転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第899話 祭りの翌日は後片付け ボルグ教国編 (4)

「「マスター!!」」

残月とトライデントの緊張した焦り声が耳に飛び込む。俺はその場にガクリと膝を突き、上体を右手で支えると左手で“フリー演技”のハンドサインを出す。

 

「クッ、何だこれは・・・、身体が言うことを聞かない。残月、トライデント、周囲に警戒、襲撃に備えろ」

「「了解しました、マスター」」

俺は残月の手を借りゆっくりと立ち上がる。攻撃はこない、どうやら相手は俺の状態に満足し、俺の混乱した様子を観察するつもりらしい。

手を開いたり閉じたりし状態を確かめる。身体を動かす事自体に問題はなさそうな事にほっとする。体内の魔力循環も正常、相手を欺く為わざと魔力を乱し、駄々洩れにする。

 

「マスター、魔力が著しく乱れています。ここは一度下がり、態勢を立て直すことを進言いたします」

困惑し焦り顔で俺に意見する残月。うん、残月さんノリノリです。

っていうか二人共心配しなさすぎじゃね? 最初の緊迫感は何処へ行ったの? 君たちのマスターが大ピンチなのよ?

 

「貴様ら、何者だ!! 深夜の大聖堂に侵入するとはどういうつもりだ。守護騎士隊、この者たちを捕らえろ!!」

大聖堂に集まっていた聖職者の一人が俺たちに気が付き声を上げる。俺は何事もないように気丈に振る舞い、集まってきた守護騎士たちに睨みを利かせる。

 

「私が何者か? それは貴様らが一番分かっているのではないか?」

“ブワッ”

 

「クッ、何だこの強烈な覇気は、コイツは一体・・・」

「クックックッ、アッハッハッハッ。そんなに知りたいのか? ならば教えてやろう。ケビン・ワイルドウッド男爵、貴様らが勇者グロリアスと共に五万の軍勢を差し向けた討伐対象、北の大地に現れた厄災の‟魔王”だ」

“グォォォォォォォォォォォォォォ”

大聖堂の長椅子をなぎ倒し、周囲を取り囲む守護騎士たちを吹き飛ばす強大な覇気。それは深夜の大聖堂に現れた脅威、この場を支配する絶対的強者の威圧。(演技)

 

「教皇を出して貰おうか、どういうつもりかは知らないし知るつもりもない。だが貴様らはホーンラビット伯爵領に兵を差し向け、我が主君ドレイク・ホーンラビット伯爵閣下に剣を向けた。

この始末、どうつけるのか直接言葉を聞こう。これは交渉でも対話でもない、確認だ。ボルグ教国が亡びるかどうかの選択、心して答えよ」

覇者の言葉、それはボルグ教国に対する最後通告。守護騎士たちが身を震わせながら剣を向け、聖職者たちが顔を青ざめさせながら後退る中、大聖堂の最奥、巨大な女神像の前から一人の女性が声を掛ける。

 

「やはりこの騒ぎの原因はあなたでしたか、深夜の教会を混乱させ騒ぎに乗じ忍び込む、“狡猾の魔王”の名に相応しい卑怯で下劣な行動ですね、ケビン・ワイルドウッド男爵」

「貴様は、大聖女メリクリアス・オーガスト。そうか、貴様が。この私に何をしたのかは分からんが、それがどうした。貴様ら如きに侮られる程我が武力は脆弱ではないわ!! 我が力の前に平伏すがいい、<覇王の威圧>」

俺は大聖女メリクリアス・オーガストに右手を向けると、我こそが支配者だといった顔を向けながらスキル名を口にする。

 

「クッ、なんだ、どうしたというのだ、何故平伏(ひれふ)さん!! <重力魔法>、<影縛り>、<豪炎業火>、何故何も起きん!!」

大聖堂に俺の叫びが響く、大聖女メリクリアス・オーガストは出来の悪い教え子を諭すように、落ち着いた口調で言葉を向ける。

 

「ケビン・ワイルドウッド男爵、あなたの存在は、この世界の誤りであったのです。“北の大地、厄災の種誕生せり”、女神様の神託はこの世界の絶望の誕生を知らせるものでした。多くの厄災級魔物を従える異常者の存在、ホーンラビット伯爵領はこの世界とは相容れない混沌の地へと変わってしまった。

女神様は敢えてあなたに加護をお与えになったのです、誰の目にも分かる目印として。あなたが世界に残した唯一の価値は、祝福されし礼拝堂を造り上げたこと、その功績を以ってあなたに安息の眠りを約束しましょう。

裁きの時間です、ケビン・ワイルドウッド男爵、あなたにより良い来世が訪れんことを願います。<ホーリーシャワー>」

それは天より降り注ぐ浄化の光、この世のあらゆる不浄を消し去る神の裁き。

 

「グワ~~~~、ドレイク・ホーンラビット伯爵閣下~~!! 我が忠誠が、我が故郷が~~~!!」

「「ぐわ~~~~、マスタ~~~!!」」

苦しみ藻掻き、その場に膝を突く俺たち。(演技)

大聖女メリクリアス・オーガストはそんな俺たちに憐れみの籠った視線を向けながら、聖なる魔法を発動し続ける。

 

(10分後)

「グワ~ガ、グワ~グア(そろそろ皆さん満足してくれたかね?)」

「ガ~ガ、グワ~グワ~(どちらかと言えば困惑なさっているようですが。そろそろ終わりにした方がよいかと思われます)」

残月の言葉に周囲に目を向ければ、膝を突き左手で上体を支えながら脂汗をだらだら流す大聖女メリクリアス・オーガストの姿と、そんな大聖女の様子に困惑する聖職者たち。あれは魔力枯渇寸前といったところでしょうか、根性見せろ大聖女!!

俺は未だノリノリで苦しみ藻掻くトライデントに終了を知らせると、両手に疑似神気を作り出し柏手を打つ。

 

“パンッ”

大聖堂に鳴り響く柏手の音、瞬間的に神聖な気配が大聖堂を包み込み、その場の者たちの注意が俺に向けられる。

 

「さて、話を続けよう、貴様らの力の底は見えた。大聖女メリクリアス・オーガスト、大したものだったと褒めてやろう。認めよう、貴様を我が前に立ち塞がる敵として。

貴様らの意思は理解した、ボルグ教国は滅びを選んだ、私は貴様らの選択を尊重しよう」

“ブワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ”

それは質量を伴う程の強大な闇属性魔力の奔流、俺の身体から溢れ出した闇属性魔力が伝説のヤマタノオロチのように縦横無尽に暴れ狂い、大聖堂の中を破壊し始める。

 

『愚かなる者よ、慎みなさい』

それは天上より響く神の声音、矮小なる地上の者たちにとっての福音。

 

「クッ、なんだ、この身を締め付けるような威圧は」(演技)

 

“バサッ”

開かれた大きな翼、この世の全ての者たちを優しく見守る慈愛に満ちた眼差し。

 

「まさか、天使、だと!? 何故だ、これは人同士の争い、貴様らは地上人の営みに干渉できないはずだ!! 貴様の存在は天使の越権行為、今すぐ立ち去れ、下級天使が!!」

俺の叫びが大聖堂に響く、だが天使はその笑顔を崩さぬまま言葉を続ける。

 

『愚かなる者よ、ゴブリンにも劣る卑しき者よ、女神様の慈悲に溺れし世界の汚点よ。この美しく完璧な世界を汚す其方の存在は、創造の女神様に対する冒とくとなぜ気付かないのですか?

来世への道筋を示したにもかかわらず生にしがみ付き未だにこの場にあり続ける、流石特異点として要監視対象になっていただけのことはありますが、少々見苦しいですよ?』

道理の分からぬ子供を諭すかのようなその慈愛深い言葉に、この場の教会関係者は膝を突き、頭を垂れ敬意を示す。そんな中、俺たちは歯を食いしばり次元の違う高位存在からのプレッシャーに抗い続ける。(迫真の演技)

 

「クッ、下級天使の貴様ごときが我がスキルを封じたとでも言うのか!! 貴様にそのような権限が与えられているはずが」

俺が挑発交じりに言葉を向けると、小さくため息を吐きウジ虫でも見るかのような冷徹な目を向ける高位存在。その視線は見る者の魂を凍てつかせ畏怖の念に身を震わせる冷たさを伴ったもの。

 

『下等にして害悪となる者よ、封じたのではない、消したのです。其方の存在はこの世界の汚点、其方の存在は罪。発生したことを深く反省し、女神様に詫びながら消滅しなさい』

それは拒絶、世界からの全否定、俺は静かに腰鞘のショートソードに手を掛け、自らの命をってする訳ないじゃん。神力を込めた念話による思考誘導って、エグイぞ天上人。

俺は収納の腕輪から目的のモノを取り出すと、大聖堂の床に横たえる。

 

「“創造の女神よ、天上世界に集う神々よ、神を助け、創造の女神の為日々戦い続ける天上世界の者たちよ”」

『今更何をしようとしているのです? すでに其方は終わっているというのに』

 

「“人々と共にあろうとし、絶望し、自らの存在を反転させし者たちよ。それでも尚世界を愛し、創造の女神の為、世界の為、日々働き続ける同志たちよ”」

それは真言、魂魄の力を使った魂の祈り。祈りは神に、祈りは天に、祈りは闇の世界でこの世の均衡を維持する為日夜戦い続ける者たちへと向けられる。

 

「“その思いを歪曲し、己が理想を押し付けようとする者がいる。己が信念を絶対とし、他者を虐げる者がいる。サービス残業当たり前、連勤を常態化させ有休を許さず、ようやく訪れた休暇を緊急業務と称し取り上げる者がいる。世界を正しい姿に変える為と称し、世界を混乱に陥れ闇属性魔力の発生を加速させる者がいる。

皆の心に宿る不平不満、その発生原因は何か。自分の苦しみは一体どこから始まっているのか”」

“ズオンッ”

空気が重くなる。天使の登場により浄化されたはずの大聖堂内に、言いようの知れぬ何かが渦巻き始める。

 

『クッ、何と言う穢れ、やはり其方はこの世界にあってはならない汚物、排除すべき不要物!! 消え去りなさい、<極光>』

大聖堂内に降り注ぐ神の光、すべての不浄を焼き尽くす絶対なる浄化。(注:大聖堂内の教会関係者はトライデントと残月の結界により保護されています)

 

「“我は混沌、我は不条理、全ての思いを肯定しよう、全ての嘆きに寄り添おう”」

『何故消え去らない、神の浄化が、世界の汚点が!!』

“グォォォォォォ”

渦巻く力は収束し、横たわる黒い物体へ注ぎ込まれる。

 

「“思いは形に、我が友として共に立ち上がらん、社畜降臨!!”」

“シュゥーーーーーッ、ドゴォーーーーン”

力の爆発は大聖堂を内側から吹き飛ばし、崩れ落ちた天井からは星々の輝きが降り注ぐ。

差し込む月明かりに照らされた者は宙に浮かぶ高位存在、そして地上から天使を睨み上げる顕現せし者。

 

『転生待機中の魂の総点検、過去の神託の再調査、増え続ける闇属性魔力の処理作業、私の有給を奪ったのは貴様か~~~~!!』

大気が震える、世界が理不尽な上役の失態に振り回される社畜の嘆きに共鳴する。

 

『何が世界の浄化だ、女神様の創り上げる完璧な世界に汚物は要らないだ、“汚物には汚物を、人類の浄化に暗黒の魂をぶつけるなんて発想、私ってば最高♪”って頭お花畑か!! 手前の理想とやらの尻拭いにどれだけ忙殺されたと思ってるんだ、このスカタンがーーー!!』

『クッ、何という濃密な闇の力、上級天使権限によりただいまこの時を以ってその存在を全世界の敵と認定します。この大地ごと消えなさい、<極滅光波>』

“ブワーーーーーーッ”

世界を埋め尽くさんばかりの光、天が落ち、国が、世界が終わりを迎えようとしていた。

 

『だから仕事増やすなって言ってんだろうがこのクソ上司ーーー!!

<暗光終夜><神気霧散>!!』

だがそれは、漆黒のレディーススーツに身を包んだ暗黒の社畜によって打ち砕かれる。

 

『何故、世界が、私の力が・・・』

「さて、遊びは終わりだ。業務に穴をあける事は天も望んではいまい」

“スッ”

上げられた右腕、その手に握られたもの、それは黒曜石のように美しく輝く漆黒のスライム。

 

「天上天下唯一無二、今ここに顕現せよ、究極にして至高なる戦士、ビッグダイフクーン!!」

“ドロッ”

溶けだし俺の全身を包み込む漆黒のスライム、それが見る見るうちに巨大化し、形を変え、伝説の巨人へと姿を変える。

 

“GAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!”

上げられた咆哮、それは天を割り、雲を裂き、世界に己の存在を刻みつける。

 

『そ、そんな、こんな存在は許されない、認める訳にはいかない!!<天光“ガバッ”グハッ』

一瞬にして摑み取られた上級天使は、まるで呑み込まれるかのようにビッグダイフクーンの両手に包み込まれる。

 

“大福、黒鴉、シルフィー、全力を尽くせ。<神気吸収>、上級天使としてのすべての力を失った時、貴様には何が残る?”

“ドフッ、ドフッ、ドフッ、ドフッ、ドフッ”

包み込まれた掌の中で必死の抵抗を試みる上級天使、だがその拘束が晴れることなく、全方位から神気が吸い取られる。

ビッグダイフクーンの身体が黄金に輝き、背中から光り輝く翼が出現する。その姿はまるで地上世界に降臨した大天使、握る両手の光を抑え込み、全てをその身に引き受ける。

 

“ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ”

それは突然の反転であった。爆発的に膨らむ闇属性魔力、黄金の大天使はその身を漆黒に染め、溢れる力を受け止め続ける。

 

どれ程の時間が経ったのか、力の津波は穏やかな水面へと変わり、漆黒の巨人は月明かりに照らされただ静かにその場に佇む。ゆっくりと開かれた両手、膝を曲げそっと床に横たえられた者は、力なく倒れる漆黒の翼を背負った元上級天使。

 

“シュルルルルル”

漆黒の巨人はその姿を小さくし、元のスライムへと形を変える。変身から戻った俺は、倒れる元上級天使を眺め静かに言葉を紡ぐ。

 

「己の理想を求めるのはいいだろう、その為に持ちうるすべてを賭けるのもまた一つの生き方だ。因果応報、自らの行いは自らに返る、願わくば多くの者と語らい自身の在り方を振り返って欲しい。

なに、新しい職場は山ほど仕事が待っている、変にウジウジ悩む暇など無いだろう。闇属性魔力の処理場の所長は話の分かる人物だ、きっとお前でも上手くやれるさ」

“ブワッ”

赤黒い炎が大聖堂の床を走る。描かれた物は赤黒い炎に燃える魔法陣、それはまるでゲートのように、魔法陣の中央に横たわる漆黒の翼を持つ元上級天使を呑み込んでいく。

 

一つの戦いが終わる、俺は見上げた先に広がる星空に大きく息を吐くと、何とか生き残る事が出来たと肩の力を緩めるのだった。

 




おはようございます。
梅雨が終わらん。
いってらっしゃい。
by@aozora
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