転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第941話 悪役令嬢、自身の心に向き合う

「ラビアナ嬢、一昨年振りになりますか。ますますお美しくなられて、兄上であるオルセナ・フォン・バルーセン公爵閣下もさぞ自慢なさっておいでのことでしょう」

「お久し振りでございます、ドレイク・ホーンラビット伯爵様。一昨年は心身ともに成長の機会をいただき大変感謝いたしております。

兄であるオルセナ・フォン・バルーセン公爵もホーンラビット伯爵様並びにホーンラビット伯爵家独立領の皆様と友好な関係を築きたいと考えております。冬期休暇中、何卒よろしくお願いいたします」

 

魔王討伐軍騒動のあと、ホーンラビット伯爵家はオーランド王国を離れ、ホーンラビット伯爵家独立領として独自の道を歩み出した。これは実質的な離反であり、本来であれば軍による粛清が行われるような暴挙であった。

だが一年戦争において十二万にも及ぶ将兵の犠牲を払っても打ち倒すことの出来なかったダイソン公国軍を、僅か三十騎の騎士団で制圧し両国間に停戦を認めさせた実力は本物であり、八万七千もの魔王討伐軍を打ち倒したホーンラビット伯爵家に異議を唱えることのできる者は誰一人として存在しなかった。

 

ホーンラビット伯爵家といかにして友誼を結ぶのか。下手に関係を持ち利用しようとした貴族家がどのような目に遭ったのかは王都貴族社会ではよく知られた事実であり、ドレイク・ホーンラビット伯爵様が陞爵した折に行った“ホーンラビット伯爵の挨拶”やカルメリア第四王女殿下が勇者に手を出そうとして国王陛下の前で人格矯正された噂など、ホーンラビット伯爵家にまつわる危険性は様々な場面で囁かれていた。

 

そしてこの度の魔王騒動、各貴族家はおろか利に聡い王都商人たちも決して手を出してはいけない相手として遠巻きに見ることしか出来なくなっていた。

 

「ロナウド殿、一年戦争以来でしょうか、ご立派になられて。我が盟友スコッティー・テレンザ侯爵閣下もさぞお喜びのことでしょう。

ご卒業後はご結婚の為ダイソン公国へ移られるとか、義父マケドニアル・グロリア宰相も頼もしい若者が来てくれると、手紙にて喜びを伝えてまいりました」

「ドレイク・ホーンラビット伯爵閣下、一年戦争の際は世の中を知らぬ若造であった自分を温かく見守って下さり、大変感謝いたしております。

ご存じのようにダイソン公国は生まれて間もない独立国、まだまだ政治体制が脆弱なばかりか、国際的にも難しい地点に位置しております。

オーランド王国から独立を果たしたという意味ではホーンラビット伯爵家独立領と協力し合える事柄も多くあるかと、これからも末永い友好関係を築けるよう努力してまいります」

 

南西部貴族連合の盟主テレンザ侯爵家は、ダイソン公国との関係を強化させることでオーランド王国南西部地域の政治的安定を図ろうとしておられるとか。三男であるロナウド様が大公ミネリオ・ダイソンの姉である旧ダイソン侯爵家長女アイリス・ダイソン様と婚姻を結ぶことの意味は大きいのでしょう。

北西部貴族連合の盟主グロリア辺境伯家は前当主マケドニアル・グロリア様を宰相として送り出すことでダイソン公国と深い繋がりを築いている。北西部貴族連合・南西部貴族連合・ダイソン公国の繋がりはより強固なものとなり、オーランド王国西部全体が平和で安定した地域へと変わっていくことでしょう。

 

「そちらの二人はカーベル・ハンセン殿とアリス・ブレイク嬢ですね、話はケビン・ワイルドウッド男爵より聞いています。何でもフィリー嬢に指導を受け魔纏いを習得しているとか、大変優秀で将来を嘱望されていると伺っていますよ」

「はじめまして、ハンセン侯爵家三男・カーベル・ハンセンと申します。突然の訪問を温かく受け入れてくださり、心より感謝申し上げます。冬期休暇中お世話になります。ご指導のほどよろしくお願いいたします」

「はじめまして、ブレイク男爵家三女・アリス・ブレイクと申します。エミリー様のご厚意に甘える形でお邪魔させていただき大変恐縮しております。何卒よろしくお願いいたします」

 

カーベル様とアリスはホーンラビット伯爵家とはこれといった関わり合いがなく、下手に関係強化に走るのは悪手。素直に礼を言い世話になることを感謝する、関係構築の前段階としてはまずまずの一歩を踏めたのではないでしょうか。

 

「皆さんはご自身を鍛えることを主な目的とされているとか、そうした向上心は大変素晴らしく思います。ロナウド殿やラビアナ嬢はご存じでしょうが、そうしたことはケビン・ワイルドウッド男爵が中心となって行っていてね。詳しい事は後程彼から聞いて欲しい」

「「「「はい、ドレイク・ホーンラビット伯爵閣下(様)の恩情に感謝申し上げます」」」」

こうして私たちのマルセル村での生活が始まった。この冬期休暇中にどこまで成長できるか、私は自身に気合いを入れると、決して挫けないことを硬く心に誓うのだった。

 

「オホンッ、それでは形式的な挨拶が終わったところで、実務的な話をさせていただきます」

ホーンラビット伯爵様の次に声を上げたのは、ワイルドウッド男爵様であった。

 

「まずはフレアリーズ殿下並びにアルジミール殿方に申し上げます。この後皆様方におかれましては、マルセル村の中心でもあります健康広場脇に移設致しました屋敷に移動いただきたいと思います。 皆様方のお世話はワイルドウッド男爵家王都屋敷代官でありますアーメリアが行いますので、何かございましたら何なりとお申し付けください。

翌日以降のご予定ですが、皆様方のご要望にお応えする形で手配させていただきたく存じます。先ずはアーメリアにその旨をお伝えいただきたくお願い申し上げます。

アーメリア、ジェームス、皆様方の案内を頼む」

ワイルドウッド男爵様の言葉に壁際に控えていたアーメリア様と執事が会釈を返す。アーメリア様と言えば王都三大禁足地アーメリア別邸の主、王都民なら知らぬ者のいない悲劇の王妃、そのような方がワイルドウッド男爵家王都屋敷の代官・・・。

私は大丈夫、私は大丈夫。マルセル村ならこれくらいはジャブのようなもの。

アルジミール様が改めてダメージを受けているようですが、これくらいでめげているようでは保ちませんよ?

 

「次にラビアナ嬢、ロナウド殿、カーベル殿、アリス嬢ですが、皆様方は己を高める為に修行をつけに来られたという認識でよろしいでしょうか?」

それは確認、一人一人の目を見て掛けられた言葉に私たちは頷きで応えます。

 

「分かりました。ロナウド殿は三英雄の訓練で既にエミリーちゃんチャレンジを経験していますので、大福ヒドラ本体チャレンジに挑んでいただきます。最終的には大福ヒドラドラゴンモード単独討伐を目指しましょう。

ラビアナ嬢、カーベル殿、アリス嬢は覇気の習得が済んでいないようにお見受けします。御三方には先ず覇気を習得していただき、その上でそれぞれに適した指導者を付けさせていただきます。

宿泊は健康広場に併設された宿泊施設をご利用いただきます。ただし現在そちらの宿泊施設には大剣聖クルーガル・ウォーレン卿が滞在しております、何かと絡んでくるかも知れません。

あの暇人は才覚のある若者を見つけるとちょっかいを掛けたがるところがありまして、一昨年はラグラ殿が被害を・・・。ご迷惑をお掛けするようでしたら直ぐにお知らせください、責任を以って対処致したく存じます。

何かご質問はございますでしょうか?」

 

ワイルドウッド男爵様の言葉に、アルジミール様とお付きのライオネス様が目を丸くされています。

大剣聖クルーガル・ウォーレン卿といえば広く知られた剣の達人、男の子であれば一度は憧れる生きる伝説、以前王都学園に指導にいらした時は大変な騒ぎになったものです。

まぁあの時はジミーが単独で倒してしまって、別の意味で大騒ぎになったのですが。

 

「ワイルドウッド男爵様、そのお話は本当でしょうか? 大剣聖クルーガル・ウォーレン卿のご指導が受けられるかもしれないというお話でしたが」

「えぇ、あのクソジジイ、失礼、クルーガル・ウォーレン卿は若い才能を育てることが好きですからね。暇潰しゴホンッ、やる気のある方でしたら稽古を付けていただけるかと」

 

・・・大剣聖? 本当に大剣聖?

清廉潔白な人格者もマルセル村に来て変わられたとかでしょうか?

 

「それではどうしましょうか、皆様を歩かせてしまうのもアレですし、一度精霊の庭に戻りますか?」

「そうでした、馬車に荷物を残して来てしまったのですが、取りに行くことは可能でしょうか?」

声を上げたのはアリス、こういった場合でも物怖じせず発言できることはあの娘の強みですね。

 

「はい、精霊の庭に続く扉は宿泊施設の一階に設置しておきますので、必要に応じてご利用ください。扉のノブを握り<ホーム>と唱えていただければ中に入れます。精霊の庭から出る際は、同様に扉のノブを握り<オープン>と唱えてください。

牽き馬は精霊の庭で放牧しておけば問題はないかと、後でウチの者に馬車から外させておきましょう」

ワイルドウッド男爵様はそう言うとどこからともなく扉を取り出し、「<ホーム>」と唱えて私たちを招き入れるのでした。

 

―――――――――――――――

 

“カチャッ”

「こちらがラビアナ様のお部屋となります。ごゆっくりおくつろぎください」

案内されたのは宿泊施設の二階の部屋、そういえば二年前もここの二階の部屋を充てがわれたと懐かしい記憶を思い出す。

 

「フゥ~、やはりマルセル村はマルセル村でしたわね。コリアンダ、あなたは大丈夫でしたの?」

部屋に着いて早々はしたなくもベッドに座り込んだ私は、専属メイドのコリアンダに声を掛ける。

 

「はい、ご心配いただきましてありがとうございます。ラビアナお嬢様と違って私の場合は一歩引いて物事を見ることの出来る立場でしたのでなんとか耐えることができましたが、アルジミール様やカーベル様には刺激が強かったかと。

あの状況を初めて体験してそれでも取り乱さなかったカーベル様には、流石は宰相閣下のお身内と感心いたしました」

コリアンダの言葉にその通りと頷きで返す。私が初めてマルセル村に訪れたときは影空間に入れられて気がついたときにはマルセル村というドッキリ体験であったが、今回はワイルドウッド男爵家王都屋敷に到着したと思ったら既に不思議空間である精霊の庭に案内されていた。

訳も分からず草原に足を踏み出せば、屋敷から姿を見せたアーメリア様にフレアリーズ第五王女殿下が飛び付こうとしてデコピンを喰らうという貴重なお姿が。

 

「しかしワイルドウッド男爵様は相変わらず何でもありですね。ラビアナお嬢様だけでなくカーベル様やアリス様にまで覇気を伝授するだなどと」

「そうね、以前はもう少し慎重に行動されていたと思うのだけれど、魔王討伐軍を撃退したことである程度は自由に行動されることにしたのかしら?

まぁその自由に行動される内容が、私たちからしたら常識外れのとんでもないものなのだけれど」

マルセル村の常識、それは世間の非常識。魔纏いと覇気の習得が村人の最低条件の村など聞いたことがない。

 

「ところでコリアンダは覇気を習得しているのかしら? あなたなら当然でございますと言いそうだけれども」

「はい、お陰様でどうにか。王都の魔窟でお役目を果たすには必要不可欠でしたので」

 

「そうよね、魔纏いと覇気の習得といったらそれくらいの特殊な役目を持つものしか必要としないわよね」

私が自身の常識とマルセル村の当たり前の擦り合わせをしていると、「よろしいでしょうか」と言ってコリアンダが言葉を向ける。

 

「ラビアナお嬢様は今後どうなさるおつもりなのでしょうか? 私はラビアナお嬢様の専属メイドですので、どのような状況になろうとお傍でお仕えする覚悟はできております。

ですが今後ラビアナお嬢様がジミー様と行動を共にされると仰るのでしたら、今以上の覚悟が必要かと。

幸いここはマルセル村ですので友人の伝手を使い更なる成長を望むことが可能です」

前で手を組み静かに私の目を見つめるコリアンダ、その瞳は従者として私の覚悟を問うもの。

 

「コリアンダ、あなたが私の専属になってからどれくらいになるかしら?」

「そうでございますね、あれは確かラビアナお嬢様が九歳でしたか。アルデンティア第四王子殿下のご婚約者候補に名が挙がったと、御父上であるセオドア閣下が大変お喜びであったことを覚えております。

その後なぜか闇属性魔法の訓練をご要望なさり、その流れで私が専属のメイドに。当時はお嬢様の気まぐれと適当に課題を与えておりましたが、ラビアナお嬢様は文句一つ仰られず黙々と取り組まれ、屋敷の者一同お嬢様への見方を変えたよい思い出でございます」

そう言いどこか懐かしそうに遠くを見つめるコリアンダ。

・・・ってあなた、今適当に課題を与えていたと言わなかったかしら? その辺じっくりと話し合いたいのだけれど!!

 

「ゴホンッ、そうね、それくらいになるかしら。それだけの付き合いのあるあなたに隠し事をしても仕方がないから話すけど、正直迷いがあるのは否定しないわ。

ジミーと共にいたいと思う私とバルーセン公爵家の者としての責任を放棄してもいいのかと責める私、どちらも本心であることには違いないの。

私の思いは私一人のものではない、私の決定が大なり小なり多くの者の人生を左右する、今のコリアンダのようにね。

“王とは人ではない、役割である”、これは凡庸と言われた先代ゼーレン国王陛下のお言葉。私はこの言葉を何度となく噛みしめたわ。

コリアンダ、あなたは二年前私にこう言ったわね、“自由を手になさいませ、ラビアナお嬢様。ラビアナ様を縛り付けるものは、最早何もないのですから”と。

今はその言葉をそっくりあなたに返しましょう。コリアンダ、自由になさい。私は私の道を行きます、その結果がどのようなものとなろうと私は後悔などしない、それが私の選んだ選択なのだから」

私はコリアンダの主人として、彼女の思いに応える事ができたのだろうか。その後コリアンダは静かに一礼をし部屋を下がっていった。私は窓辺に向かい枯草色に変わった外の景色を眺めると、深く長い息を吐くのであった。




おはようございます。
いってらっしゃい。
by@aozora
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