転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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今日から隔日、もしくは不定期になります。
最新話に追い付いちゃったのでストックがないからですね、申し訳ない。
毎朝の楽しみにして下さっていた方々には深く謝罪いたします。

by@aozora


第908話 居酒屋のマスター、お客様とお話しする

“コトッ、コトッ、コトッ”

「ボアのトメート煮でございます。今の季節のトメートは瑞々しくサラダも美味しいのですが、煮物料理でも美味しくいただける季節の野菜ですので、是非ご賞味ください」

深皿に盛られた煮物からは旨そうな香りが匂い立つ。三柱の高位存在は箸を手に取ると、差し出された料理に箸を伸ばす。

 

「旨、トメートの酸味がボア肉の旨味を引き立ててる、相変わらずケビンの料理はお酒に合いそうな物ばっかりね」

そう言い空のジョッキを差し出すあなた様。あなた様、お仕事でいらしたんじゃないんですか? これって所謂事情聴取ですよね、そんなに何杯も飲まれてもよろしいので? まぁ吞兵衛のあなた様がビールで酔い潰れる姿は想像できませんが。

 

「先ほどの話に戻りますが、ボルグ教国聖教会大聖堂に到着した私が最初に向かった場所は地下の最下層でした。ここは勇者グロリアスの出発式を見学に来た際に地下構造物の調査を行い、どういった施設であるのかの把握を行っていた為最優先とした場所です。

呪物保管倉庫と化したその場所は更なる呪物の存在を誤魔化す為の施設、オーランド王国王都のアーメリア別邸と似たような構造をした場所でした。

暗黒龍グラード、遥か太古の時代、自らを龍王と名乗って全てのドラゴンに戦いを挑んだ漆黒のドラゴン。その心臓らしき肉片と真祖ヴァンパイアクイーンの遺体、暗黒龍グラードはヴァンパイアクイーンの肉体を得ることで新たな厄災として復活を遂げようとしていました」

 

「まさか、転生の門に竜種の魂が現れたと騒ぎになった件は」

「あぁ、暗黒龍グラードの魂はちゃんと成仏したんですね、よかったです。これ、間違いなくアルバの魂同様の地上人粛清計画の一端でしたからね」

“トンッ”

カウンターテーブルに置いた金属片、それは暗黒龍グラードの心臓が消滅した後に残された楔。

 

「これが物証です。暗黒龍グラードの肉片が燃え尽きた後に残された金属片、ほんのり神力が残っていたんですぐに天上界の者が絡んでいると分かりました。他の不味そうなものはこちらで処分して、地下空間にいた人間とボルグ教国が収集した大量の資料は大聖堂前広場に移動しておいたんです。

広場に作った建物は地下の資料室のあった階層を上下階合わせてそっくり移築したものになります。ただそのままだと強度的な不安があったんで、全体を補強してちゃんとした建物風にしてありますが。

 

まぁそうしたこともあって、この後の天使からの攻撃も想定の範囲内だったんです。あなた様からアルバの魂に細工していた中級天使の上司がボルグ教国の担当を引き継いだって話を聞いていましたんで、呪いや魔法、圧倒的質量による攻撃等考え得るすべての攻撃に対する対策は講じているつもりだったんですが、まさかシステムを介して魂のクリーニングをしてくるとは思いもしませんでした」

 

そして再びの静寂、暗黒龍グラードの衝撃は深皿のボア肉に延ばされていた箸を止め、天使様方の表情を蒼白に変える。全てのドラゴンに戦いを挑み数多くを葬り去った神話級の力を持つブラックドラゴンの存在は、天上界でも長く語り継がれてきたのだろう。

 

「これは後で大聖女イブリーナ・ボルグに確認してもらえれば分かるかもしれませんが、代々の教皇はこの事実を知っていたはずです。ボルグ教国聖教会が世界を守っているという自負は、暗黒龍グラードの呪われた力を封印しているという圧倒的な事実により強固なものになっていたようですから。

まさか歴代の教皇も自分たちが世界を滅ぼす厄災を守らされていたとは思いもしなかったでしょうが。

 

それで肝心の大聖堂ですが、あの聖域に入った瞬間作動するように俺の魂を初期化する罠が仕掛けられていました。これはシステムさんに教えてもらったんで確かです、誰が仕掛けたのかまでは教えてくれませんでしたが、一度作動してしまった工程は止める事が出来ないと言っていましたんで。

本来であれば魂は初期化され俺は記憶もスキルも加護も何もかも失った待機中の魂になるところでした。ただここで生者の魂を初期化した弊害が生じてしまった、魂は転生の待機所に向かわず元の肉体に戻ってしまったんです。

記憶は魂に記録されますが肉体にも刻まれる、魂から失われた記憶も肉体に保存されている記憶を上書きすることで復活した。俺がシステムさんとのやり取りを覚えているのはシステムさんの意趣返しですね。本来なら魂の状態での経験の記憶は、初期化と同時に消し去られてしまうんですが、システムさんが肉体に送っておいてくれたんです。

 

システムさんとの邂逅を果たした俺は肉体に戻り膝を突くと、スキルを失いながらもその事実が分からず混乱する男の演技を続けました。罠を仕掛けた者は慎重です、ですが俺が混乱しつつも強がっている様子を見せつければ、黒幕は絶対に動くと思いました。

それでも大聖女をぶつける手はずを整えていた辺り、冷静さを兼ね備えた相手だったんですが」

 

“コトッ、コトッ、コトッ、トクトクトクトク”

並べたグラスに注いだものはバッカス酒店に製造を依頼した米酒、喉にスッと染み込む味わいが自慢のお酒です。でも米酒には魚料理の方が似合いそう、トライデントに目配せをして赤魚の煮つけをお出しします。

 

「あの、一つお聞きしてもいいでしょうか? お話からだとケビンさんは今回の黒幕がボルグ教国を担当していた上級天使様だとの予測が付いていた、その為に出来る限りの対策は行っていたということですが、上級天使様を相手に弱っている演技をしたとはどういうことでしょうか? 上級天使様が地上人の演技を見破れないとも思えませんし、大体人の心を読める天使が騙されるとも思えないのですが」

質問を挟んだのは俺の監視業務を担当している元放浪の大聖女、残月の魂だった御方ですね。

 

「あぁ、その辺はコツがあるんですよ。天使が心を読む場合、大概考えの表層を読んだりしますよね? 必要であればもう少し深く読んできたりしますが、これって魔力の揺らぎや覇気の揺らぎ、魂魄の振動を言語化したりして読むんですよ。

その最たる例が念話です。ドラゴンなんかは音ではなく相手の心を読むことで人と念話による会話をしたりするんです。それはそうですよね、ドラゴンからしたら人の声なんか小虫の羽音みたいなもんでしょうから。

ですんでこうやって魔力と覇気で魂の周りを覆ってからその周辺に怯えの感情や喜びの感情を表現するんですよ、こんな感じに」

そう言い俺は棚からコップを取り出し、ボルグ教国聖教会の地下室から回収してきたワインを注ぎ入れる。

 

「だからその敬虔な信徒のフリはやめろ~~~~!! しかもなんだ、このこっちが恥ずかしくなるような私に対する賛美は、表層ばかりか心の奥底から純粋な信仰心が溢れ出すって、大教会の司祭でもここまでの思いは持ってないから~~!!」

「酷い、私がこれほどまでにあなた様を信仰しているというのに、信仰対象から否定されるなんて。信者としてこれほど悲しい事はないんですよ?」

 

「口と表情で絶望を表現しながら、頭の中で“次の料理はクラーケンの醤油焼きでございます”とか考えてるんじゃない!! 相変わらず器用なんてもんじゃないだろうがこの理不尽!!」

うん、やっぱりあなた様のツッコミは素晴らしい。私も全力でボケた甲斐があるというもの、でもこれって人の考えを読むことが当たり前の高位存在にしか通用しないんだよな~、高度な割に使いどころが限られるのがとっても残念。

 

「まぁこんな感じでやろうと思えば上級天使を誘導することも可能なんです。いくら慎重とはいっても相手は高位存在、地上人を下に見てしまうのは致し方のない事ですからね。

しかも管理者権限で魂の初期化まで行ったんです、簡単に潰せるはずの観察対象がいつまでも粘っている様子はかなりイライラさせられたことでしょう。

あとはこの技術を使って焦ったり絶望したりといった心の内をひた隠しにしながら必死に足掻くさまを演出したり、うまく挑発して冷静さを失わせたりって感じですね。

 

でも、こっちが追い詰められていたのは事実なんです。スキルが使えれば<龍の全身鎧>と<覇王の覇気>、それと<精霊化>を組み合わせた状態で<神聖魔法>を使って対抗するつもりだったんですが、その対策が全部駄目になっちゃったんですから。

トワイライトの召還なんて、ぶっつけ本番の大博打もいいところだったんですよ」

そう言い壁際に立ってこちらを見ているホールスタッフの女性に視線を向ける。そこには黒髪の美しいいかにもできる女性といった雰囲気の、あなた様にそっくりなトワイライトの姿。

 

「そうよ、ケビン、何でトワイライトが私そっくりなのよ、あなた何か仕込んだんじゃないんでしょうね!!」

「残念、これはケビンばかりのせいじゃないわよ? 私は元々トライデント同様この島での作業用パペットとして制作された魔導人形だったのよ。

身体は魔王デビルトレントの芯材を使用し、生活支援機構N9000を組み込んだ魔王デビルトレントの芯材を核として組み込んだロマンの塊ね。

今回の騒動が終わったら本格的な学習に入る予定だったの。

ケビンの中には魔国の堕天使の件もあってもしもの場合の備え的な意味合いもあったのかもしれないわね。

 

で、実際に私を使った大実験をしなければいけない程に追い詰められた。相手は上級天使、時間稼ぎが出来れば儲けものくらいの大博打だったんでしょうね。実際あの天使はケビンの行動を無駄なあがきとあざ笑っていたしね。

$$%&様はアーカイブからケビンの詠唱を見る事が出来たかしら?」

トワイライトからの言葉に首を横に振るあなた様。

 

「あの時点でケビンは全てのスキルを失ってた、当然魔法が使えるかどうかも分からなかった。だから状況を利用したのよ。

聖域である大聖堂で神器を身に付けた者が心からの祈りを捧げれば神々に祈りが届くという通信機能を使った呼び掛けね。

ケビンの場合心からの呼び掛けとして魂魄を使った真言を捧げたの、これってヘタな祈りより確実でしょ? ケビンの祈りは鮮明に天上界に届いたはずよ。

で、自身の注目度が高いこと、ここ数年に起きたごたごたで多くの天使が過酷な残業に苦しんでいたこと、ストレスからくる不満を自覚させることでその全てを私という依り代に集中させた。

負の思いの全てを肯定するというケビンの宣言、“思いは形に、我が友として共に立ち上がらん、社畜降臨!!”、最後の真言が“天上界の社畜”という明確なイメージとしてこの姿を作り上げた。

$$%&は有名人だもの、仕方がないんじゃない?」

トワイライトの止めの一言にカウンターテーブルに突っ伏すあなた様。神々並びに天上界と闇属性魔力処理場での社畜のイメージはあなた様、一度ついたイメージは数年程度じゃ拭えないって事ですね。

天上人の寿命って億年単位だもんな~、人の噂も七十五日っていうし、天上人に置き換えたら二十五万年は忘れてもらえない? あなた様、頑張れ!!

 

“カチャッ”

扉が開き新たなお客様が来店される。

 

「おう、ケビン、色々と大変だったな」

「あぁ、所長。この度は本当にお世話になりました。それと新人の迅速な受け入れ、ありがとうございました。

堕天使の件はあまり地上人に知られる訳にはいきませんからね。過ちを犯した者が調伏された程度ならいいんですが、堕天したってのは外聞がですね。

地上人にとって天使は信仰の対象であったほうが世の中の均衡的にも都合がいいんですよ」

俺はマルセル村産のエールを大ジョッキに注ぎ入れると、クラーケンの醤油焼きの皿と一緒にカウンターテーブルにお出しする。

 

「@*#$、何であなたが地上世界に!? あなたたちは地上世界には出れないことになっているのではないのですか?」

「おう、**#@、二百年ぶりか? なんかこのところ天上界も大変だったらしいじゃないか、お前も無理し過ぎて堕天しないように気を付けろよ? $$%&の嬢ちゃんは働き過ぎで堕天しかかったらしいじゃないか、うちの職員が凄く心配してたぞ?

まぁうちにも##%&に追い詰められて堕天した者もいたし、いい笑顔で教育係に名乗り出てくれたよ。職員一同ケビンには感謝してるんだ、心底スッキリしたってな」

そう言い豪快に笑う所長、こんな御方が堕天するって、天上界で一体何があったんだか。

 

「あぁ、それとここに来ることはちゃんと女神様のご許可を貰ってるからな? **#@たちが手続きなしに来店できるのと理由は一緒だ、この空間は地上界でも天上界でもない、別空間として成立しているからな。光属性魔力に対して耐性の弱い堕天使たちでも訪れる事が出来て、尚且つ周りに影響を与えない。ケビンには感謝しかないわ~。

ゴクゴクゴクッ、プハ~~~、お代わり!!」

豪快に一気飲みされる所長、そんな姿を驚きの表情で見つめる天使様方。

俺は“なんかここって高位存在の溜まり場になってきちゃったよな~”と思いつつ、光属性魔力マシマシマシマシカクテル(キラービーバージョン)をお作りし、天使様方の前にそっと差し出すのであった。




あ~、梅雨が終わらん。
じめじめは苦手です。
いってらっしゃい。

by@aozora
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