転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第881話 蛮族の宴 (4)

『マルセル村バトルフィールドをご利用のお客様に申し上げます。只今登録名“魔王討伐軍”の全滅が確認されました。これにより登録名“マルセル村を守り隊”の勝利が確定したことをお知らせいたします。

戦闘状態を解除し、展望塔にお戻りください。これよりフィールドの回復作業に入ります。

繰り返します。戦闘状態を解除し、展望塔にお戻りください。これよりフィールドの回復作業に入ります』

 

そこは激しい戦闘が行われた戦場、草原の草花は無残に潰され、飛び散った肉片や大量の血液、八万七千名にも及ぶ将兵の死骸から立ち昇る血煙が、錆び付いた鉄のような鼻に付く臭いを周囲一帯に充満させる。

 

“プワァーーーーーーーーーッ”

そんな戦場が眩い光に包まれる。倒れる兵士たちの死体が、軍馬の亡骸が、教会関係者を乗せた馬車が、剣が、盾が、鎧が天空から落下し万の軍勢を死に追いやった巨大な大岩までもがその神秘的な光に包まれ姿を消していく。

美しくも物悲しい光が消えた時、そこは初めから何事も無かったような広大な草原が広がり、吹き抜ける風が波打つ緑の大海原を作り出す。

 

「どうしたジェイク、行くぞ?」

「すまんジミー、なんかさっきの勇者グロリアスの姿が他人事に思えなくて少し考え込んでいた。俺馬鹿だからさ、ケビンお兄ちゃんやマルセル村の大人たちがいなかったら、勇者グロリアスみたいに誰かの思惑に踊らされて気が付かないうちに侵略戦争の片棒を担がされちゃってたんじゃないかと思うとちょっとな」

吹き抜ける夏の風がジェイクの髪を撫でる。同じ勇者という職業を女神様より授かった者として、勇者グロリアスの姿は青年ジェイクの心に色濃く影を落とす。

 

「大丈夫だよジェイク君、ジェイク君にはエミリーが付いてる、ジミーが付いてる、フィリーやディア、クルンさんだって付いてる。ジェイク君は一人なんかじゃない、変に抱え込んで思い悩むくらいなら私たちに相談して? 困ったことはエミリーにお任せだよ」

そんなジェイクを励ますように、エミリーが、ジミーが、フィリーが、ディアが、パーティーの仲間たちが笑顔を向ける。

 

「そうだな、ありがとうエミリー。みんなもありがとう、頼りないリーダーだけどこれからもよろしく。それじゃ戻ろうか、マルセル村のみんなが待ってる」

“ちびっ子たちが大岩を降らせてきた時、馬をケビンお兄ちゃんの結界に置いてきちゃったしね”と言って笑顔を向けるジェイクに、“流石にあの時は焦った”と言って頷きを返すパーティーメンバーたち。

剣鬼ボビーが、鬼神ヘンリーが、マルセル村の大人たちが若者たちに声を掛ける。

マルセル村に迫った魔王討伐軍との戦いは彼らの勝利で幕を閉じた。だがそれは、これから続く長い戦いの始まりに過ぎない。勇者グロリアス率いる魔王討伐軍、彼らとの長く苦しい戦いはまだ始まったばかりなのだから。

 

「ケビンお兄ちゃん、またくだらないこと考えてない? 頭の中で変な場面描写とか付けて悦に浸ってたでしょう」

「ん? そんな事ないよ? ちょっとさっきの戦いを振り返っていただけ。

でも勇者グロリアスとグルゴさんの戦いがな~。あの調子だと魔王討伐軍との全体の戦いが勇者グロリアスと戦う為のおまけというか、雑な戦い方になっちゃうんじゃないかと思って。少なくとも一回の戦いで三~四人との対戦を熟してもらわないと不満が噴出しちゃうんじゃないかと思ってね。

うちにも勇者と戦う事に並々ならない思いを抱えてる従業員が何人かいてさ、月影は絶対に殺すって言ってるし、月白は聖剣バルボアの絵を見た途端粉々に砕くって言いだすし(アイツ記憶ないはずなんだけどな)、ブー太郎の相棒聖霊剣グランゾートは“格の違いを思い知らせる”って息巻いてるんだよ。

ジミーだって全力で戦いたいって言ってただろう? あ、封印解除はなしね、勇者のハーレムパーティーが崩壊したら余計面倒くさい話になるから。まぁそんなんでどうしたらいいのかなと思って」

ジミーが相変わらず鋭い、お陰でさりげなく話を誤魔化す技術だけが上手くなってしまった。コツは話題の中に相手の気にしているであろうことを盛り込むこと、実際修羅たちにとって勇者グロリアスとの対戦は重要なことだから、下手に絡むよりしっかり考え込んじゃうっていうね。

 

次は魔法や遠距離戦を中心とした戦いだけど、勇者様には頑張って鬼神ヘンリーと剣鬼ボビーの二人を納得させていただきたい。でもあの二人って強いからな~。

グルゴさんの見せた<時の狭間>って技なんてほとんど<プチ天想顕現>だったし、あんなの気が付いた時には切り刻まれた後じゃん。マルセル村の修羅がどんどん手の付けようのない状態になってきているんですけど?

皆さん“打倒理不尽”って言いながら真剣向けてくるんだよな~、木刀だって覇気と魔力を纏わせてくるから真剣と変わらないんだけどね。

 

俺はジミーからの訝しみの視線を“どうした? 早く戻るぞ?”といった感じの行動で誤魔化しつつ、ホーンラビット伯爵家騎士団の皆さんと共に展望塔へと戻っていくのでした。

 

―――――――――――

 

「お父さん、お母さん、お帰りなさい!! お父さん、勇者様を倒しちゃうなんてすごいよ、僕たちびっくりしちゃった」

「うん、本当に凄かった、お父さん最強!!」

妻ガブリエラと共に戦場であった草原から戻ったグルゴ・ナイト男爵は、姿を見た途端走り寄り飛びつく我が子に頬を緩ませる。

 

「ランディーとポールも凄かったじゃないか、今回の戦いの主役は間違いなくマルセル村飛行隊のお前たちだったよ。

次は魔法や遠距離を中心とした戦いになるからお父さんたちは地味な役回りになるけど、それでもランディーやポールに誇れるような働きをしてくるからな? 第二回魔王討伐軍侵攻作戦が始まるまで猶予がある、それまでお父さんとお母さんにランディーとポールの話を聞かせてくれるか?」

戦場から無事に戻って来た戦士たちを笑顔で迎える村の者たち。ある者は笑顔を向け、ある者は涙を流し、戦士たちの帰還を心から祝福する。

 

「皆さん、料理の方は十分に用意してありますが、あまり羽目を外し過ぎないでくださいね。第二回魔王討伐軍侵攻作戦はおよそ一時間後に開始されます、それまでに各自準備を済ませ持ち場に就いてください。投石用の石は展望塔で入り口脇に積み上げてありますので、各自忘れずに回収していってください。

これは魔法職やそうでない者たち全員に言える事ですが、魔力枯渇で動けないといった事は単なる言い訳です。人は魔力が尽きても動き続ける事が出来ることは既に証明されています、どれ程辛くとも生きることを諦めてはいけない、ここが戦場だという事を忘れないでください」

ケビン・ワイルドウッド男爵が再会を喜ぶ村人たちに呼び掛ける。ここは戦場、戦いはまだ始まったばかり、これまで積み上げた研鑽が残酷なまでの現実の前に試される。

 

「シルビー、イザベル、無理だけはするでないぞ? 二人にとってはどうという事でもないであろうが、二人が傷付くことは儂にとって自身が傷付けられることよりも辛い事なのじゃ」

「フフフッ、ボビーは心配性ですね。ケビンもよく言ってますが、お化けは死なないんですよ?」

「そうですよ、お義父様。その心配はフィリーとディアに向けてあげてください。あの子たちもこの戦いでは全力を出してよいと言ってありますので」

心配げな表情で二人の美女を見つめる老人、ボビー・ソード男爵は妻シルビアと義娘イザベルが戦場へ立つことに己の心の内を吐露する。二人が優れた賢者であることも並大抵なことでは害されることがない事も知っている、だが心配が先に立ってしまうのはそれだけ二人の存在が大きく、自身が年を取ってしまった証拠であろうと苦笑する。

 

「あの二人にはジェイクとエミリー、何よりジミーが付いておるからな。ジミーはこれまで出会ってきたどの弟子よりも優れておる、儂のことなんぞ疾に追い越しておるわい。

あ奴らは大丈夫、この戦いはあ奴らにとって大きな財産となろうて」

「そうですね、皆立派になって。王都学園に向かったことは皆にとって無駄ではなかったのかもしれません。私は王都で見続けた人の醜さや煩わしさに嫌気がさして大森林に引き籠ってしまいましたが、世界に旅立とうという若者たちにとっては寧ろ人というものの本質を知る事の方が大切であったのやもしれない。

人を愛し、慈しみ、苦しみ、羨み、嫉妬の炎を燃やす。傲慢さも謙虚さも人の側面、遠ざけ見せぬようにするよりも矛盾し様々な顔を持つものが人であるという事を教えるべきであった。

ボビーを含めこの村の人々は優しすぎる、反面教師には向きませんから」

離れた場所で集まり真剣な顔で議論を交わす若者たちを、眩しい物でも見るように目を細め微笑みを向けるシルビアに倣うように、ボビーとイザベルも笑みを向ける。

 

「ボビー師匠、嫁と義娘に囲まれて楽しんでいるところ悪いが、確り食べる物食べて体力を回復しておいた方がいいぞ? 次の魔王討伐軍侵攻作戦ではボビー師匠も勇者と戦うことになったからな」

そんな彼らに声を掛けてきたのは、巨漢の戦士ヘンリー・ドラゴンロード男爵。ヘンリーはこの後魔王討伐軍が現れるであろう草原に視線を向け、獰猛な笑みを浮かべる。

 

「何じゃヘンリー、次は魔法や投擲による遠距離からの攻撃が主体ではなかったのかの?」

「あぁ、主だった攻撃手段はそうなんだが、先程のように一つの戦で一人しか勇者に挑めないとなると、とてもではないが全員にその機会が回らないということになってな、ケビンがこっそり身代わり人形を使うことにしたらしい。勇者グロリアスには悪いがジェイクやジミーの特訓の時に行った“一矢報いるまで終われま戦”を採用する事にしたそうだ」

ヘンリーからの言葉にドン引きといった表情になるシルビアとイザベル、その横でボビーが愉悦の籠った表情で笑う。

 

「ということは二周目もありということじゃな?」(グワッ)

「当然だろ? なんせ“終われま戦”だからな」(ニチャ~)

ほころぶ笑顔、口を突く笑い、そんな男達の姿に「本当に男の人は幾つになっても子供なんだから」とため息を吐く女たち。宴は続く、晴れ渡る空の下、待ちに待った夏の祭りはまだ始まったばかりなのであった。

 

――――――――――――――

 

それは悪夢、広大な草原に集まった強大な力を持つ魔王討伐軍総勢八万七千、向かうは辺境の小領ホーンラビット伯爵領。生意気にも村前に塔を建て、応戦の構えを見せる愚か者ども。たかだか百にも届かぬ人口の名ばかり辺境伯が、無駄な矜持を見せ滅びの美学とやらの喜劇を演じようとしている、誰の目にもそう映った。

 

“ヒュ~~、ヒュ~~、ヒュ~~、ズドーーーーン、ドゴーーーーン、ドシャーーーーン”

「グワァーーーー、なんだこれは!?」

遥か上空から降り注ぐ大量の巨石、まるで大岩の雨とでも言わんばかりのその光景は、義侠心の下魔王討伐軍に参加した義勇兵たちの煌びやかな外装を打ち破り、その心の内を曝け出すに十分なものであった。

 

「聞いていない、このような話は聞いていないぞ!! 私はこのような場所には“ドゴーーーーン”グワァーーーー!!」

ここは戦場、安全地帯など存在しない絶対的な死地。数に頼み、自らの安全は担保されていると信じて疑わない名誉だけを掠め取ろうとした者たちは、その思惑ごと文字通り大岩によって潰されていった。

だが惨劇は止まることを知らない。

 

“ドサドサドサドサドサドサドサドサドサ”

「グハッ、今度はなんだというのだ。この透明な玉は一体」

空から降り注ぐ無数の球体、身体に当たった瞬間こそ痛みを覚えるも、それが一体何であるのかまでは分からない。大岩の惨劇から辛うじて生き延びた者たちは、傷つき痛む身体を引き摺りながらも、一刻も早くこの地獄から逃げ出そうと蠢き始める。だが・・・。

 

“ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド”

大地が爆ぜ、岩が砕け、人が物が、その場のあらゆるものが止まる事のない爆風の衝撃により粉々に消滅する。人類最強の魔王討伐軍の敗北、自分たちは確定された勝利を手にする勝者であり優れた知恵者、この場は栄光の未来に続く通過点であったはず、小石に躓きすべてを失うなど許されていいはずがない。

受け入れざる結末に神を呪い、この世に憎悪を振り撒く狂気となる、世界を混沌に染める絶対的恐怖の誕生、そうなるはずであった。

 

“クワァーーーーー”

耳の奥に響くビッグクローの鳴き声、見上げれば雲一つない青空に数羽のビッグクローが優雅に羽を広げている。

 

「これは一体どういう事だ・・・」

「クロッカス第三王子殿下、前方をご覧ください!!」

配下の言葉に視線を空から前へと向ける。馬上から見える光景は整然と並ぶボルグ教国の魔王討伐軍騎士とその先に聳えるホーンラビット伯爵家の大きな物見の塔、そして王都の街壁を彷彿とさせるような左右に広がる大街壁。

 

「私は夢でも見せられていたとでもいうのか? だがあの痛みと絶望、死への恐怖は・・・」

クロッカス第三王子が混乱する思考の中、必死に自身に起きた現象を理解しようとしていた時であった。

 

『マルセル村バトルフィールドをご利用のお客様に申し上げます。これより、第二回魔王討伐軍侵攻作戦を開始します。登録名“魔王討伐軍”の皆様、登録名“マルセル村を守り隊”の皆様、臨戦態勢に移行し、存分に戦闘をお楽しみください』

それは広大な草原に広がる何者かの言葉。

 

「・・・幻覚ではなかった? あの地獄が再び始まるとでもいうのか!?」

クロッカス第三王子の呟きは、同様に混乱する義勇兵たちのざわめきの中、埋もれるように掻き消えてしまうのであった。




いってらっしゃい。
by@aozora
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