転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第882話 蛮族の宴 (5)

夏の風が草原の草の香りを運んでくる。雲一つない空の青さが、ここが現実の世界であることを教えてくれる。

周囲を囲む魔王討伐軍総勢八万七千の軍勢、だがその表情はこれから魔王との戦いに挑む戦士といったものではなく、只管に混乱と困惑に包まれている様子が伺える。

だがそんなある種浮足立った彼らを責めることなど誰ができようか、魔王討伐軍の全権を任されている私自身、今の状況に酷く混乱しているのだから。

だが次の瞬間、その混乱は更なる混沌へ叩き落されることとなる。

 

『マルセル村バトルフィールドをご利用のお客様に申し上げます。これより、第二回魔王討伐軍侵攻作戦を開始します。登録名“魔王討伐軍”の皆様、登録名“マルセル村を守り隊”の皆様、臨戦態勢に移行し、存分に戦闘をお楽しみください』

それは音声拡張の魔道具によって発せられた声音のように、広大な草原全体に響き渡る何者かの言葉。“第二回魔王討伐軍侵攻作戦”という言葉に全身が粟立ち、腰に下げた聖剣バルボアを引き抜きたくなる衝動に駆られる。

 

「勇者様、これは・・・」

傍に控えていたサルーン騎士団長が私に問い掛ける。私は険しい表情で空を睨みつけると、記憶にある先ほどまでの戦いを思い返す。

天より注ぐ大量の大岩、避けようのない攻撃になす術なく壊滅した魔王討伐軍。混乱に乗じ攻め込んできたホーンラビット伯爵家騎士団、決闘の末敗れ去った自分。己の技量不足により聖剣バルボアの力を全く発揮することができなかった。

 

「勇者グロリアス、時間がない、聖騎士を敵前面に配置させ、急ぎスキル<キャッスルウォール>を展開させるんだ!! 何枚も重ね防御を厚くすることを忘れるな、その上でキャッスルウォールを頭越しに曲線を描くように物理・魔法による遠距離攻撃を行うんだ。

奴らは私たちを全滅させる前に“次は魔法と遠距離武技による攻防戦を行う”と宣言していった。つまり最初に行われるのは大規模な魔法による遠距離攻撃、下手をすればその攻撃だけで我々の半数の兵が姿を消すことになる。

奴らの強さは骨身に染みただろう、降伏勧告を促されるようなやわな相手じゃない、魔王討伐軍八万七千を相手に戦争を楽しむような狂人の集団、王都バルセンで聞いた辺境の蛮族の噂は誇張なんかではない、寧ろ過小評価、下手な魔王よりも圧倒的に強い化け物集団だ。

呆けている暇はない、もう一度死にたくなければ全力で動け!! 奴らは止まらない、何度でも地獄を作り出すぞ!! 奴らにとって我々は一切の情を与えることなく殺し続けることのできる害悪、自分たちの領地を奪いに来た盗賊そのものなのだからな!!」

 

大賢者バニア・ルーベルの檄が飛ぶ、その言葉は到底許容しがたい悪夢の宣言、だが自身の魂に刻まれた明確な死の記憶が、バニアの言葉が単なる事実でしかないと訴え掛ける。

 

「サルーン騎士団長、聖騎士を前面へ、回復を行える者を補助に付け、<キャッスルウォール>を途絶えさせないように正面の守りを固めるんだ。遠距離攻撃を行える者は<キャッスルウォール>に隠れながら交代で攻撃を行い敵の接近を防ぐこと、大規模魔法をしのげることが確定したら、徐々に距離を詰め敵を潰していく。

こちらの最大の強みは人数だ、敵は総勢でも百に満たない、対してこちらは正規軍だけで五万、この際義勇兵は数に入れない、彼らはあまりに脆弱、この戦いにおいては邪魔でしかない。

 

ここから先は意地と意地のぶつかり合い、ホーンラビット伯爵家騎士団に我らの存在を認めさせる、それ以外にこの地獄から抜け出す道はないと知れ!!」

「「「「「ハッ、勇者グロリアス!!」」」」」

我々魔王討伐軍は一度滅びた、八万七千もの大軍勢が、たった百にも満たない伯爵領とは名ばかりの辺境の騎士団に一人残らず虐殺された。

だが真に恐るべきは彼らの軍略や戦闘能力などではない、一度滅びたはずの八万七千の軍隊を完全な形で復活させたこと、あの敗北の戦闘が、高度な催眠スキルにより見せられた幻覚であったといわれたほうがまだ納得できるようなとんでもない力業。神々の御業と呼ぶべき奇跡を、戦闘を楽しむ為だけに行使する狂気の思考。

我々魔王討伐軍は正しく魔王討伐軍なのであろう、ただし魔王とは我々が思っていたよりも遥かに強大で、人の命を弄ぶ狂気を秘めていた。

いや、それは正確じゃない、我々人間は誰しもが心の闇を秘めている、そして誰しもが魔王になりうる可能性を持っている。

己の戦闘欲求の為に魔王討伐軍八万七千の命を弄ぶホーンラビット伯爵家騎士団も、女神さまの祝福を受けし“祝福されし礼拝堂”欲しさに魔王討伐軍を組織し送り出したボルグ教国聖教会も、魔王討伐という名誉に踊らされ、詳しく調べることもせず他国の辺境の地を目指し領民を虐殺せしめようとしたこの私も、皆が魔王であるのだ。

 

「セレーナ、バニア、コーネリア、オルガノ、前線に移動する。私たちの持つ神器は集団の中に於いては力を発揮することができない。過去勇者パーティーが単独で魔王に挑んだのには意味があった、勇者パーティーの持つ強大な力は敵だけでなく味方をも巻き込む危険性が強いからだ。これはこの力は利点でもあり欠点でもある。

サルーン騎士団長、以降魔王討伐軍の指揮権をサルーン騎士団長にお返しする。我々勇者パーティーはサルーン騎士団長の指揮の下戦闘に参加するものとする。

これからすぐに大規模な魔法戦が開始されることが予測される、最前線に移動することを許可していただきたい」

私が行ったことは指揮権の返還、軍を動かすべきはその専門家であって、そうした意味で素人同然の私が指揮権を握るべきではない。私に求められた魔王討伐軍を過不足なく決戦の地に送り届けるという役割は果たされたのだから。

 

「畏まりました、勇者グロリアスからの指揮権の移譲を受け、今からはこのサルーンが魔王討伐軍の指揮にあたりましょう。

では勇者パーティーはすぐに前線に移動、ただし敵の攻撃の威力が分からない以上、いきなり正面に立つことは危険です。最初は正面左に位置し防御に徹すること、敵の攻撃の流れが摑めたところで反撃に転じてください。その判断は大賢者バニアにお任せします。

この戦、勝ちますよ!!」

そう言い力強い笑顔を向けるサルーン騎士団長に深い礼をし、私たちは前線に向かった。それは魔王対魔王の戦い、互いの欲をぶつけ合う戦争を終わらせる為に。

 

―――――――――

 

『はい、始まりました第二回魔王軍侵攻作戦、現場実況は裏方専門騎士、ケビン・ワイルドウッドがお送りしております。解説は世界の種馬こと大剣聖クルーガル・ウォーレン卿にお願いしております。

ウォーレン卿、先ほどから魔王討伐軍が慌ただしく動いておりますが、あれは一体どういうことでしょうか?』

『うむ、おそらくではあるが聖騎士の職業を持つものを前線に配置し、大規模な魔法の行使に備えようとしておるのであろう。ケビンが第一回魔王討伐軍侵攻作戦の終了の前に、“次は魔法と遠距離武技による攻防戦”と告げていたであろう。

全滅からの蘇りという混乱した状況の中、ケビンから与えられた情報を真摯に受け止め対策に走った者がいた、おそらくは勇者パーティーの大賢者バニア・ルーベルかボルグ教国守護騎士団のサルーン騎士団長であろう。

サルーン騎士団長とはボルグ教国に招かれた際に手合わせをしたことがあるが、実直であるが沈着冷静、柔軟な思考もできる中々に稀有な人物であったよ。あの者が指揮を執るのであれば見どころのある戦いになるのではないかの』

 

ケビンお兄ちゃんと大剣聖クルーガルさんの声が草原に響く。これから始まる魔王討伐軍とホーンラビット伯爵家騎士団及び有志の村人一同による決戦の時が刻一刻と迫ってくる。

 

「・・・ごめんジミー、こんなこと言ったら気を悪くするかもしれないけど、これって一応戦争だよね? ホーンラビット伯爵領が八万七千の魔王討伐軍に蹂躙されるかもしれないっていう絶体絶命の状況だよね?

ケビンお兄ちゃんが完全に遊んでいるように思うのって僕だけじゃないよね? って言うか実況って何、さっきの“第二回魔王討伐軍侵攻作戦を開始します”ってお知らせもアレだけど、実況って」

「あぁ、アレか、おそらくだが魔国で行われた魔都総合武術大会を真似ているんだろうな。あの大会では魔狼族の男性が軽快な実況を行って会場を盛り上げていたしな。解説はジェイクもよく知っている魔王軍のメルルーシェさんが行っていたな。

そう言えばケビンお兄ちゃんが言っていたんだが、メルルーシェさん、魔王軍四天王の一人になったらしい。ゼノビアさんは魔王アブソリュートの王妃になったんだとか、すっかり雲の上の人になってしまったな」

そう言いどこか懐かしむような顔をするジミー、ジミーにとって暗黒大陸での修業は相当大きなものだったのだろう。

 

「<遠見>、<鑑定>、おぉ、流石は大剣聖クルーガルさん、本当に聖騎士が最前線に集まってきている。あれって<キャッスルウォール>で遠距離からの魔法や弓なんかの物理攻撃を防いで、じわじわ前進してくる作戦だよね。ジミー、どうする?」

「<キャッスルウォール>、相手にとって不足なし。俺全力の<投擲>を嘗めるなよ? 絶対撃ち抜いてやる」

そう言い獰猛な笑みを浮かべるジミー。うん、ジミーのメジャーリーガー張りのピッチングフォームから繰り出される<投擲>ってヤバいもんね、俺も頑張ろう。

 

「ねぇジェイク君、今回はその木刀を使うの?」

「あぁ、エミリーの長杖ほどじゃないけど、立派な魔法杖として使えるってケビンお兄ちゃんが言ってたからね。冒険者として旅をすることになったらこの木刀が相棒になるんだし、こういう場合の使い方にも慣れておこうと思って」

それは王都学園入学の時にケビンお兄ちゃんから貰った木刀、大森林の更に先、魔境に生えていた木の枝を使って作ったもので、魔力伝達や魔力増幅に優れたヤバい一品、ただの木刀として使う分には硬くて丈夫で壊れないっていう三拍子そろった一品なんだけど、魔力を纏わせた途端凶悪武器に早変わりしちゃうっていうね。

 

「でもそれだったら世界樹の枝製の木刀が」

「アレは駄目だね、色んな意味で危険だね、俺が自分だけじゃなく周りの人々も守れるようになってからじゃないと怖くて使えないかな? エミリーも気を付けてね」

世界樹の枝製の木刀・・・考えただけでも恐ろしい。そういえば以前村に来た賢者ユージーンのパーティーも世界樹シリーズの武器を渡されていたよな。一応地味塗装をされていたけど、大丈夫なんだろうか? 賢者ユージーンさんたち、強く生きてください。

 

“ブワンッ”

魔王討伐軍の陣営最前線に何枚もの<キャッスルウォール>が展開される。ついに第二回魔王討伐軍侵攻作戦が開始された。

 

“チュドーーーーン”

激しい衝撃音が大気を揺らす、あれはヘンリー師匠の武技<双竜牙>。

 

「それじゃ俺もいくか。<三種混合>、<投擲>、フンッ」

“ピシュンッ、ズバーーーーーン”

・・・レールガンかな? あれって石を投げたんだよね? 投石だよね? <キャッスルウォール>をぶち破って、騎士の集団が吹き飛んだんだけど?

 

「次はエミリーだね」

“バッ”

両手を大きく横に広げ、詠唱を始めるエミリー。

 

「“創造の女神よ、天上世界におられる神々よ、束ねて集まり大地を穿つ極光を顕現せしめよ”」

エミリーの周辺に光属性魔力が集まり、眩い輝きを放ち集束する。

“バッ”

「“極光浄滅砲”」

胸の前に束ねられた両手、花の形に開いた掌を起点として滅殺の光柱が放たれる。

 

“ボゥゥゥ、チュドーーーーン”

「・・・精霊砲じゃん。集束してる分破壊力絶大じゃん。二十メートくらいの幅ですべてが吹き飛んで消えちゃってるんですけど?」

俺の呟きに応えるかのように胸の前でガッツポーズをしながら“頑張りました!!”とアピールするエミリー。というか長杖はどうした、長杖は。

聖女エミリーさん曰く、長杖は打撃武器だそうでございます。(遠い目)

 

“チュドーーーーン、チュドーーーーン、チュドーーーーン、チュドーーーーン”

エミリーの魔法攻撃に触発されたかのように大魔法を連続で打ち込むシルビア師匠。

 

“““““ガァーーーーーーッ”””””

幻影魔法で五体の巨大フェンリルを作り出し突入させるイザベル師匠。討伐軍の陣形が大混乱を起こしている、師匠たちえげつね~。

 

「ジィーーーーーーーーッ」

何かエミリーさんが期待の籠った表情で俺のことを見上げてくるんですけど、わざわざ口で擬音まで添えてくるんですけど。

 

「オホンッ、それでは行かせていただきます」

“バッ”

俺は木刀を両手で摑み、半眼で意識を集中し詠唱を始める。

 

「“大いなる女神よ、我を見守りし神々よ”」

それは祈り、この世界を創りし創造の女神と世界を見守りし(主に俺の腹筋)神々に対する祈りによる呼び掛け。

 

「‟火と土と風と光の魔力よ、集束し、我が思いに応え形を成さん”」

内なる魔力を呼び水とし、世界に漂う魔力を集めより大きな力を作り出す。

 

「‟今ここに顕現せよ、四神降臨”」

魔法は思い、魔法は力、法則に則り世界の魔力を使い形作られた力は、魔法名を付けることで姿をなす。

 

「“掛ける、100”」

“ババババババババババババババババババババババババババババババババババッ”

天に並び,地に集う、火属性・土属性・風属性・光属性の天使たち。

 

「目標、魔王討伐軍およそ八万七千、力の限りやっちゃってください!!」

“シュパンッ、ズバズバズバズバズバズバズバズバ”

光属性の天使が雷光となって敵を殲滅し。

 

“““ブオンッ、チュドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド”””

火属性・土属性・風属性の天使が協力し合い火山弾を作り出し空から敵を殲滅する。

天使の数、全部で四百体。

 

「ねぇジェイク君、天使様の姿がみんなエミリーなんだけど、これってジェイク君の中での天使様がエミリーってことなの? あ、こっちを向いて手を振ってる、ジェイク君、えへへへ♪」

・・・言えない、俺の中での力の象徴、恐怖の象徴が具現化した姿だなんて口が裂けても言えない。俺は笑顔で「ごめんね、恥ずかしかったよね」と答えながらも、この秘密は墓場まで持っていこうと心に誓うのでした。

・・・だからジミーとフィリーとディアは眼鏡をクイッと上げてキランッと光らせない、内緒だからね、内緒、マジでお願いします。

 




いってらっしゃい。
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