転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第906話 戻る日常、それぞれの生活へ

朝の光が室内を照らす。お布団様の中で微睡に包まれながらジャイアントキャタピラーと化していた俺は、“そういえばマルセル村の皆さんを送り届けないといけないんだった”と思い出し、しぶしぶながら羽化を果たす。

 

「お目覚め、おめでとうございます、マスター」

お盆に水の入ったグラスを載せたトライデントがベッドの脇から声を掛ける。俺はそのグラスを受け取るとクイッと一飲み、どうやら濃厚な魔力水だったようで、のどの渇きを潤すと共に身体の芯から力が広がっていくのが分かる。

 

「ありがとう、美味しかったよ。それと食事の用意を頼めるか? 何かやたらと腹が減ってるみたいなんだよね、このところ忙しかったから疲れがドッと出たのかもしれない」

「畏まりました、すぐにご用意いたします。ただいまケイト奥様をお呼びしておりますので、こちらでお待ちいただきますようお願い申し上げます」

そう言い一礼をし部屋を下がっていくトライデント、俺は“そういえば帰宅の挨拶をしていなかった”と思い出し、まずったかと頬を引き攣らせる。だって眠くて眠くてしようがなかったんだもん、正直限界でした、これは仕方がなかったんです。

俺は心の中で自分に言い訳すると、収納の腕輪から着替えを取り出し、新しい下着と服へ取り換える。

 

やっぱりスキルって便利、<清掃>スキルの<洗浄>や光属性魔法の<クリーン>が使えれば一瞬にしてキレイサッパリだったんですけどね、こればっかりは仕方がない。ないものはない、子供の頃に<クリーン>の魔法に憧れてたけど、昔に戻ったと考えれば大した問題でもないですしね。

 

“カチャッ”

開かれた扉、一礼と共に入ってきたのは残月、その後ろには老齢の女性が一人。

 

「ケビン、お疲れ様。話は残月とトライデントから聞きました、無事に帰ってきてくれてありがとう、それとおはよう」

そう言い優しく微笑むご婦人の頬に流れる一筋の涙。

 

「・・・ケイトか? ・・・そうか、俺は帰ってきてからずっと」

「フフフ、本当にケビンときたら私たちに挨拶もしないでベッドに入ってしまって。本当に気持ちよさそうに眠っていたのよ? 本当に・・・。

さぁ、食堂へ行きましょう、みんな待っているわ。ケビンには色々と話したい事や聞きたい事もあるけれど、まずは朝食を食べないと」

ケイトは泣きながら笑みを作ると、食事にしようと声を掛ける。

魂を初期化され、スキルを失い、上級天使から神力を奪い去り。考えるまでもない、そんな事があってタダで済むはずがない。

名付けにより存在が確立されたからといって、俺の状態は想定外のもの、称号がなくなったと浮かれている場合なんかじゃなかった。

 

“ガチャッ”

「ケビン、目を覚ましたのね!! よかった、本当によかった」

扉を開けて入ってきたのは初老といった雰囲気の美しい女性、その横に伸びた長い耳が彼女がエルフであることを物語る。

 

「アナスタシアか? 随分と心配を掛けてしまってすまなかった」

「本当にそうですよ? ケビンはいつも無茶ばかりして、今回ばかりはちゃんと反省してくださいね? でもよかった、本当によかった」

そう言い涙を流すアナスタシアの姿に、不謹慎ながら美しいと思ってしまう。

 

「後ろにいるのはトワイライトか。お前にもちゃんと礼を言わないとな、色々とありがとう」

「いえ、私は何も。あの時のことはつい数日前のことのように感じます、ご主人様がお目覚めになられて本当に良かった」

メイド服を着たトワイライトはそう言い一礼をすると、「食事のご用意が整いました」と言って俺たちを食堂へと案内する。ゆっくりと歩くケイトとアナスタシア、俺はその後ろを黙って付いていく。

 

自身の過信と身勝手から長い時を待たせてしまった、それでもこうして笑顔で迎えてくれた。深い罪悪感と喜びが、心の中で激しく踊る。

 

“カチャッ”

扉の向こうに広がる食堂のテーブルには多くの料理が並べられ、紬とその眷属である最上級精霊の糸巻・機織・経糸・緯糸・シャトルの五人が、メイド服を着て給仕を行っている。

 

「さぁ、席に座って。直ぐに子供たちも顔を出すと思うわ」

ケイトがテーブルの椅子を引き着座を勧める。変わるもの、変わらぬ者たち。俺は胸の奥を締め付ける寂しさを感じながらも、「ありがとう」と感謝の言葉を向け席に着く。

 

“カチャッ”

大きく開かれた扉、入ってきた家族たち。

 

「ケビン、あまり心配を掛けさせないで。月影からあなたに異変が起きたと聞いた時は本当にどうしていいのか分からなくなったのよ?

しばらく経ってトライデントからケビンの無事を知らされた時、私たちがどれだけほっとしたことか、ケビンは分かっているの?

ケビンの雇用魔物達も心配して大騒ぎだったのよ?緑と黄色、それにブー太郎が収めてくれなかったらどうなっていたか、あとでちゃんとお礼を言っておかないと駄目よ?」

もう直ぐ二歳になるアルバの手を引き食堂に入ってきたパトリシアが、開口一番お説教を向ける。エリザベスに抱っこされていたケーナが床に降りると、テトテトと歩いてケイトに抱き付き、途端ケイトが美しい歌姫に姿を変える。

 

「さて、お小言はそこまで、皆で食事にしましょう。ヴィーゼ君、いらっしゃい」

美しいエルフの姫が、大蜘蛛の背中に跨ったヴィーゼを呼び寄せ、自身の隣のベビーチェアに座らせる。

っていうかいつの間にそこにいたの月影さん、ニッコリ微笑まれても~~~!!

 

「月影、俺が寝たのって・・・」

「昨日の午前中でございます。大変お疲れであったのか、朝までぐっすりとお休みになられておられました。今朝の朝食は消化の良い物を用意させていただきました、ごゆっくりお楽しみください」

・・・ダ~~~~~、ケイト~~~~、アナスタシア~~~~~~!!

全く嘘は言わず完全に罠に嵌めてくれた二人、っていうか全員グルじゃん、こんなの分かるか~~~~、何処のドッキリ番組だ~~~!!

 

俺は思いっきり叫びたい気持ちをグッと堪えると、「そうか、心配を掛けたようだな。色々とありがとう」と言って食事を始めるのだった。

あ~、クソッ、旨いよ、めっちゃ旨いよ、食事の手が全く止まらね~~!! 俺はまるで昇進を果たした従業員たちのように只管料理を口にすると、眠り続けて何十年も過ぎていなかったことにほっと胸を撫で下ろすのであった。

 

――――――――――――

 

「皆さん、おはようございます。王都での観光は十分お楽しみいただけましたでしょうか?」

マルセル村で行われた初めての夏祭りは、光の勇者グロリアス・ブリッジと勇者パーティーという豪華ゲストのお陰で盛況のうちに幕を閉じた。

夏祭りの催しであった“魔王討伐軍侵攻作戦”に撃退側として参加された皆さんの労を労うために企画された王都観光は、“王城の奇跡”に沸くお祭り騒ぎの王都という絶好のタイミングであったこともあり、大変好評をいただくこととなった。

 

「うむ、久々の王都での買い物は十分楽しめたのじゃが、いかんせん冒険者ギルドがの」

「そうだな、もう少し根性を見せて欲しいというか、そこはかとない物足りなさがな」

 

「はい、そこのお馬鹿二名、あなたたちの基準で発言するんじゃない。

大体冒険者ギルド本部の訓練場に勝手に乗り込んで覇気ぶちかまして「一番強い奴を出せ、文句があるなら模擬戦だ!!」ってどこの道場破りだ、せめて武術教官に指導を申し込むとか、田舎者を見下して絡んできた馬鹿をボコるとか、やり方はあっただろうが!!

しかも慌てて駆け付けたギルド職員をボコり続けるって、ギルド側からしたらいい迷惑だ!!

そこの若者三人、お前らも一緒になって暴れてるんじゃない!! 卒業したらお世話になるんだろうが、ここはある程度の被害が出たくらいで止めに入っていいところを見せないでどうする!!

その点フィリーちゃんとディアさんは完璧です。無関係を装って治療に回る、評価も爆上がり間違いありません。

一番の問題はクルーガルの爺、お前だ!! お前は参加しちゃ駄目だろうが大剣聖、オーランド王国の顔が阿呆なことするな~!!」

 

案の定馬鹿が馬鹿をやらかしました。

オーランド王国王城で魔王討伐に参加したクロッカス第三王子と王都貴族たちを引き渡した後、ワイルドウッド男爵家王都屋敷で解散したマルセル村一行は、“王城の奇跡”に盛り上がる王都の街を観光。王城に残ったホーンラビット伯爵閣下たちと荷物の配達の仕事が残っていた俺が留守であった二日間、王都を満喫しまくったのでございます。

買い物の軍資金は村を出る前に木札の両替を行っておいたので、皆さんの懐はウハウハ。収納の腕輪のお陰でスリに遭う心配もなく、例えぼったくり被害に遭ってもO・HA・NA・SHIで解決。

魔力纏いと覇気を使いこなす時点で王都程度じゃほぼ無双できますからね、行き成り切りつけられても常に魔力を纏う習慣を身に付けているマルセル村の蛮族たちにとってはちょっとびっくりする程度だし、むしろ手加減の方が心配までありますから。

 

問題はお馬鹿がお馬鹿したこと。暴れ足りなかったからって、冒険者ギルド王都本部の白金級冒険者をボコりまくるな!! 王都北街門で覇気をぶちかました直後に駆け付けてこなかった辺りで察しろ、俺は暗殺者ギルドの幹部たちで学んだぞ!! ジミーとジェイク君、エミリーちゃんの三人も後学の為とかいって参加しちゃだめだから、白金級冒険者は強さと品格と貢献度、それとワイバーン討伐の有無だから。

そういえば“守護者シンディー・マルセル”が白金級冒険者に昇格してたし、“白銀のエミリア”は元白金級冒険者。白金級冒険者の品格って一体・・・。

 

「ねぇケビン君、次はいつお買い物に連れてきてくれるの? 今度はメアリーと一緒に来たいんだけど」

「私もうちの子供たちを連れてきてやりたい。王都もあの頃とは大分変わったってところを見せてやりたくてね」

マリアおばさんとマルコお爺さんの奥様からご要望が。肝心の旦那さんたちは・・・王都観光のお付き合い、お疲れ様でございました。

俺はすぐ隣で朝から屍のようになっているトーマスおじさんとマルコお爺さんに心の中で手を合わせる。

 

「え~、今回は特別です。そんなにしょっちゅう行ったり来たりしてられないんで。そうですね、次は冬に入ったらですかね、ジミーたちの御迎えもありますし」

「「「「「よし、ケビン、約束だからね!!」」」」」

女衆の圧力が強い、そして何故か男衆から恨みがましい視線が。頑張れ旦那さんたち、俺も今度嫁さんたちを連れてこないといけないんだよ!!

 

「というかホーンラビット伯爵閣下は? ザルバさん、ドレイク村長はどうしたの?」

「それが、何かひどく疲れてしまったみたいで、昨日から寝込まれてしまっているんだよ。私としては無理をさせてしまったと心苦しくてね、王城では何のお力にもなれなかったことが悔やまれる」

そう言い酷く落ち込むザルバさんとグルゴさん。言えない、二人がぶっ倒れている最中に俺が止めを刺したなんて言えない。

 

「分りました、ホーンラビット伯爵閣下は後程俺の方でお屋敷へお送りさせていただきます」

俺はザルバさんとグルゴさんにそう答えると、ポケットから精霊の鍵を取り出し玄関扉に差し込んでから扉を開く。

 

「え~、ちょっと色々ありまして、<影魔法>が使えなくなっちゃいまして。今度からはこちらの魔道具を使っての移動となります。

マルセル村に着いたら再び扉を開けますので、それまでこちらの草原でお過ごしください」

玄関扉の先に広がる緑の草原、吹き抜けるさわやかな風が玄関扉から流れ込みます。この精霊の庭の欠点は、好きなところに扉を開いて出入りするには制作者であり管理者でもある紬が一緒にいないといけないというところ。そういった意味では<影魔法>の影空間って便利だったよな~。

影空間自体は作れそうなんだけどな~、二度と帰ってこれなさそうで怖い。色々実験と検証を繰り返して、自分なりの影魔法を作り上げなければ。

 

俺は草原に佇み手を振る紬に村の皆のことを任せると、玄関扉を閉め精霊の庭との繋がりを解除するのでした。

 

「それじゃジミー、学園が再開されるまで暇だとは思うけど元気で。何かあったらジェームスか伊織に伝えてくれれば連絡を送ってくれることになってるから」

「分かった、ケビンお兄ちゃんも大変だとは思うけど頑張って。メアリーお母さんとミッシェルちゃんによろしく伝えておいて」

王都学園の制服に着替え学園の学生寮に帰っていくジミーたち、俺はジェームスたちと一緒に玄関先で彼らを見送ると、屋敷の中に戻り大きくため息を吐く。

 

「ようやく今回の祭りも終わったな、伊織、後でホーンラビット伯爵閣下にエリクサーを飲ませといて。流石に今回は心身ともに相当疲れてるはずだからね、一度スッキリさせといたほうがいいだろう。

アーメリア、ホーンラビット伯爵閣下が目を覚ましたら色々と相談に乗ってあげて欲しい、為政者の立場からの話は俺よりもアーメリアの方が頼りになるからね。

ジェームス、後のことは頼んだ。俺は一回マルセル村に帰る、村人たちを送り届けたら帰ってくるから、ホーンラビット伯爵閣下にはそう伝えておいてくれ」

「「「畏まりました、旦那様」」」

俺は三人に見送られながら、地下室の扉に向け歩を進める。王都まで徒歩ゼロ分、自宅通勤って素晴らしい。

俺は“後でネイチャーマン名義で借りている家の様子も見てこないとな”と思いながら、秘密基地の城を抜け実験農場の屋敷へと向かうのだった。

 




おはようございます。
いってらっしゃい。
by@aozora
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