転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第896話 祭りの翌日は後片付け ボルグ教国編

“コツンッ、コツンッ、コツンッ、コツンッ”

そこは光の届かぬ地の底の空間、時代の波に翻弄され、歴史の闇に葬り去られた者たちの怨念渦巻く封じられし地下倉庫。

 

「毒を以て毒を制す、本当に隠したいものの上に人の悪意を積み重ねるのは教会組織の伝統なのかね? しかも呪物倉庫の封印が歴代の大聖女や聖人の墓所って、教会の闇って深いわ~。取り合えず全部収納かな? その後はお楽しみだよね」

“ブワッ”

闇の世界を更なる濃厚な闇属性魔力が覆い尽くす、そしてその魔力が消え去った時、闇の地下倉庫は何もないただの暗がりへと姿を変える。

 

「トライデント、何が起こるか分からない、<神聖魔法>による結界を頼む。ただし、上の者に気取られないように徹底的に隠蔽を施してくれ。残月はトライデントの補助に回ってくれ、何が起きても全てを覆い隠せるように頼む」

「「畏まりました、御主人様(マスター)」」

“ブウンッ”

瞬間的に張られた神聖魔法による結界、強固な守りが展開されたところで俺の興味はこの地下倉庫の下に隠された秘密の空間に向けられる。

 

「黒鴉、<精霊化>だ。では行ってくる」

“スーーーーッ”

俺の身体が静かに床下へと沈んでいく。床には厳重な魔法的封印結界が施されているものの、それは内側からの力を抑え込む為のものであり、外部からの侵入は比較的容易であることが幸いした。

 

そこはまるで神聖な儀式場のような場所であった。部屋の中心には黒く巨大な塊が置かれ、奥に備えられた祭壇には四角い石の棺のようなものが鎮座している。

俺は宙に浮きながら祭壇へ向かうと、その上蓋に手を掛けゆっくりと退けていく。

 

「は? エリザベス? なんでエリザベスがここに」

石棺の中に入っていた物は一人の女性、その姿はケーナの専属世話係であるエリザベスそっくりなもの。

 

「<業務連絡:悪いエリザベス、ちょっと確認してもらいたい事態が発生した、呼び出すから応じてくれ>、<出張:エリザベス>」

“ズウォン”

床に広がる漆黒の炎、やがてそれは一つの魔法陣を描き出し、その中心から黒の帽子にベールを掛けた喪服ドレス姿の女性が姿を現す。

 

「エリザベス、夜遅くに済まない。先程も業務連絡で伝えたが、少し確認してもらいたい事案が発生してな。見て欲しい物はこれなんだが」

そう言い俺が差し示した物は、上蓋がずれ中が覗けるようになった石棺。エリザベスは石棺に近寄り中を覗くと顔を顰め、「ようやく出会えましたか、我が肉体」と小さく呟く。

 

「あぁ、やっぱりそういう事か。確か復活を防ぐ為、心臓をくり貫かれて肉体とは別々にされたんだっけ? それでその心臓を狂った聖女が持ち出してって、月白の奴あの地下倉庫から心臓を持ち去ったのかよ、ある意味凄いな。

それじゃこの女性は生前のエリザベスの肉体ってことでいいんだな?」

「はい、御主人様、間違いありません。このまま残しておいても碌なことになりませんので吸収してしまってもよろしいでしょうか?」

エリザベスの言葉に俺は小さく頷く。呪い人形にされた放浪の大聖女の肉体、生き人形にされた剣の勇者と仲間の賢者、力ある肉体はそれだけで人々の欲望を掻き立てる呪物となり得る。

 

“ブワッ”

エリザベスが漆黒の闇のベールに包まれる。周囲にこの世の全てを恨む呪詛が広がり、その姿が禍々しい瘴気を放つ呪われたサーベルへと変わっていく。

 

『何だ、騒々しい』

それは深淵の闇の奥から響くような重圧の籠った物、その場にいる誰のものでもない謎の声音。

 

“ズズズズズズッ、ドガーーン”

音を立て床に落ちる石棺の蓋、開かれた棺からゆっくりと上体を起こす美しい女性。

 

『何だ貴様らは、我が眠りを妨げたのは貴様らであろう』

“ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ”

闇の気配が渦巻く、最悪の魔王デビルトレントの遺骸にも匹敵する強烈な瘴気が、神聖な地下空間に渦巻き始める。

 

「ふむ、既に受肉した、いや、遠隔操作? 魔力の流れる先はあの漆黒の塊。一つ聞いてもいいでしょうか、あなたは一体何者なのですか?」

俺が周囲の様子を観察しながら言葉を向けると、何故か意外そうな顔をして言葉を返す女性。

 

『ほう、我を前に態度を変えんとは面白い、しばし貴様に付き合うも一興か。して、我が何者であるのかであったな。我こそは全てのドラゴンを統べる王、暗黒龍グラードである。我を目覚めさせたことに免じ、貴様を我が下僕としてやろう、光栄に思うがいい』

棺の女性、暗黒龍グラードはそう言うと口元を歪め嗜虐的に笑う。

 

「・・・あぁ、思い出した。遥か太古の時代、自らを龍王と名乗って全てのドラゴンに戦いを挑んだ漆黒のドラゴンがいたとか。ドラゴン同士の戦いで多くの若いドラゴンが死んだって聞いたことがあります。

その漆黒のドラゴンはより強いドラゴンに瀕死の状態にされたところを人間たちに襲われて死んだんでしたっけ? 人間がドラゴンに勝利した数少ない事例の一つとして記録に残っていたはずです」

“ブワッ、ギシギシギシギシ”

渦巻く瘴気、強い殺意が空間を物理的に締め付ける。

 

『誰が・・・誰に勝利したと? 我が人間如き矮小なる存在に負けたと申すか、この痴れ者が!!』

激しく吹き荒れる瘴気は雷光を呼び、地下空間を破壊し始める。

 

「・・・なるほど、まだ完全ではなかったと。ただそれでも相当な脅威にはなったんでしょうね、最悪の魔王デビルトレントには匹敵したのかもしれません」

“コツンッ、コツンッ、コツンッ、コツンッ”

吹き荒れる瘴気の嵐、そんな状況にありながら、俺は涼風でも浴びるような足取りで、部屋の中心にある漆黒の塊へと近付いて行く。

 

「暗黒龍グラード、それは巨大で強大な力を持つ絶対者、だがあなたはあまりに多くの者を敵に回してしまった。戦い敗れ、地に伏した。戦士であったあなたにとってそれは納得できる敗北であったのでしょう。

だがそこに横槍を入れる者たちがいた、それが人間。彼らはあろうことかドラゴンにとどめを刺す栄誉を掠め取った。あなたの怒りの源泉は戦いを汚されたこと、人間に対する激しい嫌悪と憎悪。

そしてその思いは肉体の一部と共にこの地下空間に封じられた」

部屋の中央に置かれた漆黒の大きな何か、それが一体なんであるのか。俺は憶測のままに言葉を続ける。

 

「龍王の心臓、とでも呼びましょうか。暗黒龍グラードの力は強大であった、故にその肉体は朽ちることなく強い闇属性魔力を発する呪物となった」

“ズズズズズズッ”

それは俺の足元の影から現れた。異形なる殺意の塊、この世の闇の集合体。

 

「この剣は魔剣闇喰らい、俺が育てた大切なコレクションですよ。暗黒龍グラード、あなたのその禍々しいほどの思い、美味しくいただかせてもらいますね? 闇喰らい、ディナーの時間だ、喰らい尽くせ」

“ギシギシギシギシギシギシ♪”

それは歓喜、それは狂喜、瘴気渦巻く地下空間に闇喰らいの喜びが爆発する。

 

「<出張:匠>。黒鴉、エリザベス、匠、この空間の瘴気を喰らい尽くせ、食べ放題の時間だ!!」

そこには禍々しい呪いを振りまくサーベルと清廉な空気を纏うショートソードと強い存在感を示す黒鞘の直刀が宙に浮き、地下空間に渦巻く瘴気を物凄い勢いで吸収し始める。

 

『グォォォォォォォ、な、何だ、何が起きている!? 貴様、一体何をした!!』

激しい怒声が地下空間に響く、それは次第に悲鳴にも似た叫びに変わり、声は次第に薄れていく。

 

「誇り高き者よ、権威に屈することなく、己が魂の叫びに従い世界を相手に戦い抜いた偉大なるドラゴン族の戦士、暗黒龍グラードよ。貴殿の戦いは終わった、今世の未練を捨て、来世へと旅立たれるがいい。<浄炎>」

“ブォッ”

美しい白色の炎が暗黒龍グラードの心臓を包み込む。

 

『我が、我が存在が消えていく。ドラゴンの中のドラゴン、世界の絶対者たる我がまたしても人如きに・・・』

 

「・・・<龍の全身鎧><覇王の威圧>」

“ブワッ”

突如溢れる絶対者の威圧、それは人型のドラゴン、強大な力を人の大きさに凝縮したかのようなその存在は、白き炎に焼かれ崩れ行く古代の妄執に語り掛ける。

 

「“同胞よ、太古の時代に活躍せし偉大なる戦士よ。我は見届け人、同胞の旅立ちに手を貸し、無事に来世へ送り届ける者なり。

貴殿は敗者ではない、ドラゴンの戦いに敗者など存在しない。ドラゴンの戦いとは誇りを掛けた闘争、互いの命を懸けた存在証明。結果命を落とそうと自己を証明できた者に敗北などあり得ない。

貴殿を穢していた人間の思惑は消滅した、憂いなく旅立たれよ。さらばだ、偉大なる龍王、暗黒龍グラードよ”」

『・・・同胞よ、貴殿の心遣い感謝する。最早思い残す事はない、旅立ちを受け入れ、我も逝くとしよう。さらばだ、我が友よ、貴殿の未来に幸多からんことを』

“ブワァァァァァァ”

白炎が激しく燃え上がり、白きドラゴンを形作り天に向かい飛び立っていく。俺は急ぎトライデントに業務連絡を行い、飛び立った暗黒龍グラードの魂を直接天上界に送るよう指示を出す。

 

「“あぶないあぶない、折角気持ち良く旅立った暗黒龍グラードの魂が、トライデントの張った神聖魔法の結界にはじき返されるところだったわ。いや~、焦った焦った。

エリザベス、棺の肉体はどうなってる? 暗黒龍グラードの心臓が燃えたと同時に燃え尽きちゃったんだ、ごめんね、悪いことしたね。

それじゃエリザベスと匠は戻ってくれる? 色々とありがとう”」

床に現れた二つの魔法陣、二本の魔剣はそれぞれ満足そうな気配を纏いながら魔法陣の中に沈んでいく。

俺は<龍の全身鎧>と<覇王の威圧>を解除すると、闇喰らいを収納の腕輪にしまい、黒鴉と再び合体する。

 

「さて、それじゃここでの確認も、ん? 何だこれ?」

それは燃え尽きた暗黒龍グラードの心臓の跡に残された小さな金属片、拾い上げ手に取ると、微かに感じられる神気の名残。

 

「楔? 何でこんなものが」

俺はその金属片を収納の腕輪にしまうと、他には何もないことを確認し、封印された地下空間を後にするのだった。

 

「トライデント、残月、ご苦労だった。一旦影空間に戻って捕虜たちの監視を頼む。問題はないと思うが、何かあったら対応してくれ」

「「畏まりました、ご主人様(マスター)」」

地下倉庫に張っていた神聖魔法による結界を消し、影に沈んでいくトライデントと残月。俺は彼らが完全に沈んだのを確認すると、上の階の大聖女と聖人の墓所に移動する。

 

「さて、封印の鍵の役割を押し付けられていた皆様、その御役目は終わりました。既に魂は女神様の下に旅立たれているとは思いますが、その肉体に残る使命感が未だ世界を守る為頑張られていたのでしょう。

皆様の信念に心からの敬意を、<浄炎>」

“ボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッ”

墓所に収められた石棺が白い炎を発し燃え上がる。それは幻想的に地下空間を照らし、物悲しげな美しさを作り出す。

 

「さて、それじゃ次に行きますか。確か拷問部屋と地下牢だったかな? 異端審問官の話じゃ本格的な収容施設は別にあるって事だったけど、それじゃここは何の為にあるのって話だよ。まったく教会の闇は深いよね~」

俺は大きなため息を吐くと、地下施設を一つずつ潰すべく上階へ上がっていくのでした。

 




ストックが完全に切れた。
今後毎日投稿は難しくなるかもです。
出来る範囲で続けますけど切れ切れになったらごめんね?
いってらっしゃい。
by@aozora
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