転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第884話 蛮族の宴 (7)

そこは全てが焼き尽くされた大地であった。

 

「ウォォォォォ、聖剣術<無双演舞>!!」

“ボボボボボボボボボボボボボボボボボボボッ”

無数に数を増やし聖剣バルボアを振り翳す勇者グロリアス、それは幻影にして実体、全ての剣線は絶対の一撃。

 

「ハッハッハッハッ、そうだそうだ、やれば出来るじゃないか。それでこそ人類の希望、剣を持ち戦う者全ての憧れにして頂点。“ユラ~~”

<終剣:乱斬万華>」

“““““フワンッ、バシュンッ”””””

それは夢、それは幻、すべての勇者の前に現れその悉くを断ち切る鬼神の斬撃。華は散り、真っ赤な花びらが舞い落ちる。

 

“パリーーーーーーーーーーーーーン”

何かが砕ける音が荒野に響く、高温に焼かれガラス状に溶けた大地に勇者グロリアスが膝を突き倒れ伏す。

 

「ほれほれ、休んどる暇はないぞ勇者殿、次は儂の番じゃからの。ケビンよ、勇者殿を回復するのじゃ」

「了解ですボビー師匠、<リフレッシュ><スタミナアップ>、存分に戦いをお楽しみください!!」

だが勇者グロリアスに戦いを終わらせるという選択肢は用意されていない。肉体も、精神も、回復魔法により強制的に癒され再び戦場へと立たされる。

 

「今度は先程みたいに下手な様子見などせず全力で頼むぞい、お主は勇者、人々に光を齎す最後の希望なのじゃからの。<覇魔混合><旋刃領域>」

“ガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキ”

激しい火花が咲き乱れる、反射的に剣を振るった勇者グロリアスは、この期に及んで生き足搔く自身に苦笑する。

 

「よいぞよいぞ、変に悟ったように死を受け入れるなんぞクズのやることよ。人は常に足搔き続ける、足搔いて足搔いてそれでも駄目なら女神様の下に辿り着いても胸を張ってこう言えよう、“自身は精一杯生き抜いた”とな」

老人の剣には重さがあった、有無を言わさぬ鋭さがあった。それは老人が剣身に己の全てを込めているから、技でもなく、力でもなく、魂が、強い意志が宿る剣。

 

「・・・<横・・・一閃>」

それは勇者の剣技でもなんでもない、剣士であればだれでも使う事の出来る武技。基本中の基本にして、まだ職業に目覚めていない時分から毎日のように繰り返し研鑽してきた剣技。

 

“リーーーーーン”

澄み切った鈴の音が響く、老人が残身を取りながら勇者グロリアスに言葉を向ける。

 

「若いということは本当に素晴らしいの。儂らが何年も掛けて辿り着いた答えに、ちょっとした切っ掛けで行きついてしまう。

勇者グロリアス・ブリッジ殿、素晴らしき剣であったよ」

“スーーーーッ、カチャリッ”

腰鞘に剣をしまい静かに一礼する老人、勇者グロリアスは静かに剣を下ろすと膝から崩れ落ち“パリーーーーーーーーーーーーーン”。

 

「勇者グロリアス、二回目の挑戦、よろしくお願いします。俺の腹筋は世界一、って言うか防御力最凶を目指してますんで、ガンガン来ちゃってください!!」

青年の明るく元気な声が荒野に響く。

 

“スクッ、ユラ~~~~”

まるで幽鬼のように力なく立ち上がった勇者グロリアスは、その瞳に怪しい光を浮かべ、青年に言葉を向ける。

 

「あぁ、勇者ジェイク、全力でお相手しよう。というか何故君には一切の聖剣術が効かないんだい? 切っても突いても吹き飛ばしても、次の瞬間にはケロッとした表情で起き上がる。しかも目を輝かせながら爽やかな笑顔まで見せて、君は私を馬鹿にしているのかな? 私の事が嫌いなのかな?

私はね、全力で挑んでも尚力足らず敗れることは致し方がないと思っている。それは私の技量が足りないから、思いが、魂が弱いから。

でもね、君は一体何なのかな? 君は何故笑っていられるんだい、君はどうしてこうも私をイライラさせてくるのかなーーーー!! 聖剣術<豪剣断絶>!!」

“ズゴーーーーーン”

それは怒り、それは悔しさ、それは魂の奥底から吹き上がる憤り。全力以上の何倍もの威力を込めて放たれた全てを切り裂く聖剣バルボアの一撃。

 

「グハッ、効いた~~~~、今までで一番、完全に死んだと思ったわ~。一回目でこの横薙ぎを受けてたら確実に召されちゃってましたよ、危ない危ない。これもすべて俺を見守って下さっている神々のお陰、本当にありがたい。それじゃ次お願いしま~す、掛ってこいや~!!」

「・・・うわ~~~~~~~~~~~~~~!!」

“ドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガ”

 

「ワッハッハッハッハッハッ、まだまだこれから~、斬撃足りないよ、何やってんの~♪」

青年の煽りとも取れる掛け声に完全に理性を失う勇者グロリアス。荒野における勇者の戦いはまだまだ終わりを見せることがないのであった。

 

――――――――――――

 

『マルセル村バトルフィールドをご利用のお客様に申し上げます。これより、第三回魔王討伐軍侵攻作戦を開始します。登録名“魔王討伐軍”の皆様、登録名“ワイルドウッド男爵家の愉快な仲間たち”の皆様、臨戦態勢に移行し、存分に戦闘をお楽しみください』

“ガヤガヤガヤガヤ”

そこはマルセル村の村門脇に造られた展望塔、その屋上に当たる展望台では多くの村人たちがエールの注がれたカップを手に、食事を楽しみながら中空に浮かぶ複数のモニターに目を向けている。

 

「いや~、戦った戦った、流石光の勇者グロリアス様、強い強い、本気で死ぬかと思ったわ~」

俺は果実水の入ったコップを口に付けながら先程までの勇者グロリアス戦を振り返る。

 

「いや、ジェイク、お前本気で酷かったからな? 勇者グロリアス本気でキレてたぞ? 三回目なんか最後涙目だったからな?

まさかこの俺が剣を向ける相手に同情する日が来るとは思わなかったわ」

隣ではジミーが皿に盛られた料理に手を伸ばし、俺の戦いを酷評してくる。

 

「え~、そんなこと言ったって“本気で振られた聖剣で耐久訓練が出来る機会なんて今後一生ないかもしれないぞ?”って言ってきたのってジミーじゃん。確かにそうだなって思ってその提案に乗ったのは俺だけどさ、三周目なんかなぜか皆勇者グロリアス様に同情して俺が然もひどい奴みたいな目を向けてくるし、繰り返しボコったのは一緒じゃん。

なのに俺の時は日が暮れるまで対戦を辞めなかったくせに、どこか悟りを開いたようになった勇者グロリアス様に“お前は本当によく頑張った、凄いよ、またやり合おう”とか言って四周目で終わりにしちゃうし。

なんか俺の時と扱い違くね? 同じ勇者だよね?」

俺が授けの儀で勇者の職業を授かって王都学園に向かうことが決まった年、王都学園での日々を終え冬季休暇で戻った一年目の冬、ケビンお兄ちゃんが魔王認定されるって知らされた衝撃の二年目の冬、魔王討伐軍が王都に到着し、逃げ出すようにマルセル村に帰ってきてからの一月。俺、目茶苦茶ボコられまくったんですけど?

最初こそ一日に何度も身代わり人形のお世話になって、お陰様で今じゃお守り代わりに持ち歩く程度にはなっているけどもさ、なんか俺の扱い酷くね?

それでも春祭りのときはブー太郎に切り殺されちゃいましたけれども!!

 

「俺って本気で弱いよな~、いくら鍛えても全く安心できない。切られる前に切り捨てちゃえば問題ないって言えるジミーやヘンリー師匠たちが羨ましいよ」

その実力差にガックリと肩を落とす。これがイケメン力の差、ヘンリー師匠やボビー師匠も、実は世界の種馬大剣聖クルーガルさんみたいにモテまくってたんじゃないんだろうか?

 

「イヤイヤイヤ、ジェイクも大概だからな? こう言ったら自画自賛みたいで格好悪いが、これでも俺は暗黒大陸の魔都総合武術大会の優勝者だから、同じ大会優勝者のクルンも言ってたけどジェイクの打たれ強さは俺たちの常識じゃ計れないから。

そういう意味じゃブー太郎と聖霊剣グランゾートの組み合わせって、ある意味無敵じゃないかな。ジェイクを切り捨てるって相当だと思うぞ?

でも俺やヘンリーお父さんや白雲さんはグランゾートを振るうブー太郎に勝ってるんだよな。これって相性の問題なのか?

まぁなんにしても世界は広いって事だ、そんなに気に病む事じゃないさ」

何かジミーに上手いこと誤魔化された気がしなくもないけど、気にしててもしょうがないのは本当だし、今は祭りを楽しむ事にしましょう。

 

「そう言えば大剣聖クルーガルさん、勇者との対戦に参加してなかったけどどうしたんだろう、あれほど楽しみにしてたのに」

「あぁ、それは放置していた娘の剣聖コーネリアさんと戦ってたからだな。勇者パーティーの大賢者バニアと聖女セレーナ、弓聖オルガノと剣聖コーネリアが大剣聖クルーガルに挑んだんだよ。

最初は直ぐに殺されちゃってたんだけどだんだんコツを摑んだみたいでな、七回目にして弓聖オルガノの矢が刺さったのを切っ掛けにフルボッコにしてたな。まぁそれでもコッソリ理不尽が補助してたみたいだったけどな。あの理不尽、大剣聖が敗れたとき目茶苦茶喜んでたからな。

八回目は気合を入れ直した大剣聖クルーガル・ウォーレンが貫禄の勝利を飾ったが、そこで終了となった。大剣聖が満足した表情で「あの娘も強くなったもんだ」と言ってたところを理不尽が蹴り飛ばして暴れてたな、あの二人は本当に仲がいいんだか悪いんだか」

 

俺の言葉に応えるように、ディアが大剣聖クルーガルさんの様子を教えてくれた。エミリーとフィリーとディアは、種馬大剣聖と実の娘との再会のドラマに興味を引かれたらしく、ケビンお兄ちゃんと一緒に見に行っていたらしい。

じゃぁ勇者グロリアスの身代わり人形の件はどうなってたんだろうと思っていたら、その辺はダンジョンの機能でどうにかしたらしい。エミリーが気になって質問したところ「うちの使用人は優秀だから」と教えてくれたとのこと。

やっぱりケビンお兄ちゃんのところは皆ケビンお兄ちゃんだよ、第三回魔王討伐軍侵攻作戦って理不尽の塊ワイルドウッド男爵家と魔王討伐軍との戦いなんだよね? 勇者グロリアス様、心が折れないかな? 遊び始めたケビンお兄ちゃんは俺なんかが逆立ちしたって勝てないほど理不尽だよ?

俺は中空に浮かぶモニター画面に映る勇者パーティーの姿に目を向け、心の中で手を合わせるのだった。

 

―――――――――――――

 

「はい、皆さん、これまで裏方ご苦労様でした。今日は日頃の鬱憤を晴らすべく、思いっきり楽しんでください」

そこは夏真っ盛りの美しい緑溢れる草原、爽やかな風が吹き抜け波立った草原の先には、光の勇者グロリアス率いる八万七千の魔王討伐軍の姿。

最初に比べ若干草臥れた感はありますが、その辺は御愛嬌。第三回魔王討伐軍侵攻作戦の開始を知らせるアナウンスに、即座に幾重にも<キャッスルウォール>を張るだけじゃなく、大賢者バニアが大結界を張る辺り学習の成果が出ていることが窺えます。

 

「それじゃ白玉率いるラビット隊、大将と横綱率いるコッコ隊は背後から敵を殲滅していってくれる? ゴンザレス率いるグレートボア隊は右側面から、良狼率いるグラスウルフ隊は左側面から潰していって、グラスウルフ隊は本来のレッサーフェンリルの姿で戦ってくれていいからね。ブー太郎率いる森のお店屋さん部隊は正面左端から攻め込んで、白雲率いるお茶屋さんチームは正面右端からお願い。

特殊使用人部隊‟月光”は正面から行くよ、クルンはジミーにいいところを見せようとして暴走しないようにね、月白は分かってるね、自重だよ、自重。

トライデント、ダンジョンコアの方は大丈夫?」

「はい、白騎士に後を引き継いであります。問題発生時には即対応できるようにリンクを張ってありますので、ご安心ください」

トライデントからの返事に満足気に頷くケビン、祭りの準備は整った。

 

「旦那様、私は白玉の所に行ってもいいでしょうか、やはり戦うのならラビちゃんたちと一緒がいいのですが」

「あっ、はい。でも一角兎狂乱祭(ホーンラビットカーニバル)は止めてくださいね、ラビット隊の出番がなくなっちゃいますんで」

ケビンの言葉に満面の笑みで応えるパトリシア、ケビンは若干の不安を覚えつつ、影移動で各人を配置地点へ送り出す。

 

““ムクリ””

立ち上がったのは二体の漆黒の獣、巨大なナイトフェンリルの太郎とシャドーウルフのブラッキー、その背にはそれぞれアナスタシアとケイトが跨っている。

 

「団子先生、それじゃ一つ開戦の合図を派手にお願いします」

“テトテトテト”

二足歩行で前に歩み出た者は、ケビンの太腿ほどの高さのあるムックリとした体形のローブを羽織った兎仙人の団子。団子は手に持つ杖を天に掲げ“キュキュキュイッ”と何かを唱える、すると突如晴れ渡った空に暗雲が立ち込め、ゴロゴロと雷鳴を轟かせる。

 

“ビカッ、ズドンズドンズドンズドン、ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ”

降り注ぐ落雷、降雷と呼んでもいい程の状況に、パニックに陥る魔王討伐軍。

 

「それじゃ行こうか。紬たちは無理しないようにね、これはただのお祭りなんだからね」

“キュキュキュ~♪”

“““““キュキュキュイ~~♪”””””

開始されたワイルドウッド男爵家と魔王討伐軍との戦い、ケビンは家族や仲間たちのことを心配しつつ、一部がやり過ぎないかと別の心配が頭から離れないのであった。




おはようございます。
いってらっしゃい。
by@aozora
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