転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第89話 転生勇者、マルセル村に向け出立する

村人の目覚めは早い。

普段から早朝の畑仕事に精を出す村人ボイルはもとより、健康広場での朝の体操教室に参加するマルセル村の子供たちは、大人に起こされなくてもしっかり目を覚まし行動を開始する。

 

「おはようございます、ボイルさん。僕ちょっと教会に用があるんで少し出ますね、朝食の時間までには戻りますんで。遅くなるようだったら先に朝食を始めておいてください。それとブー太郎の事をよろしくお願いします」

 

ミルガルの街の宿屋“ブラックウルフの尻尾亭”に宿泊した翌日、ケビンお兄ちゃんは早朝から何やら慌ただしく出掛け、ボイルさんは村で頼まれた買い物の買い忘れが無いか買い物リストのチェックを行っている。ボビー師匠は結局昨夜は戻っては来なかった様で、大部屋に並んだ六つのベットは一つだけ皺も無く綺麗な状態のままであった。

 

「おはようブー太郎君、昨夜はよく眠れたかな?ケビン君に聞いたら君は木の実や野草が好きらしいじゃないか。今朝は朝早くに仕入れた野菜をふんだんに使ったサラダを用意したんだ。しっかり食べて栄養を取ってくれ。

皆さんおはようございます、朝食をお持ちいたしました。温かいうちにお召し上がりください」

宿屋のご主人、ブレません。従魔大好きのご主人はブー太郎最優先、今朝はブー太郎の為の特別メニューの様です。

 

“フゴフゴフゴ~♪”

うん、ブー太郎、大満足の様でとってもご機嫌。ケビンお兄ちゃんが“お前だけズルくね?”とか言っていますが、ブー太郎さんは完全無視の構えの様です。

今朝のメニューは野菜スープにパンとサラダと言ったシンプルな物。この村では食べる事の出来ない少し柔らかいパンは是非お持ち帰りしたいのですが、荷物になるから駄目なんでしょうね。

 

「あ、パンだったら今朝買い込んで来たから道中は食べれるよ。最も堅パンと違って日持ちしないから、村にお土産として買って帰る事は出来ないんだけどね」

流石はケビンお兄ちゃん、食べ物の事に関しては他の追随を許しません。今朝出掛けたあの短い時間でパン屋さんに寄って購入して来てくれたんだそうです。帰りの道中も堅パンだと思っていた俺とエミリーとジミーは、揃ってガッツポーズを取って喜びを露にします。いよ、食料大臣閣下、頼もしいです。

 

食事を終え、忘れ物が無いか確認をしてから部屋を出た僕たち、皆して宿屋の受付に向かうと長椅子に腰を下ろしぐたっとしているとある人物を発見。

 

「「「おはようございます、ボビー師匠。昨夜はお楽しみでしたね?」」」

“ブフォ”

 

俺たちの声掛けに噴き出すボイルさん、宿屋のご主人は肩を震わせながら笑うのを堪えています。でも宿屋と言ったらこのセリフでしょう、確かドラゴンを探すRPGゲームの中で宿屋の主人が言うセリフじゃなかったかな?何にしてもお約束を叶える事が出来たので、俺は大満足です。

 

「ねぇねぇジェイク君、ジェイク君がこれは宿屋のマナーだからって言うからやってみたけどボイルさんたち笑ってるよ?」

「ジェイク、もしかしてお前まで<仮性>の症状が。本気で気を付けないと劣化版ケビンお兄ちゃんになっちゃうぞ?」

うっ、エミリーの疑いの眼差しが痛い。そしてジミー師匠、マジですみませんでした。劣化版ケビンお兄ちゃんばかりは勘弁してください。

 

「う~、あまり大きな声は掛けないでくれ~、頭が~。ケビンや、水を貰えんかの」

唸り声をあげケビンお兄ちゃんに助けを求めるボビー師匠、一体どれほど飲んだのやら。他人のふり見て我がふり直せ、酒は飲んでも飲まれるな。お酒には気を付けようと心に誓うチビッ子軍団なのでありました。

 

「大丈夫ですかボビー師匠、これから馬車の旅ですよ?確実に吐きますよ?本来ならこのままお連れするところですが、それだと我々が危ないので今回だけは手を貸しますが、本当にほどほどでお願いしますね」

そう言い腰のポーチから何かを取り出すケビンお兄ちゃん。ボビー師匠はそれを受け取ると蓋を開け一気に飲み干しました。

 

「ふ~、助かったわい。しかしケビンや、よく酔い醒ましなんぞ持っておったの。まだ街の薬屋も開いておらんであろうに」

 

「あぁ、これですか?ミランダさんの調薬教室で習った薬ですね。王都の薬師の小遣い稼ぎの手段なんだそうです。冒険者だけじゃなくても男性はお酒におぼれる人が多いですからね、結構な売り上げになるんだそうですよ。

他にも食べ過ぎや胃もたれに効く薬とか、肩こりや腰の痛みを和らげる軟膏とか。ポーションを買うまでもない様々な症状に対応した所謂生活薬は調薬スキルが無くても調合できる薬として結構出回っているんですよ。本当は荷馬車に酔った時用に用意していたんですが、役に立ったのならよかったです。その代わり帰路の護衛もよろしくお願いしますね」

そう言い仕方がありませんねと言った顔をするケビンお兄ちゃん、これってどっちが引率か分からないです。ケビンお兄ちゃんマジ優秀。ですので帰りの行程ではフォレストウルフを雇ったりしないでください。“オークの森って怖いよね”とか言いながらやりそうなんで怖いです。

グラスウルフやオークのブー太郎を雇い入れた実績のあるケビンに、一抹の不安を覚えるジェイク少年なのでありました。

 

――――――――――――

 

ミルガルの街の夜が明ける。街門の開門時間に合わせ街を出発する多くの荷馬車、街の大通りは朝早くから多くの馬車が走り、朝の労働者目当てに数多くの屋台が軒を連ねる。そんな朝の大通りを早足で駆ける一人の少年、彼が目指す先にあったもの、それは荘厳でありながら重厚な造りのミルガルの街の大聖堂。

 

「おはようございます、シスター。昨日お世話になりました、マルセル村のケビンと言います。本日出発する前にご挨拶をと思いまして、シスターアマンダはいらっしゃいますか?」

俺は笑顔で挨拶をすると、今後の布石を打つ為に、ミルガルの街の教会を実質的に取り仕切る人物にコンタクトを取るのでした。

 

「では今後ともマルセル村をよろしくお願いします」

笑顔で見送るシスターたちに挨拶をし、教会を後にする俺氏。やはりどこの世界でも女性は強い、そう確信させる一幕でありました。(ガクブル)

話し合いが簡単に済んだので、今度は食料の調達です。教会の前には朝早くから多くの屋台が並んでいます。

 

「お姉さんおはようございます。朝早くから大変ですね」

 

「おや、昨日の坊や。朝のお祈りかい?偉いね~、女神様もお喜びになるよ。それでどうかしたのかい」

 

「はい、僕たち今日村に帰るんで、お昼の食事用に昨日のピタパンの肉野菜包みを買って行こうかと思って」

(ひそひそ声)

“ここだけの話しなんですが、このカバン少量のマジックバックなんですよ。大体五倍くらいの量が入るんです。まぁ量が入るってだけなんで重さとか鮮度とかはどうにもならないんですが、零れちゃう様なものとか割れ物を運ぶのには凄く便利なんですよ。だから買い出しに来れたんですけどね”

 

“へ~、凄いもんだね。そんなんでも冒険者にしたら垂涎だよ。マジックポーチって言う少し多めに物が入るポーチでさえ金貨一枚はするからね。坊やのカバンなら金貨二枚はするんじゃないかい?”

“ですので内緒って事で。それでピタパンの肉野菜包みを十個もらえますか?食いしん坊たちが一つじゃ足りないって言うんですよ”

 

“ハハハハ、お兄ちゃんは大変だね。今用意するから屋台の後ろにおいで、それで出来た端からしまっちゃいな。お代は銅貨四十枚だよ”

“ありがとうございます、助かります”

俺はお姉さんのご厚意で屋台の裏で商品を受け取り、カバンに入れる振りをして収納の腕輪に仕舞い込むのでした。

 

「はいよ、これは坊やにおまけだ。帰りの道中も気を付けるんだよ。またミルガルの街に来たら是非寄っておくれ」

 

「ありがとうございます、お姉さん。絶対に寄らせてもらうね。ピタパンの肉野菜包み、とっても美味しかったです。ごちそうさまでした」

俺は最後に受け取った一つを腕輪に収納すると、元気よく手を振ってその場を後にするのでした。

 

その後串肉の屋台や蒸し饅頭の屋台、果物のお店を回り買った商品をホーンラビットの皮で作った革袋(毛は付いてません)に仕舞ってからカバンに入れると言う作業を繰り返し、最後にパン屋に寄って帰りの分のパンを購入。大き目の布袋(攻撃糸製)に詰め込んでもらい、それを担いで宿屋に帰りました。

 

「ボイルさん、帰りの道中で食べるパンを買って来たよってこの入り口付近で死んだ様な顔をしてるかわいそうな老人は一体?」

 

「あぁ、ボビー師匠は朝方まで司祭様に捕まっていたらしくてね。先程戻られた所なんだよ。取り敢えず部屋に戻って食事にしようか、ボビー師匠はどうせ食べれないだろうから」

 

「そうですね、そっとしておきましょう」

飲みにケーションの悲しい犠牲、ボビー師匠のご冥福をお祈りいたします。

 

 

「「「おはようございます、ボビー師匠。昨夜はお楽しみでしたね?」」」

“ブフォ”

食事を終えフロントに向かった所で、チビッ子軍団がボビー師匠にとんでもないセリフをぶちかまして来た。これ絶対ジェイク君の仕込みだろう、凄い満足気な顔をしてるじゃん。そりゃお約束だけれどもさ、普通やるかねそれ。

転生勇者ジェイク君、本領発揮です。ボイルさんと宿の主人さん、めっちゃ肩震わせてるし。ボビー師匠はそのセリフよりも子供の大きな声にやられて唸ってるし。

ジェイク君が放ったのは範囲系攻撃だった様です。俺は必死にポーカーフェイスをキープしております。腹筋超痛い。

 

そんで俺に助けを求めるボビー師匠に酔い止めを進呈、これって領都や王都だと結構売れるらしいです。飲み過ぎるお馬鹿さんは何処にでもいるんですね、もしもの際の収入源ゲット。ボビー師匠の様子を見る限り俺の作った酔い止めはかなり効果が高いみたい、普通こんなにすぐには効かない筈だからな~(ミランダさん情報)。

まぁこれぐらいの性能差ならいい宣伝になる程度の問題でしょう、多分。

 

「「「「お世話になりました」」」」

 

「いえいえ、こちらこそいい出会いをありがとうございます。ブー太郎君も元気で」

“ブゴ、フゴフゴ”

 

「あぁ、あの敷物は領都の従魔専門店で購入したものなんだよ。このミルガルでは扱ってないんだよ、力になれなくてすまないね」

“フゴ、フゴブ”

 

「いえいえどういたしまして、あのサラダは自信作なんだ。もしまたこのミルガルの街に来る事があったら是非寄って欲しい。そうしたらまた朝食に出してあげよう」

“フゴ、フゴフゴ”

 

「ありがとう、ブー太郎君もお元気で、道中気を付けてね」

 

いつまでも手を振り見送ってくれるご主人。“ブラックウルフの尻尾亭”、大変すばらしい宿屋でした。なんか荷台でチビッ子軍団が“あの宿屋のご主人、ブー太郎と完璧にお話ししてなかった?”とか、“従魔とお話し出来るのって普通なの?私団子ちゃんとお話ししたい。”とか仰っていますが、これってそんなに珍しい事なんだろうか?

やってれば自然と出来そうなもんだけど。

 

「イヤイヤイヤ、そんなのはお前らだけだからの?あの宿屋の主人とケビンがおかしいだけじゃから、テイマーとて自身が契約した魔獣としか意思の疎通は取れんから」

そう言いジト目を向けるボビー師匠とそれに同調するように頷くボイルさん。

そんな大人たちに、どこか納得出来ないと言った顔のケビン少年なのでありました。




本日一話目です。
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