転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第905話 辺境男爵、片付けの終了を報告する

ナミビア王国王城内調印の間、ここは国家間での取り決めが話し合われ、国同士の条約や大きな契約が結ばれる重要な場所。

 

「それではこの度の勇者派遣に関するホーンラビット伯爵独立領への賠償は、ナミビア王国側が賠償金として金貨千二百万枚を支払うことで合意とし、ここに本条約を締結するものといたします」

公式文書としてナミビア王国王家の紋章の記されたその書類は、ナミビア王家と王都教会、ホーンラビット伯爵家の三者により保管され、その正当性は女神さまに対する宣誓により担保された。

 

「ではこちらの金貨二百万枚は確かに受け取らせていただきます。残り金貨一千万枚は条約に従い五十年の分割支払い、年間金貨二十万枚であれば王家として支払い可能金額でありましょう」

「そ、そうであるな。国家間紛争、しかも敗戦国ともなればこれほどの恩情は稀であろう。ホーンラビット伯爵殿には感謝しかない」

冷や汗を流し礼の言葉を口にする国王に、ホーンラビット伯爵家側の代表であるケビン・ワイルドウッド男爵は頷きで同意を示す。

 

「ボルグ教国側から勇者グロリアス・ブリッジ殿のことに関して苦情を言われることはないと思いますが、仮にそうしたことがあればオーランド王国へお知らせください。

ナミビア王国には十分な形で誠意を見せていただいた、元凶であるボルグ教国に行動の真意を問うことはやぶさかではありませんので」

そう言い口角を上げるケビン・ワイルドウッド男爵に、乾いた笑みを張り付ける国王。見せつけられた圧倒的な力、勇者グロリアス・ブリッジから告げられたホーンラビット伯爵家の圧倒的な武力、そしてボルグ教国で一体何が起きたのか。

勇者グロリアス・ブリッジの口から語られた言葉は、まるで教会に残された神話の一幕。

 

「ケビン・ワイルドウッド男爵は言いました、「ちょっと色々あってね、天使様方と知り合いだったりとんでもない存在と親しくしていたりするだけ、俺自体は辺境の雇われ男爵だから」と。

私からすればその段階で人を超えたナニカとしか思えないのですが、あの御方はそれでも人であろうとしている。

ケビン・ワイルドウッド男爵を刺激してはいけない、人であろうとする者をそれ以外のナニカにしてはいけない。ケビン・ワイルドウッド男爵が人であることを諦めたとき、あの御方を止めることのできる者は創造の女神様以外におられないのだから」

 

上級天使を調伏し、天使に謝罪される辺境の雇われ男爵。そのような者に対し、たかが大国の国王に何ができるというのか。

相手が人であることを望み国家間の条約により物事を収めようというのに、これ以上何を望むというのか。

 

「勇者グロリアス・ブリッジ殿、貴殿の力は国を守り民を守るために生かされるべきものだ。これからも勇者パーティーの皆様と共に、ナミビア王国の勇者として活躍されることを強く望みます。

ナミビア王国国王陛下、陛下のご決断に感謝申し上げる。ナミビア王国のより以上の発展を辺境ホーンラビット伯爵独立領よりお祈り申し上げる。

では私はここで失礼させていただく、まだ済まさねばならない要件があるのでね」

ケビン・ワイルドウッド男爵はそう言うと席を立ち、何もない空間に鍵を差し込む。開かれた扉、空間がまるで扉のように大きく開き、風にそよぐ草原が姿を現す。

 

「残月、紬、中へ」

ケビン・ワイルドウッド男爵の言葉に背後で控えていた女性と女性執事が草原の中に入り一礼すると、見えない扉により開かれた空間は閉まり、もとの調印の間へと戻っていく。

 

「国王陛下、それとナミビア王国の皆様方、一つ余興をお見せいたしましょう。そうですね、中庭にでも移動しましょうか」

ケビン・ワイルドウッド男爵の提案に中庭へと移動する一同、そこで彼らは再び驚くべきものを目撃する。

それは王都マドレーヌ上空を舞う六体のドラゴン、ケビン・ワイルドウッド男爵は手を上げると、ドラゴンに向かい命令を下す。

 

「“火龍よ、大輪の花を咲かせ爆ぜよ。水龍よ、恵みの雨となりて霧散せよ。土龍よ、風に乗る砂となり天に消えよ。風龍よ、浄化の風となりて大気を洗え。光龍よ、人々を癒す導きとなりて王都を照らせ。闇龍よ、心の安寧をもたらす安らぎとなりて王都を包み込め”」

 

“グルワァァァァァ、ドーーーーーーーン”

火龍が爆ぜる、それは空に巨大な炎の花を咲かせ、火の粉の花びらを舞い散らせ消えていく。

 

“キュワァァァァァ、バシューーーーーン”

水龍が飛び散る、それは空に大きな虹を作りながら、細やかな雨を降らせ霧散する。

 

“グォォォォォ、ブシャーーーーー”

土龍が中空にばらけ。

 

“ブォォォォォ、バサーーーーー”

風龍がそのすべてを消し去っていく。

 

“キュルワァァァァァ、ピカーーーー”

眩しくも暖かい光が王都を照らし。

 

“グウォォォォォ、ブワーーーーー”

夜の帳のような暗黒が王都を包み込む。

 

空を飛ぶ王城と六体のドラゴンの出現により大混乱に陥っていた王都マドレーヌの民衆は、ドラゴンたちの見せた奇跡に驚き、その奇跡に触れ、落ち着きを取り戻す。

 

「では私はここで下がらせてもらおう。聖獣招来、いでよ、天魔神鳥黒鴉!!」

ケビン・ワイルドウッド男爵の身体から伸びる一条の光、その光に導かれるように、空から巨大な白く輝く鳥が舞い降りる。

 

「聖獣よ、我と一つになりて我を導け。<憑依一体><精霊化>」

“ブワンッ”

白く輝く巨大な鳥の嘴がケビン・ワイルドウッド男爵の身体を貫かんと飛び込んだ時、それは現れる。

 

“バサッ”

美しく輝く白い翼、嘴の付いたハーフマスクを付けた鎧武者姿の者。

 

「・・・天使、様!?」

「“いや、私は人だよ。聖獣天魔神鳥黒鴉の力を借りた只人、今は精霊化により少々異なる存在ではあるがね”」

“スーーーーーーッ”

浮き上がる鎧武者、その場の人々はその光景をただ茫然と眺め続ける。

 

「“さらばだ、ナミビア王国の者たちよ、ナミビア王国に永久の平和が訪れんことを”」

心に響く声音、鎧武者は音もなく舞い上がり、光のように北の空に飛び去って行く。

 

「勇者グロリアス・ブリッジよ、我々はとてつもない存在に喧嘩を売ってしまったのだな。その方があの存在に認められなければナミビア王国はどうなっていたか。

今更ではあるが礼を言おう、よく役目を果たしてくれた」

「いえ、私など何も。私はこれまでもこれからも、ナミビア王国の勇者として国民の為に尽くしていく所存でございます。

国王陛下、これからもよろしくお願いいたします」

 

大きな戦いが終わった。ナミビア王国は戦いの傷を乗り越え、新しい一歩を踏み出そうとしているのであった。

 

―――――――――――

 

「ホーンラビット伯爵閣下、ケビン・ワイルドウッド男爵、ただいま帰還いたしました!! って他の皆さんは今日も王都観光っすか? 伊織に聞いたら皆出掛けていて、屋敷にはホーンラビット伯爵閣下たちしかいないって聞いたんすけど」

徹夜明けでテンション高めのケビン・ワイルドウッド男爵、ナミビア王国よりワイルドウッド男爵家王都屋敷に帰ってまいりました!!

いや~、遠い遠い、精霊化しても一時間半って、結構な距離よ? 久々に飛んだ飛んだ、アイキャンフライって奴ですね。

 

「あぁ、お帰りケビン君。私もね、ついさっき帰ってきたところなんだよ。本当はこのまま寝室に向かうつもりだったんだけどね、伊織さんからケビン君が帰ってきたと聞いてね。

うん、本当にご苦労様、大変だったよね。本当に、大変だったんだよ、私も。

ザルバとグルゴには悪いことをしたとは思うけどね、こう言ってはなんだが彼らはまだ貴族として生きてきた実績があるからね。

私なんか名ばかり貴族の四男、元行商人で村長家の婿だよ? なんでそんな私が王城で国王陛下と向かい合わせで談笑しないといけないのかな? ケビン君は私を何だと思ってるのかな?

あぁ、分かってる、分かってはいるんだよ。ケビン君が色々頑張ってくれなければ今のマルセル村がなかったどころか廃村寸前だったってことぐらいはね。

人口減少、マイケルの暴走、魔獣や盗賊、原因は掃いて捨てるほど考えられるからね。ケビン君にこんなことを言う事がお門違いで本当であれば心からの感謝を贈らないといけないことぐらい分かってはいるんだよ、でもね・・・」

ドレイク・ホーンラビット伯爵閣下、遂に崩壊。誰かが言っていた、いい奴ほど早く逝っちまう。惜しい方を亡くしたようでございます。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、すまなかったねケビン君、少々混乱していたようだよ。王城という特別な場所やゾルバ国王陛下をはじめとしたオーランド王国の重要人物たちとの会談は、私には荷が重すぎたようだ。マルセル村を支える者として情けない限りだよ」

ドレイク・ホーンラビット伯爵閣下、復活。どれ程爵位が上がろうとも心からマルセル村を愛し、村民の為に骨身を惜しまぬドレイク村長、立派です。流石は俺が尊敬してやまない師匠にして追い掛けるべき目標、俺はこの人の背中にどれ程近付けているのだろうか。

俺は心からの敬意を込めて一礼すると、ホーンラビット伯爵閣下の目を見つめ口を開く。

 

「ドレイク村長、お疲れ様でした。それと結果論ですが、こんな事態に巻き込んでしまって申し訳ありませんでした。

俺としては毎日旨い肉と新鮮な野菜が食べれればそれでよかったんですけどね、何をどう間違えてしまったんだか。やっぱあれですね、出来るからって調子に乗って何でもかんでも引き受けちゃ駄目ですね。

どう考えても転機はグロリア辺境伯家とランドール侯爵家との小競り合いなんですよね。村人は村人らしく余計なことをしなければこんな状況にはならなかったんでしょうけど、まぁ今更っていえば今更なんですが。

ドレイク村長、随分と遠くに来ちゃいましたね」

俺が自嘲気味に笑うと、「まったくその通りだね」と言って笑みを浮かべるホーンラビット伯爵閣下。本当に二人してとんでもないところまで来てしまった、俺は「王城での対応、お疲れ様でした」と言って頭を下げる。

 

「それじゃ簡単に俺からの報告を。まず隣国スロバニア王国ですが、魔王討伐軍に参加していた第三王子をはじめとした貴族並びに貴族子弟の方々をあちらの国王陛下にお渡ししてきました。

偶々なんですが、嫁がれたカルメリア様と避難されていたフレアリーズ第五王女殿下が参加されている会食の席にお邪魔する形になってしまいまして、終始フレアリーズ第五王女殿下に主導権を持っていかれたと言いますか。事を荒立てるのも何でしたんで、国王陛下に処分をお任せして後の交渉はオーランド王家としてくださいと言ってお任せしてきちゃいました」

「まぁ、うん、そうだね。オーランド王国とスロバニア王国は軍事同盟や婚姻外交で親密な関係を築いてるし、今度の騒動でも比較的協力的であったと聞いています。穏便に済ませたことはよかったんじゃないかな?」

フレアリーズ第五王女殿下最強、あの方には勝てる気がしない。完全にペースを持って行かれちゃうんだもん。アルジミール様には頑張ってあのスライム娘の手綱を握っていただきたい!!

 

「次にボルグ教国ですが、あそこは色々ありまして。結果的に大聖堂を含めた教会施設を砂に変えて埋めちゃいました」

「ブホッ、ケ、ケビン君!?」

おうおう、ホーンラビット伯爵閣下、焦ってる焦ってる。でも仕方がないじゃん? あそこってヤバ過ぎだったんだもん。

 

「え~、流石にヤバ過ぎてご報告できない事がてんこ盛りの場所だったんですが、目撃者八万人越えの隠しようのないヤバい事についてお話しいたします。上級天使が現れて俺のステータスが全部消されちゃいました」

「・・・は? イヤイヤイヤ、は?」

うん、そうなるよね、誰でもそうなるよね、分かる分かる。

 

「ですので俺の方も全く余裕がなくなっちゃいまして、切り札を惜しみなく使って何とか事態を収めたって感じです。簡単に言えば上級天使から力を奪って天上界の関係者に引き取っていただいたって感じです。

俺、ちょっと人には言えない流れで天使様に知り合いがいまして、その関係で色々と。前に礼拝堂で結婚の報告をした時に、女神様から祝福のお言葉を賜るなんてとんでもない事態があったじゃないですか? あの関係です。

それでまぁ天使様方が数柱ご降臨されて謝罪されたり説明をいただいたりと、しっちゃかめっちゃかな状況に。その時に勇者様方の使われていた三種の神器は天使様にお返しして、問題になっていたマルセル村の礼拝堂は教皇猊下をはじめとした教会のお偉いさん方の前で破壊しちゃったんで、もう絡まれることもないかと。

何か言いたいことがあったらオーランド王家を通すように言い含めておきましたんで」

「・・・・・」

お~い、ドレイク村長~、帰ってこ~い、まだ一国残ってるぞ~。

 

「それで最後に勇者たちをナミビア王国に届けて、王家から賠償金をふんだくってきたって感じですかね。これ、ホーンラビット伯爵家とナミビア王国との和解金って形でもらってきたんで、後程お渡ししますね」

「あ、う、うん。よく分からないけど分かったよ。えっとそれで賠償金だけどどうしようかな? 商業ギルドの口座に預けておいたほうがいいのかな?」

 

「う~ん、今回頂いた分はホーンラビット伯爵家で管理しておいてもいいんじゃないでしょうか、何かとお金が掛かることもありますし、うちって現金の貯えが少ないですから」

「そうだね、それはその通りかもしれないね。それで賠償金は幾らくらいなんだい? 今度の戦いで頑張ってくれた皆さんにも報いないといけないからね」

信賞必罰、論功行賞での恩賞は貴族家の義務。土地や爵位を与えられない場合、報奨金を与えるのは当然の流れですからね。

 

「そうですね、大森林素材のオークションで皆さん使いきれないくらい稼いじゃってますけど、形を示すことは大切ですからね。

取り合えず金貨二百万枚受け取ってきました。残りは五十年間の分割払いで毎年金貨二十万枚振り込まれることになっています。神器を持った勇者パーティーを送り込んできたんですからね、これくらい当然でしょう。ナミビア王国とはいい話し合いが出来ましたよって大丈夫ですか?

ドレイク村長!?」

ホーンラビット伯爵閣下、遂に白目を剥いて倒れる。どうやら王城で相当お疲れだったんでしょう、こんなになるまで頑張ってくださったホーンラビット伯爵閣下に心からの感謝を。

 

俺は精霊の庭から残月に来てもらいホーンラビット伯爵閣下の世話をお願いすると、地下室の扉から秘密基地の城に向かい、使用人たちへの帰還報告もそこそこにベッドへ飛び込み、お布団様に包まって夢の世界へと落ちるのでした。

限界なの、おやすみなさい。(グ~~~~~~~)




おはようございます。
いってらっしゃい。
by@aozora
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