転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第904話 祭りの翌々日も後片付け ナミビア王国編 (2)

「失礼いたします。勇者グロリアス・ブリッジ様並びに勇者パーティーの皆様方をお連れいたしました」

“ガチャッ”

王城に到着した私たちが案内された先は、公式の場として使われる謁見の間ではなく、王国内の重大事を話し合う大会議室。開かれた扉の先には国王陛下や王太子殿下、宰相閣下を始めとしたナミビア王国を動かす高位貴族の方々が集まっている。

 

「帰国早々の呼び出し、勇者グロリアスには申し訳なく思うが、我々には状況が全く分からないゆえ許されよ。ボルグ教国からの招聘に応え魔王討伐に向かったはずのその方が何の先触れもなくパーティーメンバーと共に帰国する異常事態、魔王討伐に於いて私の考えを超える事態が起きたと警戒しても致し方があるまい。

その方の口から何が起きたのかの詳細な説明を求めたい」

初めに口を開いたのは宰相閣下、私は一礼の後、簡潔に分かり易く伝えることを意識し言葉を述べる。

 

「先ずは突然の帰国と事前連絡の不備を謝罪いたします。その上で事態を分かり易く説明する為、簡潔に事実だけを述べさせていただきます。

ボルグ教国より出発いたしました魔王討伐軍五万、途中義勇兵が加わり最終的に八万七千にまで膨らみました我々は、魔王が発生したとされるオーランド王国北西部ホーンラビット伯爵領に於きまして、ホーンラビット伯爵家に敗北いたしました」

“ザワザワザワザワ”

 

「静まれ。勇者グロリアスよ、魔王討伐軍が敗北とはどういう事であるか。有体に申せ」

言葉を向けられたのは国王陛下、私はざわつく貴族たちに目を向けてから説明を続ける。

 

「文字通り敗北です。ホーンラビット伯爵領マルセル村の前の草原に到着した我々はホーンラビット伯爵家騎士団およそ四十騎と対峙、開戦と同時に上空から降り注ぐ大量の巨石群に圧殺されました。

方法は不明、大賢者バニア・ルーベルの考察では何らかの方法で上空に待機していた部隊が、大型マジックバッグに収納していた大量の巨石を移動しながら降らせていったのではとのことでありました。その後同様に風属性の魔力球を大量に落下させ、その爆発により生存者を殲滅。開戦より一時間も掛からぬうちに魔王討伐軍は全滅いたしました」

静まり返る大会議室、だが次第に一つの疑問が頭をもたげる。ならば目の前にいる私たちは一体何であるのかと。

 

「勇者グロリアス、全滅とはどういう意味であるのか、その方たちは生きているではないか」

「はい生きております。鑑定を行ってもらっても構いませんが、決して死霊やアンデッドの類ではない事を女神様に誓いましょう。

その上で我々は全滅いたしました。魔王討伐軍全体であれば計四回、我々勇者パーティーは個別にそれ以上、私に限って言えば二十を超えたところで数えることを止めてしまったので正確な回数は分かりませんが、何度も蘇り戦うことを強要されました。

すべての戦いが終了した時には、すでに周囲は闇に包まれ、私たちはそれまでに体験したすべての死の苦しみを纏めて思い出させられるという悪夢を味わわせられました。

翌朝、意識のはっきりしない私たちは強烈な悪臭のする何かを嗅がされ、完全に意識を失いました」

 

信じられない、到底受け入れられないといった表情をする国王陛下。その場の全ての者たちが私の言葉に懐疑的な目を向ける。

 

「勇者グロリアスよ、その方らはボルグ教国で三種の神器を貸与されたのではなかったのか? その方らはそれらを使用しなかったとでも言うのか?」

「いいえ、国王陛下、我々は聖剣バルボア・聖杖グランディア・聖弓アテナを使い、知恵を凝らし戦いに挑んだうえで全敗したのです。

聖剣バルボアが叩き折られた時は言葉もありませんでした、その後ケビン・ワイルドウッド男爵により再生され、聖剣バルボアがケビン・ワイルドウッド男爵を主人と認めた時は流石に心が折れましたが。

 

次の対戦では再び聖剣バルボアが真っ二つに切られ、私も命を落としました。勇者と持ち上げられ世界を救うなどと本気で思い込んでいた私ですが、何のことはない、私はただの世間知らずの愚か者であったのです。

 

この魔王討伐自体、ボルグ教国聖教会がホーンラビット伯爵領にある女神様から祝福を受けた礼拝堂を欲して起こしたもの。人の世に仇なす魔王など初めからいなかった、あの場にいた者は故郷を守る為に魔王よりも恐ろしい修羅と化したホーンラビット伯爵家の者たちだったのです」

 

大会議場が静まり返る。それは私の言葉を信じ、この事態にどう対処しようかと考えているからではない。

向けられる目は冷ややかなもの、それは壊れた道具に対し向けられる憐みの視線。

 

「最後に一つ聞きたい、その方らはどうやって王都マドレーヌへ帰ってきたのか」

「はい、ケビン・ワイルドウッド男爵が送ってくださいました。この事は屋敷の者に確認していただければご納得いただけるかと」

大会議室に広がる失笑と嘲り、国王陛下は何処か困った者を見るような視線を向け、すぐ傍の宰相閣下と言葉を交わす。

 

「失礼いたします。皆様、お話し中ではありますが少々よろしいでしょうか?」

それは大会議室の入り口、両開きの扉前から聞こえる声。いつの間にか大会議室に現れた執事服姿の女性からのもの。

 

「誰だ貴様は、一体いつの間にこの場へ。 騎士たちは何をしている、その者を取り押さえよ!!」

「宰相閣下、お待ちください、あの方は・・・」

私の静止の声よりも早く捕縛へと動く護衛騎士たち、だが次の瞬間。

 

“ブワッ”

大会議室を強烈な覇気と魔力の嵐が吹き荒れる。その発生源である女性執事のすぐ傍にいた騎士たちは卒倒し、大会議室にいる誰しもが緊張から冷や汗を流す。

 

「失礼いたしました。少々せっかちなお方がおられたご様子、お話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」

落ち着いた優しげな声音が静まり返った大会議室に響く。ゴクリと生唾を飲む音、国王陛下が「うむ、申してみよ」と言葉を返す。

 

「ご許可をいただきありがとうございます。私はワイルドウッド男爵家執事、残月と申します。主人であるケビン・ワイルドウッド男爵閣下より勇者グロリアス・ブリッジ様と勇者パーティーの皆様方の面倒を申し付かっておりました。

どうもナミビア王国の皆様方は今一つ状況をご理解いただけていない御様子、その場合主人ケビン・ワイルドウッド男爵閣下が直接説明を行うと申されておりましたので、お呼びしてもよろしいでしょうか?」

女性執事残月さんの言葉に、何を言われているのかが分からないといった困惑の表情を浮かべられる国王陛下をはじめとした皆様方。

 

“カチャッ”

黙る国王陛下をよそに、両開きの扉に鍵を差し込む残月さん。静かに開かれた扉、爽やかな心地よい風が大会議室に流れ込む。広い緑の草原から歩いてくる二人の人物、残月さんは前を行く男性に深々と頭を下げる。

 

「失礼、私はホーンラビット伯爵家旗下ケビン・ワイルドウッド男爵、現在我がホーンラビット伯爵家はナミビア王国と交戦状態にあると認識している。

理由は貴国が最大戦力である勇者グロリアス・ブリッジ及び勇者パーティーをボルグ教国に貸し出し、魔王討伐と称した侵略行為に与したからである。

ボルグ教国とは昨夜話を付けてきた、近々各国に対しこの度の魔王認定は誤りであった旨の発表が届けられるであろう。これが年内になされなかった場合、再び交戦状態に入ることとなる。

 

さて問題は貴国の方針だ。既に交戦状態であるから我々はこのまま戦闘を開始することが可能であるがいかがか?」

それはいきなりの開戦の合図。戸惑う一同、そんな中、宰相閣下が口を開く。

 

「お待ちいただきたい、先ほどから聞いていれば随分な物言い、魔王討伐はボルグ教国聖教会が公式に認めたもの、女神様の信徒たる我々がその決定に逆らえようはずもありますまい。

我々はいうなればボルグ教国に騙された被害者、そのように剣先を向けられることは理に反した行いではありますまいか」

それは理屈に適った言葉、宰相として多くの国と渡り合ってきた者の揺るぎない信念。

ケビン・ワイルドウッド男爵は宰相の言葉にしばし沈黙すると、大きなため息と共に口を開く。

 

「言い分は分かった。「では」黙れ、話は最後まで聞くものだぞ?

言い分は分かった、お前たちがその程度の認識であるという事も理解した。その上で言おう、最早話し合いの時は終わったのだ。

お前はこの国の宰相か何かか? 理を尽くし弁舌を使い国を導く、我には出来ぬ行いと尊敬もしよう。

だが貴国は既に勇者を送り出し、勇者は戦場で聖剣バルボアを振るった。大賢者は聖杖グランディアによる大魔法を放ち、弓聖は聖弓アテナで我らの仲間を次々と射殺した。

貴国がどう言葉を尽くそうとこの事実は変えようがないのだ。

先ずはこの城を退けよう、人は己の目で見たものしか理解できぬというしな」

 

“ガゴッ、スーーーーーーーーーーッ”

何故か高くなっていく天井、それは次第に高さを上げ、ゆっくりと横に逸れていく。

 

「やはり部屋の中に籠っていてはよい考えなど浮かばぬものだ、取り合えず問題の少なそうな西門脇の草原に降ろしておいた、必要なものがあれば後程取りに行くといい。

次いで我がホーンラビット伯爵家が貴国にどう攻撃を仕掛けるのかだが、特殊生活魔法<創龍招来>」

““““““グゴォォォォォォォォォォォ、グギャーーーーーーー!!””””””

それはヘビのような長い身体を持つ巨大なドラゴン。火・土・風・水・光・闇を現すかのような六体のドラゴンが、王都マドレーヌの上空を飛び回る。

 

「生かしておく者はそこの王太子だけでいいか? 王都消滅後、交渉を行う者は必要だろうからな。勇者グロリアス・ブリッジ殿、貴殿との戦闘は心躍るものであったが、貴殿の祖国はその功績をまったく評価せぬようで残念だ。貴殿とはもっと別の形で出会いたかったがこれも世の定め、せめて祖国の土に還ることが私からの手向けと思っていただきたい」

「ケビン・ワイルドウッド男爵様、今しばらくお待ちいただきたい!!

国王陛下方は状況を理解できていないだけなのです。実際にあの戦場を経験した我々ですらあの出来事が夢であったのならと願うほどに、あまりにも現実離れした話でありすぐに理解せよという方に無理がある。それほどにあなた方ホーンラビット伯爵家の者たちは隔絶した存在であるとご理解いただきたい。

どうか我々に今一度機会をお与えください、必ずや国王陛下をはじめとした皆様に現実をお分かりいただきますので」

私は膝を突き、平伏し懇願する。恥や外聞など疾うの昔にすり切れた、今一番大切なことはケビン・ワイルドウッド男爵の怒りを鎮め、交渉の席についてもらうこと。

 

「・・・勇者グロリアス・ブリッジはこう言っているが、お前たちはどうする? 彼は我らと剣を交えた誇り高き戦士、話を聞くに値する者であるが、その背後で何も分からぬといった顔をするお前たちと交渉するつもりなど一切ない。

今すぐ結論を出せ」

「お、お待ちいただきたい、そのように一方的な、それに今すぐ結論など「残念だ、勇者グロリアス、あなたの言葉は祖国の者には届かなかったようだ、女神様の下には胸を張って向かわれよ」分かりました、分かりましたからどうかお待ちいただきたい!!」

 

「・・・国王よ、宰相はそう申しているが何か言う事はあるか?」

「何が望みであるか、地位か、領地か」

国王閣下は顔を青ざめさせながらも、毅然とした姿勢を崩さず言葉を向ける。

 

「他国の我らが地位や領地を貰ってどうする、普通に賠償金を請求するだけだ。別に賠償金名目で勝手に国庫の貯えを奪う事も出来るが、それではそちらにとって都合が悪かろうと思ってな。

それとワイン蔵を空けさせてもらおうか。ホーンラビット伯爵領の者は酒飲みが多いのでな、こちらは今すぐに向かわせてもらおう」

それは酷く俗物的でありながら現実的な落としどころ、これほどの力の行使からすればごくささやかと思えるような望み。

 

「し、しかしその、我々も城の再建など何かと物入りといいましょうか、その・・・」

それでも尚も食い下がる宰相閣下の言葉に、大きなため息を吐くケビン・ワイルドウッド男爵。

“スーーーーーーーーッ、ズズズズッ”

 

「一応寸分狂わず戻しておいた。土属性魔力により接着も行っておいたから、強度に問題はないはずだ。集団幻覚だのと言いだすようなら、試しに上空のドラゴンを何体か落下して・・・」

「いえ、そのようなことを申す者がいようはずもありませぬ、すぐに地下ワイン倉庫へ案内させましょう。賠償金も書類を今すぐご用意いたします!!」

慌てて言葉を添える宰相閣下に「別に地下へ閉じ込めようとしてもいいぞ? その時は王都ごと破壊すればすぐにでも脱出できるのでな」と皮肉を返すケビン・ワイルドウッド男爵。

 

「勇者グロリアスよ、あの者が・・・」

案内の者と共にケビン・ワイルドウッド男爵が大会議室を離れていった事を見届けた国王陛下が、静かに口を開かれる。

 

「はい、ケビン・ワイルドウッド男爵、ボルグ教国より魔王認定された御方です。ですが先程は幾分お優しかった、ボルグ教国ではより苛烈でしたから。この話は私の口からではなくボルグ教国に放っている諜報の者からお聞きになったほうが良いでしょう。

目の前で見せられた私たちですらいまだに信じ切れていないような物でしたので」

そう言い私はケビン・ワイルドウッド男爵が退室し開け放たれたままの扉に目を向ける。

ナミビア王国はたった一人の男に敗北した、その人物の名はケビン・ワイルドウッド男爵。彼の名は決してかかわってはいけない人物のものとして、ナミビア王国の歴史に深く刻まれることとなったのであった。




おはようございます。
いってらっしゃい。
by@aozora
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