転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第915話 辺境の伯爵、里帰りする (2)

“ザクザクザクザクザクザクザクザク”

「ワッハッハッハ、温いぞ温いぞ、この程度の硬さで我が前に立ちはだかろうとは笑止千万。我こそは穴掘り職人ケビンなり~~!!」

振るうは我が最強、御神木様の枝製スコップNeo!! 因みにアマネ様の枝製スコップZと最強生物の鱗を混ぜ込んで作った魔物鉄製スコップグレイトもございます。

スコップはいいよね、漢の魂が震えるよね、大地がまるでスライムゼリーのようだぜ、ワッハッハッハッハッハッ♪

 

「あぁ、ケビン君、お楽しみ中のところすまないけどそれくらいで、あまり大き過ぎても管理が追い付かないからね」

ドレイク村長から掛けられた声にハッと我に返る。いかんいかん、施主のご要望通りの工事が出来てこそのプロ、ケビン建設の代表として恥ずかしい真似をするところでありました。

 

ドレイク村長と共に訪れたブラウン男爵領、目的はドレイク村長の里帰りとビッグワーム農法の普及、おまけで生活魔法の啓蒙ですね。ドレイク村長としては魔力纏いも教えたかったみたいなんだけど、アレはな~。

伝授自体は簡単だし、要は自分の魔力と他人の魔力を認識するだけなんだけど、簡単過ぎるが故に悪用も容易。無暗矢鱈に広めた結果オーランド王国が無法地帯になったら目も当てられない。

実生活に便利な生活魔法ならどんどん広めてもいいと思うんだけど、アレだって使いようだし? 人を信じろって、脳みそお花畑みたいなことを言っているうちにどれ程の犠牲が出るのか分からないような真似は出来ないしね。

 

「それじゃ緑と黄色は掘り出した土で魔法レンガを作ってくれる? 俺は粘土を作って並べていっちゃうから」

““ギャウギャウギャウギャ””

俺の声に応えるように作業を始める二メートほどの大きさのスネーク系魔物、周りで見学するブラウン男爵領の村人たちも二体の魔物の姿に驚きこそしたものの、こんなドラゴンのような顔をしたスネーク系魔物もいるんだと物珍しそうに眺めておられます。

 

俺は肩掛けバッグから平たくて大きな木箱を取り出すと(実際は収納の腕輪から出してます)、土を入れ魔力水を掛けてよく捏ねて泥粘土を作ります。

 

「はい、お集りの皆さん、これから行いますのはビッグワーム農法の基礎となりますビッグワームプールの作製に関する講習となります。

このビッグワームプールの利点は二つ、先程皆さんにもご試食いただきました畑のお肉、ビッグワーム干し肉の原材料となるビッグワームを飼育できるということ。もう一つがその副産物となるビッグワーム肥料を回収できるということです。

ビッグワーム農法とは元々オーランド王国で最も過酷な村と呼ばれた辺境の地マルセル村で、如何に食肉を確保するのかという研究の末に生まれた物です。

大森林との緩衝地帯である魔の森に隣接したマルセル村は、強力な魔物蔓延る魔の森に狩りに行くくらいしか食肉を手に入れる手段がなく、魔物が冬眠する冬場になればフィヨルド山脈から吹き付ける寒風により極寒の地となるような場所です。土地は瘦せ、作物の出来もあまりよくはない、そんな中生まれたこの農法はまさにマルセル村を救う救世主だったのです」

 

足腰がすっかり回復したドミトリウス様と奥様の呼び掛けで、急遽集められた領民たち。夏の収穫期で忙しいところお集まりいただいた皆さんには、毎度恒例のビッグワーム干し肉とマルセル村の野菜を使ったスープとビッグワーム干し肉の炙り焼きをご試食いただき、ビッグワーム農法の素晴らしさを体感していただいております。

 

「ここブラウン男爵領は幸い冬場に餓死や凍死を起こすほどの厳しさではないと聞いていますが、農作物の生育が芳しくなく貧しさを抱えているという意味ではマルセル村に引けを取らぬ大変な土地と言えるでしょう。

ですが安心してください、この土地で生まれ育ち領民の皆さんと共に汗を流したドミトリウス様の実弟であるドレイク村長は、皆さんのことを決して忘れなかった。

「オーランド王国から冬場の餓死と凍死をなくしたい」、ドレイク村長の掲げた夢は、オーランド王国北西部の貴族領グロリア辺境伯領を中心にどんどん拡大していっています。そしてその試みはグロリア辺境伯領の好景気を支える原動力となっている。

ビッグワーム農法には大貴族家の領地経済を導くだけの力があるのです」

これは大風呂敷でも誇大妄想でもないれっきとした事実、調べてもらえればすぐに分かるくらいに有名な話です。

 

「しかしこれまで受け継がれてきた農法を全面的に変えることは、非常に抵抗のある決断でしょう。ですので来年一年、ブラウン男爵家の畑がどう変わっていくのかを皆さんの目でよく見て判断してください。

予め申し上げますが、ビッグワーム農法にも欠点があります。これはドミトリウス様にお渡しした「ビッグワーム農法指南書」にも記載されていますが、作物の成長が通常の物よりもよくなってしまう点です。

これは一見素晴らしい事のようにも思えますが、作物の成長が良いということは雑草の伸びも早いということに繋がります。これはマルセル村での一つの解決法です、絶対ではないという事を予め申し上げておきます。

マイク、タイソン、出てこいや~~~!!」

““ゴニョゴニョゴニョゴニョ””

俺の影から姿を現したものたち、それは太腿ほどの太さを持つ大きなビッグワーム、マイクとタイソン!! 彼らは自己領域の島の畑で農作業に従事する個体から選抜してきた精鋭ですね。ドレイク村長からブラウン男爵家の状況を聞いた限りだとマンパワーも足りてないだろうということで、草取り要員として来ていただきました。将来的にはこの地で新たな草取りビッグワームの育成も行ってもらう予定、これはまさに農業改革と呼んでもいい新農法の確立ですね。

 

「ケビン君、ケビン君、何かドヤ顔を決めてるけど皆さんドン引きだよ? 流石にそれほど大きなビッグワームはこの辺じゃお目に掛かれないからね?」

「いや、しかしドレイク村長、草取りの出来るビッグワームとなると経験と実績が必要でして、そうなると必然的にこれくらいの個体がですね。

小さいビッグワームは物覚えが悪いからか育成に時間が掛かるんですよ、その点大きな個体は割とすぐ作業を覚えてくれるんで助かるんです。

ビッグワーム以外の草取り魔物となると鷹の目コッコになりますけど、アイツらはきっちりとした上下関係を作らないと言う事を聞かないんですよ。無理をさせると反発しますし、どちらかといえばビッグワームの方が扱い易いかと」

 

俺の言葉にマルセル村の状況を思い出し、「あぁ、うん、そうだね~」と何故か遠い目をするドレイク村長。大きなビッグワームと鷹の目コッコが畑を走り回るマルセル村、観光シーズンには白いグラスウルフ(本当はレッサーフェンリル)が観光客を案内します。

 

「なぁドレイク、これ本当に大丈夫なのか? 確かにビッグワームが人を襲ったなんて話は聞いた事もないが」

「ハハハハ、大丈夫じゃないかな? ビッグワームはこちらから攻撃しない限り周りに被害を与えるようなことはないしね」

そう言いつつ魔法レンガを作る緑と黄色に視線を向けるドレイク村長。ドレイク村長、その言い訳は苦しいっす。嘘は言っていないけども、緑と黄色は進化前にボビー師匠をぶっ飛ばしてましたし。何ならスライムの大福先生は子供の頃のジェイク君の魔法を弾き飛ばしてましたし。

最下層魔物のスライムとビッグワーム、安全神話が脆くも崩れ去った瞬間でございました。

 

「え~、話が脇道に逸れてしまいましたが、何が言いたいのかといえばビッグワーム農法は儲かる、本当かどうか様子を見て実践してみたくなったら連絡くださいってことです。

これはドレイク村長の長年の夢である故郷ブラウン男爵家に対する恩返し、遠慮なく受け取って下さい。

それじゃ作製を始めます、まずは魔法レンガを敷き詰めます。コツは完全に埋めるのではなくところどころに水抜きを作っておくことです」

俺は一つ一つ説明を加えながらビッグワームプールの作製を行います。無論生活魔法<破砕>は行いません、これでも子供の頃の失敗は学習してますので。

 

「次に壁を作っていきます。この際に先程作った粘土を補強に使うのですが、魔力水を混ぜ込んだ粘土とただの水で捏ねた粘土とでは耐久性が全く異なります。丈夫な壁を作るときは魔力水を使って粘土を捏ねる、これは家の壁の修復にも使える技術ですのでよく覚えておいてください。

それと魔法レンガですが、!?」

““““!?””””

俺が手を止めて立ち上がったのと同時に、鎌首を上げ同じ方向を向く四体の魔物たち。その様子に領民たちがざわつき出した時、一人の男性が息を切らして駆けてくる姿が見えるのでした。

 

「ドルジェ、慌ててどうしたんだ。今日は森へ狩りに向かったと聞いていたが」

「ハァッ、ハァッ、ドミトリウス様、大変です!! 魔物が、ゴブリンの群れが!! ゴブリンがフォレストウルフに跨って!!」

ゴブリンの群れ、それはすべてを喰らう森の厄災。更に言えばフォレストウルフに跨るゴブリンが発生しているということは、ゴブリンの上位種であるゴブリンリーダーやホブゴブリン、ゴブリンジェネラルなんかが発生している可能性が高いということ。

 

「ドミトリウス様、畑に出ている領民は」

「あぁ、幸い村人たちは私の呼び掛けで皆この場に集まっているから大丈夫だが、このままではまずい。各自農具を持って応戦体制に「そうですか、なら良かった。ブラッキー、カモン!!“ニュイン”」ヒッ!?」

それは俺の足下から飛び出した巨大な影、馬車のような巨体を誇る黒き砲弾、シャドーウルフのブラッキーであった。

 

「っていうかブラッキー、何か急にデカくなってない? 前よりも一回り大きくなってるよね?」

“ガウガウガウ”

 

「影空間が凄く居心地がいいんだ、まぁブラッキーが快適だって言うんならいいんだけど。取り敢えずの状況はゴブリン軍団の襲来です、サクッと全滅させちゃってください。

それとゴブリンの集落が作られている可能性が高いので一体残らず狩り尽くしてきてくれる? なる早で」

“ガルルル、シュタンッ、シュタンッ、シュタンッ、シュタンッ”

“了解しました!!”と言ってその場から走り去る巨大な影、その様子に腰を抜かしてへたり込むブラウン男爵領の皆様方。

 

「え~、それでは引き続きビッグワームプールの壁の作り方を「ケビン君、ケビン君、今説明しても誰の耳にも入らないから、取り敢えず説明はいいから完成させちゃってくれるかな?」・・・了解しました。それじゃサクッと作っちゃいますね」

ゴブリン襲来という突然のトラブルにより、残念ながら講習会は中断されることになりました。まぁそれでも完成品があれば、ただ指南書を読んで作製するよりも理解が深まるでしょう。

俺はこのビッグワームプールがブラウン男爵領のより良い未来に繋がることを祈りながら、緑と黄色に手伝ってもらいビッグワームプールの作製を完了させるのでした。

 

―――――――――

 

「ドレイク、あのケビンという若者は何者なんだ!! それにあの巨大な魔物は一体・・・」

ケビン君のビッグワーム農法の講習会は、思わぬ形で中断となってしまった。ゴブリンの群れの襲来が起きたとなれば、普通は暢気にこんな話をしている場合ではない、村人が一丸となってゴブリンに立ち向かい、村を守らなければならない。

狩りに出ていた村の猟師の話が本当であれば、よくて半壊、へたをすればブラウン男爵領の全滅すら覚悟しなければならない大事であったことは間違いない。

 

「ドレイク村長、ゴブリンの集落跡を確認してきました。かなり大規模な集団だったみたいで、ちょっとした村って感じでした。放置して厄介なものが棲み着いても困るんで、建物はすべて回収しておきました。

薪に使えるかもしれないですけど、臭いが。ゴブリン臭が確りしみ込んでるんであまりお勧めできません。

それと冒険者の遺品らしきものと武器類もあったんで回収してきました」

「あぁ、ケビン君、お疲れ様。ブラッキー君にもよくお礼を言っておいてくれ、助かったよ」

マルセル村感覚だと別にどうという事のない事件だが、呆けた顔の兄を見ると、自分がいかに理不尽に染まってしまっていたのかがよく分かる。

ケビン君、世間一般ではゴブリンの群れの襲来は全滅を覚悟しなければならない絶体絶命の危機なんだよ? そんな“ちょっと癒し草を摘みに行ってきます”みたいな調子で解決できるようなことじゃないんだよ?

 

私は「報告は以上です」と言って軽い調子で部屋を出ていくケビン君を見送りながら、この後隣で放心している兄に何をどう説明したものかと頭を悩ませるのでした。




おはようございます
いってらっしゃい
by@aozora
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