転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第900話 祭りの翌日は後片付け ボルグ教国編 (5)

廃墟と化した大聖堂に差し込む月明かり、煌めく星空の美しさに、自然とため息が漏れる。

人の世は儚く空しい、そんな空虚な世界だからこそ人は寄り添い互いの温もりを感じ合う。星々はそんな人々の営みを静かに見つめ、夜の闇は世界を優しく包み込む。

 

「ちょっとケビン、ポエムを考えながら浸っているところ悪いんだけど、これってどうするのよ。大聖堂は崩壊寸前、教会の聖職者はお口あんぐりで放心しちゃってるんですけど?」

「あっ、はい、すみません。ちょっと自己逃避してました。え~、どうしようかな、とりあえずここを更地にしちゃいましょうか、ここまで壊れちゃったら立て直すしかないですしね。

それじゃ社畜様、すいませんけど周辺の教会関係者を外の大聖堂前広場の人たちの所に送ってもらえます? 今の俺、従来の魔法が一切使えないんで」

スキルを失ったことによる弊害、一般的に魔法と呼ばれる物が一切使えなくなってしまった俺。これはあれですね、授けの儀を受ける前の俺の状態、ボール魔法羨ましいと嘆いていた頃の俺ですね。

まぁ体感的な感覚は忘れてないんで何とかなりそうなんだけど、ぶっつけ本番はかなり危険、影空間に入れたら最後元に戻せないなんてこともあり得ます。

ここは闇属性魔法の専門家(推定)である社畜様にお願いしてですね。

 

「いや、それはいいんだけど、その社畜様って止めてくれない? 言われてて心にくるから。あなたまだ私の名前を決めてなかったんだから、ちゃんとしたものを考えてよね」

「えっ、だって社畜様って多分だけど存在値ヤバいよね? 名付けなんかしたら俺死んじゃわない? 大丈夫?

まぁシルフィーがさっきの上級天使からガッツリ神気を吸い取ってるから何とかなるかな?

それじゃこの世のあらゆる社畜の思いから生まれた暗黒神、ブラックシャチクイーンってことで「却下だ~~~~~~!! だから社畜はやめろって言ってるだろうが、まじめに考えろ~~~~!!」あ、はい、すみません。謝りますんで全方位から影槍を向けるのはお控えください」

社畜様超怖い。俺は今回最大といってもいい難局を乗り越えたことで真っ白に燃え尽きた脳みそをフル回転させて、社畜様のお名前を絞り出します。

 

「・・・トワイライト。昼と夜、光と影が混ざり合う時間帯。夕日が沈み、宵闇が訪れる頃、空が薄明かりに照らされ、世界が目覚めを迎える頃。幻想的な光景に人は涙し心を揺さぶられる」

「うん、悪くないんじゃない? ケビンにしては上出来? それでいきましょう」

社畜様のご許可も下りたということで、早速命名を行います。やることは世界樹のアマネ様の時と一緒、心を込めて名前を付けるだけですね。

 

「“地上世界に顕現せし我が友よ、汝の名はトワイライト、神秘的な其方にこそふさわしい”」

「“我が名はトワイライト、世界の狭間を見つめ続ける者なり”」

名は力、名はその者を現す楔。この世界に自らの存在を固定化した彼女は、月明かりを見上げながら静かに微笑みを浮かべる。

 

・・・言えない、社畜⇒終業時間の前に明日までに仕上げなければいけない仕事を申し付けられて残業決定(黄昏時)⇒徹夜で何とか仕事を仕上げて気が付けば外は薄明かり⇒トワイライトって発想の流れで名前を思い付いただなんて言えない。(魔力と覇気で心をがっちりガード)

俺はトワイライトに聖職者たちの移動をお願いすると、闇属性魔力を広げ教会施設から金目のものを回収してから土属性魔力を建物および地下構造物全体に広げ、「<破砕>!!」と大きな声で叫ぶのでした。

 

―――――――――――――

 

“ドゴォーーーーン”

「「「「「キャーーーー!!」」」」」

激しい爆発音とともに建物が揺れる。私は机に摑まりその揺れに耐えると、恐る恐る顔を上げ周囲の様子を伺います。

 

「シラベル司祭、下の階に外に繋がる出入り口ができています。建物の外はおそらくですが大聖堂前広場かと。大聖堂らしき建物はこの時間帯にもかかわらず明かりが付き、広場には多くの人と馬の姿が見られます」

声を上げたのは建物内の様子を確認しにいった助祭の一人、その言葉にこの資料室がケビン・ワイルドウッド男爵の宣言通り地上に出されたという事実に驚きつつも、無事に解放されたということにホッと胸を撫で下ろす。

 

「ケビン・ワイルドウッド男爵は“戦いは魔王討伐軍の敗戦で終結した”と言っていました、それと同時に全員無傷であるとも。

おそらくですが、大聖堂前広場にいる人々と馬は魔王討伐軍に従軍した守護騎士団一万とボルグ教国軍四万の者たちでしょう。馬はその際に騎乗していた騎馬たちですね。

この資料室もそうですが、ケビン・ワイルドウッド男爵はこの資料室に残されたどの魔王とも違う異質な存在であると言えるでしょう」

異端審問官として各地を巡り任務を熟してきた確かな実力者であるシラベル司祭の言葉に、この場の者たちは緊張からゴクリと生唾を飲みます。

 

「シラベル司祭、大変です!! 大聖堂が、聖教会の象徴が!!」

飛び込んできたシスターの言葉にその場の者全員が席を立つ、

先ほどの爆発音と激しい揺れ大聖堂で一体何が起きているのか。急ぎ建物から飛び出した私たちの目に飛び込んできた光景は、言葉を奪うに十分な驚くべきものでした。

 

「アレは、最悪の魔王デビルトレント討伐の記録に残された天使様・・・」

それは大聖堂の吹き飛んだ壁の向こうに見える、神秘的な翼をもつ天使様のお姿。

 

“ブワーーーーーーッ”

夜の闇が白色に染まり、天の裁きがこの大地を焼き尽くす。

「フリージア様!!」

シラベル司祭が私を庇おうと覆い被さってくる。ありがとうシラベル司祭、その気持ちを向けてもらえただけで私は心静かに女神さまの下へ向かえる。

世界は天使様の粛清の前になす術なく消えていく。

 

『だから仕事増やすなって言ってんだろうがこのクソ上司ーーー!!

<暗光終夜><神気霧散>!!』

心に響く魂の叫び、ふと横を見ればシスターミレーヌが拳を振り上げ、「そうだー!! 教会は休暇を寄こせ!!」と叫び声を上げている。

 

「念話、いや、神託!? 一体どういう・・・」

霧散する極光、終末の光は姿を消し、星空の明かりが静かに私たちを見下ろしている。

 

“ドガーーン”

“GAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!”

大聖堂の屋根を破壊し現れた巨大な何か、それは全身鎧を着こんだ巨人の戦士。

 

“ガバッ”

巨人により一瞬にして摑み取られた天使、激しく抵抗する音が響くも、巨人の両手は閉じられたまま天使を逃がそうとはしない。

 

「巨人が、金色の光に包まれて・・・」

“バサッ”

光り輝く二枚の翼、黄金の巨人は全身から神々しい輝きを放ち神々の存在を示し続ける。その場の者たちは皆跪き、涙を流しながら祈りをささげる。

大いなる創造の女神様よ、あなた様はこの世界を見守り続けているのですね。震える心、止めどなく流れる涙を誰も抑えることができない。

 

どれほど時間が経ったのか、光は消え、月明かりが大聖堂前広場を照らしている。そこには黄金の巨人の姿はなく、ただ崩壊した大聖堂が静かに佇んでいる。

 

「シラベル司祭、神の奇跡に感動するのはいいけどいつまで聖女フリージア様に抱き着いてるのかしら? まぁフリージア様はお美しいお方ですから、シラベル司祭の気持ちもわからなくはないけど?」

ニヤニヤ笑いながら声を掛けるシスターミレーヌの言葉に、今の状況を気付かされ急に頬が熱くなる。シラベル司祭はゆっくりと私から離れると、「ご無事なようで何よりです」といって柔らかい笑みを向けてくれる。

 

「ヒューヒュー、シラベル司祭の男前、赴任先でどれだけ女性を“ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ、ドサドサドサドサドサドサドサドサ”・・・」

崩れていく大聖堂、大聖堂ばかりではなく、周辺の教会施設全体がまるで砂のように崩れ去り、飲み込まれるように大地に沈んでいく。

 

「聖教会が・・・消えちゃった」

シスターミレーヌの呟き、それは聖教会の終わりを、ボルグ教国の終焉を示すもののように、夜の空へと溶けていくのでした。

 

――――――――――――――

 

「う~わ、大穴開いちゃった。まぁあれだけの地下室があったらこうなるよね、大事そうな資料室は移築したし問題ないでしょう」

俺は魔力障壁結界の上に立ち眼下に広がる大穴へ目を向けると、口元を引き攣らせながら小さく呟く。大聖堂及び教会施設内にいたすべての人々はトワイライトの影移動によって教会前広場に移されているので無事なんだけど、流石にこれは派手にやらかした感がですね。

まぁそうはいってもバルカン帝国の時は隕石バンバン落としちゃいましたし? それに比べたら誤差ですね、誤差。

俺は自身の気持ちを切り替えると、教皇様方とお話をする為にトワイライトたちの待つ大聖堂前広場へと足を向けるのでした。

 

“コツンッ、コツンッ、コツンッ、コツンッ”

月明かりの照らす石段を一段一段ゆっくりと降りていく。目の前には広場には腰を抜かしたようにしゃがみ込みながら、呆然と俺を見つめるボルグ教国聖教会の偉い人たち。

 

「こんばんは、皆さん。いい月夜ですね」

俺がそう声を掛けるとなぜかびくりと身を震わせ、ワナワナと後退りなさる皆様方。イヤイヤイヤ、別に取って食おうだなんて思ってないから、そこまで怯えなくてもいいのよ?

 

「それで教皇様は・・・あぁ、いたいた。こうして面と向かってお顔を拝見するのは初めてですね、どうも、魔王としてご指名いただきましたホーンラビット伯爵家騎士団所属ケビン・ワイルドウッド男爵です。

本日はこの度ボルグ教国聖教会が行いました魔王討伐軍によるホーンラビット伯爵領への侵攻と、魔王討伐が終了しましたことをお知らせに参りました。

結果を申し上げます、魔王討伐軍の惨敗です。四度ほど行ったんですが、力及ばずといったところでしょうか。

ですが彼らを責めないで上げてくださいね? 彼らは四度の全滅という壮絶な戦いを経験しながらも、決して挫けることなく戦い抜いた、その姿は称賛に値するものなのですから。

それでこれからのことですが「「マスター、上を!!」」・・・」

その声は傍に控えていた残月とトライデントのもの。トワイライトは呆れたように星空を見つめ、「ずいぶんゆっくりとした到着で」と声を漏らす。

 

それは星の光よりも美しい天の煌めき、光り輝く翼を広げた幾柱もの高位存在が地上を目指し降下してくる。

 

「な、天使様があれほど・・・この者はそれほどの脅威だと」

天使の降臨、その奇跡の光景に跪き祈りを捧げる人々、そんな中俺は天使の中に見知った顔を見つけ、一人腹筋との孤独な戦いを始める。

 

「これはこれは、天上界におわすいと尊きお方様方。わざわざの御降臨、このケビン・ワイルドウッド男爵、恐悦至極に存じます」

『いえ、あなたが恐縮する必要はありません。この度の不始末は天上界全体の問題、そのしわ寄せをあなたに押し付けてしまったこと、女神様より地上世界の管理を任された天使の一人として、大変心苦しく思っております』

おうおう、あなた様、顔が引き攣っていらっしゃる。言いたいことは色々あるんだろうけど、今は別の問題がありますもんね~♪

 

「あぁ、慈悲深き女神様の使いよ。私の名はケビン・ワイルドウッド、その美しい声音で私の名を呼んではいただけないでしょうか。

このような誉れ高き機会はこの後生涯訪れることもありますまい」

『なっ、馬鹿言ってるんじゃないわよ、今のあなたにそんなことをしたら、あなたとの間に繋がりができちゃうじゃない!! なんで独身の私があなたの母親代わりにならないといけないのよ!!』

 

「え~、冷たいの~。いいじゃんね~、俺今回頑張ったんだし。

あ、本部長様、これちょっとした冗談ですんで、だったら私がって名乗り出なくても大丈夫です、自分で付けますから。

“我が名はケビン・ワイルドウッド、唯一無二にしてただあるがままにある者なり!!”」

“ゴフッ”

一気に消費される魔力と神力。イヤイヤイヤ、おかしいでしょう、トワイライトの時もこれほどじゃなかったのよ? トワイライトの倍って、シルフィーに貯め込んでもらっていた魔力と神力がすっからかんなんですけど!? これキッツ~~!!

 

『ケビン、大丈夫ですか? だから私が名付けを行おうとしたというのに、相変わらず後先を考えずに無茶をする。

ケビンは天使の最上位、上級天使を調伏したのですよ? それがどれほどの偉業であるか、そのような奇跡を成し遂げた者が普通の存在であるはずがないではありませんか。

自分に名を付けて死にそうになるなどという滑稽なことをする者はあなたくらいですよ?』

呆れたような声音で言葉を向ける本部長様。俺は自身の浅はかさを反省しつつ、「御心配をお掛けし申し訳ありませんでした」と謝罪の言葉を述べ深々と頭を下げるのでした。




おはようございます。
月曜日だ、眠い。
いってらっしゃい。
by@aozora
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