転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第910話 辺境男爵、ダラダラする

夏の農家は忙しい。日が昇る前に起き出して畑に向かい、たわわに実った野菜たちを収穫しなければならない。

夏から秋に掛けては収穫物が多く、仕事がなくなることはない。

 

「諸君、戦いの後の休息は十分に取れたであろうか」

人口の少ないホーンラビット伯爵領マルセル村に於いて、大人たちが忙しなく働く収穫期は子供たちの世話にまで手が回らない。そんな中、まだ面倒をみられるべき年齢でありながら抜群のリーダーシップを発揮し、周囲の子供たちを纏め上げるミッシェル・ドラゴンロードの存在は、村の大人たちにとって非常にありがたく頼りになるものであった。

 

「我々の戦いは終わった。我々マルセル村航空隊は一人の犠牲者も出すことなく作戦を遂行せしめた。これは諸君の弛まない訓練の賜物であり、マルセル村航空隊司令官として諸君の活躍を誇りに思う」

ここはマルセル村礼拝堂跡地、礼拝堂が建っていた場所には何もなく、手前に残された石畳だけがそこに村人たちの心の拠り所があったことを物語る。

 

「我々が守ろうとしていたマルセル村の礼拝堂は失われた。これはあのような戦いを再び引き起こさない為の必要な措置であった。

この決断を下したドレイク・ホーンラビット伯爵閣下や、実行したケビン・ワイルドウッド男爵を責めることは出来ない、何故ならこれは大人たちの戦いでもあるからだ。

マルセル村の名誉は守られた、我々は勝利した、礼拝堂は尊い犠牲となった」

子供たちは礼拝堂跡地を見つめ、心に浮かぶ思い出を口にする。それは礼拝堂中央の魔法陣による光の演出であり、御神木様から貰ったクッキーであり、御神木様から貰った干し芋であり。

 

「泣くな、我々は力を尽くしたのだ、胸を張れ!! これまでお世話になった礼拝堂に、敬礼!!」

“““““ザッ”””””

溢れる思い、それは礼拝堂に対する感謝の気持ち。

 

「だが諸君、悲しむことはない、大人たちは信仰を諦めた訳ではないのだ。礼拝堂に鎮座していた女神様像は公会堂に移動されていたのだ」

「ミッシェル司令官、それでは!!」

思わず声を上げたポール・ナイト隊員へ目を向けたミッシェル司令官は、口元にニヤリと笑み浮かべる。

 

“ガチャリ”

開かれた扉、礼拝堂跡地の隣に立つ公会堂から出てきた者は、礼拝堂と公会堂の管理を行っている御神木様。

 

「うむ、ミッシェルたちであったか。何やら大勢で集まってどうしたのだ? まぁよい、先だっての夏祭りではよく頑張っていたからな、皆には褒美を与えなければと思っていたのだ。

おやつのクッキーの準備がある、皆して中に入るといい」

「「「「「ありがとうございます、御神木様!! いただきます!!」」」」」

子供たちの希望は繋がった、彼らの信仰(食欲)は守られた。

ミッシェルは御神木様の後に従って公会堂へ走っていく隊員たちを見送りながら、隣に控える自分よりも大きくなってしまったエッガードの背を撫で、「それでは我々も行くとしようか」と声を掛けるのであった。

 

―――――――――

 

「ミッシェル様は一体どこに向かっておられるのだろうか」

あなた様による衝撃の鑑定会を終えた翌日、村の中をブラブラと散歩していた俺は、子供たちの見せる在りし日の記憶にある軍隊のような光景に呆気に取られておりました。

ミッシェル様ってばまだ五歳だよね、マルセル村航空隊って三歳から五歳の幼児で構成されているんだよね? 幼稚園のお遊戯会や運動会のノリで全滅させられた魔王討伐軍八万七千って一体・・・。

 

しかもそのモチベーションの原動力が御神木様から貰うおやつを守る為って、確かにあのおやつは美味しいけれども、ホーンラビット伯爵家料理長グリルさん監修の逸品だけれども。

子供たちの純粋ゆえの残虐性、辺境の戦士としては正しいんだろうけど、ちょっと複雑な気持ちにさせられます。

 

俺はそのまま足を進め、マルセル村の中を見て回ります。

ホーンラビット牧場ではグルゴさんとガブリエラさんが間引き作業の真っ最中。解体場の女衆へ引き渡す角無しホーンラビットを選び出し、屠殺小屋へと連れていきます。

屠殺後の角無しホーンラビットは処理場の女衆に引き渡され、解体処理により毛皮は加工処理場へ、肉は一部を食堂や村の消費に回し、残りは干し肉への加工処理へ、内臓や骨はグラスウルフ隊や他の肉食魔物たちの食糧へ回されます。

 

大人しくて可愛いホーンラビットたち、食肉としても最高のパフォーマンスを示す彼らの命運を分けるものは運のみ。癒し隊へとスカウトされた角無しホーンラビットたちは先輩ホーンラビットたちの厳しい指導を受け、成長進化の果てに愛玩用魔物として出荷されていきます。

一方食肉用に残された角無しホーンラビットたちはストレスフリーの環境でのびのびと飼育され、間引きされるその日まで広い牧場の中でのんびりとした日々を送っていきます。

 

命をいただく以上最大限の敬意を払って飼育すべし。俺の自己欺瞞の戯言は、しかしながら村人たちに受け入れられ、今では年に一回村人全員が集まってホーンラビット牧場脇の慰霊碑に手を合わせることになっています。

 

ホーンラビット牧場の隣には大きな厩舎があり、馬たちの寝床として管理されています。人手不足の甚だしいマルセル村においては元気な若者は即戦力とみなされる為、Uターン組の子供たちは畑や縫製工房、ホーンラビット牧場や厩舎などで汗を流しています。

まぁこの厩舎はマルセル村とワイルドウッド男爵家との共同管理物件なんですけどね、馬たちの所有権はワイルドウッド男爵ですし。

でもいざという時は馬の提供をしているので無問題、現在はホーンラビット伯爵家やドラゴンロード男爵家の馬も管理飼育させてもらっています。

 

「よう、ケビン、こんな所で何やってるんだ?」

「マルコさん、こんにちは。ようやく色々なことが一段落したんで、今日は休憩がてら村の見回りですかね。マルコさんはこれからエール工房ですか?」

マルセル村の便利屋であったマルコお爺さんは今じゃすっかりエール工房の工房長として頑張っています。ワイルドウッド男爵家からも小麦と資金の提供をしているのでマルコお爺さんの働きには期待したいところ、闇属性魔力処理場の皆さんにもマルコお爺さんの作るエールは大好評なので、ぜひ頑張って増産していただきたいところです。

 

「まぁな、これから秋の収穫祭に向けてしっかり仕込んでいかないとな。イザベルさんたちの協力で出来上がった時間停止機能付きマジック倉庫のお陰で保存もばっちりだからな、これからは一年を通して旨いエールが飲めるって寸法よ。ケビンから注文された分はしっかり作ってあるから安心してくれ」

堕天使の皆さんは天上界にあるバッカス酒店製造のお酒が毒になってしまいますからね、マルコお爺さんの重要度はますます上がっているって感じです。

 

“キュキュキュイ、キュイッキュイッ♪”

「ん、どうしたんだい紬。なんだいケビンかい、また何か作って欲しい物でも思いついたのかい?」

次に向かった場所はベネットお婆さんの縫製工房、中では紬の眷属である糸巻と機織が村の女の子にキャタピラーの糸玉からの糸紬を指導しています。

 

「ベネットお婆さん、こんにちは。ちょっとした顔出しがてらの散歩です、ようやく騒ぎが一段落しましたんでね。

紬たちも頑張ってくれてありがとうね、それと心配させてごめんね」

俺が顔を出したことで作業の手を止め駆け寄ってくる紬、よほど心配を掛けたのか俺の胸に頭を擦り付けてグリグリしてきます。

 

「私にゃよく分からないけど、なんか色々あったみたいだね。ここ数日紬が落ち着かなくて大変だったよ、緑と黄色が説得してくれなかったらどうなっていたことか、ちゃんとあの二体にはお礼を言っておくんだよ?」

「ハハハ、いや、申し訳ない。油断した訳じゃないんですけどね、色々ありまして、従業員の皆には心配を掛けちゃったみたいですまない事をしたかなと。その件もどうにかしないといけないんですけど、今すぐって訳にもいかなくてですね。

まぁ皆が特に変わらないようで何よりですよ。紬、それじゃまた後でな、仕事頑張って」

“キュキュキュキュキュ~~~~!!”

ウッ、紬の圧力が強くなった。そこって胃だから、あんまりグリグリしないで~~!!

 

「今日は暇なんだろう、だったら紬も連れていってやんな。その子も結構我慢してたんだ、たまにはかまってやんな」

ベネットお婆さんの言葉に嬉しそうに顔を上げると、ポンと姿をフライングキャタピラーに変えて俺の後頭部にパイルダーオンする紬。そういえばこうやって紬と遊ぶのも久しぶりだなと思い至る。

俺はベネットお婆さんに「すみません」と頭を下げると、頭の上でテンションの上がる紬と一緒に縫製工房を後にするのでした。

 

「蒼雲さん、ちょっと見てもらえますか?」

「どれ、見せてみろ」

蒼雲さんは作業の手を止め、グランドが差し出した皿に手を伸ばすと、深緑色の茶葉を一摘まみ口へ含む。

 

「うん、悪くない。グランド、大分コツを摑んだようだな。このまま作業を進めてくれ」

「はい、ありがとうございます」

蒼雲さんの言葉に一礼をしたグランドは、満面の笑みを浮かべたまま茶揉み作業へと戻っていく。

 

「・・・兄弟子、こんな所で作業場なんか覗いて何やってるんだ?」

「ウォ、白か、よく分かったな。いや、グランドたちの様子をちょっとな。こういうのってコッソリ覗き見ないと普段の姿って分からないだろう?」

俺の言葉に「そりゃ頭にキャタピラーを乗せてる不審者なんて兄弟子以外にいないだろうが」と大変失礼なことを言う白雲。いや、キャタピラーを乗せている奴くらいいるだろう、紬は可愛いんだぞ?

俺が紬を撫でながら「別に普通だよな?」と反論すると、一緒になって抗議の声を上げてくれる紬。ほら、紬もこう言ってるんだし、俺は間違ってない。

 

「ハァ~、まぁいいや。それで一体何の用なんだ、お茶くらい出すぞ?」 

「いや、大した用はない。ここ半年以上俺が魔王認定されたりなんだりでバタバタしてただろう? ゆっくり村の中を見て回ることも出来なかったからな、久々に様子見がてら散歩してただけだな。白の方は何か困ったこととかないか?」

 

「いまのところこれといった困りごとはないかな? あっ、いや、あったわ。グランドさんたちの新居、早く建ててやってくれよ。それと俺の家の増築もお願いしたいかな。

こないだの夏祭りの後、セシルさんにルインとラビアンヌがおめでただって言われてな。二人の子供の子育てとなると、今の間取りじゃ手狭になるだろう?」

「えっ、マジ? おめでとう。だったらどうしよう、石工のおっちゃんに頼んで造ってもらった方が速いかな? 白騎士たちを総動員すれば半月掛からないと思うけど、ちょっと相談してみるわ。何か要望があったら書き出しておいて、ルインとラビアンヌにもよろしく伝えといて」

 

なんと、いつの間にか白雲のご家庭が目出度い事になっておりました。白雲が「すまないな兄弟子、でもよろしく頼むわ」と言っていたので気にするなと伝えると、俺はその場を後にするのでした。

 

―――――――――――

 

「お~い、ブー太郎、石工のおっちゃんいる~?」

やって来たのは御神木様の聖域結界の中、魂のクリーニングを受けてから初めての訪問になるので神代様の所で再登録してもらってから中に入ります。黒鴉と合体しちゃったんで多分入ろうと思えば許可なしでもは入れちゃうんですけどね、マルセル村からでも結界関係なく御神木様のお姿がバッチリ見えてましたしね。

これってアレだよな~、精霊化した状態で世界樹のアマネ様の所へ行ったら世界樹の大結界の存在に気が付かなかったって奴と一緒。能力に関してはある程度自分の意志で操作できるみたいだし、普段は今まで通りのスペックになるように設定しておかないといけませんね。

 

「あっ、ケビンさん、お身体の方はもう大丈夫なんですか? トライデントからケビンさんのスキルが全部消えちゃったって聞いたんですけど」

「あぁ、それなんだけどさ、どうも俺、黒鴉と一体化しちゃったみたいなんだよね。基本的には黒鴉が俺の中に棲みついてるってくらいなんだけど、黒鴉のスキルは全部使えるって感じ? 別にそうじゃなくともこれまで開発してきた生活魔法は問題なく使えてたからいいんだけどさ。

それよりも<魔物の雇用主>を失っちゃったのは痛かったよね、あのスキルのお陰で従業員たちの連絡がスムーズに出来てたってのがあったからさ。

後は給料の未払いだよね、どうしようかね~」

 

俺からの言葉に「ハハハ、まぁそんなことかなとは思ってましたけどね。普通スキルを失ったとか言われたら焦りません? 魔物の黒鴉と一体化しても全く変わらないって、ケビンさんってば内面が強過ぎですって」と言って呆れるブー太郎。

いや、焦ったよ? 無茶苦茶焦ったよ? でも別に今すぐどうのって訳じゃないし、なるようにしかならないかなって。俺が人であって村人であることを止めない限り、何かが変わるって事もないしね。とある王朝国家の末裔たちもこう言ってます、“なんくるないさ”ってね。

 

「それで今日はどうしたんです?」

「いや、皆に心配掛けちゃったから顔見せ? それと石工のおっちゃんに仕事の依頼、白の家の増築とグランド夫婦の新築建設を頼もうと思って。人手は白騎士たちに頼むつもり。それと““ガァ~~~~~~♪””」

“ドカッ”

突然突っ込んでくる巨大なモフモフ、暗黒大陸で拾った角の生えた双頭のデカイ猫ですね。クルーガルの爺は双頭のホーンタイガーとか無粋なことを言ってましたが、コイツは猫です、誰が何と言おうと猫です、ミーちゃんは可愛いペットなのです。

 

「ほ~れよしよしよし、ここが気持ちいいのか? ミーちゃんにも寂しい思いをさせちゃってごめんね~。あっ、そうだ、ブー太郎に自己領域の扉を渡そうと思ったんだった、それと鍵。

いや~、今度の騒ぎって天上界でもえらい問題になっちゃってさ、神様たちが何とか俺の消されたスキルを戻そうとしたらしいんだけど、それこそこの世界のシステムを作り変えない限り無理って事が分かっちゃったもんだから、居酒屋ケビンの女神様像経由で女神様からお詫びの言葉が届いちゃったりして大変だったのよ。

そんでお詫びって事で自己領域が強化されて“離界”って名称の付属世界になっちゃいました。規模も大きくなってオーランド王国くらいの大きさの島が二つ追加されて、全体の広さが十六倍くらいになったって言ってたかな? 全部を把握してないから俺にもよく分からないんだけど。

で、そこの管理者権限を貰ってね、扉を好きなだけ設定できるようになったから一つ作ってきたんだよ。この鍵は出入り用の鍵ね、これを持ってれば別の扉から外に出ることもできるから凄く便利だよ。

でも俺の魂に干渉できないからって黒鴉に管理者権限を渡すって、とんだ裏技だよね、ビックリビックリってどうしたの?」

 

俺の言葉に何故か額に手を当てるブー太郎、「やっぱりケビンさんはケビンさんだわ」って一体何なのよ。

俺は何処か釈然としない気持ちになりながらも、ブー太郎に“離界”へと繋がる鍵と扉を手渡すのでした。

 




おはようございます。
いってらっしゃい。
by@aozora
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