“本当にね、ふざけるんじゃないわよ、賢者様賢者様って私はあんたらのお母さんか何かですかっての。ちょっとケビン聞いてる~?ほら、あんたも飲め~!”
「あ、そうっすね、本当に困ったもんです。それと自分まだ未成年なんで、お酒はちょっと。グラスが空でしたね、お
差し出されたグラスにお酒らしきモノを注ぐ私。イザベルさんはその様子に満足気に頷くと、チビりチビりとグラスを口にする。
“大体男って奴はどうしようもない奴ばっかりなのよ、分かるケビン?男って奴はね~”
宵闇の草原の中、焚き火の明かりに照らされて続けられる元賢者の昔話。もうこれってただの愚痴だよな~。
ケビン少年は虚ろな瞳で夜空に煌めく星達を眺めながら、どうしてこうなったと過去の行動を振り返るのでした。
ミルガルの街を出発して二日目。旅の難所であるオークの森をエミリーちゃんの活躍で無事に通過したマルセル村一行は、街道脇の草原をキャンプ地と定め、この旅で六回目となる夜営を行っていた。行きの工程で大分夜営準備に慣れて来ている様子のチビッ子軍団に、こう言う夜営のやり方もあると言うお手本を見せる為に帰りの夜営準備には私ケビンも参加。鍋には美味しいスープを用意し、お皿には炙った干し肉とミルガルのパン屋で購入した柔らか目のパンを一つ、中々充実した食事をご用意出来たと自負しております。
帰路についてからの食事のランクアップに喜びと戸惑いを見せるチビッ子軍団、“聞いていた話と違い過ぎない?”と言う君たちの意見はごもっとも。普通は質素な堅パンと干し肉、それに生活魔法ウォーターで出した水。良くてもお茶が出る程度だからね。
まぁそれにもちゃんとした理由があるんだけどね。
余計な危険を避ける為、夜営の際は匂いの立つ食事を避けるのが普通、今回の様に老人や子供が主となる一行であればなるべくなら火を使う事も避けた方がいい。匂いや暗闇での光はウルフ種の魔獣や盗賊の目印になっちゃうからね。
ある程度の戦力があるのなら逆に明かりになる焚き火は切らさない方が良いし、規模の大きな商隊であればモチベーション維持の為に確りとした食事を摂った方が良い。
それは襲って来る危険に対しどう対処するか、どう対処出来るかに掛かってくる。少人数や弱者での旅は、隠れる様に気配を消して移動する一択ですから。
それじゃなんで帰りの夜営では隠れないのかと言えば、子供らの訓練がですね~。本当はオークの森で経験を積んで貰うはずだったんですが、オークがエミリーちゃんにビビって逃げちゃったからな~。まさかオークソルジャーを金的一発で仕留めるとは思わなかった。下半身ヒュンってしちゃいましたから。
周辺に隠れて待機していたオーク達も堪らず逃げ出すって言うね。そりゃ逃げるさ、誰だって金的は勘弁だろうさ。
と言う訳で夜間のグラスウルフ辺りの襲撃狙い、わざと美味しいスープを作り焚き火を焚いていたって訳です。
で、盗賊団“宵鴉”の襲撃と相成った訳ですが、これが微妙に強敵でして。
一人魔道具かスキルか分からないけど完全に気配を消しているメンバーがですね。でも残念、魔力駄々漏れですよ~、それだと魔力感知のスキル持ちがいたら全くの無意味ですからね~。
それに人数も十六人とかなりの大所帯、チビッ子軍団の初対人戦の相手としてはちょっと厳しいかな?勝てるだろうけど大怪我しそうだし。子供の育成には力を入れているマルセル村、チビッ子達の安全第一ですからね、想定以上の危険な真似はさせられません。
お前は良いのか?良くないですよ!でも誰もが笑って取り合ってくれないんですよ!超理不尽。
ですんで俺とボビー師匠とである程度間引きをって事になりまして。
基礎魔力で作った触腕って本来見えないんですよ、目に魔力を纏って見ようとすれば見えますが、そうでもない限り分からない。ただ魔力球なんかもそうなんですが、球を作る、触腕を作るって意識が強いと透明だけど見える怪しい何かになっちゃうんですね。ちゃんと見えない様に出来るかは魔力に対する理解次第、その辺は研鑽あるのみです。
そんで目の前に水属性や闇属性の魔力触腕を出せば、相手はそっちに意識が行ってしまうのでまず気が付かれません。
そんなんで“夜の突然の襲撃に対する戦闘準備”を緊張を演出しながら行っていたら本物の恐怖がですね~、あれはマジでビビった、魔力感知の範囲内に突然出現するんだもん。本気で死ぬかと思った、何なんですかあれは、村の外にはあんな化け物がウロウロしてるんですか!?外の世界超怖い、マジで村に帰りたい。僕引き籠りのケビン君でいいです、お外の買い出しは他の方々にお任せ、自分は行商人様より購入させて頂きます。
実際子供らを逃がすのがやっと、ボビー師匠には絶対帰って来るみたいな事を言ったけど、正直“短い一生だったな~”って思ってました。
あの化け物が魔力主体の意識体、魔力生命体みたいな存在で本当に助かりました。化け物から感じる魔力量が俺よりちょっと多い?くらいだったんで行けると思ったんですよね、持っててよかったトレーニンググッズ、黒鴉さん大活躍です。
でもこの魔剣、本当に何の目的で作られたんだろう?魔剣トラップ以外の使い道が思い付かない。謎武器ですよね、これって。
そんでどうにかなったんでホッと一息と思ったらイザベルさん登場ですよ、何でもあの化け物に取り込まれて
そんでこのイザベルさんが大森林の花園の大賢者の関係者だったり、あの花園の製作者だったりと色々衝撃的な話しを聞いた後成仏するって流れだったんですけどね~。失敗しちゃいまして、いや~、あれは大変だったな~。
イザベルさん落ち込む落ち込む、死んだ目をしてブツブツ何か言ってるし、まさしく悪霊のそれ、めっさ怖かったです。焦った俺が何か無いかと腕輪収納から取り出したものの中にあったのが、教会で出会った“あなた様”が忘れて行った飲み掛けのお酒とグラスだったって訳です。
この世ならざる者が飲んでいたお酒なら亡くなられた方でも飲めるのでは?と試しにお酒を注いで手渡したところ、確りと掴めた上にちゃんと飲めるって言うね。凄いぞ、”あなた様”のお酒。で、もっと凄いのがこのお酒、小瓶であるにも関わらず全然なくならないんですよ。一種の魔道具?おそらく神器の類い?
で、飲み続けること暫し、面倒臭い酔っ払いが誕生したって訳です。
“ちょっとケビン、私の話しをちゃんと聞きなさい!大体なんだって私が只管貴族の為に働かないといけないのよ、どこでどうやって暮らそうが私の勝手でしょうが。それをやれ強き者にはその強さに見合った義務がある?ふざけんじゃないわよ、何で私はあんな正義馬鹿に惹かれちゃったんだか。本当に世間知らずの小娘だったのよね、あの時の私に説教してやりたい”
イザベルさん、実は勇者物語に登場する魔法の勇者様のパーティーメンバーだった様です。でもあの話しの中にイザベルって名前は出て来なかったんだよな~。ただ名前の出ない荷物持ちの女性は出て来るんですよね、収納魔法の使い手だったはずなんだけど。
「イザベルさんってもしかして収納魔法が得意だったりします?」
“あら、何で知ってるの?師匠から聞いていたのかしら?私が勇者様のパーティーにいた頃は勇者様の荷物は私の魔法で運んでいたわよ?マジックバッグは便利だけど知恵の回る相手は回復役とマジックバッグ持ちを一番に狙って来るのよ。私は戦闘も出来るし勇者様には随分と可愛がって貰ったわ”
お、ちょっと戻って来た感じかな?質問にちゃんと答えてくれたし。
でもそうか~、収納魔法の使い手か~、物語の終盤で魔物に襲われて亡くなるんだったかな?その魔物を勇者様が倒してた筈なんだけどな~、生きてたよな~。確か魔法の勇者様は良いとこの貴族出身で他のメンバーも皆貴族だったよな?
「・・・イザベルさん、イザベルさんって勇者様のパーティーの交渉とかギルドとの対応とか貴族との対応とか、俗に言う裏方仕事全般を引き受けてたりしませんでした?後イザベルさんがお亡くなりになったのって魔王討伐間近だったりします?イザベルさんがやられたあの化け物の所に勇者様からの提案で乗り込んだとか?」
“あれ?ケビンにその辺の話しってしたかしら?私酔ってペラペラしゃべったとか?まぁいいか、どうせ皆もう亡くなってるし。確かに勇者様のパーティーは私が管理してたわね、勇者様にはいつも助かってるって言われてたわ。本当に貴族どもって迷惑って言葉を知らないのよ、こっちは魔王討伐って大仕事があるって言うのにやれ我が領の民が~とか言いながら畑に雨を降らせてくれだの魔獣を退治してくれだの。それくらい自分達で何とか出来るでしょうに。
それと私が亡くなった時の事よね、確かにあれは勇者様の提案で行った呪いの森の暗黒魔導師討伐の時だったわね。アイツは本当に化け物だったわ、結局私はアイツに取り込まれちゃったから詳しくは知らないんだけど、仲間達はどうなったんだか”
「あ、お仲間さんは上手く逃げ延びた筈ですよ、その後見事魔王を討伐なさってますから。少なくとも文献にはそう描かれています」
“そう、ならよかった。あんな迷惑極まりない連中でも、私の仲間だから”
そう言いどこか寂しそうな顔をするイザベルさん。言えない、イザベルさん、まず間違いなく処分されちゃってますだなんて。
魔王討伐直前、安全便利な荷物持ちはもう要らない。しかも勇者パーティーの内情を詳しく知り過ぎた平民、先の事を考えればかえって邪魔でしかない。おそらくはパーティーメンバーの総意、スポンサーの王宮からもそうした指示が出されていたはず。本人に分からない様に事を進めたのは長年旅を共にした仲間としての最後の良心と言った所だろうか。
勇者様、宿屋で他のメンバーに向かって“これは仕方がない事だったんだ、この罪は俺が一生背負って生きて行く、だから皆は魔王討伐に集中してくれ”とか言ったんだろうな~。
“アイツらはね~”と懐かしむ様に語るイザベルさんに、悲し気に笑みを送るケビンなのでありました。
「それでイザベルさんはこの後どうなさいますか?どうやら当分成仏出来そうにもありませんし。あれなら大森林の花園にでも行きます?あそこならシルビアさんもいますから」
“そうね、それならちょっと待って、<排出>って上手く行ったみたいね。はいこれ”
イザベルさんが手渡して来た物、それは無骨で装飾もされていないリング。
”それは従魔の指輪、魔物を入れる事が出来る指輪よ。中はかなり広くて魔物にとっては過ごし易い空間と言われているわ。人間は入れないから私も本当かどうかは分からないんだけど、それを指に嵌めて私に向かって<ホーム>って唱えてくれる?出す場合は中の従魔に呼び掛けながら<オープン>って唱えるの”
リングを渡されたケビンは、左手の人差し指にその無骨なリングを通す。するとユルユルだったリングが光り、指に丁度のサイズに変化した。
何気にサイズ変更の魔道具を初めて見たことでテンションの上がったケビンは、続きとばかりにその手をイザベルに向け、<ホーム>と唱えてみた。
するとイザベルの身体が光りに包まれ、そのまま指輪に吸い込まれて行った。
ザ・ファンタジー魔道具、最高でございます。ラノベの定番サイズ調整と従魔空間、某ポケット魔獣の魔獣球、古くは宇宙からいらした赤い全身スーツの超人さんが持っていたカプセル魔獣。
それで解放の呪文を唱えると出で来ると、イザベルさん、君に決めた!<オープン>!
指輪から輝き出る光の粒子、その光りに包まれて現れるイザベルさん。
“思っていた以上に快適だったわ。どうやらその個体毎に最適な環境を整えてくれるみたい。鑑定士の話では登録出来る従魔は三体までって事だったかしら。それってダンジョン産のアイテムなのよね。サイズの制限は特に言われなかったけどその辺は分からないわね。中に入った印象では相当大きな竜種でも行けそうではあったかしら。
でも上手く行って喜んで良いのか、魔物扱いの自分に悲しんで良いのか複雑な気持ちよね。その指輪は前払い報酬って事で差し上げるわ、大森林の花園までよろしくお願いします”
そう言い頭を下げるイザベルさん。そんなあなたに声を大にして言おう。
「喜んで送らせて頂きます!!」
先程までの怯えや恐怖はどこへやら。超ご機嫌の物欲の塊、少年ケビンなのでありました。
本日二話目です。
暖かくなったと思ったら暑くなってしまった。
コンビニに入ったら冷房が効いてるし。
春は何処に行ったの?
いってらっしゃい。
by@aozora