転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第887話 蛮族の宴 (10)

血煙が舞い、多くの戦士が倒れる戦場。

 

「クッ、聖剣術<大斬絶界>」

「ほう、聖剣術<来光賛歌>」

“ズドドドドドド、ドガドガドガドガ、ズバーーーーン”

 

大地は捲れ、岩が飛び、荒れ果てた草原は一瞬にして荒野へと姿を変える。

 

「何故だ、何故勇者でもない貴様が<聖剣術>を使える!!」

「あぁ、これはまぁ、過去の思い出って奴かな。俺も昔は随分無茶をしてな、自身のスキルに向き合い覚えていったってところか。お前さんと一緒だよ」

“シュタンッ、ガキンガキンガキンガキンガキン、シュタンッ”

目にも止まらぬ速さで地を駆ける攻防、土煙舞う先の見えぬ戦場に、激しい剣戟音だけが鳴り響く。

 

「俺が負けることは仕方がない、それは俺が弱いから、俺が未熟だから。だが何故お前らは聖剣と打ち合える、聖剣は女神様が人類にお与え下さった希望であり神器、女神様のお力そのものなんだぞ!!」

“ガキンガキンガキンガキンガキンガキン、シュタンシュタンッ、ガキンガキンガキンガキンガキンガキン”

 

「あっ、それちょっと違うぞ? 確か聖杖グランディアが木工の神様と魔法の神様の合作で、聖弓アテナが木工の神様と戦の神様の合作、聖剣バルボアは鍛冶の神様だったんじゃなかったか?

ボルグ教国聖教会の資料室に保管されている神器に関する古文書に書かれていたはずだ。もしかしたら写本がナミビア王国の王都教会に寄贈されているかもしれない、時間が出来たら調べてみるといい」

ナミビア王国の勇者グロリアスの叫びに、冷静に答えを返すお茶農家グランド。その返答に「俺が言いたいのはそういう事じゃない!!」と感情を乱す勇者グロリアス。

 

「大体なんでお前は聖剣相手にナイフで戦ってるんだ、嘗めるのもいい加減にしろ!!」

「あぁ、そこか。別に俺は勇者グロリアスと聖剣バルボアを馬鹿にしてなんかいないぞ? むしろ真正面から向き合おうとしたからこそ、このナイフを借り受けた。

さっき言っただろう、聖剣とは鍛冶の神様がお造りになられた剣であると。まさしく神器、そのような代物に普通の剣で打ち合いなんか挑んだら簡単に折られてしまう。ホーンラビット伯爵家騎士団の修羅たちはその弱点をそれぞれの技術で克服したみたいだけどな。

そこで俺は考えたんだよ、だったら同じ鍛冶の神様のお造りになったナイフなら得物の優劣を気にしなくてもいいんじゃないのかってな。

借り物だし名は知らない、だが俺の要求に確りと応えてくれる素晴らしいナイフだよ」

“ガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキン”

苛立ち、戸惑い、迷い、憤り、互いの得物を合わせることで伝わる相手の心情。最早言葉はいらない、グランドはサッと距離を開けると静かに構えを取る。

 

「勇者グロリアス、お前の進んでいる道は嘗て俺が歩いた道だ。何が大切で何をしたかったのか。お前は間違えるなよ、後悔しても取り返しの付かない人生を送った俺みたいにな。聖剣術<竜身一閃>」

“シュパンッ” 

それは嘗てオーランド王国の勇者が生涯を賭けて求めた一つの答え、三日三晩戦い続け自身を認めたドラゴンに対する勇者からの感謝の思い。

 

“パリーーーーン”

何かが割れる甲高い音が響く。勇者グロリアスはガクリと膝を突くと、荒く肩を上下させながら口を開く。

 

「まさかあなたは、剣の勇者様では・・・」

お茶農家グランドは口元に小さな笑みを浮かべると、「俺はただのお茶農家、それ以上でもそれ以下でもないさ」と言ってその場を離れるのであった。

 

―――――――――

 

「ブー太郎、今どんな感じ?」

魔王討伐軍の中央部、勇者グロリアスの待つ戦場。多くの戦士が地に倒れ、物言わぬ屍となる凄惨な現場であるそこには、人類の希望と謳われた煌めくオーラ振り撒くヒーローの姿はなく、血と糞尿に塗れた泥臭い戦場で必死にもがく男が何度目か分からぬ死から再び立ち上がろうとしているのでした。

 

「あっ、ケビンさん。ダリアとジャスパーが勇者グロリアスと剣聖コーネリア相手に二対二で挑んで勝利、白雲さんとクルンさんとグランドさんがそれぞれ勇者グロリアスに挑んで討ち取っています。

後は月影さんと月白さんと俺で一巡ですね。まぁ二巡三巡したいって言ってるのは月影さんと月白さんとグランゾートだけなんで、勇者グロリアスもヘンリーさんやボビー師匠と戦った時よりかは負担が少ないんじゃないんですかね」

そう言い勇者の戦いに目を向けるブー太郎、戦場では月影が獰猛な笑みを浮かべ勇者グロリアスを切り刻んでいます。勇者様、やけになって聖剣術バンバン放ってるし。こっちに飛んでくる斬撃はブー太郎がコッソリ相殺している模様、ブー太郎先生も裏方の何たるかを熟知なさっているから。

しかしダークエルフのメイドがナイフ振るって勇者を切り刻むって、めっちゃホラーなんですけど。獰猛な笑顔が超恐いっす。

月影さん、オークの魔王の一件で心底勇者が嫌いだからな~。ジェイク君のことはマルセル村の子供って目で見ているからいいけど、再び手にすることのできた大事な居住地に勇者が攻めてくるって聞いた瞬間、完全にキレちゃったもんな~。

今までよく自分を抑えてくれていたものです、あの精神力には脱帽です。

同じくブチ切れたのが月白、ボルグ教国を皆殺しにしましょうって言い出した時はどうしようかと思ったもん。月影と一緒に実行計画を練り始めた時は必死になって止めたもんです、“村人の楽しみを奪うつもりか”って言って話のすり替えを行うのが大変だったこと、今ではいい思い出です。

 

「ケビンさん、アレどうにもならないですよ。勇者グロリアス、完全に月影さんを見失っていますね。

俺でもギリギリ何とか感じ取れてるくらいですよ、ほとんどの人が何が起きてるのか分からないんじゃないんですかね?」

背後に隠れていると思えば横合いや正面から、全方位に向け聖剣術を放つも全て躱される状況に打つ手のない勇者グロリアス。

 

“ドサッ、パリーーーン”

「月影の奴、勇者相手に一切の大技なしで勝っちゃったよ」

「ある種暗殺者の完成形と言ってもいいんじゃないんですかね。分かっていても勝てない、避けれない。しかもあれって全力じゃないですよね? どうしろっていうんですか」

ブー太郎の言葉に乾いた笑いしかでない俺たち、うちの使用人たちは一体何を目指しているんだか。

 

月影の番が終わり、勇者グロリアスがゆっくりと立ち上がる。精神的限界は疾に越えているだろうに、それでも立ち上がる勇者グロリアス。仲間は倒れ、大義名分も消え、何が今の彼を支えているのか。

 

「聖剣バルボア・・・コイツが、コイツがコイツがコイツがコイツが!! 私の大切な人をまた奪いに来た、こんな物があるからいけない、こんな物があるから人は馬鹿になる。

そう、簡単なことじゃないか、アハハハ、こんな物、なくなってしまえばいい!!」

白い髪を逆立て感情を爆発させる月白。存在の根幹に残るアルバを守れなかった後悔の念が、失われた記憶を補完し、聖剣バルボアに対する敵意として結実したのだろう。

 

“ボッ”

それは瞬間の出来事、まるでコマ落としのように勇者グロリアスの目の前に現れた月白。その両手には聖剣バルボアの剣身が握られ、柄には肘からスッパリ断ち切られた勇者グロリアスの両腕がぶら下がっている。

 

「<ヒール>、これはあってはいけない剣、存在してはいけない物。あああああああああああああああああああああああああああああ!!」

月白の全身から白い炎が噴き出す。激しいエネルギーの放出に吹き飛ばされる両腕を失った勇者グロリアス、月白を包む炎は尚も勢いを増し、大地を溶かし天をも焦がす。

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

そして遂に・・・。

“バキーーーーーーーーーーン”

激しい破壊音と共に宙を舞う金属片、鍛冶の神が造りし人類の希望、神器聖剣バルボアが・・・。

 

“ドサッ”

その場に崩れ落ちる月白、その身体は光の粒子になって大気に溶けていく。己の思いを成し遂げた月白の表情は、まるで憑き物でも落ちたかのように、穏やかで美しいものであった。

 

「月白さん、自身の命と引き換えに聖剣バルボアを。月白さんにとって聖剣バルボアを破壊する事はそれほどまでに大切なことだったんですね。

でもなんでそこまで・・・」

「おそらくだけど、アルバを守りたかったからじゃないかな。二度と同じ過ちを繰り返したくない、月白はその思いだけに突き動かされていた。

あの瞬間だけ月白は聖女クリスティーヌだったんだと思う。壊れた聖女クリスティーヌ、厄災と呼ばれ封印された彼女が一瞬だけ蘇った、勇者グロリアスの両腕を治した事はほとんど無意識の行動だったんじゃないかな」

俺は消えていく月白の姿を見つめ、来世では幸せな人生を送って欲しいと祈らずにはいられな・・・死んでないじゃん、展望台の下の再生室で蘇るじゃん。すっかり騙されたわ、周りの空気完全に持っていかれちゃってるし。月白、恐るべし。

 

「・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 聖剣バルボアが、ボッキリ折れちゃってるんですけど~~~!! トライデント、ダンジョンコアに確認、破損した神器の復元は可能かを大至急問い合わせてくれ!!」

俺はすぐさまトライデントに指示を出す。シャレにならない事態、まさか月白が本当に聖剣バルボアをへし折るなんて思いもしなかった。

って言うか聖剣って折れるのかよ、神器無敵説どうなった!!

 

「マスター、残念ですがそれは不可能です。神器は神の手が加わった創造物、ダンジョンコアの物質創造能力を大きく上回る存在の創造を、ダンジョンは行うことが出来ません」

・・・やべーーーーー、これってどうする!? 確実にあなた様からの呼び出し案件? ヘタすれば本部長様クラスが揃い踏み、とりあえず破片回収でもしておくか?

 

「いや、ちょっと待てよ。グランゾートさんに質問、聖剣って自動修復機能とかないの? 神器だし、それくらい出来てもおかしくないよね?」

神器の事なら神器に聞け、同じ鍛冶の神様の傑作聖霊剣グランゾートなら何か解決策を知っているかもしれない。

俺からの呼び掛けに、ブー太郎の腰の大剣が音もなく宙を舞う。神秘的な美しさを持つその大剣は、中空にまっすぐな状態で静止すると、人々の心に直接語り掛ける。

 

“はぁ、これが私の後継の姿とは情けない、気合いが足りません気合が。とは言え同情すべき点はあるかと、簡潔に言えば神気切れです。直接的な原因は勇者グロリアスが連発した聖剣術の行使にありますが、本来その程度でどうにかなるようには出来ていないんです。

ただ管理の問題が。少なくとも年に一回は大聖堂の女神様像の側に置き神気の補給を行っていればこのような事態は起きなかったのでしょうが、神器の管理を担当するボルグ教国聖教会とボルグ教国を担当する天使たちは一体何をしていたのか。あの国には神託を受け取ることの出来る聖女が多くいると聞いていますが”

・・・まさかの管理ミス、これって大問題じゃね? ボルグ教国聖教会、神器を大事にしまい過ぎてまさかの電池切れ、充電しとけよ充電。

 

「えっ、それじゃグランゾートは大丈夫なのか? 俺、めったに礼拝堂へグランゾートを持って行ってないんだけど」

“ブー太郎様が私の心配を・・・。やっぱり私とブー太郎様は一心同体、終生のパートナー、つまり夫婦。切っても切れない魂の絆で「落ち着け駄剣、今はケビンさんのご質問にお答えしろ」・・・失礼しました、嬉し過ぎて我を忘れてしまいました。結論から言えば神気を補充してあげればいいのです。折れようが曲がろうが、この程度の破損であればすぐ元に戻ります”

セーフ、それだったら何とかなる。魔力の腕輪ことシルフィーさんには神気の貯えもございますし!!

俺は収納の腕輪から疑似神気の入ったボトルを取り出すと、グランゾートにテイスティングしてもらいご意見を伺います。

 

“旨、何ですかこれは。ケビンさん、後で私にもそれを少し分けてください!!”

「了解了解、じっくり楽しめるように大瓶を用意しよう。という事で放心中の勇者グロリアス様は取り合えず放置して、“聖剣バルボアよ、今こそ復活の時。その身に新たな力を蓄え、真なる姿を現せ!!”」

ふわりと浮き上がる剣身、粉々に砕けた破片の一つ一つが中空に集まり、聖剣バルボアの姿を形作る。(注:魔力糸を駆使し、演出中)

 

“カポッ、トクトクトクトク”

ボトルから注がれるほんのりと輝く淡いエメラルドグリーンの液体。それが聖剣バルボアの砕けた剣身へ染み込むや、聖剣バルボアが眩い光に包まれ世界を白色に染めていく。

 

“我を復活させし勇者よ、あなたと共に、世界を平和に導かん”

それは見る者を虜にする神秘的な輝き放つロングソード、神気を取り込むことで完全に生まれ変わった聖剣バルボアは、宙に浮かび上がると自身の復活を宣言し、ゆっくりと勇者の下に・・・。

 

「イヤイヤイヤ、俺勇者違うし、君の所有者はあっち、光の勇者グロリアスさんだから、こっち来ちゃ駄目だから」

“えっ? いやしかし、我の復活を・・・”

 

「いやだから、勇者様が戦って、壊れちゃったから直した。いわば修理屋さん? だからほら、勇者の下に・・・勇者グロリアス? しっかりしろ~、勇者様~~~!!」

聖剣の破壊と再生、そして自分以外に懐く聖剣の光景は、勇者グロリアスの最後の砦であったアイデンティティーを崩壊させるのに十分過ぎる破壊力を持っていたようでございます。

俺は“私の出番は?”とジト目を向けるケイトさんに土下座しつつ、影槍で魔王討伐軍の生き残りをすべて絶命させ、第三回魔王討伐軍侵攻作戦を終了させるのでした。

 




おはようございます。
いってらっしゃい。
by@aozora
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