転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第897話 祭りの翌日は後片付け ボルグ教国編 (2)

「シラベル司祭、原稿の確認をお願いします」

「これは聖弓アテナの来歴と魔王討伐における実績に関するものですね、拝見させてもらいます。・・・この部分の表現、史実ではエルフ側からの再三にわたる返還要求があったとの記録が残っていますが、その記載を入れてしまうと普人族とエルフ族との間に新たな火種を生み出しかねません。

あくまで教会は魔王出現に対する備えとしてエルフの協力により借り受けているとしてください。決して教会側が天上界より管理を任された等の表現はしないように、エルフ側の立場も考慮し、事を荒立てないことに腐心してください。

三種の神器の歴史書は魔王討伐軍の凱旋を記念して発行される書物となります。多くの人の目に触れるという事はそれだけ強い影響力を持つという点を忘れないように」

 

「分かりました、もう一度その点を考慮し全体を見直したいと思います」

一礼をしその場を下がる助祭、急遽枢機卿より申し渡された記念書物刊行の指示は、資料管理室を上げての大仕事となっていた。資料管理官たちは通常の業務の他に様々な古文書を紐解き、三種の神器の登場年代や使用履歴を事細かに調べ上げ、その真偽を確かめ正確な資料を纏め上げる必要に迫られたからである。

 

「シラベル司祭、お疲れ様。しかし聖教会の資料室にあれだけ多くの真偽不確かな情報が集まっているとはね。登場年代から考えて明らかにそうではないといった伝承や、神器が既に聖教会で保管されている年代にもかかわらず神器を使い世直しが行われた報告といった明らかな偽物まで。

これ本当に今月中に原稿を上げられるの?」

声を掛けてきたのはシスターミレーヌ。詳細人物鑑定が行える異端審問官の中でも貴重な人材である彼女は、厄災の種に関する鑑定に携わったことでこの資料室送りにされた。

 

「何とかするしかありません。戦いが終わり勇者グロリアス様が魔王討伐軍を率い凱旋するのに早ければ二カ月半、おそくとも四カ月といったところでしょう。発行部数の指示はこちらには出ていませんが、少なくとも一月は猶予を見なければなりません。

我々に残された時間はあと一月、上の方々の確認期間を踏まえればもっと短くなるかもしれません。出来ることを行う、今はそれだけです」

私の言葉に肩を竦め、「与えられた任務を熟す、部署が変わってもそこだけは変わらないものね」と言って自分の机に戻っていくシスターミレーヌ。視線を変えれば聖女フリージア様が書籍棚から資料を運び、聖剣バルボアの詳細についての確認作業を行っている。

 

「へ~、本を作る作業ってこういう風に行うんですね。俺は原稿をモルガン商会に丸投げして細かいところはお任せしちゃったからな~。

そういえば「スライム使いの手記」を出版した時は記載された内容を全部検証したって言ってたっけ、あの時は流石は大商会って思っただけだったけど、この作業を見ていると大変な苦労をして作り上げてくれたんだと改めて感謝の念が湧いてきますね」

その声は自身の斜め後ろ、まるで背後から机を覗き込むような位置から聞こえるもの。

 

「えっ、ケビン・ワイルドウッド男爵!? なぜあなたがここに。あなたは勇者グロリアス率いる魔王討伐軍の攻撃を受けて・・・」

「あ、今俺のこと死霊か何かだと思いました? 違いますからね、ちゃんと生きてますから。

それとなんで俺がここにいるのかって質問ですけどね、魔王討伐軍との戦いが終わったからです。無論勝ちましたよ? これでもボルグ教国聖教会からご指名を受けた魔王役、“狡猾の魔王”ですからね。全力で抗わせていただきましたとも。

開戦回数は計四回、歴史に残る大決戦でしたよ?」

その人物、ケビン・ワイルドウッド男爵はそう語ると、まるで祭りでも楽しんだ後のようにあっけらかんとした笑顔を見せる。

 

「・・・それで、勇者グロリアス様方は」

「あぁ、気になりますよね。全員無傷です、ちゃんと直して治しました。

詳しい事は魔王討伐軍に参加した騎士たちにでも聞き取り調査を行ってください、どうやったのかに関しては秘密です。ほら、大道芸でもネタを知らない方が楽しめるものってあるでしょう?

それと皆さんには大変残念なお知らせです、今頑張って作業している三種の神器に関する歴史書は発行されないかもしれません。それはそうですよね、魔王討伐軍負けちゃいましたし。

でも個人的には凄く気になるので、原稿が仕上がったらオーランド王国のモルガン商会王都支店に送ってくれません? そうしたら俺が出資者になって刊行しますんで」

 

ワイルドウッド男爵の言葉にどこか緊張の糸が切れたのか、ガックリと肩が落ちる。魔王討伐軍が負けたと聞いても一切実感が持てなかったものが、三種の神器の歴史書が発行されないかもしれないと聞いた瞬間、激しい徒労感と共に魔王討伐軍の敗北が真実として心の中に広がっていく。

 

「“注目、忙しくペンを走らせている方は、一旦手を止めて話を聞いて下さい。今回の魔王討伐軍の派兵は残念ながら失敗しました。理由は明快、オーランド王国貴族ホーンラビット伯爵家の持つ武力が想定の遥か上だったこと、魔王役のケビン・ワイルドウッド男爵が、勇者グロリアス・ブリッジ率いる勇者パーティーを凌ぐ武力を有していたことです。

敗北のもう一つの原因はボルグ教国聖教会が三種の神器の力を過信したこと。神器であるとはいえそれは武器です、初めて触る武器をぶっつけ本番で使い熟せという方に無理がある。

最後は三種の神器を大切にしまい込み過ぎて、大聖堂で女神様から御力を授かる儀式を怠ったこと。ハッキリ言えば神力不足です、その辺の詳細資料も古文書にはあったはずですよ? ないとすれば意図的に削除されたとしか思えませんが”」

一部の者がざわつく、あの記載はやはり真実であったという声が聞こえてくるあたり、ワイルドウッド男爵の言葉は正しいという事なのだろう。

 

「“これからのことですが、皆さんには地上へ出ていただきます。無論この資料室も一緒です。

この場所にはボルグ教国聖教会の歴史が詰まっていると言っても過言ではない、そのような場所を消失してしまうのは人類の損失に他なりません。

<結界術:上下三階層分地下施設領域><影切断・影収納>。

はい、終了しました。暫く外部との接触は出来ませんが、直ぐに地上へ運び出すことをお約束いたします。では私はこれで”」

ワイルドウッド男爵はそう言うと、床に出来た自身の影へ沈むように姿を消していく。

 

「シラベル司祭、今のは一体」

「<念話>による言葉、この場の全ての者の頭に直接声を届けたのでしょう。そしてケビン・ワイルドウッド男爵の言葉はおそらく事実です、それはこの地下資料室に容易く侵入できたことからも明らか、すべては彼の準備が終わった時に明らかになるでしょう」

私の言葉に顔色を悪くするシスターミレーヌ。地下施設を移転すると言ったケビン・ワイルドウッド男爵が何をしようとしているのかなど火を見るよりも明らか。

 

「ボルグ教国は一体どうなってしまうの・・・」

「分かりません。ただ、ケビン・ワイルドウッド男爵にこの国を亡ぼすつもりはないことは明らかです。彼がその気であったのならわざわざ地下資料室を移転する必要がありませんから。

ですが聖教会が無事に済まない事も事実、穏便に済ませるつもりなら我々を資料室ごと移転する必要もないのですから」

私の声が静まり返った資料室に響く。騒いだところでどうしようもない、今はケビン・ワイルドウッド男爵が何をしようとしているのかを見守るしかないのだから。

その場の者たちは皆席に着き、事が無事に済んでくれることを女神様に祈ることしか出来ないのであった。

 

――――――――――――――

 

いや~、色んな意味で凄かったわ、ボルグ教国聖教会の地下室。何あの大量の拷問器具、しかもしっかり使用されてますっていう何とも言えない歴史の重みが。教会組織だからクリーンの魔法で清潔感が保たれてるし怨霊が発生しないように清められてはいるけれども、そこが却って怖いと言うか、闇深さを感じさせると言うか。

そして魔法レンガの壁によって封印された監禁部屋、中には鎖に繋がれた聖職者の白骨死体って、権力争い怖いよ、お子様泣いちゃうよ。教会内にリッチエンペラー製造施設造ってどうするのさ、青い鬼火飛ばして襲い掛かって来た時はちょっとビビっちゃったじゃんか!!

速攻<浄炎>で成仏していただきましたけれども!!

金庫室のある階やワイン倉庫や用具倉庫のある階は真面でしたけどもね。警備の兵士さんたちは影空間にGO、地下空間のお宝は闇属性魔力で覆って収納の腕輪にIN、マルッといただいてきた訳でございます。

ですんで現在深夜にもかかわらず大聖堂は大騒ぎっていうね、階段で地下へ向かおうにも結界が邪魔で進めないから確認する事も出来ない。教皇様をはじめとした偉い方々はたたき起こされて大変だろうね~。

 

“ズズズズズズズズズズズズズッ”

そんな大騒ぎの大聖堂の前、昼間だったら多くの人々で賑わう聖堂前広場に突然出現した建物。そう、地下空間から切り出してきた地下室三層分ですね。でもこのままだとすぐに崩壊しちゃうかもしれないんで、補強を施します。

 

「特殊生活魔法<防護城壁>」

“ズォォォォォォォ”

うん、完璧。どこからどう見ても初めからこういう建物が建てられていたとしか思えない出来栄え、ケビン建設の面目躍如ですな。

 

“カチャッ、スーーーーーーッ”

何もない空間に差し込まれた鍵、すると見えない扉でもあるかのように空間が開き、中から漏れた眩しい日の光が深夜の大聖堂前広場を照らし出す。

 

「<業務連絡:紬、異端審問官たちと馬たちを外へ>。“お待たせしました、ボルグ教国へ到着しました。皆さん、扉より外へおいで下さい”」

“““““パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ、ヒヒ~~ン””””””

魔王討伐軍に参加したボルグ教国の守護騎士団一万とボルグ教国軍四万の兵力を戦場へ送り届けた馬たちが、祖国の地を踏み嘶きを上げる。

潜入任務の為ホーンラビット伯爵領へやって来ていた異端審問官たちが、明りの漏れる大聖堂を見上げた後、俺に一礼を向ける。

 

「さて、それじゃ解放しますか」

空間の扉が閉まり再び暗闇に包まれた大聖堂前広場が、漆黒の影に包まれる。

 

「ここは・・・ボルグ教国。セレーナ、バニア、コーネリア、オルガノ、みんな無事か!!」

仲間を案じる勇者グロリアスの声が響く、その声に反応するかのように次々と目を覚ました者たちが周囲の街並みに困惑のざわめきを上げる。

 

「“皆様、長旅お疲れ様でした。ここは魔王討伐軍の結成された地であり出発点、ボルグ教国聖教会の大聖堂前広場です。今は深夜ですね、夜遅い時間ですのであまり大きな声を上げられませんようお願いいたします。

これにて皆様の“魔王討伐軍侵攻作戦”は終了となります。これより先は今回の作戦の指揮を執られていたサルーン騎士団長様の指示に従い行動してください。

では私は少々教皇猊下とお話し合いがありますので失礼させていただきます”」

それはその場の者全員の心に響く戦争終了の知らせ。ある者はその場にへたり込み、ある者は自身の身体を抱き締め身を震わせ、ある者は生きている事の実感を友と分かち合う。

戦いの終わり、それは繰り返される死の恐怖からの解放。多くの者が戦争の恐ろしさと虚しさを感じ、恐怖から心を折った。自身の理想や想いなど、卓越した戦術と強大な力の前には塵ほどの価値もない事を身を以って学んだ。押しつけの正義がどのような結果を齎すのかを、魂に刻み付けられた。

 

「勇者グロリアス、それと勇者パーティーの皆さん。あなた方はこの後どうなさいますか? 皆さんはナミビア王国から招聘された身、この敗戦に何ら責任を感じる必要はない。ですが聖教会の上層部はあなた方に責任を転嫁する事でしょう。

私は敗軍の将です、この状況では私の力で皆様をお守りする事が難しいかもしれません。今の内でしたら皆様をナミビア王国へ逃がすことが出来るやもしれません。

幸いこの場は教国の首都、私の屋敷もありますので準備は直ぐにでも」

サルーン騎士団長から勇者グロリアスに掛けられた言葉はボルグ教国からの脱出の誘い。自らが全ての責任を背負い、教会の横暴から勇者を逃がすという覚悟の言葉。

だが勇者グロリアスは一度パーティーメンバーの一人一人に顔を向けてから、静かに首を横に振る。

 

「サルーン騎士団長、お心遣い感謝します。ですが私はこの戦いの結末を見届けます。確かに私はサルーン騎士団長に全権を委譲した、ですが魔王討伐軍の全権を大聖女メリクリアス・オーガストより託されたのはこのグロリアス・ブリッジです。

それは多くの民衆の前でなされた宣言、私は勇者としてその責務を果たさなければならない。教皇猊下並びにこの国の人々に総指揮官として敗戦報告を行う、そこまでが私の使命だと思うのです」

それが全ての現実を受け入れたグロリアス・ブリッジの言葉、幾度とない死を乗り越えることでグロリアスが学んだ、責任というものの重さなのであった。

 

――――――――

 

“カツンッ、カツンッ、カツンッ”

石段を上る靴音が、夜の暗闇に響く。ケビンは突然の異常事態に騒がしさを増す聖教会大聖堂に向け、一歩ずつ足を進めていく。

 

「う~ん、やっぱり何か嫌な予感がするな~。最初は地下に封印されていた暗黒龍グラードのことかと思ってたんだけど、何かこうざわつきが治まらないんだよな~。

聖霊の箱庭は紬に来て貰ってるし、影空間の者は全部収納の腕輪に移したから大丈夫だとは思うんだけど。残月、トライデント、どうにも胸騒ぎがする。何が起きても対応できるよう、サポートを頼む」

「「はい、畏まりました、マスター!!」」

それは生活支援機構を基盤とする残月とトライデントに対する全幅の信頼、主人を支援する事を存在意義とする彼らに対する最大の賛辞。

 

「よし、いくぞ」

“ガチャリッ、ギーーーーッ”

開かれた扉、大聖堂の大扉を開き、ケビンが一歩建物に足を踏み入れた、その時であった。

 

「・・・はぁ!?」

そこは何もない真っ暗な空間まるで星のない宇宙にでも放り出されたかのような、上も下もない暗黒の(そら)

 

「よう、はじめましてだな。しかし油断しちまったなケビン、まさかお前がこんな古典的な罠に引っ掛かるとはな。まぁ分かっていても対処のしようなんかなかったんだろうけどな」

それは闇の中から聞こえる声、その声に意識を向けると、それは目の前に現れた。ヨレヨレのシャツにボサボサの髪、無精髭もそのままに目の下に隈を作った眼鏡を掛けた男性。

 

「えっと、はじめまして。あなた様は一体・・・」

「あぁ、私か? 名前は特にないな。ケビンに分かり易く言えば、システムだ」

 

「・・・はぁ~~~~!?」

それは驚きの邂逅、ケビンは自身に一体何が起きているのかも分からないまま、システムと名乗る男性の次の言葉を待つのであった。

 




おはようございます。
いってらっしゃい。
by@aozora
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