宴は続く、子供たちの素晴らしい飛行演舞もあり、会場は大いに盛り上がりを見せていた。
「マルセル村航空隊の皆さん、本当に素晴らしい飛行演舞を披露していただきありがとうございました。それぞれのご家庭のご家族の皆さんは、子供たちの頑張りをこれでもかってくらいに褒め称えてあげてください。
さて、続きましては先に行われました夏祭りに関する論功行賞へ移らせていただきたいと思います。ホーンラビット伯爵閣下、よろしくお願いいたします。
・・・ホーンラビット伯爵閣下? ロバート君・バーミリオン君・マリアンヌちゃんが最高であったことは分かりましたから、仕事をしましょう、仕事を」
「わ、分かった、分かったから私だけに覇気を飛ばしてくるのは止めてもらってもいいかな? これでもホーンラビット伯爵領の代表でケビン君の義理の父親なんだよ? 少しは労わってくれてもいいんだよ?」
マルセル村航空隊の飛行演舞が終わった後、骨抜きのデレデレパパさんにジョブチェンジを果たしていたホーンラビット伯爵閣下は、ご自分の職務そっちのけでお子様方と戯れていたご様子。これにはミランダ奥様、デイマリア奥様のお二人も苦笑いを浮かべられておられます。
俺に呼び出されたホーンラビット伯爵閣下は、武舞台の上に登ると、村人に向け話を始めるのでした。
「オホンッ、大変失礼いたしました。それでは先に行われましたホーンラビット伯爵領防衛戦の論功行賞に移らせてもらいます。
この戦いはこれまでマルセル村を脅かしてきた盗賊団などとは規模が違い、まさに一歩間違えばホーンラビット伯爵領の痕跡すら残さず全滅させられてしまうほどのものでありました。そのようなマルセル村村立以来最大の危機を回避できたことは偏に皆様方の協力あってのことと、ホーンラビット伯爵領領主として心より感謝申し上げます。
通常であれば武功第一位から呼び上げるのですが、ここは辺境ホーンラビット伯爵領です。少々形式が変わってしまってもいいでしょう。
功労賞、マルセル村航空隊の皆さん。代表、ミッシェル・ドラゴンロード司令官、前へお願いします」
ホーンラビット伯爵閣下の指名にちょこちょこと武舞台に向かうミッシェルちゃん。その隣には小型化してミッシェルちゃんより少し小さくなったエッガードが付き従います。
「功労賞、マルセル村航空隊全隊員。君たちはマルセル村の一員として共に戦い立派に使命を果たしました。ホーンラビット伯爵家当主ドレイク・ホーンラビットの名において、君たちの活躍に対し功労賞として三年間のおやつの支給を確約するものとします。これは君たちの活躍を記念して作った勲章です。皆の分は後でミッシェルちゃんから手渡してあげてください」
ホーンラビット伯爵閣下は隣に控えている俺が差し出した赤い布地の敷かれたトレーから、ホーンラビット伯爵家の紋章を模った勲章を手にすると、膝を折りミッシェルちゃんの服の胸に取り付けてあげるのでした。
「ドレイク・ホーンラビット伯爵閣下、どうもありがとうございます!! 私たちマルセル村航空隊は、これからも頑張って空の安全を守っていきます!!」
ミッシェルちゃんは姿勢を正し両手を脇に付けると、腰からペコリと上体を曲げ、元気よくお辞儀をするのでした。
そんなミッシェルちゃんの姿に村人たちからは温かい歓声と拍手が贈られ、ミッシェルちゃんは武舞台の上から「みんな~、おやつを貰ったよ~。勲章は後で渡すから楽しみにしていてね~。ヘンリーお父さ~ん、メアリーお母さ~ん、勲章貰っちゃった~♪」と声を上げ、大きく両手を振って喜びを露にするのでした。
・・・ミッシェルちゃんスゲー、超子供っぽい。隣のエッガードに抱き付いてニカッと擬音が聞こえるくらいの満面の笑みを浮かべてるし、この年にして一流の子役を演じ切るとは、ミッシェル司令官恐るべし。
ミッシェルちゃんはひとしきり大喜びの姿を披露すると、ホーンラビット伯爵閣下へ一礼をして、エッガードと共に父ヘンリーの下へ走っていくのでした。
う~わ、鬼神ヘンリーメロメロ、母メアリーと共に抱き合ってキャッキャウフフしてるし。母メアリーも今回の対応には大満足のご様子、柔和な笑みを浮かべて頭を撫でておられます。
ミッシェル様、お疲れ様です。後程王都で購入した果物を届けさせていただきます。
「続きまして、戦功褒賞、ホーンラビット伯爵家騎士団。代表、騎士団長ヘンリー・ドラゴンロード男爵、前へ」
「ハッ」
次に呼ばれたのは前線に立って戦ったホーンラビット伯爵家騎士団の皆さん。とは言ってもこの方々はただ楽しんでいただけなんですけどね、武功と言えば武功なんですが。
「ホーンラビット伯爵家騎士団の皆さん、この度の戦い、非常に見事でした。ただ力任せにせず、日頃の鍛錬で身に付けた武力を十全に発揮し、八万七千の軍勢を打ち倒した武勇は長く語り継がれるべきものでしょう。
皆さんの誇りある戦いはマルセル村の村人たちに勇気と感動を与えました、本当にありがとう。
ホーンラビット伯爵家当主ドレイク・ホーンラビットは、皆さんの働きに報いる為、一人当たり金貨五万枚を与えるものとします。これからもホーンラビット伯爵家独立領の為、力を貸してください」
「ハッ、ホーンラビット伯爵家騎士団、起立!!」
“““““ザッ”””””
鬼神ヘンリーの合図に席から立ち上がる騎士団員の面々、その表情は真剣で、真っ直ぐにホーンラビット伯爵閣下を見つめる。
「我々ホーンラビット伯爵家騎士団は、誰一人欠けることなく、ドレイク・ホーンラビット伯爵閣下に忠誠を誓います。総員、敬礼!!」
“““““ザッ”””””
「「「「「ドレイク・ホーンラビット伯爵閣下に絶対の忠誠を、ホーンラビット伯爵家独立領に安寧と娯楽を!!」」」」」
“パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ”
打ち鳴らされる拍手、マルセル村の村人たちはこの頼もしい騎士団員たちに感謝を向け、マルセル村がこの先もずっと平穏であることを祈るの「ん? ちょっと待ってください? 安寧と娯楽って何ですか? 安寧は分かりますよ、争いごとがないに越したことはありませんから。娯楽って、ちょっとケビン君?」・・・。
「あの、これって言い出しっぺは俺じゃないっすよ? 文言を決める時に“栄光”はないってことになって“繁栄”って入れようとしたら、あんまり忙しないのはちょっとってことになりまして。結局“安寧”が一番ってことになったんですよ。そしたら誰かが“娯楽は?”っていいだしまして」
「そうですぞ、ホーンラビット伯爵閣下。人生は楽しみがないといけません、今後とも我らホーンラビット伯爵家騎士団一同、娯楽の為に邁進させていただきますぞ」
俺の言葉に乗っけるように持論を展開する剣鬼ボビー。マルセル村の修羅たちの娯楽、それは満足のいく戦闘。
「ハハハハ、うん、やる気があるのはいいことだね。ただ我が領は独立を果たしたばかりだから、あまり派手に暴れないように。特に王都冒険者ギルド本部で行ったようなやらかしは厳に控えること、これはフリじゃないから、心するように」
「「「「「ハッ、ホーンラビット伯爵閣下のお心のままに」」」」」
元気よく返事をし敬礼する騎士団の面々、こいつら絶対分かってないわ。特に鬼神と剣鬼、お前らだお前ら、口元を歪めながらこっちを見るな!!
俺はホーンラビット伯爵閣下の心労を思い心を痛めつつ、“アイツら絶対この後絡んでくるぞ”と、収穫祭恒例のバカ騒ぎに思わずため息をついてしまうのでした。
「続きまして、後方支援褒賞。これは武具の作製整備を担当してくださったマルコさん率いる整備工房の皆さん、軍服の準備をしてくださったベネットさん率いる縫製工房の皆さんに贈らせていただきます。各工房の予算として金貨十万枚、褒賞金としてそれぞれ金貨六万枚を贈呈します。皆さん、本当にありがとうございました。それと本年度の税は免除とし、各家から徴収した農産物は卸価格で計算したうえで木札にてお支払いすることをお約束いたします。
続きまして友軍褒賞として戦いに参戦してくださったクルーガル・ウォーレン卿に金貨四万枚を贈らせていただきたく思います。この度は御助力、誠にありがとうございました」
マルコお爺さんのところでは簡単な剣の調整や鎧などの装備の調整や修正を行ってもらってますし、帰村した長男のリードさんが手伝いに入ってましたからね。いずれはリードさんが工房を継げるようにとの配慮ですね。
ベネットお婆さんのところも女性住民の就職先として設備投資が必要ですからね、色々とお金が掛かって大変なんでしょう。作業所も拡張して本格的な繊維産業として発展していく兆し大です。
大剣聖のクルーガル爺さんはな~、本当はスルーでもいいんだけど、ホーンラビット伯爵家としての面子がな~。まぁまじめに戦ってたのでおまけの褒賞です。
「最後にワイルドウッド男爵家、本当にどうしようか? 武功第一位はまぎれもなくケビン・ワイルドウッド男爵なんだけど、騒動の発端もケビン・ワイルドウッド男爵なんだよね。ボルグ教国聖教会の話は言い掛かりも甚だしいとはいえ、彼らが欲しがっていた礼拝堂を作ったのはケビン君だし、あの礼拝堂が祝福されたのだってケビン君が結婚の儀式を行ったことが原因だしね?
それにしても女神様から直接お声がけいただくって、ケビン君はどんだけなのさ。あっ、詳しい話はしなくていいから、と言うか絶対にしないでね、私の胃によくないから。
それで肝心の褒賞についてなんだけど、金銭的なことを言ってもね~。ケビン君がその気ならガッポリ持って行ってくれてもいいんだけど、功績が大き過ぎてね~。
そこでケビン君にはマルセル村に隣接する魔の森の譲渡とその先の大森林の開発権利を差し上げようと思います。要するに以前聞いた御神木様の結界領域を丸々ワイルドウッド男爵家の領地としていいってことだね。
薪用材木の切り出しについては後程取り決めを行うということでいいかな?」
ゲッ、ホーンラビット伯爵閣下、俺が一人で逃げないように土地で縛りにきやがった。確かに俺の場合褒賞金ですって言われてもそれがどうした? ってなっちゃいますしね。
更に上手いのは御神木様の結界領域を補償対象とした点、どのみち結界領域には誰も入れないし、既にないも同然ですからね。でも俺にとっては正式に領地となることの安心感が大きい。これで誰気兼ねなくブー太郎に森のお店屋さんを任せられますしね。
「ハッ、ホーンラビット伯爵閣下、そのお申し出、謹んでお受けいたします」
俺はそう言うと静かに礼をしホーンラビット伯爵閣下に感謝の意を伝える。しかしこの俺が領地持ちの領主ね、子供の頃は肉食わせろ~とか言ってあちこち駆けずり回っていたっていうのに、本当に人生何があるのか分からないもんです。
「おぉ~、ケビン、お主もいよいよ領地持ちか、ほんに目出たい」
「そうだな、俺も父親として鼻が高いぞ。だが領地持ちともなれば災いから領地を守る為に戦わねばならん時もある。たとえ魔法が使えないとしてもだ」
そんな俺を祝福する為に笑顔で武舞台に上がってきたはずのボビー師匠とヘンリーお父様、何故に木剣を持たれているんでしょうか?
「そうだな、無論武技や魔力障壁、魔力の触腕などが使えなくとも戦わねばならん時がある。領主とはほんに大変な立場じゃて」
「だが敵は容赦なく襲い掛かる、それも万全の態勢でな。これは試練だぞケビン、困難こそ男が試されるのだからな」(ニチャ~)
「うわ、こいつら大人げね~、状況を利用して俺になしなしの条件を押し付けて、自分たちはありありにしやがった」
「ハハハハ、そんなことはせんよ。今日は収穫祭じゃ、覇気や魔力を大放出するような真似をして場を荒らすのもなんじゃろう? 儂らは無論そんなことはせんし、ケビンもせんじゃろう?」
グホッ、さりげなくハードル上げやがった、俺にどうしろって言うんだよ!!
「分かった、その代わり俺は自前の武器を使わせてもらうからな?」
「そうそう、ハイパー腰巻DXアルファーじゃったか? ああした類の武器はなしじゃからな? これは酒宴の余興よ、お主も分かっておろう?」
グヌヌヌ、この爺、口が回る。俺は収納の腕輪から濃紺の長柄の棍棒を取り出すと静かに構えを取る。
「“武器と身体は一体にして別物なり。棒は夢、棒はロマン、我らは共に戯れる。世界は夢の瞬きにして永遠なり”」
「ふむ、真言かの。ケビンよ、今日こそ仕留めてくれようぞ」(ユラ~)
「ありありの戦いとは言っても、最終的には刹那の戦い、そんな世界ではスキルも武技も物の役には立たないんだがな」(ユラ~)
振るわれる木剣、それは酷く緩慢でゆったりとした動きでケビンに襲い掛かる。
“スーーーーッ”
だが俺はそんな二人の剣を躱し、長柄の棍棒を両者の腹へと叩き込む。
“ドスッ、ドスッ”
二人の腹を打ち抜いた鈍い感触が手先から身体全体に伝わる前に、急ぎ次の行動へ移る。
音もなく、色の薄れた世界で、思うがまま、感じるままに長柄の棍棒を振り回す。俺は今の自分に出来る精一杯を心掛け、この二大巨頭に挑むつもりで得物を振るい続けるのでした。
おはようございます。
いってらっしゃい。
by@aozora