーたち、だがすぐにそれは彼らの望んだものではないと知ることになる。

 

「さてと、それじゃ誰から戦う? 誰もいないようだな、ならば勇者グロリアス殿は私が「ふざけるでない大剣聖、大体お主はホーンラビット伯爵家騎士団の一員ではないであろうが、これはホーンラビット伯爵家とボルグ教国聖教会との戦い、お主は下がっておれ!!」・・・相変わらず理屈っぽいの、そんな事では嫁に逃げられるぞ、偏屈屋ボビー」

肩をブンブン回し前へ出た大剣聖クルーガル・ウォーレンを、ホーンラビット伯爵家騎士団所属ボビー・ソード男爵が諫める。

 

「そうだな、ここは一つ俺が腕試しと「何を言うか、戦場での力試しは老い先短い老兵の仕事じゃて。ホーンラビット伯爵家騎士団の守護神、鬼神ヘンリー殿は儂の戦いを見て勝利の為の戦略を練っていただきたい」・・・それってズルくないか?」

ここは地獄の戦場、多くの将兵が無数の大岩の落下により命を落とした殺戮の中心部。そんな中でやいのやいのと口にし順番の取り合いをするホーンラビット伯爵家騎士団の姿に呆気にとられる勇者グロリアス。

 

「御三方とも、いい加減にしてください。ここは戦場なんですよ、緊張感を忘れないように。それに誰が一番に勇者に挑むのかは昨夜くじ引きで決めたでしょうが、今更変更はなしです、勇者と剣を合わせたいと思っているのは御三方だけではないんですからね?」

そんな混沌とした現場を収めた者、それはホーンラビット伯爵家当主ドレイク・ホーンラビット伯爵であった。

 

「それでは最初はグルゴから「お待ちいただきたい、ドレイク・ホーンラビット伯爵閣下。その勝負をお受けする前に、お願いがございます。私のことはいい、だが仲間たちは、生き残った者たちはどうかお見逃しいただきたい!!」・・・」

腰から鞘を外し、聖剣バルボアを前に捧げ、土下座の姿勢で仲間たちの助命を願い出る勇者グロリアス。それは敗軍の将としての、命を差し出した最後の願い。

 

「・・・そうですね、ではこうしましょう。これから我がホーンラビット伯爵家側から一人づつ勇者グロリアスに戦いを挑みます。勇者グロリアスはその者たち全員に勝利してください。

特別に聖女セレーナによる治療を認めましょう、戦いの最中であっても後方支援してあげてください。こちら側はそうした支援を行わない事を誓いましょう。

ただし、制限時間があります。空をご覧ください、先程から何かが降っていることが分かりますか? あれは風属性魔力による魔力球、遅行型の強力なウインドボールと考えてもらえればいいでしょうか。一度爆裂が始まってしまえばもう誰にも止める事は出来ません。

こちら側からはそうですね、グルゴは決定としてヘンリーとボビー、ジェイクとジミー、それと「わたしも、ぜひ私もお願いしたい、出来ればグルゴの次で!!」・・・大剣聖クルーガル殿ですか。これは一応ホーンラビット伯爵家の戦いなのですが」

ホーンラビット伯爵が腕を組み難しい顔をした時であった。

 

「大剣聖クルーガル・ウォーレン、何故あなたがこの戦場にいるのです。あなたは国と国との戦いに参加していい立場ではない、しかも今回は魔王討伐戦だ、そのような場において魔王側とされるホーンラビット伯爵家の者と共に剣を抜くなど、あなたはご自分の立場を理解しておいでか!!」

声を挙げたのは勇者パーティー剣聖コーネリア・マーベルであった。

 

「ふむ、どこかで見たことがあるような。よく思い出せんが先程の問いに答えよう。先ずこの戦いは国と国との戦いではない、オーランド王国の一部地域であるホーンラビット伯爵領が一方的な侵略に遭い防衛の為に剣を取ったというもの、オーランド王国国王ゾルバ・グラン・オーランドは一貫して内政干渉であると主張しボルグ教国聖教会の魔王討伐軍派兵を非難している。だが国として軍を差し向けていない以上、取り決めにある国家間争いには当たらない。また大剣聖として他国に攻め入る行為を禁止する事項にも該当しないことは明白であるな、攻めてきたのはそちらなのだから。

次に大剣聖の立場として魔王とされる者たちと肩を並べる事の是非であるが、全く問題ないと答えよう。“狡猾の魔王”ケビン・ワイルドウッド男爵、奴を倒すのは私だ!! 私は“狡猾の魔王”に与して戦っているのではない、ホーンラビット伯爵領を占拠せんと押し寄せた盗賊どもを討伐しているに過ぎない。

反論があるのなら聞こう、だがその前に自身の行いを振り返った方がよいぞ? “貴族とは品の良い盗賊である”、これは昔なじみの司祭長の言葉だが、貴様らの行いと盗賊どもの行い、違いがあるとすれば耳心地の良い言葉で着飾っているのか己の欲望を前面に出しているのかの違いでしかないという事が分かっているのか?」

 

大剣聖クルーガルの言葉に何か言いたげな表情をしながらも、悔しげに口を噤む剣聖コーネリア。

 

「コーネリア、いいんだ。俺たちに正義など無い事は既に「コーネリア? もしかしてお主コーネリア・マーベルか? 大きくなったな~、最後に会ったのはお主が四歳の頃であるか、いや~、懐かしい、母は息災であるか?」・・・」

勇者グロリアスの言葉を遮り親しげに声を掛ける大剣聖クルーガルに周囲の者たちが呆気にとられる。

 

「大剣聖、お主あの娘の知り合いか? 確か勇者パーティーの一人であったと思うのだが」

「うむ、知り合いというか、娘だな。あの者の母に頼まれてな、ナミビア王国滞在中に子を儲けた。お主も知っておると思うが、職業というものは親の血に強く影響される、故に私の血を求める貴族家というものは結構多い。私とてなんでもかんでもとはいかんが、あの者の母とは惹かれるものがあったのでな」

大剣聖クルーガル・ウォーレンの清々しいまでの種馬発言に、ドン引きするホーンラビット伯爵家騎士団の面々。

 

「でもそうか、あの幼子が勇者パーティーの一員として剣を振るようになったか。子供の成長は早いというが感慨深いものがある。

光の勇者グロリアス・ブリッジ殿、そして勇者パーティーのパーティーメンバーの方々、娘が世話になっている、礼を申す」

そう言い深々と頭を下げる大剣聖クルーガルの姿に、慌てて頭を下げる勇者パーティーの面々。

 

「ふむ、では一つコーネリアの成長を肌で感じるとしよう。剣を構えよ、目の前にいる者は一時代を築いた剣の名手大剣聖クルーガル・ウォーレン、生半可な覚悟では一瞬にして死ぬぞ?」

“ゴウンッ”

立ち昇る覇気、それはその場の者全員を呑み込み一瞬にしてこの場が地獄の戦場であることを思い出させる。

 

「では私も参りますか。胸をお借りします、勇者グロリアス。<覇魔混合>」

“ドワッ”

噴き上がる強大な力、そのような存在が二人して剣を構え、勇者パーティーを襲う。

 

「クッ、コーネリア、剣を抜け!! ここは戦場、まだ戦いは終わっていない!!」

「ウッ、大剣聖クルーガル・ウォーレン、もっと違う形で再会したかった。秘剣<湖面の月>」

湖面に映り込む美しき月、だがその本体である月は遥か天上の手の届かぬ場所にある。目に映るものが、必ずしも真実であるとは限らない。だが・・・。

 

“ザシュ”

「ふむ、悪くない。幻影に気配を移し真の一撃を光に隠す、才能に驕らず研鑽を積み続けた者が至る一つの到達点、卓越した魔力操作と気配操作、それを上回る剣技。

コーネリアの剣、堪能させてもらった。また戦おう、お主は見所がある、そう易々と折れるでないぞ?」

掛けられた大剣聖クルーガル・ウォーレンの言葉、ゾワリとする冷たさが身体の芯を走り抜ける。自身の死を確信し、最後の気力で言葉を紡ぐ。

 

「グロリアス・・・生きて・・・」

“ドサッ”

倒れ伏す身体、草の大地にコーネリアの血が広がっていく。

 

「コーネリア!! クソッ、「これは俺が“理不尽”に挑む為に考案した技だ、堪能してくれ。<時の狭間>」な・・・」

それはスキル<クロックアップ>より思考速度を極限にまで高めた者が辿り着いた極地、<覇魔混合>により肉体の限界を遥かに超えた動きを可能とした者は、刹那の時を駆け抜ける。

 

“スーーーッ、カチャ”

「体感にして十秒、これが今の限界だ。勇者グロリアス殿、貴殿の持つ聖剣バルボアは確かに強力な武器なのだろう。だがその剣も振るうことができなければただの置物と変わらない。更なる高みを目指されよ」

“ドサドサドサドサ”

切り刻まれ、肉塊と化した勇者、その光景にただ茫然とする勇者パーティーメンバー。

 

“ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド”

鳴り響く轟音、何が起きたのか、いったい自分たちはどうなってしまうのか。

 

「残念でした、時間切れです。ボビー師匠、ジェイク君、ジミー、この場の皆さんを次の会場に送ってあげてください。

皆さん、これは戦争です、ただし、何度でも繰り返される真剣勝負でもあります。次は魔法と遠距離武技による攻防戦、皆様のご活躍をお祈りしております」

“ザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュ”

暗転する視界、倒れ伏した兵士の耳に届く「第一回魔王討伐軍侵攻作戦、終了で~す」という陽気な声、我々は一体何に戦いを挑んでしまったのか。

魔王討伐軍八万七千の敗北、それは歴史上稀に見る全滅という形で幕を下ろすのだ「ケビン、これで終わりじゃないだろうな? ちゃんと俺の番もあるんだよな?」・・・。

狙われた土地、ホーンラビット伯爵領。ホーンラビット伯爵家騎士団の次なる戦いは、目前に迫っているのであった。

 




いってらっしゃい。
by@aozora
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