転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第912話 辺境男爵、辺境伯爵とご挨拶に行く

“ガタガタガタガタガタ”

「アルバ、もうすぐ到着するからな。これから会うタスマニア・フォン・グロリア辺境伯様はパトリシアお母さんの伯父さんに当たる人だから、くれぐれも失礼のないようにな。

月白、特にお前はアルバのこととなると我を忘れるところがあるから気を付けるように。悪いがパトリシアも気にしておいてくれ」

グロリア辺境伯領領都グルセリア、その西街門の貴族専用入り口に馬を進めながら、幌馬車の中のパトリシアとアルバに声を掛ける。

前を進む馬車にはホーンラビット伯爵家御一家が乗られており、ザルバさんが御者を務めている。先頭にはグルゴさんとギースさんが騎乗し、ホーンラビット伯爵家の馬車の一行といった雰囲気を醸し出している。

 

まぁそうはいってもすぐ手前の村までは“精霊の庭”に入ってもらって俺が飛んで連れてきたんですけどね。今までは影空間に入ってもらっていたんですけどね、安定した影魔法が使えなくなっちゃったせいで影空間が使えなくなっちゃったんですよね。

実際には影空間は作れます、でもなんか今の影空間って謎空間なんですよね。中に入ってみたんだけど、靄の中というか先の見えない暗黒というか。物の出し入れに使う程度だったらいいんだけど、人を入れるのはちょっと憚られるというか。

ブラッキーは何故か凄く喜んでたんですけどね、目茶苦茶居心地がいいとかなんとか。なので今はブラッキー専用空間になっています。

 

“精霊の庭”には自分が入った扉からしか外に出れないって使用制限があったんだけど、俺が魔力障壁に精霊の鍵を差して開いた扉であれば、別の場所で魔力障壁の扉を開いた場合でも外に出れることが分かりました。条件は入った際の扉を消しておくこと、複数の扉を作って空間移動のようなことは出来ないっていうのは変わりません。

ただし、管理者である紬が一緒であればどの扉からでも自由に出入りできます。こないだ王都から村人たちを連れて帰るときは、紬に協力してもらいました。

出入りの扉を魔力障壁で代用できる点は、使い勝手で自己領域よりも精霊の庭の方が優れていると言えます。

 

「次の方、ご身分と目的をお願いします」

「我々はホーンラビット伯爵家騎士団の者である。タスマニア・フォン・グロリア辺境伯閣下にお目通りする為、ドレイク・ホーンラビット伯爵閣下とご家族様方をお連れいたした。通行の許可をいただきたい」

グルゴさんの口上に姿勢を正して敬礼する門兵たち。ホーンラビット伯爵家はグロリア辺境伯家と血の繋がりのある御親戚、更に言えば北西部貴族連合においても重要な役割を果たす貴族家とあれば最上の礼を持って迎えるは必定。

そしてなんと、この私《わたくし》もご親戚の一人なのでございます。

ビバ、権力。恩恵を受けるだけならこれ程いい物はないんですけどね~、それに伴う面倒事が。矢面に立ってすべてを引き受けて下さる義父ホーンラビット伯爵閣下には頭が上がりません。

 

“ガタガタガタガタ”

領都の大通りを行き交う馬車と人々、街の喧騒に幌馬車から身を乗り出して目を輝かせるアルバ。アルバにとっては前世振りの都会の光景に興奮冷めやらぬといったところなんでしょう。

 

「アルバ、もうすぐお城に着くからな。グロリア辺境伯閣下のお城は重厚で立派な造りだからアルバも驚くぞ~。パトリシアは久々になるのか、マケドニアル・グロリア様が宰相職に就かれてダイソン公国に移られてから、グルセリアに向かう理由が薄くなってしまったからな。もう少し世間が落ち着いたらダイソン公国に挨拶に向かうのもいいかもな、マケドニアル様もパトリシアのことは気にされていたし、ひ孫の顔も見たいだろう」

「ケビン、ありがとう。でもあまり無理はしないでくださいね? この前ケビンが起きなかったときは本当に心配したんですから。悪乗りしたケイトとアナスタシアの悪戯にまんまと騙されたケビンの顔は、凄く面白かったですけど」

 

グホッ、パトリシアさん、まだそのネタでいじるんですか。っていうかその後黒鴉に棲みつかれたことが分かった俺にとって、そのネタは結構洒落になってませんから。

御神刀を身に宿せしとか、聖獣を内に秘めたとか言えば格好いいけど、あなた様も俺の状態はよく分からないって言ってたもんな~。大体鑑定できないしね、分からなくても仕方がないよね。

 

「お父さん、屋台、屋台!!」

「あぁ、お城での用が終わったら皆で行こうな。ほら、お城が見えてきたぞ」

俺の声に御者台の方へ走ってくるアルバ、「うわ~」と言ってグロリア辺境伯家居城を見上げるアルバの表情にほっこりとした気持ちにさせられる。

前世でつらい経験をしたアルバの魂は、マルセル村での生活ですっかり癒されたようで何より。精神が身体に引っ張られて年相応に・・・。

 

「アルバ様があのようにお喜びに。ここはこの月白がアルバ様の為にあの城を」

「月白、馬鹿なことを言っているとアルバのお世話係を解任しますよ?」

 

「お、奥様、それだけは~~~~!!」

・・・ごめんアルバ、世の為人の為世界の平和の為に、月白の手綱を握っておいてください。俺はオーランド王国王家の封印から解放された厄災“狂った聖女”が再びこの世を地獄絵図に染めないように祈りながら、乾いた笑みを浮かべアルバの頭を撫でるのでした。(その厄災を解放したのが俺であることは棚に上げるものとする)

 

――――――――――――――

 

「おぉ~、ホーンラビット伯爵殿、よくぞ来られた。この度は本当に災難であったがこうして再び無事な姿を見る事が出来、義理の兄として嬉しく思うぞ。デイマリア、それにパトリシア。こうして訪ねてきてくれたこと、兄として、伯父として嬉しく思う」

「タスマニア・フォン・グロリア伯爵閣下、この度は我がホーンラビット伯爵家の大事にお力添えをいただき誠にありがとうございます。お陰様を持ちまして我が領に侵攻しました魔王討伐軍八万七千を撃退、オーランド王国王家・ボルグ教国聖教会との間に生じました諸問題が無事に解決いたしましたことをご報告すると共にお礼のご挨拶に参りました。

また、デイマリアの子マリアンヌが生まれた後もご挨拶に伺う事が出来なかった事、ここにお詫び申し上げます」

 

グロリア辺境伯家居城謁見の間、本日はホーンラビット伯爵家としての正式なご挨拶になる為、形式として謁見の間での顔合わせとなりました。

デイマリア様の話によればタスマニア様のお子様は男児が二人、既に旅立ちの儀を終え城内の実務についておられるのだとか。聡明なお子様方らしく、城内の評判もすこぶる良いとのことでした。

 

「お初にお目に掛かります。ドレイクの妻、ミランダでございます。夫ドレイク・ホーンラビット伯爵がお世話になっております。

こちらの二人は長男ロバート、次男バーミリオンでございます」

「はじめまして、ドレイク・ホーンラビット伯爵が長男、ロバートと申します。この度はお目通りをお許しいただき誠にありがとうございます」

「はじめまして、弟のバーミリオンと申します。どうぞよろしくお願いいたします」

 

「タスマニア・フォン・グロリア辺境伯閣下、お久し振りでございます。閣下には何かとご心配をお掛け致しましたが、夫ドレイク・ホーンラビット伯爵の下、楽しく生活させていただいております。

こちらは娘のマリアンヌでございます」

「はじめまして、グロリア辺境伯様。デイマリアお母様の娘のマリアンヌです。どうぞよろしくお願いいたします」

ホーンラビット伯爵家の皆様がそれぞれタスマニア閣下にご挨拶申し上げておられます。五歳のロバート様はともかくまだ三歳のバーミリオン様とマリアンヌ様が立派に挨拶をしている姿は、流石お貴族様と感心するばかりです。

 

「タスマニア・フォン・グロリア辺境伯閣下、この度は私ケビン・ワイルドウッドのことで大変お騒がせし誠に申し訳ありませんでした。また北西部貴族連合の方々や街道沿いの各貴族家にお口添えいただけたことで、この騒動での問題を最小限にする事が出来ました。

これも全ては北西部貴族連合の盟主であらせられるタスマニア閣下のお力のお陰と、深く感謝申し上げております」

「タスマニア・フォン・グロリア辺境伯閣下、お久し振りでございます。

最後にお会いいたしましたのは一年戦争の終結の時でございましょうか。

あれからもホーンラビット伯爵家には色々と騒動が舞い込みましたが、私はケビン・ワイルドウッド男爵の下に嫁ぎ、長男アルバを授かる事が出来ました。

人生は何がどう転がるか分からない、今私は心から幸せであるとご報告することが出来ます。今後ともホーンラビット伯爵家と夫ケビン・ワイルドウッド男爵のことをよろしくお願い申し上げます」

「はじめまして、ケビン・ワイルドウッド男爵が長男、アルバ・ワイルドウッドです。私のような若輩者が拝謁の機会をお与えいただきましたこと、心より感謝申し上げます」

 

俺の挨拶に続き、パトリシアとアルバがタスマニア閣下にご挨拶申し上げます。・・・っていうかアルバ君やり過ぎ、流石に今の挨拶は二歳児がしていいような物じゃないから、あのタスマニア閣下が目を見開いちゃったから、ホーンラビット伯爵閣下が額に手を当ててるから。

でも俺とパトリシアは褒めておきましょう、アルバ君、よく頑張りました!!

転生者あるあるの“僕、何かやっちゃいました?”といった不安げな表情をするアルバ君を優しく撫でる俺とパトリシア。その輪に入りたそうにしている月白はステイです、念話を飛ばしておきます。

 

挨拶も無事に終わり別室に移ったホーンラビット伯爵閣下と俺は、タスマニア閣下とグロリア辺境伯家の重鎮の方々に今回の騒動の流れと決着までをお話しし、ホーンラビット伯爵領が独立領となってオーランド王国から実質的な独立を果たしたことを報告したのですが・・・。

 

「ホーンラビット伯爵閣下、何か皆さん固まっていらっしゃるんですが、俺の説明ってどこかおかしかったですかね? 結構分かり易く伝えたはずなんですが」

「あぁ、うん、ケビン君の説明の仕方は特に問題なかったと思うよ? 問題があったとすればその報告内容かな?

でもこれって普通の反応だからね、ケビン君は少し自分のやったことの異常性を自覚したほうがいいと思うよ? いや、ごめん、これでも相当に気を使ってくれているってのは分かっているから、「それじゃさらに詳しく」とか言わなくてもいいから」

何故かこれ以上の説明を止められる俺氏、解せん。

俺はホーンラビット伯爵閣下にご許可をいただき席を立つと、後のことをお任せしその場を下がるのでした。

 

―――――――――――――

 

“ガチャッ、カランカランカラン”

薄暗い雰囲気の店内にドアベルの音が響く。店内のテーブルに着く常連客であろう者たちの視線が、扉を開けて入ってきた人物に注がれる。

その男は真っ直ぐと店の奥のカウンター席へ向かうと、ドカリと腰を下ろしバーテンダーに声を掛ける。

 

「マスターお疲れ~、っていうか疲れたわ~。裏方って大変、常に裏方に徹するマスターたちを尊敬するわ~」

全身を黒一色で固めたコートの男はフードを脱ぐと、カウンターに立つマスターに愚痴を吐き出す。

 

「おいおい男爵、顔を晒していいのか? いつものどこぞの黒幕といった演技はどうした」

「いや、そうはいってもバレちゃってるし? そう思うとなんか恥ずかしくね? まぁアレはアレで続けるんだけどね、結構好きだし。

今日は色々終わったって報告と、依頼料の支払いだね」

男はそう言うと虚空よりぎっしりと詰まった皮袋を取り出し、カウンターテーブルの上に載せる。

 

「ナミビア王国硬貨で大金貨百枚、白金貨もあるんだけどどっちがいい? 流石に使い勝手が悪いと思うんだけど」

「・・・大金貨で頼む、白金貨は国家間取引とか大商会同士での取引でしか使わないからな、うちらの業界じゃ嫌われるんだ。でもそうなると、勇者を連れてナミビア王国に行って落とし前を付けてきたってことか? 流石は狡猾の魔王、しっかり押さえるところは押さえたってことか」

“コトッ、コトッ、トクトクトクトク”

料理の盛られた深皿とグラスを置き、ボトルから琥珀色の液体を注ぎ入れるマスター。

 

「何にしても無事に終わってよかった、詳しくは聞かんし王都には俺の方から報告を挙げておこう。だから幹部たちのところに行くなよ? あとで文句を言われるのは俺なんだからな」

「分かってるって、暗殺者ギルドの窓口はマスターのところにすればいいんだろう? 今回も色々頑張ってくれたしお礼を言いたかったんだけど、うちの修羅どもが王都でやらかしちゃったからな~。

マスターの方から俺が謝ってたって伝えておいてよ」

 

「おいちょっと待て、一体王都で何をやらかしたんだ、それだけ教えていけ」

「えっ、聞いちゃうの? だったら話すけど」

好奇心は猫を殺す。その後男爵と呼ばれた黒コートの男から聞いてもいないあれやこれやを聞かされ頭を抱えることになるのだが、この時のマスターはまだその事に気が付いていないのであった。




おはようございます。
いってらっしゃい。
by@aozora
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