転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第889話 蛮族の宴 (12)

広大な草原に佇む城が朱に染まる。伸びる影、陰影の付いた城の外観は赤と黒のコントラストも相まってより以上に恐ろしげな雰囲気を醸し出す。

城の前には横一列に屈強な兵士が並ぶ。全身鎧に覆われた彼らは、ただ黙って佇んでいるだけにもかかわらず、周囲を圧倒する威圧感を放出する。

 

“嘗て、そこには何もなかった”

それは声、心に直接響く魂の言葉。

 

“女神様はお思いになった、ここに世界を創ろうと。塵を集め、大地を創り、水を生み、空を創造された。

緑を増やし、生命の息吹を吹き込み、やがてそこは命溢れる楽園となった”

声は響く、朱に染まる草原に。八万七千を超える聴衆に届くその声は、この世界の始まりを朗々と謳い続ける。

 

“女神様は思われた、この世界をより良い物にしようと。そこで女神様はご自身の手足となる者たちをお創りになられた。それが天上界であり天上人たち。彼らは女神様に尽くし、女神様の御心に叶うよう世界に干渉しつづけた。

やがて世界にある変化が現れた、大地から魔力が溢れ出したのだ。魔力は瞬く間に世界へ広がっていった、世界に暮らす植物や動物は、魔力の影響で大きく姿を変えていった。それは魔物の誕生であり、魔力現象の発現であり。

そのような状況の中、絶滅の危機に晒された種族があった。それが人であり我々の祖先。

女神様は思われた、この者たちにこの世界で生き抜く為の力を与えようと。それがスキルであり職業、人は女神様の慈悲により生かされる弱き存在であった”

 

その者の姿は中空にあった。夕日に照らされ朱に染まったその人物は、漆黒のマントを風に靡かせ、その場に集いし戦士たちに語り掛ける。

 

“人よ、弱く醜い人類よ。与えられた力に溺れ、他者を虐げ。傷付け、奪い、飽くなき欲望に突き動かされながら発展を遂げる愚かなる者たちよ。

我は其方たちを許そう。

他者を虐げることで恥を知り、傷付け傷付けられる事で痛みを知り、奪い奪われる事で愛と悲しみを知った者たちよ。愛すべき愚か者どもよ。

お前たちは一体何を求める? 富か、地位か、名誉か、それとも血沸き肉躍る闘争か。

我は全てを与えよう。我が名はカオス、人を愛し、人に寄り添い、人を見続ける者。

罪も、欲望も、慈悲も、慈愛も、その愚かささえも何もかも愛おしい。

我を倒せ、我に抗え、我こそは混沌の魔王カオスなり!!”

 

“ブオォォォォォォォォォォォォォォォォ”

大地が光る、あり得ない程の巨大な魔法陣が出現し、夕暮れ迫る草原を光に染める。

 

“ガウォォォォォォォォォォォォォォン”

“““““ガウォォォォォォォォォォォォォォン”””””

巨大な漆黒の魔獣が天に向け咆哮を上げる。魔法陣から次々と現れる白い魔獣たちが、後を追うように咆哮を重ねていく。

 

“クカーーーーーッ”

““グウォォォォォォォ””

“““““ブブブブブブブブブブブブブブブブブブブ”””””

漆黒の大鴉が、金毛の熊が、大量の蜂の魔物が、まるで無限に湧き出るかのように姿を現していく。

 

““““ズッズッズッズッズッズッズッズッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッ””””

それは巨大な何か大魔境と呼ばれる特級危険地帯に生息するジャイアントスネークにも匹敵するような厄災級魔物。

 

““““グギャァァァァァァァァァァァァァァァ!!””””

四体のその魔物から発せられる咆哮は、大地を揺らし天に轟く。

その場の者たちは思う、世界の終わり、終焉の時が始まったのだと。朱に染まる地龍の威容は、魔王カオスによる人類の粛清を幻視させる。

だがそれは、正しい認識ではなかった。

 

“ズッズッズッズッズッズッズッズッ”

伝説の時代、人類は幾度とない危機を迎えていた。

 

“ズゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッ”

それは都市を丸呑みにする巨大なスライムであったり、世界を滅ぼさんとする悪意の塊のような巨大なトレントであったり。

そうした危機は数多くの古文書や伝承により語り継がれ、今尚勇者物語という形で広く人々に受け継がれる歴史の真実。天が人々に手を差し伸べて尚多くの犠牲を払い退けてきた、顕現した狂気。

 

““““““““グゴォォォォォォォォォォォォォォォォォ””””””””

八本の首から放たれた豪炎、それは天を焦がし大地を照らす灼熱の大剣、一瞬にしてすべてを焼き尽くす大地の裁き。八頭八尾の巨大キメラは、最早ドラゴン種そのものと呼んで差し支えない威圧を放ち大地を踏みしめる。

 

「・・・なぁジミー、大福いつもよりデカくないか? それこそ去年王都を襲ったドラゴンと変わらないくらいデカいんだけど」

「そうだな、多分だけどケビンお兄ちゃんはあの時の光景をどこかで見てたんじゃないのか。あの魔王城も本当は俺たちが村を出る時の劇で使う筈だったって言ってたし、あの姿の大福も、本来その時に披露するはずだったんじゃないのか?」

 

「それとあの緑と黄色、王都で見た空飛ぶドラゴンにあんなのがいなかったか? それが四体って」

「そうだな、あの時の蛇型ドラゴンはもう一回り大きかったが、緑や黄色もいずれあれくらいに大きくなるのかもな。それと残り二体はキャロルとマッシュだな。アイツらもデカくなれたんだな、知らなかったよ」

 

現れた異形の姿に言葉を詰まらせる人々。だが魔王カオスの召還はまだ終わりではなかった。

 

“四剣よ、顕現せよ”

魔王カオスの言葉に姿を現した物、それは黒鞘の直刀、空気すら腐らせるショートソード、世界を呪うサーベル、狂気振り撒くロングソード、禍々しい気配を漂わせる四本の剣。

 

“我が許可する、本来の姿を取り、人類に仇なす厄災となれ”

““““ブワッ””””

黄金の光が、白色の炎が、漆黒の闇が、赤黒い血煙が、それぞれの剣を包み込みその姿を変える。

黄金の光の中より現れた者は額に角を持つ鎧武者姿の女性、白色の炎より現れた者は陣羽織を羽織った全身甲冑姿の偉丈夫、漆黒の闇より歩み出た者は黒い帽子を被り顔の半分をベールで隠した喪服姿の女性、赤黒い血煙から這い出た物は前に伸びた巨大な口を持ちいたるところから目を開く異形。

闘気が、腐食が、狂気が、殺意が、空間を歪めその場の者に襲い掛かる。

 

“シャドームーン、ムーンナイト、クレーター、全ての枷を外すことを許す。人類に極上の絶望を齎せ”

「「「ハッ、すべては魔王カオス様の思いのままに」」」

扇情的な戦闘ドレスを着た女性が、身体の線が分かる蠱惑的な全身鎧を装着した女性騎士が、面頬(めんぼう)を付けた鎧姿の美しい偉丈夫が、全身から闘気を滾らせ魔王カオスの号令に動き出す。

 

それは地獄すら生ぬるい布陣、絶望の未来、人類は今より消滅する、その一歩が動き出す。

 

「ケイト、頼めるか? 魔王討伐軍に今一度思い起こさせるのだ、自分たちが何者であるのかという事を」

「畏まりました、ザルバお父様。でも不思議ですね、こうしてお父様から歌を頼まれることは初めてのはずなのに、何かひどく懐かしい気がします」

それは失われた過去の記憶、精神は死に、その出来事は失われても、身体に染みついた思いと感情は、懐かしさとして顔を出す。

 

『さぁ 顔を上げて 前を向いて 俯かないで~

あなたは希望 あなたは力 あなたは私たちの勇気そのもの~

さぁ 立ち向かって どんな時も 忘れないで~

あなたの傍には 女神様が付いている あなたは世界の希望なのだから~

剣を取り 盾を構え 前に踏み出せ 勇者よ~

どんなに敵が 強大であっても 未来を切り拓け 我らが友よ~

戦え 戦え 戦え~ 我ら 魔王 討伐軍

例え一人になろうとも 命燃やし突き進む

我らこそ最後の戦士 人類最後の希望~~ 魔王討伐軍

進め 進め 進め~ 命を燃やせ~』

 

“““““ウォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!”””””

燃え上がる闘志、吹き上がる覇気、魔王討伐軍八万七千の戦士たちが、今この瞬間に命のすべてを燃やして魔王軍の脅威に立ち向かう。

 

「土遁水遁<土石流>」

「“大いなる神よ、我が手に集いて<豪炎となり> <稲妻のごとき速さで>眼前の敵を貫け ファイヤーランス×1000”」

“ドガドガドガドガドガドガドガドガ、チュドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド”

ジミーとジェイクが渾身の魔法を放つ。

 

「フィリー、ディア、聖霊魔法を解禁する。存分に戦うがよい」

「はい、ボビーお義父様。リック、いくよ。“大いなる女神の奇跡を我が手に、天空の光よ、星の導きよ、集いて我が敵を打ち滅ぼさん、スターライトシャワー”」

「エディー、出番です。<グレイトキャッスルウォール><ハイパーシールドバッシュ>」

“パーーーッ、ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン、ゴゴゴゴゴゴゴゴッ、ズドーーーーン”

天から降り注ぐ滅びの光、戦場に突然現れた巨大な城壁が、有り得ない速度で敵に向かい突進する。

「ジェイク、グロリアス、大福ドラゴンヒドラの首を落とすぞ!! 聖剣術<次元断絶>」

「「聖剣術<次元断絶>」」

“シュパシュパシュパシュパシュパシュパンッ、ドサドサドサドサドサドサ”

勇者により振るわれた聖剣バルボアは、本来の勇者の剣としての威力を取り戻し、一度に四本もの巨大ヒドラの首を切り落とす。だが・・・。

 

“ガバッ、ガバガバガバガバガバッ”

再び胴体より伸びるヒドラの首、そればかりか切り落とされた首が姿を変え、ドラゴンナイトとなって魔王討伐軍に襲い掛かる。

 

“““““グガァァァァァァァァァァァァァァ”””””

“““““ウォォォォォォォォォォォォォォォ”””””

ぶつかり合う戦士と魔獣、人類の存続を賭けた激しく熱い戦いが、広い草原で繰り広げられる。

 

だが、魔王軍の圧倒的な戦力は、一見拮抗しているように見える戦いを確実に侵食していく。

 

「我が愛剣に切れぬ物なし。<一振万殺>」

“シュパンッ、ドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサ”

 

“カァカァカァ、バシュンッ”

「「「「「ぐわ~~~~~~」」」」」

 

“グズグズグズグズグズグズグズグズグズ”

身体が腐り果て。

“ゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワ”

全身の穴という穴から血が噴き出し。

“ギリギリギリギリギリギリギリギリギリ”

逃れようのない恐怖に押し潰されながら、肉体を食い千切られていく。

 

「「「「「ギャ~~~~~~~~~~~~~~~!!」」」」」

 

だが魔王討伐軍は止まらない。騎乗した騎士が、馬車に揺られていた聖職者が、貴族や冒険者といった身分の違う者たちが、魔王討伐という一つの目標を目指し突き進む。

我らは人類最後の希望、この魂を焦がす灼熱の思いは、例えこの身が砕け散ろうと止まることはないのだから。

 

「勇者グロリアス、今こそ決着の時。我が愛剣グランゾートの一撃、受けてみよ」

「私は勇者グロリアス、人類最後の希望、決して怯まぬ、諦めぬ、ウォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

“ガキンッ、ガキカキガキガキガキガキガキガキガキガキッ”

飛び散る火花、剣身から神気を吹き出す聖剣バルボアと聖霊剣グランゾートは、周囲を爆風で吹き飛ばしながらも止まることのない斬りつけ合いを繰り広げる。

 

「ハッハッハッハッ、いい感じに狂ってるじゃないか、それでこそ光の勇者、人類の希望グロリアス。ならば我が最高の剣技にて応えよう」

“タンッ”

互いに開く間合い、勇者グロリアスが聖剣術<次元断絶>を放とうとした時であった。

 

「<剣我合一:紅花一閃>」

“シュン、スーーーーー、ガチャン”

“バキンッ、ドサッ”

 

「・・・やべっ、聖剣バルボアまで斬っちゃった」

“当然です、ブー太郎様と私の愛の一閃、切れぬ物はありません!! これぞ夫婦の共同作業♪”

 

「黙れ駄剣、送還するぞ。取り合えず鞘にしまっておけばくっ付くのかな? 一応ケビンさんに見てもらわないと」

飛び交う魔法、唸る剣技、次々と倒れていく魔王討伐軍の戦士たち。より激しさを増す戦いに、魔王討伐軍は最後の灯を燃え上がらせる。

 

「ワッハッハッハッハッ、何だこの有り得ない戦いは。これが伝承に謳われた魔王と人類との戦い、よく滅びんかったな人類」

「大剣聖、笑っとらんでまじめにやらんか。ジェイクたちと共同で大福を討ち取るぞ」

 

「あの首は一本一本斬っても駄目だ、八本いっぺんに切り落とす。ジミー、ジェイク、ボビー、クルーガル、白雲、グランド、グルゴ、ザルバ、ギース、一気に行くぞ」

「「「「「「「「「オウ」」」」」」」」」

“ピシュピシュピシュピシュン”

強大な敵を前に、油断など微塵もしていなかった。だが狩りに入る瞬間、その刹那の隙間を畑の守護者たちは見逃さなかった。

 

““““グギャァァァァァァァァァァ””””

“ドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサッ”

一度傾いた戦局が戻ることはなかった。主軸を失った魔王討伐軍は残された者たちの奮闘虚しく次々と討ち取られ。

 

「この戦い、私たちの負けのようですね。ですが私たちは、人類は、決して魔王に屈したりはしない!!」

残された戦士たちは、最後の力を振り絞り戦いを挑む。そして決して諦めないその思いは、一つの奇跡を呼び寄せる。

 

「“ア~ア~ア~ア~~~

はじめ闇があ~った~

女神様は光を 求められた~

つぎに火を灯した~

土を集め火で溶かし~ 溶けた土で火を覆~った~

水を掛け土を冷やし~ 大地と海が生まれた~”」

それは美しい調べ、戦いに敗れ散っていった仲間たちへの追悼の歌。

 

「“立ち昇る湯気を風で冷まし 空と雲とが生まれた~

火は闇より生まれた 闇より生まれた火は今も~ 大地の底で燃え盛る~

闇と火とは一つに混ざり~ 天地を溶かす創造の~ 獄炎とならん~

あぁ~女神よ 全ての母よ~

今ここにこの歌を捧げん~”」

天地創造、この世の始まりを歌った祈りの歌は、大地の奥深くに眠る創造の炎を呼び覚ます。

 

“ブウォォォォォォォォォォォォォォォッ”

吹き上がる炎は大地を溶かし、天を穿つ。極炎と呼ぶにふさわしい原初の光は、あらゆる厄災を呑み込み始まりへと変える。それはすなわち無の世界、善もなく悪もない、ただ燃え盛る紅蓮と闇の炎だけが世界を支配する。

 

“パンッ、パンッ、パンッ、パンッ”

その炎の中、静寂を破るかのように拍手が鳴り響く。

 

“素晴らしい、素晴らしきかな人類。決して最後まで諦めることなく我に逆らい続けたその姿勢、その闘志、我は君たちを祝福しよう。

この戦いは君たちの勝利だ。我は君たちの勝利を讃え、この場を下がるものとする。

誇るといい、語り伝えるといい、君たちは多くの人類を救った英雄であると。

さらばだ人類、愛おしき人々よ、我は君たちを見続けていこう”

“ブワァァァァァァァァァァァァァァァァァ”

 

大地が輝く、巨大な魔法陣が出現し極炎が呑み込まれていく。全てが消え去り、光の魔法陣が弾けるように闇に溶けた後、そこには星々の輝く美しい夜空が広がっているのであった。

 

『マルセル村バトルフィールドをご利用のお客様に申し上げます。只今登録名“魔王討伐軍”の全滅が確認されました。これにより登録名“魔王軍”の勝利が確定したことをお知らせいたします。

本日は当マルセル村バトルフィールドをご利用いただき誠にありがとうございました。お帰りの際は足もとに十分お気をつけて、お怪我などなさいませんようお願いいたします。本日は誠にありがとうございました』

祭りが終わる、村人たちは祭りの余韻に浸りながら家路に就く。夜空に浮かぶ星々は、そんなマルセル村の人々を静かに見守り続けるのであった。

 




おはようございます。
いってらっしゃい。
by@aozora
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