転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第883話 蛮族の宴 (6)

“ボゥゥゥ、チュドーーーーン”

一瞬の閃光、視界を焼き尽くすような大魔法が聖騎士の作り出す何重もの<キャッスルウォール>の防壁を崩壊させる。

 

“チュドーーーン、チュドーーーン、チュドーーーン”

巨大な火炎球が、光球が、水球が、とてつもない速度と破壊力を以って残りの<キャッスルウォール>をも破壊していく。

 

「急ぎ穴を埋めろ、次の攻撃が来るぞ!! 魔法弾幕はどうした、呆けている暇はないぞ!!」

周辺を固める騎士団の中から別の聖騎士たちが前に立ち、攻撃魔法によって空けられた隙間を新たな<キャッスルウォール>によって塞いでいく。

 

“ズバンッ、ズバンッ、ズバンッ”

目にも止まらぬ投石により、スキルによって守られているはずの聖騎士が的確に撃ち抜かれていく。上級魔法すら弾き返す聖騎士の防御魔法<キャッスルウォール>がその防御力を上回る魔法と物理攻撃によって呆気なく無力化されていく光景は、これまで自分たちこそが人類を守る盾であり剣であると信じて疑わなかったボルグ教国の騎士たちにとって、心を揺るがすに余りある衝撃であった。

 

“““““ガァーーーーッ”””””

突如現れた巨大なウルフ系魔獣、アレは伝承に謳われるフェンリル!?

おそらくは幻影魔法により作られたであろうその凶獣は<キャッスルウォール>の壁を飛び越え、ボルグ教国守護騎士団を直接襲いに掛かる。

 

「クソッ!!」

「待て、グロリアス、持ち場を離れるな! お前はお前の役割を果たせ、サルーン騎士団長にすべてを任せたのではないのか!!」

焦る心、私は自身の力の無さに歯噛みする。

 

「そ、そんな・・・私たちは、女神様の使徒として、敬虔な信者として仕えてきたはず。天は私たちを断罪すると言うのですか」

それはセレーナの呟き、彼女の視線はホーンラビット伯爵家騎士団の者たちが陣取る長大な街壁の上空に固定化され、ワナワナと身を震わせている。

 

「落ち着けセレーナ、アレは魔法だ。火属性、風属性、光属性によって形作られた紛い物、幻影魔法の一種に他ならない。

その証拠に地上には土属性で作られたであろう天使が残っておるではないか、姿形に惑わされて心を乱すな、ここは戦場だぞ!!」

動揺する多くの者たちに向け、バニアの激が飛ぶ。彼らの心を揺さぶった物、中空に現れた天使たち。大きな翼を広げた美しい天使たちは、光輝き、炎で身を包み、風を纏わせ、まるで天使が属性魔力の力を使い顕現したかのような神々しさを振り撒いている。

 

“シュパンッ、ズバズバズバズバズバズバズバズバ”

光の天使が宙を走った瞬間、守護騎士たちが次々と討ち取られ崩れ伏していく。

 

“““ブオンッ、チュドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド”””

空から降り注ぐ火炎弾、高速で飛ぶそれは質量を伴うかのように、強力な魔法防御が施された全身鎧の騎士を吹き飛ばし、前線を崩壊に導いていく。

 

「セレーナ、<ライトランス>を撃ちまくれ、オルガノは一射に集中した強力な矢を<ライトランス>の影に隠して撃ち込んでいくんだ。

私は豪炎魔法<ボルケーノ>を撃ち込む。グロリアスは炎に隠して聖剣バルボアを叩き込め」

「“大いなる神よ、我が手に集いて眼前の敵を貫け、ライトランス×30”」

“ズババババババババババババババババババババババババババババババンッ”

セレーナのランス魔法が敵陣で炸裂する。

 

「聖弓アテナ、我が願いを聞きその真なる力を示せ、<スターライトシュート>」

“バシュンッ”

オルガノの射撃が、敵の存在を確実に撃ち抜いていく。

 

バニアは聖杖グランディアを構えると意識を集中し詠唱を始める。私は撃ち出される最上級魔法<ボルケーノ>に合わせ聖剣術を撃ち込むべく、聖剣バルボアに意識を集中する。

 

「“大いなる創造の女神よ、大地を作り炎を生み出せし神よ、その御業を持ちて我に仇なす敵を打ち滅ぼせ、ボルケーノ”」

“グゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ”

天を焦がす炎の断崖が長大で巨大な津波となってホーンラビット伯爵家騎士団の者たちを呑み込まんと覆い被さる。

 

「聖剣バルボアよ、その身に宿る力、今こそ解き放て、聖剣術<次元断絶>」

“ズバーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ”

炎の山脈をその根元から切り裂くように、勇者グロリアス・ブリッジとしての全てを賭け、全身全霊の一撃を解き放つ。

 

“ズババババババババババババババババババババババババババババババンッ”

セレーナは引き続き<ライトランス>を撃ち続け。

“バシュンッ、バシュンッ、バシュンッ、バシュンッ”

オルガノが追撃とばかりに<スターライトシュート>を撃ち込んでいく。

俺たちは敗者、大技に酔って勝利を確信できるほど敵は甘くないという事を、己の死を以って経験している。

 

「聖剣術<次元断絶>!!」

その言葉は敵陣営からもたらされた。

 

“ズドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ”

ぶつかり合い、激しい衝撃が<ボルケーノ>の獄炎の断崖を天に向かい吹き飛ばす。

 

「<次元断絶>が相殺された!? 聖剣術は勇者にしか許されない特殊剣技だぞ!!」

バニアの驚き、だが私は瞬時に一つの可能性に行き着く。これまでであれば荒唐無稽と呼ばれるような話であっても、目の前の現実が最も高い可能性として指し示す。

 

「オーランド王国の勇者ジェイク・クロー、彼がこの戦場にいる。聖剣術<次元断絶>を放ったのが彼であるとするのなら何ら不思議じゃない」

「いや、ちょっと待ってくれ。ジェイク・クローは王都で手合わせをしたあの青年だろう、彼にはまだそこまでの力は」

その言葉を否定するようにコーネリアが声を上げる。だが事ここに至ってはあの対戦は自分たちの実力を隠す為の偽りであったと考えるのが妥当だろう。

 

「コーネリア、俺たちの常識を捨てるんだ。俺たちは弱い、八万七千の兵力も世界の希望と謳われた勇者パーティーも、ホーンラビット伯爵家騎士団の前では物の数ではないということは、自分たちの死で学んだはずだ。

考えろ、抗え、諦めず次の一手に繋げる為に。

先程よりも敵の攻撃が弱くなっている、これはオルガノの聖弓アテナが効果を発揮している証拠だ。バニア、次だ、俺たちで敵の目を引き付ける。本命はオルガノだ、コーネリアは敵の接近に気を付けろ、こっちの狙いはすぐにバレるぞ!!」

「「「「はい、グロリアス!!」」」」

自分たちから何かが剥がれて行くのを感じる、これまで積み重ねてきた戦いが、多くの功績が、与えられ続けた栄光と賛辞が、いつの間にか自分たちを縛る枷となっていたことに気が付く。

大切に守り続けてきた信念が、別ものに変わっていたことに今更ながら驚くも、それだけ自身の目も心も曇っていたということなのだろう。

“皆を守る”と誓った思いは、周囲に求められる勇者像を演じる虚像に変わり果て、脅威から人々を救いたいと願った心は、虚栄心へとすり替わっていた。

“よみがえり”、狂人たちの与えた奇跡を終わる事のない苦しみとするのか、それとも今の自身を打ち砕く糧とするのか。

 

「みんな、すまない。これは私の我が儘だ、女神様の下に向かった時、真っ直ぐ前を向いて“悔いのない人生だった”といいたいが為のな」

「クックックッ、悪くないぞグロリアス。お前はこの戦場で急激に男前になったな、私は惚れ直したぞ?」

「ちょっと、バニア、こんな時に抜け駆けはズルいですよ!! グロリアス、私もですよ、私の事を忘れないでくださいね?」

立ち止まらず、共に前に進もうとしてくれる仲間たち。

 

「なぁコーネリア、こいつらこの地獄でいちゃつくとは大した精神力だとは思わないか?」

「そうだな、私も後三回くらい死んだら仲間に入れてもらう事にしよう。それまでにあの種付けクソ爺を何とか叩き切らないといけないからな。悪いが手を貸してくれオルガノ、流石に一人じゃあのクソ爺を始末できない」

諦めず、目標を持って戦いに挑む彼女たちを、頼もしく、そして誇らしく思う。

 

“グガァァァァァァァァァァァァ”

それは天より響く咆哮、見上げれば聖剣術<次元断絶>のぶつかり合いで上空に吹き上げられ消滅したはずの炎が、渦を描き超常の存在へと姿を変えていく。

 

「特殊生活魔法<創龍招来>」

“グルワァァァァァァァァァァァ”

天が落ちる、炎龍の顎が地上の全ての生き物を呑み込まんと襲い掛かる。

 

「あっ、勇者パーティーの皆さんは第二会場へご招待です。いや~、先程の攻撃は素晴らしかった、特に大技に隠れた弓聖オルガノの精密射撃、村の者が何人も犠牲となりました、これって本当に凄い事なんですよ?

そちらと違って我々は少数です、思いのほか脆いということを分からせていただきました。<結界術>、これで炎で焼かれる事はありませんので、広い会場でうちの修羅どもと存分にヤリ合ってください。

それと剣聖コーネリア、私は個人的にあなたを応援しています、クルーガルのクソ爺を絶対にぶっ殺してください、あの爺さんは少し痛い目に遭わないと分からんのです。

では炎が晴れたら再開といたしましょう」

“ドグォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン”

豪炎が大地を揺らす、立っている事もままならない衝撃と共に、世界が炎の海に包まれる。

 

「・・・グロリアス、あの者たちは決して人類が手を出してはいけない本物の厄災であるのだな。この後私たちは何度死に、何度驚きに身を震わせることになるのだろうな」

結界が燃え盛る炎に包まれる中、ポツリと漏れたバニアの呟きが、耳の奥で繰り返される。

“狡猾の魔王”ケビン・ワイルドウッド男爵、ボルグ教国聖教会が彼を魔王と認定したことは間違いではなかったのかもしれない。だがそれは、人類が自ら厄災を表社会に引き摺り出してしまった事に他ならないのではないだろうか。

私は目の前の光景を眺めながら、“人類の終焉とは案外あっけなく訪れるものなのだな”と、小さくため息を吐くのだった。

 

―――――――――――――――

 

“ドグォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン”

天空に渦を巻いていた炎のドラゴンが戦場に落ちる。広がる獄炎が数万という騎士たちを呑み込み、この場を地獄へと変えていく。

 

「クッ、何が魔王討伐軍だ、一方的にやられてばかりではないか。こうしてはいられない、我はこの事実を即座に世界に伝え、如何に魔王が危険な存在であるのかを広く知らしめねばならない」

「そうであるな、このような場所でぐずぐずしていては大事な情報を伝えられなくなってしまう。我はどのような汚名を受けようとかまわない、我に続く次代の勇者の為に少しでも多くの情報を残さねばならない」

魔王討伐軍の一角、義勇兵の先頭を占めていた身分高き者たちは、目の前の光景に戦慄する。()()()()()()()()()()()()は、自分たちの闘志を挫かんとする恐るべき戦術であった。

だが恐怖に打ち勝ち立ち向かった彼らを待っていたものは、魔王の配下による激しい抵抗、繰り出される大魔法の数々は魔王討伐軍の防御を貫き、ボルグ教国の騎士団に多大な被害を与え続けていた。

 

「クロッカス第三王子殿下、いかがなさいますか?」

「クッ、忌々しくもあるが我々はこの現実を受け入れねばなるまい。確かスロバニア王国の第三王子も参戦していたはず、彼の者を助けスロバニア王国にて態勢の立て直しを図るものとしよう。

これは敗走ではない、戦略的撤退である。我々は“狡猾の魔王”の脅威を正しく世界に伝える使命があるのだ、次の魔王討伐軍を形作る中核となり、世界を魔王から取り戻す為に」

 

「「「「「ハッ、クロッカス第三王子殿下の御心のままに。世界を導く為に!!」」」」」

彼らは動き出す、恐るべき“狡猾の魔王”の真実を伝える為に、世界を魔王の脅威から救う為に。

 

“ドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコ”

騎馬の群れが草原を駆ける、それは自らの使命の為に命懸けで真実を伝えようとする戦士たちの姿。そんな彼らに向け、絶望の罠は容赦なく牙を剥く。

 

「お帰りにはまだ早い。<ダークランス×5000>」

“ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド”

天空を埋め尽くす無数の影、正面から迫る闇属性魔法<ダークランス>の襲撃は、三万七千の義勇兵の足を押し止めるに十分な威力と破壊力を発揮する。

 

「ケイト、ケビンから貰った魔法杖の威力は凄まじいですね。それでは私も、“大地を吹き抜ける風は全てを切り裂く旋風へと変わる、風よ、風よ、荒ぶる強風よ、願わくば我が敵を切り裂き我らを守りたもう、嵐風切華《らんふうせっか》”」

“ブォォォォォォォォ、ズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバ”

無数の巨大なウインドカッターが義勇兵たちを襲う、長杖を掲げ超絶魔術を行使するのはハイエルフ、それは人々の罪を嘆く美しき断罪者。

 

「クッ、既に魔王の手の者が待ち構えていたというのか」

馬上のクロッカス第三王子が苦々しげに唇を噛む。そんな彼に遠く敵陣から声が掛けられる。

 

「これはお久し振りでございます、クロッカス第三王子殿下、このような場でお会いできるとは、本当にお懐かしい」

その声はどこかで聞いた事のある女性のもの、クロッカス第三王子は声を向ける者に視線を送り、予期せぬ人物との再会に声を上げる。

 

「その方、まさかパトリシア・ジョルジュ嬢、一年戦争の時三英雄として祭り上げられていたことは知っていたが、その方はグロリア辺境伯領にいたのではなかったのか?」

クロッカス第三王子の言葉に、“この相手は相変わらず何も知らない、自身の思いが全ての御方だ”とため息を吐くパトリシア。

 

「はい、実はあの後縁ありましてホーンラビット伯爵家旗下の男爵家に嫁ぎましたものですから、こうしてここに。お懐かしい殿下に剣を向ける日が来ようとは、人生とは何が起こるのか分かりません」

そう言い柔らかく微笑むパトリシアは、クロッカス第三王子の記憶にあるどの姿よりも美しく。

 

「パトリシアよ、今からでも遅くはない、我が下に参れ。その方には決して悪いようにせぬ事を誓おう」

それは投降の促し、嘗ての友に対する最後の施し。

 

「クロッカス第三王子殿下のお言葉、心より感謝いたします。「では」しかしながら、私には愛する夫がおります、マルセル村での暮らしを捨てクロッカス第三王子殿下の下に向かう訳にはいきません。

それに、我が夫、ケビン・ワイルドウッド男爵様の敵を逃がす訳にも参りません。“大いなる女神よ、我を守護せし大いなる魂よ、我が声に応え我が敵を殲滅せよ、一角兎狂乱祭(ホーンラビットカーニバル)”!!」

パトリシアがそう叫び長杖を掲げる、次の瞬間パトリシアの背後から無数の何かが飛び出し、義勇兵たちに襲い掛かる。

 

“ズボズボッ”

「グホッ、パトリ・・・シア」

胸に走る激痛、口腔に広がる血の味、馬上より落下し、激しく血を吐き出すクロッカス第三王子。

 

「ご安心ください殿下、直ぐに皆様もお傍に参ります。空より迎えも参ったようですし」

何処までも広がる青い空、そんな上空から飛来する光輝く天使たち、我々は一体・・・。クロッカス第三王子は一体何を間違えてしまったのかと自問しつつ、短い人生に幕を下ろすのであっ「第三回魔王討伐軍侵攻作戦の準備がある、今度はワイルドウッド男爵家が主役、パトリシアも遊んでないでちゃんと働く」・・・クロッカス第三王子殿下の人生の終わりは、まだ先のようでございます。

 




おはようございます。
いってらっしゃい。
by@aozora
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