転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第90話 転生勇者、宵闇の危険を知る

ミルガルの街を出発して二日、エルセルの街まではまだ遠く、マルセル村一行は草原の野営地にて一夜を過ごしていた。

 

「ボビー師匠、ビッグワーム干し肉が焼けました」

「おぉ、すまんのジェイク。エミリーや、ケビンの所からスープを貰って来て皆に配ってくれ。ジミーはボイルさんに言ってパンを貰って来てくれんかの」

 

「「はい、ボビー師匠」」

周囲を警戒しつつ火の番をするボビー師匠に促され、俺たちは各自食事のお手伝いをする。でもこうして野営を繰り返してみて分かった事は食事の重要さ、行きの行程はなるだけ僕たちだけの力で旅をする訓練の為、ボイルさんやボビー師匠は指示を出すだけで手を出さなかったけど、帰りの行程はこう言う旅もあると言う実例の為にケビンお兄ちゃんが料理を担当している。

もうね、別物。行きの行程での食事がただの栄養摂取に思える。あの時あれ程感動した“冒険者の野営飯”。焼いた干し肉と堅パン、そして水袋の水、これぞ冒険者と言った緊張感漂う食事風景。ミルガルの街に辿り着いた時の食事は、その緊張感から解放されたのもあり美味しかったな~。ケビンお兄ちゃんとブー太郎だけはキャタピラーを捕まえて来て焼いて食べてたけど。あの巨大芋虫にかぶりつくのはちょっと、全員顔を引き攣らせてたもんな~。

 

それで現在の食事、出されるのは良く煮込まれた野菜と干し肉を出汁にした温かなスープ。干し肉も香草で味付されたものやピリ辛のもの、ホーンラビットやボア、角無しホーンラビット等々各種取り揃えているとか。

ケビンお兄ちゃんどれだけ持って来たのさ、って言うかどこにそれだけ隠して来たのさ、荷馬車にそんな干し肉無かったよね?荷馬車に載ってたビッグワーム干し肉はバストール商会で売っちゃったよね?

“自分たちで食べる物を別に確保しておくのは当たり前でしょ?”ってキョトンとした顔をして仰ってますが、それを一体どこに仕舞っておいたのさ!

“どこってここ。”

そう言い肩掛けカバンをポンポン叩くケビンお兄ちゃん、って量がおかしいからね?あれなの?ケビンお兄ちゃんのカバンは某青い狸のポケットなの?意味が分からない。

 

「ほれジェイク、ケビンに構っとらんではよう食べるぞい。それとケビンのカバンには触れる出ない。あれは見なかった事にしておくんじゃ、ドレイク村長代理ほか数名は知っておるが、皆頭と胃を押さえておったわい。儂は敢えて聞かん事にした、食事は美味しく摂りたいからの」

そう言い慈愛の籠った眼差しを向けるボビー師匠。“ケビンお兄ちゃんだから仕方がない”、そう言う事ですね。冒険者は時にスルーする事も重要だって事なんですね、勉強になります。

 

「ケビン君、もしかしてそのカバンって・・・ウッ、頭と胃が」

ボイルさんが何かを察してしまったのか悶えておられます。なるほど、こう言う事なんですね。流石は元白金級冒険者“下町の剣聖”ボビー師匠、潜り抜けてきた修羅場の数が違う。その危機回避能力、是非見習わせていただきます。

 

「ボビー師匠、ケビンお兄ちゃんの出す食事が美味しいのは良いんですが、いいんですか?ボビー師匠のお話ではこうした単独状況での野営の場合、あまり(にお)いのする食事はしない方がいいと仰っていましたが」

スープを口に運びながらジミーが質問する。そんなジミーにボビー師匠は良い所に気が付いたと言った笑顔を向け、説明を始める。

 

「うむ、確かにジミーの言う通りじゃ。こうした草原地帯や森での野営の際は、なるべく火は使わず、臭いを出す食事は控えるのが鉄則じゃ。それはどうしてか分かるかエミリー?」

ボビー師匠に突然話を振られ、“へっ?”と言った驚き顔をするエミリー。どうやら食事に夢中で話を聞いていなかった様だ。そんなエミリーの様子にため息を一つ()き、ジミーが代わりに返事をする。

 

「魔物対策と、盗賊の対策でしょうか?」

 

「うむ、ジミーはよう分かっとる様じゃの。草原や森に棲むウルフ種と呼ばれる魔物は総じて鼻が良い。人の数千数万倍は鼻が良いと言う学者もおるくらいじゃ、遥か彼方の旨そうなスープの匂いくらい感じ取る事が出来るじゃろうて。

そして暗闇の中の火の明かりは、たとえそれがプチファイヤー程度の光であろうと相当な距離からでも認識出来るもんなのじゃ。遮蔽物のある森の中ですら己の位置を知らせてしまう明かり、このようななにもない草原であれば尚更であろう?

獣でも動物であれば火を恐れ離れて行く、これは生き物の本能じゃからな。じゃが魔獣は違う、奴らはそこに人間がおると察知し襲って来る。奴らにとって人間とはご馳走の様なものじゃからの。冒険者ギルドでは“魔物は人間の魔力に魅かれて襲って来るのではないか”と言われておったの」

 

そうか、夜の明かりはそこに人がいる、つまり獲物がいると言う合図になる。それは魔物でも盗賊でも変わらないって事なのか。ゲームだと盗賊って経験値稼ぎの魔物と同じ様に考えてたけど、こうして話を聞いてみると、実際の盗賊も言葉を話す魔物そのものの様に思えて来る。人の命は大事にしないととは思うけど戦いの場においてそれは悪手、確り優先順位を決めて対処しないと後悔する事になる。

ボビー師匠の話しに改めて命の軽い世界にいるのだと身を震わせる、ジェイク少年なのでありました。

 

「ボビー師匠、今の話しだと火を焚いたりお料理をしたりしちゃいけないんですよね?それじゃなんで帰りの道はお料理をしてるんですか?」

エミリーがようやくスープ皿を置き、素朴な疑問を投げかける。

 

「うむ、商隊の野営の場合、常に火を使ってはいけないと言う訳ではないのじゃ。例えば大規模な商隊の場合その分護衛の人数が多い、その為十分な警戒をしつつ野営を行う事が出来る。それであれば料理をしたり火を焚いたりする事も可能じゃ。

またこの旅の途中でもいくつか見たはずじゃが、こうした街道には幾つか野営の為の中継地が設けられておる。そうした場所には同じような旅の者が多く集まる。であれば互いに助け合い野営を行える為、煮炊きも出来よう。ただそうした場所は厄介事も多くての、今回は一切利用してはおらんがの。

それとお主らは今回の旅の目的の一つを忘れてはおらんかの?」

 

「「「あ!」」」

 

「そうじゃ、お主らの経験を積むと言う目的もある。であるからあえてこうした行動を取っておる。旨い食事が出来るのはそのおまけの様なものじゃな」

そう言いウインクをするボビー師匠。ボビー師匠は結構スパルタな様です。

 

「本来であれば昼間のオークの森でもう少し戦闘経験を積んで欲しかったのじゃが」

「「「あ~、あれはな~」」」

そう、今日の日中に通過してきたオークの森、街道で待ち受けていたオークの脅威はオークソルジャー。奴は下卑た笑いを浮かべながら悠然とマルセル村一行の荷馬車の前に立ちはだかった。

 

「儂もまさかエミリーの一撃でやられるとは思わなんだ」

迫り来るオークの脅威に立ち向かったのは真っ先に飛び出したエミリー。彼女は愛用の木刀を槍の様に構えると力一杯身体を捻りながら一閃。全力で突き入れられた彼女の木刀は、唸りを上げてオークの下腹部を貫き。

“ブゴッ!”

“ドサッ”

オークソルジャーは大きな音を立ててその巨体を地に沈めたのでした。

 

「うむ、あの一戦に彼我の力量差を悟ったのか周囲に待ち伏せしていたオーク共が一斉に逃げだしてしもうたからの。あのオークソルジャーが彼奴等を統率しておったのじゃろうて。マジックバックに空きもあったし、村にはいい土産が出来たわい。

じゃが肝心の戦闘訓練がの~、そこでこの野営における夜間戦闘訓練と相成った訳じゃ。してケビン、獲物は釣れたかの?」

ボビー師匠はさっさと食事を済ませ片付けをしているケビンお兄ちゃんに声を掛けました。

 

「あ~、うん、掛ったは掛かったんですけどチビッ子軍団にはまだ早いと言うか、今回は様子見で止めておいた方が良いかと。

おっ、思ったよりも行動が早そうですね。ボイルさんとチビッ子は荷台へ。ジミー、矢が飛んでくるはずだから警戒、全て叩き落せ。エミリーちゃんとジェイク君はボイルさんの護衛、ブー太郎は荷馬車の後ろに。ボビー師匠は正面を警戒しつつ右側を、僕は左側の守りに就きます。

相手方の動きが止まりました、接触来ます」

ケビンお兄ちゃんが警戒の声を上げながら指示を出し、俺たちは食事もそのままにすぐに行動に移りました。

 

“シュッ、カンッ”

ジミーが暗闇から飛んできた何かを叩き落とした。荷台の床に転がったそれは、墨か何かで黒く塗られた弓の矢。

 

「ほう、今のを打ち落とすか。そこの若いのは結構な手練れな様だな。手前(てめえ)ら油断するなよ、どんな仕事だろうと完璧にこなす、それが俺たち“宵鴉”の鉄則だ」

暗闇から響く声、おそらくは全身黒装束に身を包んだ集団。動きに無駄が無く、全体に統率が取れている。

 

「“宵鴉”、どこかで聞いた様な名じゃの。思い出したわい、メルビンの奴が酒の席で言っておったこの所ミルガル周辺に出没すると言う盗賊団じゃったか。確か手配書も出回っておったはずじゃが。数は全部で十五と言った所かの」

「ボビー師匠、残念。十六です。一人完全に気配を消している者がいます。スキルか魔道具か、いずれにしても面倒な相手です」

 

「ほう、そっちのチビは感知系のスキル、それもかなりレアなモノを持ってる様だな。おい、アイツは生かしておけ、何かと役に立ちそうだ。他は女以外はいらんな、大した値段にもならんからな。あのガキは高く売れそうだ」

 

高まる殺気、チビッ子軍団は初めて浴びせられる明確な殺意と害意に身をすくませる。ジェイクは思う、“これが本物の戦闘、人から浴びせられる殺意がこれほど恐ろしいだなんて。グラスウルフ相手にもオーク相手にも全く問題なく戦えていたから分らなかった、知恵のある者の害意がこれほど恐ろしいだなんて、人相手に殺し合う事がこれほどしんどいだなんて”

子供たちは思った、自分たちが進もうとしている道はこれほどまでに恐ろしい道なのかと。自分たちの親は、ボビー師匠は、そんな障害を乗り越えて来ていたのだと。

 

「!?ボビー師匠、急いで荷馬車に乗って!早く!

ブー太郎、さっき渡した干し肉と飴をすぐに食べろ!ボイルさんは御者台で手綱を頼みます、全力で馬を走らせてください!ブー太郎、命懸けで付いて来い、道は俺が開く!」

突如ケビンが叫び出す、それは全てをかなぐり捨てての緊急離脱の合図。そのあまりの必死な叫びに、理由を聞く事もせず指示に従うマルセル村の者達。

彼らは知っているのだ、危険を回避する事に、生き残る事に全力の男が完全に追い詰められた状況だと判断したのだと言う事を、そしてその相手が目の前の集団など歯牙にもかけぬ強大な脅威であると言う事を。

 

「は?何を言ってやがる。俺たちがそれを許すと「今です!!」“ドガッ”

ケビンの背中から伸びる何本もの巨大な触腕、その全てを巧みに操り宵鴉の包囲網を強制的にこじ開ける。

“ガタガタガタガタ”

それと同時に飛び出した荷馬車は、暗闇の街道を一路エルセルの街に向け走り出す。

 

「殺れ、死んでも構わん、絶対に逃がすな!」

背後から聞こえる怒号、それと同時に飛び交う無数の矢。その矢は鏃に至るまで全て黒く塗られており、目視による回避は不可能。だがその全てを触腕で叩き落すケビン。

 

「急げブー太郎、死ぬ気で走れ!くそ、もう来やがった!絶対に振り向くな、前だけ向いて只管走れ、死にたくなければ根性で走れ!」

“ブモ~~~~~!!”

 

疾走するオーク、ケビンの指示により与えられたドーピングの効果によりあり得ないほどの速度で走るブー太郎は、闇夜をひた走る荷馬車にぴったりと付き従いただ前を向いて駆け抜ける。

 

しかして恐怖は訪れた。

“ゾクッ”

荷台に乗るマルセル村一行を襲う悪寒、特大の恐怖が警鐘を鳴らす。“急いでこの場を離れろ、さもなくば死ぬ”と。周囲に漂う黒き霧、これは視認可能なまでに濃縮された闇の魔力。

マルセル村一行を襲おうとしていた宵鴉の者達が、一人、また一人、地を這う濃厚な魔力の波に飲まれ消えて行く。

 

「あ、あ、あ、お、お前は、彷徨う亡霊、リッチキング!」

宵鴉の一人が恐怖に怯えながら叫び声をあげる。リッチキングと呼ばれたモノは、そんな男に赤く光る眼光を向けボツリと呟く。

 

“我をリッチキングなどと言う低俗と同一視するとは、これだから愚民は度し難い。愚かな貴様に教えてやろう。我は更に上の存在、リッチエンペラー、全てのアンデッドの頂点、死を統べる者成り。”

その夜、ミルガルの町周辺を荒らし回った恐怖の象徴は、一人残らず姿を消したのであった。




本日二話目です。
眠い、めっちゃ眠い、顔洗っても覚めん。
春だから?
いってらっしゃい。
by@aozora
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