ホーンラビット伯爵邸の廊下を応接室に向かい進んでいく。右腕をドレイク・ホーンラビット伯爵閣下に、左腕をザルバ・フロンティア執事長に摑まれ連行される俺氏、誰がどう見ても犯罪者でございます。
でもこちらのお二人、実は義理のお父様。こうして素直に捕縛されることも親孝行の一環と言えるのではないでしょうか。
「ケビン君、これはホーンラビット伯爵家独立領としての重要な外交だから。いくら名目上オーランド王国王家が対等に扱ってくれると言ってはいても、失礼な態度を取っていいというものじゃないからね、よろしく頼むよ?」
「ケビン君、旦那様の言う通りです。正直我々は王城において何も出来なかったと言ってもいい、つまり実質的にフレアリーズ第五王女殿下一行の来訪が、ホーンラビット伯爵家独立領とオーランド王国王家との初の外交となるのです。
双方の関係が良好な状態を保つことが出来るよう、力を貸してください」
そう言い摑んだ腕の締め付けを強くするパパさんズ、事情は十分理解しているのでそろそろ解放してくれると嬉しいです。
“カチャッ”
「そうですか、フレアリーズ様とアルジミール様は王都学園での交流を通じ仲を深められたのですね。そのお引き合わせにエミリーが関わっていたとは、なんと光栄なことでしょう」
「本当に、エミリーと言いジェイク君と言い、マルセル村から王都学園に向かった若者たちは頑張ってくれていたのですね」
「ミランダお母様、デイマリアお義母様、フレアリーズ様は大変聡明な御方で、王都に不慣れな私たちにお声掛け下さり、何かと気にして下さったのです。本当にお優しく素敵な先輩でした。
友人であるアルジミール様とご婚約されたと聞いた時は、心から嬉しく思いました」
応接室の中ではホストファミリーとしてミランダ奥様・デイマリア奥様・エミリーお嬢様が、フレアリーズ第五王女殿下の話題を中心として場を盛り上げておられます。
「皆様、お待たせしたようで申し訳ない。改めまして、ようこそホーンラビット伯爵家独立領マルセル村にお越しくださいました。ホーンラビット伯爵家の者一同、皆様のご来訪を心より歓迎いたします」
「歓迎の言葉、ありがとうございます。オーランド王国第五王女フレアリーズ・ウル・オーランド、ホーンラビット伯爵家の皆様の歓迎に、王家を代表し心から感謝いたします」
入室し、口上を述べるホーンラビット伯爵閣下。対してフレアリーズ第五王女殿下は席を立ち挨拶を述べてからカーテシーを決めます。
その挨拶に合わせるように一斉に席を立ち礼をする来訪者の皆様、流石王都学園の生徒さん方、こうした場合の立ち回りは確りと身に付けられている様です。
「返礼のお言葉、確かに受け取らせていただきました。王都と違いこれといったものもない小さな村ですが、滞在中はケビン・ワイルドウッド男爵を案内役として付けさせていただきます。何なりとご要望を仰っていただければと存じます」
グッ、ホーンラビット伯爵閣下、いきなり直球で俺のことを売りやがった。これって昔パトリシアが初めてマルセル村に来た時と同じ対応じゃないですか、ここは領主として自ら前線に立って領内をご案内して欲しかったです、お義父様!!
「そうですか、それは大変喜ばしい。
ワイルドウッド男爵様、お久し振りでございます。立場上中々お会いすることは叶いませんでしたが、オニキスちゃん・トパーズちゃん・フレンズちゃん共々、ケビン師匠にお会いしたいと常々申しておりました。
ケビン師匠のご友人である大福様のお話をお聞きして以来、マルセル村への憧れはより強いものとなっておりました。滞在中はスライムのことについてご指導を賜りたく、お願い申し上げます」
そう言い俺に対し深々と頭を下げるフレアリーズ第五王女殿下。
・・・立場~~~~!! 王家の人間が頭下げちゃ駄目~~~~!!
「フレアリーズ第五王女殿下、どうかお顔をお上げいただきたく、お願い申し上げます。フレアリーズ第五王女殿下のスライムに対する探究心と真摯な姿勢は大変すばらしく、同じスライムを友とするものとして感銘を受けております。
ですので師匠などという肩肘の張った呼び方ではなく、同じスライム愛好者として気軽にケビンとお呼びいただきたくお願い申し上げます」
「まぁ、何と嬉しいご提案なんでしょうか。では私のこともフレアとお呼びいただけると嬉しく思いますわ」
花のような笑顔を浮かべカウンターをかますフレアリーズ第五王女殿下、この天然スライム娘、攻撃力五十三万だと!?
「大変もったいなきお言葉、ケビン・ワイルドウッド男爵、生涯の誉れといたしたく存じます。ですがそうした愛称は伴侶となられますアルジミール・マルローニ侯爵子息殿のもの、私はフレアリーズ殿下とお呼びさせていただきたくお願い申し上げます」
「残念ですが、ケビン様がそう仰られるのでしたら無理強いするのも失礼というもの。滞在中はどうぞよろしくお願いいたします」
ツエー、この僅かな間に外交の主目的である俺に首輪を付けるって任務を完遂しやがった。他の同行者の方々だったら俺が狡猾の魔王と呼ばれるだけのヤバい実績を示していることで踏み込めずにいただろうけど、フレアリーズ殿下はその辺丸っと無視するもんな~。
知らないんじゃなくてしっかり理解した上で無視する、スライムとの交流が最優先。挨拶の途中でスライムの話をぶち込んで来るわ俺のことを師匠呼びするわ、だからスライム娘は苦手、アーメリアなんか気配消して頭抱えてるし。
「ハハハハ、そういえばフレアリーズ第五王女殿下とケビンは面識がおありでしたね。大福は我がホーンラビット伯爵家独立領の守護者と呼ばれるスライムですし、マルセル村発祥のビッグワーム農法もスライムなくして語れません。
スライムが繋ぐ縁、これはスライムが平和の象徴と呼ばれるようになるやもしれませんね」
「それは大変素敵なことでございます。スライムは最下層魔物などと蔑まれることもありますが、環境を整え全ての命の下支えをしている大変重要な役割を持つ魔物。そんな素晴らしい隣人に見守っていただけるのでしたらこれに勝る喜びはありません」
ホーンラビット伯爵閣下のフォローも透かさず拾いいい感じの話に持って行くテクニック、地頭目茶苦茶いいでやんの。あのホーンラビット伯爵閣下が“ケビン君の言ってたことはこういうことだったのか~”的な表情をしておられるし。
この勝負、スライム娘の圧勝ということで。
俺とホーンラビット伯爵閣下は視線で言葉を交わすと、他の令息令嬢の皆様に話題を振ることで、完全撤退を決めるのでした。
―――――――――――――
“ササササッ、ササッ”
(目標の確認終了、現場より後退する)
“““““サササッ”””””
(了解!!)
交わされるハンドサイン、音を消し、気配と魔力を消しその場から撤退を開始する戦士たち。
“ガチャッ”
「失礼いたします」
お茶の準備をする為、ワゴンを押して入室してくるメイドたち。入れ違いのようにサッとその場を離れた戦士たちは、ホーンラビット伯爵家の子供部屋に移動すると、無事任務を完遂したことに安堵の息を漏らす。
「総員、注目。先ずは無事任務を果たし一人の欠落者もなく生還したこと、この作戦の指揮官として嬉しく思う。これも全ては日頃の訓練の賜物であり、皆の努力の成果である。私ミッシェル・ドラゴンロードはマルセル村特殊部隊の指揮官として諸君の活躍を誇りに思う」
“““““バッ”””””
「「「「「我らマルセル村特殊部隊、死して屍を拾う者なし!!」」」」」
マルセル村特殊部隊、それはミッシェル・ドラゴンロードにより密かに結成された秘密部隊である。その活動は陰にして極秘、己の命を捨て密命を果たす者、それがマルセル村特殊部隊なのである。
「う~、ロバートお兄ちゃんだけズルい、僕たちも秘密の作戦に参加したかった!!」
子供部屋で待機していたバーミリオンとマリアンヌは、兄ロバートの無事な帰還を喜ぶも自分たちが作戦に参加できなかったことに不満を漏らす。
「ごめんね二人共、でもこの作戦は大人の人に気が付かれちゃいけないっていう制約があったから、まだ魔力の制御を上手く出来ない二人を参加させることは出来なかったんだ」
ロバートは膝を折り頬を膨らませる弟妹に視線を合わせると、優しく微笑みながら言葉を向ける。そんな兄に「僕たちだって魔力を使うことが出来るんだよ」と言って身体から魔力を放出するバーミリオンとマリアンヌ。
「ほう、見よう見まねでそこまで到達するとは素晴らしい。ロバート、バーミリオンとマリアンヌは中々の才能の持ち主のようだ。
では二人共、これは何に見えるかな?」
ミッシェルはそう言うと右手の人差し指を立て、バーミリオンとマリアンヌに語り掛ける。
「「1~!!」」
元気よく答える二人、ミッシェルは「ふむ、なるほど。では他の者は何に見える?」と言って周りの者に視線を向ける。
「「「「「“目に魔力を込めよ”です」」」」」
揃って自分たちとは違う答えを出す兄たちに、戸惑いの視線を送るバーミリオンとマリアンヌ。
「ふむ、よく分からないといった顔をしているな? では今ロバートたちが言ったように、目に魔力を集めるようにしてもう一度この指を見てみるんだ」
ミッシェルの言葉に何の事かと首を捻りながらも、言われた通り目に魔力を集めようと奮闘する二人。
「う~ん、難しい」
「う~ん、うん? お兄ちゃん、ミッシェル司令官の指の上に何かあるよ? う~ん、アレは文字? 難しくて読めない」
マリアンヌの言葉に相手が幼子だという事を思い出し、「あぁ、これは私が悪かった」と頬を掻くミッシェル。
「では改めて、これは何かな?」
「「・・・まる~!!」」
元気よく答える二人に、拍手を送る一同。
「よくできた、それが魔力視という魔力の使い方だ。このように魔力には様々な使い方があり、その場に応じた使用法が求められる。これにはただ使えるというだけではなく、適切な使用や問題点に関する理解という意味も含まれる。
我々マルセル村特殊部隊はそうした覚悟を持った者たち、二人にはその覚悟があるかな?」
「「はい!! 死して屍を拾うものなし!!」」
ミッシェルの言葉に元気よく返事をするバーミリオンとマリアンヌ。ミッシェルはそんな二人に優しく微笑むと、二人の兄であるロバートに言葉を向ける。
「ロバート、バーミリオンとマリアンヌに特殊部隊訓練を施すことを許可する。但し特殊部隊の技能は無暗に使用してはいけないこと、村の者や観光に訪れた者に対し悪戯等の使用をしてはいけないことをよくよく言い聞かせること。
遊びには全力で真剣に取り組む、これはマルセル村の基本方針だ。子供だからと言って我が儘に振る舞っていいというものではないのだからな」
「ハッ、ミッシェル司令官のお言葉、肝に銘じまして」
“バッ”
敬礼し、言葉を返す兄ロバートの姿に、慌てて敬礼するバーミリオンとマリアンヌ。そんなホーンラビット伯爵家の兄弟たちの様子に満足そうに頷くミッシェル。
「ではここに作戦の全てを終了する、おやつをいただきながらお客様方のことについて語り合おう」
「おやつ、おやつ~♪ 王女様ってとっても綺麗だったね、ロバート君。一緒におやつ食べよう?」
ミッシェルの言葉に、嬉しそうにロバートへ抱き付くチェリーとそんな二人を笑顔で見守るルビアナ。
「ミッシェル司令官、エリーゼも特殊部隊に入りたいって言ってたんですが」
「言ってた~」
テーブルのクッキーに手を伸ばしながら言葉を向けるランディーとポール。
子供たちの世話を任されたメイド長カミラは、おやつを喜ぶ子供たちの様子ににこやかな笑みを浮かべるも、とんでもない主人に仕えることになる長男クロックのことを思い、いずれケビンに相談しワイルドウッド男爵家で修行を付けてもらおうと密かに決心するのであった。
おはようございます。
いってらっしゃい。
by@aozora