“ゾロゾロゾロゾロ”
夏の暑さが収まり始めた晩夏、王都学園の全生徒が校庭に集められ、学年ごとに整列している。
一月半に及ぶ休校期間を経て再開された王都学園、生徒たちは久方ぶりに会う友人と挨拶を交わし、それぞれの近況について話し合う。
「アルジミールとライオネス、久しぶり。フレアリーズ第五王女殿下の外交の手伝い、お疲れ様でした。
でもアルジミールたちは凄いよな、いくら卒業後すぐにフレアリーズ第五王女殿下と婚姻を結ばれるからって、俺たちと同じ年ですでに外交の第一線で活躍してるんだから尊敬しちゃうよ」
「そうだね、今回の旅もマルローニ侯爵家のご両親とフレアリーズ第五王女殿下との顔合わせって意味合いがあったんでしょう? 外交も大変だけどご両親にお嫁さんを紹介する方が緊張したんじゃない? その辺を詳しく教えてほしいな」
久方ぶりに顔を合わせる友人の元気な姿に笑顔になる俺と好奇心を刺激されるエミリー、アルジミールはそんな俺たちに苦笑いを浮かべつつ、色々と近況を話し出す。
「ジェイクとエミリーはあんなことがあったばかりだっていうのに本当に変わらないな、俺はてっきりお前たちは学園を辞めているものだと思っていたら、ちゃっかり学園の学生寮に戻ってるし、お前たちの心臓はアダマンタイト製か? 心の強さはドラゴン級とか言われても納得しかないわ。
俺が帰ってきたのは王国の方針だな、スロバニア王国としては今回の魔王討伐軍遠征に消極的反対姿勢をとっていたんだが、第三馬鹿王子と取り巻き貴族子息どもが調子に乗って魔王討伐軍へ参加した上にホーンラビット伯爵家旗下ケビン・ワイルドウッド男爵に送られてくるって醜態を晒したからな。スロバニア王国王家としては、俺を通じてフレアリーズ第五王女殿下にオーランド王国並びにホーンラビット伯爵家との仲立ちをしてほしいと考えているのさ」
そう言い肩を竦めるアルジミール。その虚空を見つめるような瞳、アルジミールに一体何があったんだか。
「それよりもジェイクたちだよ、ホーンラビット伯爵領で一体何があったんだよ。第三馬鹿王子と取り巻き貴族子息どもは魔王討伐軍の遠征で一体何が起きたのか問いただそうにも、その話をしただけでガタガタ震えだして顔色が真っ青になるし、無理に聞き出そうものなら絶叫して頭を抱えだすしで何も分からなかったんだよ。
王都バルセンに来れば何かわかるのかと思えば、クロッカス第三王子が処刑された話や王城で奇跡が起こった話ばかりで、肝心の魔王討伐に関する話題が一切出てこない。あれだけの大遠征があったってのに、ここまで情報が出てこないだなんて前代未聞だぞ? 意図的に情報を隠したってここまで徹底した隠蔽はまず無理だからな?」
そういい顔をグイっと近付けてくるアルジミール。別に隠してる訳じゃないんだけど、聞かない方がいいと思うんだけどな~。
「う~ん、アルジミールは王都諜報組織“影”って知ってるよね? そこの耳目と呼ばれる者たちがオーランド王国国内ばかりか、各国に渡って潜入調査や情報収集を行っているって話。
ホーンラビット伯爵領マルセル村にもその耳目がいてね、今回の魔王討伐軍の襲撃をホーンラビット伯爵家側からの視点ですべて見聞きしているんだよ。だからオーランド王国王家にはその耳目からの報告が上がってるんだ。
だからアルジミールは外交の一環としてその報告書を提供してもらって、それをスロバニア王国へ送った方がいいと思うよ?
俺たちから聞いた話をまとめて報告しても絶対信じてもらえないから」
「そうだね~、こういった話はある程度信頼のおける人物から語られたほうが信じてもらえると思うな。私たちは当事者だし、真実を隠す為に嘘を吹き込んでいると思われかねないしね。
でもあらかじめ言っておくね、たとえ手に入れた報告書に書かれていた内容が信じるに値しない絵空事だったとしても、それって全部実際に起こったことだから。何が起きたのかについては報告書を見たときのお楽しみだよ♪」
そう言いアルジミールにニコリと微笑みかけるエミリー。実際八万七千の魔王討伐軍を四回全滅させたなんて言っても意味が分からないと思うんだよな~、四回目は俺も全滅させられた側だし。
こう考えるとマルセル村の話って人にしづらいよね、リアリティーに欠けるって言うか、勇者病乙、誇大妄想にしてももう少しましな嘘を付けって言われるだけだろうし。
勇者物語の英雄譚が只の戦闘記録に思えてきたのっていつからだったかな~。今回の勇者グロリアスのことだって全く他人事とは思えなかったし、本当に気を付けないとだめだよね。
「あぁ、うん、分かった、フレアに頼んでどうにかしてみるよ。それはそうと何か生徒が少なくないか?特に一年生と二年生の数が大分減っているように思うんだが」
「それはあれだよ、王家の粛清で中央貴族と呼ばれる派閥が一斉に取り潰されたかららしいよ。これはロナウドから聞いたんだけど、クロッカス第三王子が鉱山労働刑を受けている囚人たちを勝手に解放して、軍の物資を横領したことで中央貴族派閥が言い逃れできない状況になっちゃったんだと。
それで今まで隠蔽されてきた罪が一斉に暴かれて一族そろって捕まっちゃったんだってさ。当主たちはアルジミールも知っての通り斬首されちゃったし、貴族籍は剥奪されちゃって罪に応じて刑を言い渡されたり財産を取り上げられたり。当然令嬢令息も今や平民、王都学園に通うことは出来なくなっちゃったってわけ。
ただ中には上位職を授かってる生徒もいたから、そういった者は状況に応じて対処されたみたいだけどね」
俺も詳しくは知らないけど、何かやたらと俺たちに絡んできていた一年生のオルト・ラーゲン君辺りは、連座制で悲しいことになっちゃったとか。オルト君のお父さん、影の実行役として相当頑張っていたらしいです。(ロナウド情報)
「そ、そうか。そうなるとまた社交界の状況が激変するな。これは一から情報を集めなおさないといけないな、ジェイク、エミリー、色々ありがとう。この借りはいずれ返すよ」
「気にしなくていいぞ、俺たちホーンラビット伯爵領出身者に声を掛けてくる奴なんて限られてるからな」
今回の魔王討伐軍遠征によってすっかりアンタッチャブルになってしまった俺たち、特に一年生二年生の怯えぶりときたら。あれって親御さんから色々言われてるんだろうな~、家の存亡にもかかわるし、その気持ちは分からなくもないけどね。
「ところで話は変わるんだが、あれは一体なんだ?」
アルジミールが顔を向けた先、そこには高身長の眼鏡をかけた地味な男子生徒とその傍に寄り添って大人しく目を伏せる女子生徒。
「「今一押しのジレジレカップルです!!」」
アルジミール、ラビアナお嬢様の恋を見守る会へようこそ。その後俺とエミリーは、ラビアナお嬢様がいかに健気でかわいらしいのかをアルジミールとライオネスに熱く語って聞かせるのでした。
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「このような状況の中、皆さんが不安を抱えるのは尤もなことでしょう。ですが諦めないでください、立ち止まらないでください。
確かに今のオーランド王国の状態は厳しい、国政に携わっていた多くの貴族が抜けてしまい、人手不足に陥っていることは紛れもない事実です。
しかしこれは今まで行うことのできなかった大変革を行い易くなったと言い換えることもできるのです。既に王家はこれまで日の目を見ることのできなかった才能ある人材を積極的に登用し、国政の立て直しに取り組み始めています。平民の登用もその一環であり、才能豊かな者を積極的に取り込もうという試みはこれまで以上に活発に行われることとなるでしょう。
王都学園の生徒の皆さんは、その中でも更に優秀な者として今まで以上に注目されることとなります。皆さんの力こそがオーランド王国の新たな時代を切り開くのです」
校庭に造られた舞台の上で、シュテル・バウマン学園長がまるで戦意高揚演説のような熱い言葉を学園生徒たちに投げかけています。休校から一月半、王家の大粛清により多くの貴族家が爵位を剥奪され、多くの生徒が学園を去ることになりました。
これまで問題の矢面に立ち王都学園の生徒たちを守り続けてきたシュテル・バウマン学園長としては、これほど心を痛める事態はなかったことでしょう。それでも王家に掛け合い、才能ある生徒たちを一人でも多く救おうと奔走したシュテル・バウマン学園長の姿は、同じく王都学園に携わる教育者の一人として尊敬してやみません。
私は多くの生徒たちのことを思い、生徒たちが少しでもより良い未来を掴み取れるようにと言葉を向けるシュテル・バウマン学園長に熱い視線を“ツンツンツン”・・・。
「ねぇ、ネイチャーマン。あなたこの二カ月ほど学園を休んでいたけど、どこに行ってたのよ」
「・・・シルビーナ先生、学園長がお話しされているときにおしゃべりをしていてはまずいのではないですか? 本日は休校明けの全校集会、生徒たちの目もありますし」
「大丈夫よ、前にネイチャーマンから教わった<魔力隠し>を使えば、私たちのことなんか誰も気にしないから。それよりもあなた、どこに行っていたのよ」
「ハァ~、私はそのようなことに使ってもらうために指導したのではないのですが。私はワイルドウッド男爵様に頼まれたことを果たす為、色々と奔走しておりました。
シルビーナ先生にも以前お話ししたことがありますが、私はワイルドウッド男爵様に拾われた身、ホーンラビット伯爵領から王都学園に入学された聖女エミリー・ホーンラビット嬢、勇者ジェイク・クロー君、剣天ジミー・ドラゴンロード君、賢者フィリー・ソード嬢が厄介ごとに巻き込まれないように監視する役目を担っているのですよ。今回は特級の厄介事が起きましたんで、様々な伝手を使った働き掛けなど本当に大変だったんですよ」
そう言い大きなため息を吐く私に、シルビーナ先生は興味深げな目を向けてきます。
「何々、それじゃネイチャーマンは今回の魔王討伐騒動の真相を詳しく知ってたりするわけ? ちょっと教えなさいよ、王都じゃなんかその話題に触れちゃいけないような雰囲気になってて、詳しい話が一切伝わってきてないのよ」
あっ、駄目ですね、シルビーナ先生の好奇心のスイッチがオンになってしまっています。私はこの話題をどう回避しようかと、必死に頭を働かせます。
「そういえばシルビーナ先生は“蛮族の来訪”と“王城の奇跡”は体験しているんですよね? 大丈夫でしたか?
アレは極限の戦闘に慣れているはずの冒険者ギルド本部の上級冒険者でも膝を突くほどのものだったと聞いています。いくら魔法の才能豊かなシルビーナ先生でもあれだけの魔力と覇気を当てられてしまってはただでは済まなかったのではないかと心配したのですが」
「あぁ、アレね。確かに大変だったわよ、魔力はまだしも覇気なんて当てられたことなかったし、全身を恐怖に襲われてどうにもならなかったんだもん。
でもそんなとき同じく恐怖に襲われてどうにもならなかったはずのロイドが私を励ましてくれて、震える身体をしっかり抱きしめて「俺がシルビーナを一生守ってやる、たとえ死ぬようなことになっても俺が一緒にいてやる、だから俺に任せろ」って言ってくれて。
あの時ロイドの方が私より震えてたのよ? 顔色なんか真っ青で。でも無理やり笑みを作って私を安心させようとしてくれて。
それからどれくらい時間が経ったのか分からないけど、急に身体が軽くなってあれほど恐ろしかったのがウソのように温かな気持ちになって。
そうしたらロイドが「ほら、大丈夫だっただろう?」って。なんか私嬉しいんだか安心したんだか色んな感情がない交ぜになっちゃって、気が付いたら「結婚して!!」って言って抱き着いてたのよって何言わせてるのよ恥ずかしい」
・・・急に始まったシルビーナ先生の一人語りからの逆プロポーズ話。吊り橋効果という言葉はありますが、あまりの展開の速さにちょっとついていけないのですが。
「そうですか、モルガン商会のロイドさんとのお付き合いが順調ということは以前お聞きしていましたが、ついにご結婚を。それでロイドさんからのお返事はどうだったのですか?」
私の言葉に胸元からペンダントを取り出すシルビーナ先生。
「フフ~ン、この私が振られる訳ないでしょう? ロイドったら私の為にミスリルのペンダントを用意してくれていたのよ♪
冬期休暇に入ったらお互いの実家に挨拶に行くつもりよ、私なんかもう十五年以上帰ってないから自分の家に帰るだけなのに緊張しちゃうのよね」
そう言いニヤニヤしながらペンダントを見せびらかすシルビーナ先生。ウザイ、ネイチャーマンの演技を忘れそうになるほどウザイ!!
「そうですか、それはおめでとうございます。ロイドさんにも是非よろしくお伝えください」
「何を言ってるのよネイチャーマン、今度内々で私たちの結婚を祝う集まりを開くからあなたも出席するのよ。これは決定事項だから、拒否権はないからね。
なんといってもあなたは私たちを引き合わせてくれた恩人なんですから、二人からの感謝の言葉くらい贈らせなさいよね」
そう言いそっぽを向くシルビーナ先生。ツンデレですか? それはロイドさんに対して見せてあげてください。
私はこの微笑ましい若者に笑顔を向けると、「ぜひ出席させていただきます。楽しみにしていますよ」と言葉を返すのでした。
おはようございます
いってらっしゃい
by@aozora