転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第907話 居酒屋のマスター、お客様方をお迎えする

“グツグツグツグツ”

鍋の中で夏野菜が煮込まれる。トメートにマッシュにキャロルにオニール、ボア肉と一緒に煮込まれた野菜たちが厨房へ旨そうな匂いを広げていく。

 

「マスター、クラーケンの醤油焼き、上がりました」

「トライデント、ご苦労さん。どんどん焼いて収納の腕輪にしまっておいて。トワイライト、夏野菜のサラダ、出来上がったか?」

居酒屋の開店準備は忙しい。本日のお客様は皆今度の騒ぎでお世話になった方ばかり、心を籠めもてなさなければならない。

 

「えぇ、ケビン農場の野菜たちはよその野菜よりも瑞々しさがあるもの、全体のバランスを考えて盛り付けるだけで極上の一品に仕上がるって凄いわよね。サッと粗塩を振り掛けるだけだもの、誰だってできるわよ」

そう言い盛りつけられたサラダは芸術的な輝きを放つ極上の一皿。

これだから才能の塊は質が悪い、その粗塩をサッと一振りが目茶苦茶難しいんだっての!! さっきも見事な魚の塩焼きを焼き上げてたし、トワイライトの調理人のセンスってヤバい。

トワイライトは言わば天上人たちの負の感情の集合体、思いの具現化、どれだけ食に飢えていたんだ天上人!!

 

「それじゃそろそろお客様を迎え入れてくれ」

俺の言葉にトワイライトが店の奥の扉のクローズの掛札をオープンに変える。俺は店内に設置された女神様像に跪き、祈りを捧げる。

 

「あなた様、本部長様、居酒屋ケビン、本日開店いたします」

心の底からの祈り(営業)を終えた俺は、再び厨房へと向かう。炊き立てご飯に似合う赤魚の煮付けを作る為に。

 

――――――――――

 

「上級天使が降臨し、かつその場で堕天現象を起こすという異例の事態が発生したにもかかわらず、被害は極めて軽微でありました。

これは全て特異点ケビン・ワイルドウッドが事前対策を行っていたからに他ならず、本人からの事情聴取が必要であると考えます」

 

天上界の天使とは、女神様の手足である。女神様がお創りになった世界を管理し、女神様の御意思に従い発展を促す。天使たちにとって世界に影響を及ぼす異常事態は監視の対象であり、常に事態の中心にいる特異点ケビン・ワイルドウッドの存在の是非については様々な意見が交わされ続けていた。

 

「なるほど、しかし特異点は地上界の存在であり、地上人を天上界に招くことは、強く制限されています。

!? 失礼、丁度特異点から接触がありました。ボルグ教国聖教会大聖堂で何が起こっていたのか、聖域内のアーカイブ閲覧の申請許可は明日には降りる手はずになっていますから詳しい分析は後程として、概要だけでも確認してまいりましょう。

$$%&、??%&、調査に同行してください。他の者は引き続きボルグ教国と天上界とのこれまでの神託記録を洗い直してください」

「「「「「ハッ、**#@様」」」」」

 

地上界で起きたボルグ教国聖教会による魔王討伐軍派遣は、当初地上人たちの争いで済むと思われていた。地上人たちが女神様の威光を背景に争いを起こすこと自体は然程珍しいことではなく、人というものの本質の一部として人の営みの一現象と考えられていた。

 

三人の天使たちが向かった場所は彼らの職場建物の中にある休憩室、そこにはオブジェのように飾られた自立した扉が一枚。

 

「<オープン>」

“カチャッ”

「いらっしゃいませ。どうぞお好きな席にお座りください」

開かれた扉の向こう側から漂う美味しそうな料理の匂い、天使たちはその香りに誘われるかのように居酒屋ケビンの店内に入ると扉を閉める。

そこは一部の天使たちに許された憩いの場、多くの天使たちから入店許可の嘆願が上げられる幻の居酒屋なのであった。

 

―――――――――――

 

“コトッ、コトッ、コトッ”

カウンター席に座られたお客様の前に、本日のお通しをお出しする。

 

「クラーケンの酢の物です。後程お出ししますが、新鮮なクラーケンのゲソが手に入りましてね。クラーケンはいいですよね、身体が大きいのもそうですが、脚を一~二本切り取っても時間が経てば元に戻りますから。

島の側に回遊してきたクラーケンがいましたんでちょっといただいて来たんですよ、後ほど醤油焼きもお出しいたしますので、ご期待ください」

キュウリみたいな野菜を輪切りにし塩でしんなりさせ絞ったものと、短冊切りにしてからサッと湯通ししたクラーケンの身を深皿で調味料に混ぜ込み、海藻を加えた一品。酢の物のさっぱりした味わいが、夏の季節に丁度いい。

 

“コトッ、コトッ、コトッ”

お出ししたのはグラスジョッキに注がれたキンキンに冷えたビール、疲れたお顔の御三方には堪らない癒しになるでしょう。

 

「プハァ~~、やっぱりこの一杯は堪らないわ。これが仕事上がりだったらどれだけよかったことか。

特に説明は要らないわね、マルセル村で起きた魔王討伐軍とホーンラビット伯爵領勢力との戦いはツッコミどころ満載だけど、今は脇に置いとくわ。こちらで一番問題になっているのはボルグ教国聖教会の大聖堂で一体何が起きたのかということよ。

ここ数日のケビンの行動は天上界中の注目を浴びていたの。それはそうよね、魔王討伐軍八万七千五百二十三名対ホーンラビット伯爵領の住民を含めた四十八名のホーンラビット伯爵軍、ケビンから干渉しないように言われてなければ神託を下して即時中止させるべき案件だったのよ。

元はこっちの馬鹿がアルバ君の魂に紐づけて仕込んでいた自動神託が原因だった訳だし、それに関しては本当に申し訳ないと思っているわ。あの件はそれこそ天上界中をひっくり返すほどの騒ぎになったこともあって、今度の魔王討伐軍の注目度は凄かったの」

“ドンッ”

あなた様から差し出された空のジョッキ、お代わりですね、了解です。

 

「いざ蓋を開けてみればミッシェルちゃんをはじめとしたマルセル村のちびっ子たちによる蹂躙って、あんなの誰も予想付かないわよ。マルセル村航空隊って、微笑ましい子供の遊びじゃなかったの? なんでどこの国にもないような完璧な隊列を組む航空戦力が辺境の一伯爵家に作り上げられちゃってるのよ、しかもそれがちびっ子の遊びの延長って、秋の収穫祭の時に見せた微笑ましい光景はどこへ行ったのよ!!

この件に関してケビンが嚙んでいないってことは分かっているから強くは言わないけど、マルセル村の子供たちってどこかおかしいわよ? 本当に気を付けて見守りなさいよね」

あなた様からのありがたい忠告、ミッシェル様は天使様から見てもヤバ目の存在だったようでございます。

 

「それと魔王カオス、アレは駄目、本気で止めて。ケビンの魔物たち、過去の魔王と比べても遜色ないくらいの強さだから、簡単に国を滅ぼしちゃうから。しかも聖剣折っちゃうって、鍛冶神様、大興奮だったらしいわよ?

そうそう、一度グランゾートのメンテナンスをするから送還してほしいって言ってたわよ、本来出しっぱなしにしちゃいけないような聖剣なんだけど、グランゾートが帰りたがらないって。鍛冶神様も想定外過ぎて意味が分からないと仰っていたわ。

 

まぁそんなこともあってその後のケビンの動向が注目されていたの。

で、恐怖の記憶をまとめて味わわせてからの“ハイパー腰巻DXアルファー”、あなたやっぱり人じゃないわ。武神系の神々は腹筋抱えて撃沈するわ、多くの天上人はドン引きするわでもうね。

ケビンはやっぱりケビンだってことで大いに盛り上がっていたわね」

うん、やはり最臭兵器、その威力は天上界でも通用するのか!? お食事のあとにでもあなた様に体験「絶対に嫌よ、フリじゃないから!!」・・・駄目なようでございます。

 

「それだけのことをしていれば何をするのか分からないケビンの動向を天上界中の者たちが注目してしまうのは当然でしょう? そんな状況で起きたのが掲示板の消滅だったわけ。正確にはケビンのステータスに紐づいた掲示板が一瞬にして消えたの。

ケビンのことを監視していた??%&からあなたの反応が消失したとの連絡が入ったのはそのすぐ後だったわ。状況的にボルグ教国聖教会の大聖堂で何かがあったのは確か、あの場所は聖域でもあるから上位者権限のない私たちでは何が起きたのか全く分からなかったの。

その後は驚きの連続よ、天井が吹き飛んで中の様子が観測できるようになったと思えばボルグ教国を担当されている上級天使様がおられるわ、これまで観測されたことのない存在が上級天使様の神聖魔法を無効化しているわ、ビッグダイフクーンが巨大な天使のような姿になるわ、上級天使様が堕天してどこかに連れ攫われるわ。

ケビンに言われて闇属性魔力の処理施設に連絡を入れたらすぐに所長が対応してくださって、「新人教育は任せておけ」と仰られていたわ。ケビンによろしく伝えてくれって言ってたわよ。本当に何がどうなっているの?」

 

困惑顔の天使様方、まぁそれも仕方がないんですけどね、俺も想定外のことが多かったし。

 

「う~ん、何処から説明したらいいのかよく分からないんですが、取り合えず俺のステータスを鑑定してみてもらえます?」

「えっ、どうしたのよ。いつもだったら鑑定されることを凄く嫌がるのに。今回のことで称号もとんでもないことになっているはずよ?」

俺の言葉に訝しみながらも鑑定を行うあなた様。

 

「<管理者権限:ステータスオープン:モニター表示>」

“ブウンッ”

あなた様の言葉と共に中空に表れる巨大モニター。その場の皆の視線がモニターに表示されたステータスに注がれる。

 

名前 ケビン・ワイルドウッド

年齢

種族

職業

スキル

魔法適性

称号

加護

 

「「「これは・・・」」」

天使様方から驚きの声が漏れる。あれ? でもなんで驚いてるんだろう。俺に名前がない事はあなた様も知っていたよね? 本部長様は名付けを行ってくれようとしていたし、状況は理解していたんじゃないの?

 

「その事については私から説明しましょう。ケビンの名前が損なわれたことは管理神様から連絡があったのです。その内容は上級天使*$#&がシステムに干渉しケビンの存在を消そうとしたというものでした。その結果名前が消去され存在の固定化が行われていないとも、現地に到着し次第ケビンの状態を安定化させるようにとのご指示だったのです。

しかしこれは、あの愚か者はケビンに一体何をしたのですか」

表情をこわばらせ、怒りに震える本部長様。

 

「本部長様、落ち着いてください。興奮されますとまたアルバの時みたいに地上世界が大変なことになりますんで。

・・・あ、ここは地上世界じゃなかったわ。って後片付けが大変なことになっちゃいますんで一つ」

俺の制止に大きく息を吐いて落ち着きを取り戻そうとされる本部長様、本気で勘弁してください。

 

「失礼しました。あまりのことに気が動転してしまったようです。この事は早速神々に上申して対処いたしますので、今しばらくお待ちいただきたく「あぁ、これってシステム的にどうにもできないそうです。システムさんから直接説明してもらいましたんで」・・・はい? システムさん・・・ですか?」

何を言ってるのか分からないといった表情をされる本部長様、あの沈着冷静な本部長様がこのような表情をされるとは、凄くレアかも。

 

「えっと、本部長様とあなた様は俺がシステムさんからツッコミをくらっていたことは知っていますよね? システムに人格が芽生えたとかなんとかって騒ぎになった奴です。今回の件で直接そのシステムさんと顔を合わせることになりまして、正確には俺の魂がシステムさんに呼ばれたって事なんですけどね。

件の上級天使ですが、魂の管理を行う権限を持つ天使だったようですね。考えてみればアルバの魂を含めた荒ぶる魂を収集するなんて、上級天使の目を掻い潜って行う事なんか相当に難しいはずですし、問題の中級天使の上役が黒幕だったんならいくらでも行えたんですよ。

その上級天使にしてみれば俺は幾つもの計画を邪魔した不要分子、いうなればバグだったわけです。今後のことを考えればバグの処分は当たり前、俺の行動は監視していても、掲示板までは見ていなかったんじゃないんですかね。

 

で、やっちゃったんですよ、生者に対する魂のクリーニングを。今後は対処されちゃうと思いますけど、俺は生きながら転生待ちの魂と同じような状態になってるんです。

結果すべてまっさら、システム上新たにスキルを加えることも称号や加護を与えることも出来ないらしいです。おそらくかなりシステムの根幹にかかわる部分なんじゃないんですか?」

 

俺の言葉に唖然とする天使様方、まぁ体験した俺も唖然とするような出来事でしたからね。スキルの皆さんには本当に感謝、どれ程ありがたい存在であったのか、今実感しているところであります。

 

「でもそれではケビンが・・・」

「あ、大丈夫ですよ? 要は授けの儀の前の状態ですから、スキルのない子供なんて山程いますしね。トライデント、クラーケンの醤油焼きをお出しして」

何とも言えない空気の流れるカウンター席、俺は努めて気にしていないといった態度で、ボアのトメート煮込みを取りに厨房へと下がるのでした。

 




おはようございます
いってらっしゃい
by@aozora
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