転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第913話 辺境男爵、事後処理に走る

“シャ~~~~ッ”

馬車を丸呑みしそうな程の巨大な大蛇が岩場の渓谷をゆっくりと進む。ここは周囲を濃厚な魔力に包まれたフィヨルド山脈、大型のワイバーンが宙を舞い、強大な力を秘めた厄災級魔物が跋扈するこの世の地獄。

そんな常人であれば立ち入ることすら困難な魔力異常地帯を走り抜けること暫し、その巨大洞窟は渓谷の岩壁に突如として姿を現す。

 

「こんちは~~~っす、居酒屋ケビンで~~~す。ご注文の品をお届けに来ました~~~~!!」

大洞窟の中からは周囲とは比べ物にならないほどの濃厚な魔力が溢れ、この洞窟全体が特殊な魔力溜まりであることを分からせる。俺は久々に感じる魔力の重圧に“やっぱり最強生物はヤベー”と顔を引き攣らせつつ、これも訓練と自身に言い聞かせ洞窟内に足を踏み入れるのであった。

 

『おぉ、ケビン、こうして訪ねてくるのは暫くぶりであるな、いつもは自己領域の居酒屋であったから本来の姿で顔を合わせるのは二年半ぶりであるか』

大洞窟に入ってしばらく、尖った岩が並ぶ脱皮場の辺りに来た俺に声を掛けてきたのは、このドラゴンの塒の主である最強生物。

 

「どうも、色々とお騒がせいたしまして。マルセル村の騒ぎは無事に終了いたしましたのでご挨拶にお伺いしました」

『うむ、マルセル村夏祭り、楽しい催し物であったよ。直接見れなかったことは残念であるが、御神木様の聖域結界内のダンジョンでの中継映像は見ごたえ十分であったぞ。

我も長いこと生きておるが、ダンジョンをこのような形で使う者など見たことがない。面白い思い付きであると感心したものだ』

 

そう、今回の魔王討伐軍侵攻作戦、最強生物やゴミ屋敷のおばちゃんが面白そうだから参加させろと騒ぎ出しまして。特にゴミ屋敷のおばちゃんがエッガードの雄姿を見たいと駄々をこねちゃったものだから大変、何とか宥めて御神木様のダンジョン内でパブリックビューイングすることで話を付けたのでございます。

これは草原のフィールド型ダンジョンが御神木様のダンジョンの株分けだったからできた芸当、要するに分体になっていて御神木様のダンジョンの支配下にある関係なんですね~。

 

「楽しんでいただけたんならよかったです。それと突然<短期雇用契約>が解除されてしまって申し訳ありませんでした。

既にトライデントから聞いていると思いますが、ちょっと色々とありまして、俺のスキルが全て使えなくなってしまったものでして。幸い<自己領域>で作った秘密基地はすでに作製された魔道具のような扱いだったようで消失することはなかったんですが、<魔物の雇用主>を利用した通信が行えなくなってしまったんですよ。

代わりに何か通信手段をとも思ったんですが、流石にあれほど便利なものが思いつかなくてですね。本当に申し訳なく思っております」

『うむ、“世界樹の”からも連絡が来てケビンに何かあったのかと心配しておったぞ。アマネ殿といったか、世界樹が聖霊樹や神聖樹との連絡が取れなくなったと慌てたようでな、理由を話したら残念だが仕方がないと納得しておったよ。

天上界絡みのごたごたは我たちのような長命の者であれば何度か経験しておるのでな、この世界が創造の女神の創造物であり天上界の天使どもがその管理を行っている以上そうしたごたごたを避けることは難しい。個人で上級天使と対峙するという話は初めて聞くものではあったがな。

いずれにしろ生き残れただけで喜ばしいと思わねばなるまい、我らのことは気にする必要もないぞ?』

 

そう言い豪快に笑う最強生物。諸行無常、最強生物にしろアマネ様にしろ、これまで様々な出会いと別れを繰り返してきたからこそ至れる境地。

こうして話をしていると、目の前のドラゴンが人の身では推し量れぬ高位存在なのだと改めて思い知らされます。

 

「ご理解いただきありがとうございます。そういう訳ですので、これからは居酒屋ケビン経由で直接お伺いすることになると思いますので、よろしくお願いいたします」

“ドンッ、ドンッ、ドンッ”

収納の腕輪から取り出したのはボルグ教国の地下ワイン倉庫からかっぱらってきた大型のワイン樽を三個。最強生物でも両手で持つくらいの大きさがあるので、飲みごたえは十分でしょう。

 

『スンスン、これはワインか、これほどの量は久方ぶりであるな。小型化して楽しんでもよし、そのまま飲んでもよし、悩むところではあるが楽しませてもらうとしよう。

それとすまぬがまた大福たちに脱皮場の掃除をしてもらってよいかな? 使い勝手は問題ないのだが、一度キレイな状態で使い始めると少しのゴミが気になるようになってな、小型化して片付けるようにしているのだが、どうにも気になってな』

「分かりました、念の為に大福にも来てもらっていますんで、直ぐに取り掛からせてもらいます」

 

“ニュイン、ポヨンポヨンポヨンポヨン♪”

袖口から飛び出し、“おやつだ~♪”とばかりに飛び跳ねていく大福。俺はそんな大福を見送りながら最大の問題が解決したことにホッと胸を撫で下ろすのでした。

 

――――――――――――――――

 

「はい、みんな集合~~!!」

清浄な空気が木々の合間を吹き抜ける、真夏だということを忘れさせるようなぽかぽかとした柔らかな日差しが空から降り注ぐ。

ここはマルセル村に隣接する魔の森の中に存在する不可侵領域、御神木様の結界により覆われた聖域結界。この中に入るには御神木様の許可をもらい(神代様が代行受付をしてくれます)結界を抜けてこなければならない。許可なき者が立ち入ることのできぬ場所、それが聖域結界なのである。

 

「皆さん、お忙しいところお集まりいただきましてありがとうございます。特に紬たち生産チームと緑たち畑チームは仕事を抜けて来ていただいちゃって申し訳ない。

え~、皆さんは既にご存じだとは思いますが、私《わたくし》ケビン、スキルがなくなっちゃいました。

これがどういうことかと言いますと、これまで<魔物の雇用主>により使えていた<業務連絡>が行えなくなっただけでなく、<出張>による呼び出しもできなくなっちゃいました」

俺からの言葉に真剣な顔を向ける従業員の皆さん。グラスウルフ隊やクマ親子など、マルセル村の生産や活動の多くは従業員の皆さんに支えられてきたと言っても過言じゃありません。

 

「そして一番の問題はこれまでのように定期的な魔力の供給が行えなくなったということです。例えばダンジョン内で魔法を連射していた場合、これまでであれば俺からの魔力供給があったので尽きることはありませんでしたが、これからは魔力枯渇を起こす可能性があります。この点は各自十分に注意してください。

 

それと月々の給料の支払いが行えなくなりました。これは本当に申し訳ない、このような形でケビン建設を解散しなければならないことは忸怩たる思いがありますが、従業員の皆様に給料をお支払いできない以上我が社の継続は「あの、ケビンさん再契約は出来ないんですかね? 普通の<テイム>だったらできるような気がするんですが」・・・ブー太郎君、いい質問です。大福に協力してもらってやってみました、残念ながらできませんでした。

どうもあの魔物の許可による<テイム>も、人間の魂に刻まれたシステムが関係しているみたいです。

ですのでこれまでのような魔力支払いによる雇用関係は継続困難になってしまったわけです」

 

俺からの言葉にがっくりと肩を落とすブー太郎、これから先どうしようとか呟いています。

 

「ですのでこれから先は皆さんは自由です。オークの勇者ブー太郎様に従いブー太郎帝国を作り上げるのも自由、御神木様の庇護を受け大森林に楽園を築くのも自由です。

俺のことはまぁ相談役ぐらいに思っていただいて、気軽に声を掛けていただければいいかと。

皆さん、本当にありがとうございました!!」

 

会社経営において大事なことは綿密な準備を行い開業することと、各方面に連絡しつつがなく事業を畳むこと。今回のように従業員に迷惑を掛けるようないわば倒産は、ひとえに経営者であり俺の失敗であり避けなければならないことでした。

 

「ブー太郎、悪いが森のお店屋さんはブー太郎の裁量で切り盛りしてくれないか? 大森林から飛んできてくださるお客様(キラービー)にご迷惑をお掛けするのは申し訳ない。一方的なお願いでブー太郎にとっては迷惑かもしれないがまげて了承してほしい。

緑と黄色、キャロルとマッシュは迷惑でなければこれまで通り畑の管理を頼みたい。自己領域の中に新しい島ができてな、そっちの管理もお願いしたいんだが給料がな~。

グラスウルフ隊はどうする? マルセル村の仕事を続けてくれると俺としては助かるんだが」

““““ギャウギャウギャウギャ””””

“““““ガウガウガウガウ”””””

「ケビンさん、水臭いこと言わないでくださいよ。俺たちはこれまでもこれからもケビンさんと一緒にいたいんですよ。

まぁ<魔物の雇用主>の魔力供給がなくなっちゃったのは残念ですけど、別にその為だけにケビンさんについてきた訳じゃないんです。俺たち自身が一緒にいて楽しいと思ったから一緒にいるんじゃないですか。

大体<魔物の雇用主>には強制命令がなかったんですから、嫌だったらとっくにどこかへ行っちゃってますよ。もっと自信を持ってください」

 

俺からの頼みを当たり前のように引き受けてくれる元従業員たち、足下には団子と白玉が近寄り、頭の上にはフライングキャタピラーになった紬がパイルダーオンを決める。

 

「お前たちはそれでいいのか? 俺は今までみたいにお前たちに給料を払ってやる事が出来ないんだぞ?」

““キュキュキュイ~””

“キュイッキュイッ”

 

太郎が、ブラッキーが、俺を囲む仲間たちが共にいることを望んでくれる。

痛い痛い、オババ、突かないで~~~!!

 

「ケビンよ、この場にいるのは皆ケビンを慕う者たちだ。ケビンは認めようとしないが、お主は紛れもなくこの者たちの王であるのだ。

ケビンは知っているはずだ、種族を問わず慕われ集落を築き上げた一体のオークがいたということを」

「オークの英雄、そうですね、彼が目指したのはこのような光景だったのかもしれません。

はいそこ、クイーンは文句言わない。嫌なら秘密の花園の巣箱を撤去して“ブブブブブブブブブブブブ!!”うわ~、止め止め、冗談だから、今度新女王用の巣箱を作ってやるから!!」

 

スキルは失われた、それでも失われない絆があった。俺は一体一体の名前を呼びこれまでの感謝を伝えると共に、これからもよろしくと互いの繋がりを確かめ合うのだった。

 

「・・・っていうか月影は何で列に並んでいるのかな?」

「執事のトライデントと残月が並んでいるのですから、メイド長の私が並ぶのは当然かと。御主人様が家族との繋がりを確かめられると聞いて私が参加しないなど考えられません」

ウ~ン、魔物の集まりにしれっと参加するダークエルフの月影さん、ガチ過ぎです。

 

「月影、お前はとっくに家族だよ、だからこんなところで自分の立場を確かめようとするな。これは俺の自信のなさが招いた集まりだ、ブー太郎に言われても素直に認められないくらいだからな、情けない。

御神木様、ありがとうございました。俺はマルセル村の雇われ男爵として、これからも仲間たちと一緒に生きていくことにします。

皆の気持ちは分かった、本当にありがとう。これからもよろしく!!」

“““““ガウガウガウガウ♪”””””

“““““クワックワックワ~♪”””””

“““ヒヒ~ン、ブルルルルル♪”””

 

魔の森の奥の聖域結界、清浄な空気の流れる神秘的な森の中では、魔物たちの楽しげな鳴き声がいつまでも響き続けるのだった。




おはようございます。
いってらっしゃい。
by@aozora
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