転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第886話 蛮族の宴 (9)

「ぐわ~~~」

「怯むな!! ボルグ教国守護騎士団の意地を見せるのだ!!」

そこは正しく戦場であった。己の信念の下、三カ月を超える遠征の果てに辿り着いた決戦の地、自分たちは女神様の使徒として世界正義の為に命を賭して戦いに挑む戦士である、そう信じて疑わなかった。

 

「ラビット格闘術奥義、<万脚行脚>」

“ドガドガズガドガバゴドガズドバゴ”

「「「「「ぐわ~~~~~~」」」」」

守護騎士団の仲間たちが宙を飛ぶ、まるで紙切れのように全く抵抗など出来ないまま。共に流した汗が、これまでの研鑽が、全てが無意味だと言わんばかりの圧倒的な蹂躙が、騎士たちの精神を蝕んでいく。

 

「ふざけるなよ、何度も何度も繰り返し、貴様らは一体なんだというんだ、人の命をなんだと思っているんだ!!」

それは叫び、それは憤り、敵に対して向ける意味などない問い掛け、だが言わずにはいられなかった感情の発露。

 

「何だと言われてもな、俺はホーンラビット伯爵家旗下ワイルドウッド男爵家騎士白雲という。家名は特に決めてないな、男爵も決まったら言ってくれってだけでその後何も言わなかったからついな。

大体俺の本業はお茶農家なんだ、うちもそうだがホーンラビット伯爵家の男爵も騎士も、皆兼業農家だぞ? まぁ辺境の小領じゃ仕方がないんだが、爵位なんてものは名目だけらしいしな」

だが返ってきた言葉は、彼らの思いとは嚙み合わないズレたもの。自分たちは世界の為、信仰の為に立ち上がった戦士、世界の敵である魔王を倒し、世界秩序を・・・。

 

「大体命をどうのとか言うんだったら、なんでわざわざこんな最果てまで軍隊率いてきたんだ? 殺し合いをしに来たんだろう? こちらはそんなお前たちに敬意を表して、何度でも戦えるように準備してみたってだけなんだがな。嬉しいだろ? 殺し合いが大好きで日夜剣を振るってきたんだから。

便利だよな、女神様の為って言ってればなんだって許されるんだから。でもな、誰が何と言おうとお前らがただの侵略者で人殺しだって事には変わらないからな?

これは兄弟子から聞いたんだが、授けの儀で授かる職業やスキルって奴は、人が魔物蔓延る世の中を生き抜く為に女神様がお与えくださった慈悲なんだそうだ。そんなありがたい力を自分たちの都合で勝手な理屈をつけて振り回してりゃ、剣筋も鈍るってもんなんじゃないのか?

殺しに来たんなら殺されることを嘆くな、少なくとも剣を振るって戦う機会を与えられたことを喜べ、その思いごと無慈悲に叩き潰してやろう」

 

彼らは純粋だった、敵に襲われたから叩き潰す、そこに政治も数も関係ない、己の信念に従い自身の武を振るうのみ。それに比べ自分たちは・・・。

 

「うわっ、流石に気付いちまったか、自分たちが女神様の権威を後ろ盾にした単なる侵略者だって事に。まぁそんなこと今更だ、これまでもこれからも、騎士や兵士の役割とは上の意向に従う暴力そのものなんだから。

安心しろ、今度はちゃんと殺されたことが分かるようにぶっ殺してやろう。ラビット格闘術皆伝白雲、推して参る」

“ズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガ”

走る衝撃、振るった剣技も虚しく激しい衝撃と痛みが自身の身体を貫いていく。

 

「お前、今の振りはよかったぞ? ちょっとヒヤッとした、それじゃあな」

失われる光り、消えていく意識の中、男の言葉だけが耳の奥にやけにはっきりと残るのだった。

 

「白雲さん、魔王討伐軍の方々にあまり正論を向けないであげてください。その口撃はグランドさんとリーフさんにも効きます、さっきから二人がかわいそうなことになってますから」

ワイルドウッド男爵家騎士白雲は、妻のラビアンヌから掛けられた言葉に、気まずそうに鼻を掻く。ボルグ教国の騎士たちがあまりに馬鹿らしいことを叫ぶのでつい言い返してしまったが、彼らの姿は嘗てのグランドとリーフ。あまり公には出来ない過去を持つ二人にとって、正義の名の下に盲目的にマルセル村へ攻め込んできたボルグ教国の騎士たちの姿は、忘れてしまいたい昔を思い出させるに十分のものだったことだろう。

 

“ズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガ”

「二人とも何か悪かったな、そんなつもりはなかったんだが結果的に二人を責めるようなことを言ってしまって」

謝罪の言葉を口にしながらも、襲い来る騎士たちを薙ぎ倒していく白雲。

 

ズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバ”

「いえ、気にしないでください、この戦いに参加したいと言ったのは俺たちなんですから。俺たちは今一度向き合わないといけないんです、過去と決別しお茶農家として生きる為に、これは避けては通れない儀式のようなものなんです」

グランドは剣を振るう、それは嘗て世界を守れると信じて疑わなかった正義の為の剣技。

 

「聖剣術<天元無双>」

“ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ”

その名を捨てても尚身体に染みついた技は剣に宿る。グランドは己を見つめ直す為に、勇者グロリアスと勇者パーティーたちの下を目指し魔王討伐軍の中を突き進んでいくのであった。

 

“クワックワッキュワ~~~♪”

“ズドンッ、バゴンッ、ズドンッ、バゴンッ、ズドンッ、バゴンッ”

そこは虐殺の現場であった。明らかにその身に似合わない巨大な骨を振るううら若い女性と、そんな彼女を見守る金髪の偉丈夫。

 

「よう、ブー太郎、早かったな。お前は勇者様に挑まなくていいのか?」

掛けられた声にサラリと髪を靡かせ振り向いた偉丈夫、涼しい目元は白雲の姿を捉えるや優しく緩み、豚のような鼻をヒクヒクと動かす。

 

「あぁ、白雲さんも到着したんですね。ケビンさんからグランゾートは最後だってきつく言われてるんですよ、聖剣バルボアを破壊しかねないからって。今はジャスパーとダリアが戦ってるところです」

そういい顔を向けた先では森のお店屋さんの従業員であるダリアが大剣を小枝のように振るい、勇者パーティーの剣聖コーネリアを吹き飛ばしているところであった。

 

「コーネリア!! こいつらはどいつも、聖剣術<無双演舞>」

「ハッハッハッ、喜んでくれているようで何よりだ。俺たちは今日この日の為に努力を重ねてきたんだからな。<千手万剣>」

“ガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキン”

それは力と数のぶつかり合い、絶対の剣技を振るう勇者グロリアスに無数の触手が襲い掛かる。

 

「なぁブー太郎、勇者パーティーが少なくないか? 聖女と賢者と弓使いがいないようだが」

「それですか、どうやら勇者グロリアスは自らを囮にし、俺たちをおびき寄せていたようです。本命の攻撃は弓聖オルガノによるケビンさんへの奇襲、ケビンさんのところは執事とメイドに囲まれていましたからね、今回の主軸であると推察しての作戦でしょう。

俺たちが勇者との対決に執着していることは前回の戦いではっきりと分かったでしょうから、作戦としては悪くないと思いますよ?」

ブー太郎の言葉になるほどと頷くと同時に、“勇者パーティーの思考も随分とマルセル村化してきたな”と苦笑いを浮かべる白雲。

 

「いずれにしろまだまだ折れてないって事か、随分と頑張るもんだな。勇者パーティーが兄弟子に一矢報いる事が出来るか、楽しみではあるな」

剣戟の音轟く戦場、聖剣バルボアを振るう勇者の姿を横目に、二人の修羅は“この祭り、まだまだ楽しめそうだ”と口元を緩めるのであった。

 

――――――――――――――

 

そこは地獄であった。

“ドドドドドドドドドドドドドドドドドドド”

見たこともないような魔法、石火矢のような形状の魔法杖から撃ち出される魔法弾は幾重にも魔法耐性の施された全身甲冑を貫き、一瞬にして何十何百という騎士たちを討ち倒していく。積み重ねた研鑽も、施された対策も、まるで無意味で無価値であると言わんばかりに薙ぎ払われていく現実が、守護騎士団を指揮する騎士団長サルーンの心を締め付ける。

 

「来るぞ、オルガノ、一撃で仕留めろ。サルーン騎士団長とセレーナは撹乱慌てる敵に更なる混乱を引き起こすんだ、私はそこに大技を撃ち込む、冷静になるスキを与えるな」

大賢者バニアの作戦は非情なもの、敵中枢の進路を予測し待ち伏せをする、その際に自分たちを覆い隠す壁は味方騎士たちの肉壁。

 

「ここから先しばらくは互いの声も聞こえなくなり存在も希薄となる、くれぐれも同士討ちだけは避けてくれ。“大いなる創造の女神よ、我らをそのベールで包み、全ての脅威から遠ざけたまえ、インビジブル”」

音が鎮まる、自身の存在そのものが希薄に変わり、彼らは夢と現実の境界が曖昧になるのを感じる。身を低くし、ただその時を待つ。

身体の一部を吹き飛ばし、石化し崩れ、周囲を血の海に変えながら一人、また一人と仲間たちが倒れていく。

 

そしてその時は訪れた。弓聖オルガノは己の魂を込め、聖弓アテナを敵の中心人物であろう鎧姿の者に向け・・・。

 

「なぜ、この場にハイエルフ様が・・・」

オルガノが目にした人物、正確には魂で感じ取ってしまったエルフの上位種であるハイエルフの存在。その者は敵である鎧姿の者のすぐ傍に控える漆黒の魔獣の背に跨り、静かにオルガノを見つめる。

 

「いけませんね、ここは戦場です。あなたが魔王討伐軍に加わる勇者パーティーの一員である以上、目の前に現れた者がどのような存在であろうと攻撃の手を止めてはいけない。

これは互いに選んだ道、そこに迷いや感傷を持ち込んではいけないのです」

その声は大賢者バニアの魔法で隠されているはずの自身のすぐ傍から響く。

 

「えっ、あなた様は、ダークエルフ・・・」

美しい容姿、褐色の肌、自身と同じエルフ耳を持つその女性の登場に、オルガノの思考は停止する。

エルフにとってハイエルフとは魂に刻まれた上位存在、そしてダークエルフはエルフ族たちを守る為常に最前線に立ち続けたエルフ族最強の戦士にして、戦いの歴史の中に姿を消した伝説的存在。オルガノのエルフとしてのアイデンティティーが、彼女たちに対し弓を向けることを否定する。

 

「弓聖オルガノ、あなたの活躍は聞き及んでいます。普人族の世界に残り、使命を忘れず戦い続けたあなた方一族の事を私は誇りに思います。

そしてオルガノ、あなたは遂に聖弓アテナを手に入れた。ゴブリンの魔王ゴブリンエンペラー率いるゴブリン軍討伐の際使用され、普人族の手により奪い去られたエルフ族の神器。

我々エルフにとって最も忌むべき普人族の悪行、あなたはエルフの誇りを取り戻した。その一点において、あなたがこの魔王討伐隊に参加したことを私は許します。

さぁ、ここからは互いの主張のぶつけ合い、あなたはあなたの信念の下に弓を引くのです。私たちは私たちの思いを手にあなたたちを打ち破りましょう」

魔獣の上で長杖を構えるハイエルフ、オルガノは苦しげな表情のまま聖弓アテナを構え、弦を引く。

 

「聖弓アテナ、我が願いを聞きその真なる力を示せ、<スターライトシュート>」

“バシュンッ”

撃ち出された矢、それは星の煌めきと共にハイエルフを“パリーーン”・・・。

砕け散るように中空に霧散する攻撃、その様子に唖然とするオルガノ。

 

「フッフッフッ、ごめんなさいねオルガノ、あなたを試すような事をしてしまいました。聖弓アテナが何故エルフ族の神器であるのか、それは神がエルフ族にお与え下さったものであるということもありますが、その素材が世界樹様の枝であるからです。

世界樹様は争わない、世界樹様の枝から作られた武器や魔法杖から撃ち出された武技や魔法は、同じ世界樹様の枝製の武器や武具の前では霧散する。これはあまり知られていない事実、この事は大賢者バニアの持つ聖杖グランディアにもいえること。私の持つこの長杖は、あなた方二人にとって天敵とも呼べるものなのです」

そう言いハイエルフが掲げた物、それは世界樹の枝から作られた魔法杖。

 

「“大いなる創造の女神よ、大地を作り炎を生み出せし神よ、その御業を持ちて我に仇なす敵を打ち滅ぼせ、ボルケーノ”」

“グゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ”

突如巻き起こった炎、それは周囲のものを巻き込みハイエルフに襲い掛かる。

 

「無駄ですよ、この長杖がある以上、聖杖グランディアを使った魔法は「“大いなる神よ、我が手に集いて眼前の敵を貫け、ライトランス×30”」」

“ズババババババババババババババババババババババババババババババンッ”

それは盛大なブラフ、聖杖グランディアを使った最上級魔法<ボルケーノ>を隠れ蓑に、本命の<ライトランス>で敵を撃ち抜く高度な戦略。敵の魔法障壁がどれ程強力であろうと聖杖グランディアを使った<ボルケーノ>を防ぐ事は出来ない、そして無防備になったハイエルフは騎乗する魔獣もろとも<ライトランス>の餌食となる。

“パリーーン”

<ボルケーノ>の炎が弾ける。中空に溶けるように豪炎の壁が消えた時、その場には<ライトランス>より無残に「イタタタタ、ちょっと格好をつけすぎました。ヴィーゼ君にお母さんの格好いいところを見せたかったのですが、上手くいきませんね。今の<ライトランス>は結構痛かったですよ? でもエミリーちゃんの拳と比べてしまうとまだまだ、精進あるのみです。それでは皆さん、私たちは先を急ぎますので。太郎」“ガウッ、ズボズボズボズボズボズボズボズボ”・・・。

大地から突き立つ幾本もの影槍、口腔に広がる鉄の味、自分たちはまた。

 

“ドサドサドサドサ”

崩れ落ちる奇襲部隊、彼女たちは薄れゆく意識の中、この地獄はいつまで続くのだろうかと自問するのであった。




おはようございます。
いってらっしゃい。
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