転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第892話 祭りの翌日は後片付け 王都編

それはある種異様な光景であった。オーランド王国中から人と物とが集まり常に活気と喧騒漂う王都バルセン、そんな政治経済の中心地から物音が消えた。馬車は止まり、街道を行く人々は皆その場で蹲り、荷物運びも店の売り子も、男も女も大人も子供も、老若男女関係なく身を震わせ恐怖に怯える。

王都を覆う強大な覇気と魔力は王都民に自身が矮小な小虫である事を物理的に分からせ、王都はオーランド王国で一番安全な土地であり王都民こそ至高の存在であると言う幻想を打ち砕く。

 

一年前、王都はドラゴンの襲来を受けた。大気はドラゴンの咆哮に揺れ、大地は激しい戦闘の衝撃に震え、天はドラゴンブレスに焼かれ朱に染まった。

天に渦巻く黒雲、王都上空を低空で飛ぶ五体の巨大な魔物、ドラゴンの大侵攻は王都民を恐怖のどん底に突き落とし、オーランド王国の滅亡を幻視させた。

 

だが自分たちは生き残った。ドラゴンにより王城の一部が破壊されたものの、他にドラゴンによる直接的な被害はなく、教会の司祭やシスターが説く“王都バルセンは女神様に守られている、我々は選ばれた民なのである”という言葉は、恐怖に震える王都民に広く受け入れられた。

傷付き委縮した自尊心は“選ばれた民”という特別感により回復された。オーランド王国の民として、女神様に選ばれた神の子として。

王都経済は驚くほどの速さで復興を遂げ、王都バルセンは新たな一歩を踏み出した。

 

そんな王都民に齎された魔王発生の知らせ、辺境の蛮族と恐れられてきたホーンラビット伯爵家に持ち上がった疑惑。ここ数年の間に発生したオーランド王国内の様々な騒動、その全てが一つの真実に結び付いていく。

 

“オーランド王国に起きた全ての不幸は狡猾の魔王の謀略である”

ボルグ教国より立ち上がった魔王討伐軍、光の勇者グロリアス・ブリッジと勇者パーティーの来訪は、王都民により熱狂的に向かえ入れられた。

オーランド王国は勇者グロリアスと魔王討伐軍により救われる、無条件に受け入れられた勇者による英雄譚、自分たちは歴史の生き証人としてこの出来事を後世に伝えていく。

 

““““““““““ブウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォぉォォォォォォォォォ””””””””””

自分たちは何を勘違いしていたのか、ホーンラビット伯爵家騎士団が何故辺境の蛮族という異名を与えられたのか、一年戦争を終結させたのは一体誰であったのか。聖者の行進の裏に隠された真実、辺境の伯爵家騎士団が一国の紛争を終結に導いた異常。

 

自分たちは一体何を敵に回してしまった?

魔王は勇者に討たれ、世界に平和が齎された。勇者物語の伝説は、人類の希望である勇者の勝利を確約するものであった。

我々は女神様に守られた選ばれた存在、なのに何故。

 

“パッカ、パッカ、パッカ、パッカ、パッカ、パッカ、パッカ、パッカ”

王都の大通りに騎馬の蹄の音が響く。誰しもが蹲り恐怖に震える中、その一団は何食わぬ様子で歩を進める。

それは恐怖の中心、恐れの元凶、人々はその圧倒的気配に這いつくばりながらも必死にその場から逃れようとする。

彼らは進む、王都の大通りを、一路王城を目指して。

 

――――――――――――

 

「ケビン君、なんか凄い事になっちゃってるね、これって大丈夫なのかな?」

「今更何を仰いますか、ボルグ教国から名指しで魔王認定された俺を庇った段階で、ホーンラビット伯爵家の取れる道は一つしかないんです。あそこにはかかわらないでおこう、ホーンラビット伯爵家はこれといってお金が掛かることもありませんし、周りが避けてくれるならそれに越したことはありません。

オーランド王国の中枢がしっかり学んでくれたんならむしろ良かったじゃありませんか、どうせ俺たちは辺境の引き籠りなんですから」

俺の言葉に「まぁ、それもそうなんだけどね」と苦笑いを浮かべるホーンラビット伯爵閣下、言いたいことは分かりますがこれも全ては平穏でのんびりとした生活を手に入れる為の布石、その心労は甘んじて受け入れてください。

 

王都北街門から並足で王城を目指すホーンラビット伯爵家騎士団の一行、周囲は蹲り頭を隠す人々で溢れかえる混沌とした状況、騎士団の皆様も何とも言えないコレジャナイ感を味わっておられる様子。

そんな中、街道の脇に立ち、深々と一礼を送るメイドが一人。

 

「十六夜、王都に特段問題はなかったか?」

「はい、魔王討伐軍が出立して三週間が経ちました頃、王家が王命に逆らった貴族家の一斉摘発を行いました。罪状は様々、横領・脅迫・殺人教唆・国家反逆、狙われた貴族家には借金取りが押し寄せ、家財から隠し財産に至るまですべての富を取り上げられた由にございます」

十六夜の報告に暫し頭を働かせた後、俺はホーンラビット伯爵閣下に顔を向け声を掛ける。

 

「ホーンラビット伯爵閣下、貴族街に向かってベルツシュタイン伯爵閣下のお屋敷に顔を出したら、王都諜報組織“影”の案内で貴族街巡りをしちゃいませんか? どうもご挨拶をしなくちゃいけない家が多そうですし、王城に向かってから貴族街巡りっていうのもね。

十六夜の話じゃそうした貴族家の殆どが粛清を受けちゃってるみたいですし、そこまで多くを回る必要はないでしょうが」

俺の言葉に「それもそうだね」と納得されるホーンラビット伯爵閣下、俺たちは十六夜の案内に従い貴族街へ向かうと、王都諜報組織“影”の総帥、ハインリッヒ・ベルツシュタイン伯爵閣下のお屋敷へと向かうのでした。

 

「失礼、我らはホーンラビット伯爵家騎士団の者、ハインリッヒ・ベルツシュタイン伯爵閣下にお目通りを願いたいのだがよろしいだろうか?」

ベルツシュタイン伯爵邸の門前、門兵に言葉を向け返事を待つも、中々答えは返ってこず。仕方がないのでベルツシュタイン伯爵邸を範囲指定し、指定範囲内の覇気と魔力による威圧を解除することに。

 

「すみません、ベルツシュタイン伯爵閣下はおられますでしょうか?

私たちはホーンラビット伯爵家騎士団の者なのですが、少々お願いしたい事がございまして」

「ウグッ、あ、あぁ。少々お待ちいただきたい、今すぐ伯爵閣下に確認をしてまいる」

門兵は地面から立ち上がりざまそう言うと、もう一人の門兵に目配せをしてから、伯爵邸に向かい走って行かれます。

 

「素晴らしいですね」

「そうだな、どのような状況に置かれていても職務を忘れず、いつでも行動を起こせるよう自らの心に言い聞かせる。一見簡単なように見えてこれができる者は真の強者たちのみだ、この一事を以ってベルツシュタイン伯爵家の兵士の練度が伺える。流石は王都諜報組織“影”といったところだな」

声を掛けてきた者は巨馬に跨った巨漢、鬼神ヘンリー・ドラゴンロード男爵。っていうかお父様、めっちゃ獰猛な笑みを浮かべてますけど喰っちゃ駄目ですからね、ちょっとだけとかも駄目ですから~~~~!!

 

「チィッ、ケビンはそういうところ融通が利かない、少しくらい遊ばせてくれても罰は当たらんだろうが」

「駄目って言ってるだろうが、この戦闘狂!! どうしても暴れたかったら後で冒険者ギルド本部にでも行ってこい!! あそこなら白金級冒険者だっているだろうし、相手してくれるかもしれないから」

俺の言葉に「ふむ、それも面白そうだ」と悪戯心を引っ込める鬼神、でもこの騒ぎに駆け付けない辺りそれ程期待できないんだろうけど、まぁ頑張れ。

 

その後屋敷正門前に現れたベルツシュタイン伯爵閣下に事の経緯を説明し、王都諜報組織“影”の皆様の案内で粛清を逃れた貴族家を一軒一軒回ったんですが、皆さん大変快く話を聞いてくださり、後程ベルツシュタイン伯爵閣下経由で賠償金の支払いに応じてくださることとなりました。

まぁ話し合いの前にエリアクリーンが必要だったことは貴族の名誉にかかわる事なので、胸の内に留めることといたしましょう。

 

貴族家巡りが終わったホーンラビット伯爵家騎士団が次に向かった先は王城、辿り着いた王城前は扉が確りと塞がれ、ちょっとした戒厳令の様相を呈しています。俺は「それじゃ俺が」と言ってグレートソードと斬馬刀を引き抜こうとする戦闘馬鹿を引き止め、「俺が開けますから!!」と言って魔力の触腕を使ってチョチョイと開きま・・・なんか硬い。

“ブォッ”

「<収納>」

これでキレイさっぱり問題なし。

 

「・・・なぁ、これって俺が<双龍牙>を使うのと何が違うんだ?」

「そうじゃの、何故か地面ごとごっそり消えておるの」

そこにはぽっかりと空いた大きな穴、俺は収納の腕輪に保存してある土でサクッと穴を埋め、生活魔法<ブロック>で固くしてから何食わぬ顔で先へ進むのでした。

 

――――――――――――――

 

謁見の間、そこは来訪者が国王との謁見を果たす神聖な場所。

どれ程功績を上げた者であれ、国賓として招かれた者であれ、例え他国からの使者であっても必ずこの謁見の間での挨拶を行い、互いの立場を明確化する。それは国を維持する者として必要なことであり、国家の権威を示す為の重要な儀式に他ならない。

 

「メルビアよ、第二王妃と第三王妃はどうした?」

その声は謁見の間の最奥、玉座に座る国王ゾルバ・グラン・オーランドから掛けられた。

 

「はい、第二王妃はブライアントの一件以来塞ぎがちになっていましたので。第三王妃はクロッカスの件を受け、自ら蟄居を申し出ておりましたから部屋の方に」

第一王妃メルビア・リア・オーランドの言葉に「そうであるか」と小さく返すゾルバ国王。王宮内の権力争いがあるとはいえ、比較的平穏に済んでいたことはメルビア王妃が実権を握り目を光らせていたからに他ならない。各王妃に気を掛け何かと手を差し伸べていたメルビア王妃に、今更ながら感謝の気持ちが湧いてくる。

謁見の間に集まった王族はゾルバ国王とメルビア王妃、それとレブル王太子の三人。

 

「アルデンティアはどうした、王都学園は休校であったはずではなかったか?」

「はい、アルデンティア第四王子は王都に残った各貴族家が動揺し下手な行動を起こさぬよう、バルーセン公爵と共に力を尽くしているようでして、今日は魔法学園と武術学園に顔を出すと申しておりました」

 

「そうであるか、下位貴族家や平民が中心の両学園は平常通りに授業が行われていたのであったな。アルデンティアも一学年の頃はどうなるものかと思っていたが、立派になったものだ。これもメルビアとヘルザーの再教育の賜物、感謝しよう」

未だ続く恐怖の震え、そんな中ゾルバ国王はメルビア王妃のこれまでの行いに、不器用ながら感謝の言葉を送る。メルビア王妃はそんな夫に小さく微笑みを返し、これから始まる終焉を静かに受け入れる。

 

「お二人共、仲がよろしいのは素晴らしい事ですが、どうやらホーンラビット伯爵が到着したようですよ。こんな事になるのなら妻を避暑地に連れて行ってやるんでしたよ、アイツも何で実家に帰らなかったんだか。

フレアリーズが避難できただけでも良しとしますか」

王太子レブル・ウル・オーランドが肩を竦め戯けてみせる。手先を震わせ奥歯をカタカタ鳴らすも、必死にそれを隠しながら。

 

“カツンッ、カツンッ、カツンッ、カツンッ”

王城の廊下に響く靴の音。

 

“ガチャッ、スーーーーッ、ブワァァァァァァァァァァ”

静かに開かれた扉、それと共に膨大な覇気と魔力が流れ込む。

 

“カツンッ、カツンッ、カツンッ、カツンッ”

「お久し振りでございます、ゾルバ国王陛下。こうして直接お会いするのは私が陞爵の為王城に呼ばれて以来でしょうか、何分辺境の田舎者故王都貴族の集まりにも出席せず、大変申し訳ありません」

それは扉を開けこの場にやって来た者の言葉、呼ばれた訳でもない、手順を踏んだわけでもない。ただ圧倒的な実力と敵対者としての当然の権利を行使し、オーランド王国の終わりを告げにきた者。

 

「先ずはご報告を、この度魔王討伐軍と称し我がホーンラビット伯爵領に攻め入ってきた者たちとの小競り合いは、ホーンラビット伯爵家の勝利で終息いたしました。我が家に喧嘩を売ってきた各貴族家には王城にお伺いする前に立ち寄らせていただき、賠償等の話し合いを行わせていただきました。

ただ残念なことに多くの貴族家がすでにお取り潰しになっていた様子、王都も大変な騒ぎがあったのだろうと驚いた次第です」

ホーンラビット伯爵は一体何と言ったのか、王都を出発した八万七千もの魔王討伐軍との戦いを()()()()()と、ホーンラビット伯爵家の勝利で終息したと。一切の感情の起伏も見せず淡々と語るホーンラビット伯爵の様子に、その場の者たちは魂の震えを感じざるを得ない。この人物は、ホーンラビット伯爵家は、決して手を出してはいけない上位者であるのだと。

 

「ふむ、ケビン君、どうもこのままだと話が進みそうにないですね」

「承知いたしました、ドレイク・ホーンラビット伯爵閣下。皆の者、これはドレイク閣下の慈悲である、心して受け取るように。

<範囲指定:王都全体:広域浄土化:エリアクリーン:エリアキュア:エリアヒール:癒しの覇気>」

“ブワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ”

 

それは王城を中心に広がる奇跡の光、これまで王都を覆い尽くしていた強大な覇気と魔力が、爽やかで温かな光に呑み込まれていく。

大地が輝き、大気が澄み切り、すべての穢れが光と共に消えていく。

 

「・・・ケビン、やり過ぎ。これじゃまた教会が“王都民は選ばれし民”とかふざけたことを言い始める」

「・・・あっ、それじゃもう一回王都全体に覇気と魔力を」

「「「「「「「「「「それだけは勘弁してください!!」」」」」」」」」」

玉座を降りなりふり構わず床に土下座する王城の者たち。

ホーンラビット伯爵家旗下ケビン・ワイルドウッド男爵はキリリとした表情を作ると、「ドレイク・ホーンラビット伯爵閣下、いかがなさいますか?」と言って責任を上司に擦り付けるのであった。




おはようございます。
いってらっしゃい。
by@aozora
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