“シュタンッ、スパンスパンスパンッ、バッ、シュタンシュタンッ”
寒風吹き込む闘技場、観客が一人もいない戦いの場には、二人の戦士の戦闘音だけが響く。
“ガキンッ、ガキンッ、ガキンッ”
打ち合わされるロングソード、バッと離れた二人は互いの隙を伺いつつ、ジリジリと距離を詰める。
「カッカッカッ、若いというのはいいことだの。新鮮というか、日々変化していく姿を見る事ができるのは楽しいものだ。
ほれほれ、私は逃げも隠れもせん、どんどん打ち込んでくるがいい」
「ありがたいお言葉、大剣聖クルーガル・ウォーレン卿のお心の広さに感謝申し上げる。この思いはクルーガル・ウォーレン卿の命を絶つことでお返ししよう」
大剣聖クルーガルの言葉に応えるように大きく踏み込んだロナウドは、瞬間的に身を落としクルーガルの視界から姿を消すや、ロングソードのリーチを生かし膝下に切り掛かる。
“ガキンッ”
「ハッハッハッハッ、いいぞいいぞ、変に型にこだわるボンボン騎士とは持っているものが違う。流石は三英雄、実戦の戦場を知る者は思い切りがよいわ。いくらでも付き合ってやる故、どんどん打ち込んでこい!!」
“ドンッ、スパスパスパッ”
爆ぜる地面、水滴が周囲に広がり、一瞬ロナウドの姿を見失うクルーガル。
「ワッハッハッハッ、水魔法を爆発させ一瞬の隙を作っての斬り掛かり、誠に以ってお見事。自身の身体に魔力障壁の防御を張り爆発の勢いで浮き上がる、いやはやその発想、楽しゅうて堪らんわ」
クルーガルは右腕から一筋の血を垂らし、「私に傷を付けた若者はいつ振りかの。いや、ジミーやジェイク、エミリーにフィリー、マルセル村の老人にはボコボコにされまくっておったわ。う~ん、調子に乗ることもできんとは、随分締まらん大剣聖じゃわい、ワッハッハッハッハッ」と言って地面を見つめる。そこには手足を切り裂かれ腹に剣を突き立てられたロナウドの姿。
「審判、もう一戦じゃ、ロナウドも大分戦いのコツが摑めてきたようだからの、身体に残る感覚が失われるのは惜しい。こ奴はまだまだ若い、傷付き苦しんで成長する時期じゃろうて。それに為政者が死を恐れる感覚を失って苦しむ者は、結局民だからの」
「はい、流石は大剣聖と謳われるクルーガル・ウォーレン卿、その思慮深さ、大変勉強させていただいております。それと見事な手加減、生きるか死ぬかのギリギリの見極めは、最早熟練の職人のようでございました」
そこにいた者は白い甲冑に身を包んだダンジョンの管理人、白騎士。フィールド型ダンジョンの一部である闘技場を管理し、老齢の剣士と若者との戦いを見守る者。
「<クリーン><パーフェクトヒール><スタミナアップ>、少し休憩といたしましょう、<スタミナアップ>によって失われた体力を食事によって補わなければいけません。それとクルーガル様にも治療を」
「いらんいらん、この程度のかすり傷、唾でも付けておけば治るわい」
クルーガルは腕に垂れる血を掌で拭うと、大したことではないとばかりに手の甲を振る。
「そうですか、では後程エミリーお嬢様にお願いして「すみませんでした、生意気なことを言いました。是非治療をお願いいたします!!」・・・了解いたしました。<クリーン><ハイヒール>」
白騎士の手から発せられる癒しの魔法、大剣聖クルーガル・ウォーレンは温かい癒しの光に包まれながら、“自分もまだまだだの、いずれは理不尽の頂へ”と更なる研鑽を誓うのであった。
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そこは暖かい風がそよぐ理想郷、巨大な神聖樹に見守られた結界領域の中では、多くの魔物たちが争い合うこともせず思い思いの時を過ごしている。
「いらっしゃいませ、本日は何階を目指されるご予定ですか?」
そこはそんな理想郷の中に造られた一軒の石造りの建物。建物入り口から中へ進むとカウンターが設置され、棚には様々な魔道具や生活物資、嗜好品などが飾られている。
「こんにちはお姉さん、今日は石工の親父さんが自慢していたゴーレム階層にね。本当は大福本体キメラドラゴンモードを攻略したかったんだけど、大福はフレアリーズ第五王女殿下の接待係になっちゃったからさ、ケビンお兄ちゃんから暫くパーティーとしての連携の訓練をしておいてって頼まれちゃって。
確かにクルンを加えてのパーティー訓練は必要だったからこっちとしても丁度良かったんだけどね」
話し掛けられたジェイクは、後ろに並ぶパーティーメンバーたちに目配せをすると、魔力の腕輪を外しカウンターの上へ並べる。
「はい、確かに魔力の腕輪による魔力補充を確認させていただきました。これは大剣聖クルーガル・ウォーレン様からの助言なのですが、あまり死ぬことに慣れ過ぎると死ぬことが戦いの前提になってしまう為いざという時に選択を誤ってしまうとのことです。
またダンジョンでの死は、ダンジョンに入った際に登録された肉体情報を基に再構築されます。魂は引き継がれますが、肉体の記憶というものは馬鹿にすることが出来ません。
死を恐れ、その恐れと向き合いながら更なる研鑽を積み続けること。真の強者とはそうしたものであると申しておりました。
この話はヘンリー様やボビー様も同意見のようで、すぐ傍で耳が痛いと仰っておられました」
「・・・そうだな、俺たちが目指すべき頂に君臨する理不尽は、あれほどの存在でありながら常に恐怖を忘れない。魔物恐い、貴族恐い、冒険者恐い、商人恐い。
既に何をされようともどうとでもできるだけの力を手に入れながら、貴族には遜り、冒険者は避け、商人とは利害を以って交渉し、魔物には貢物を欠かさない。一体どれ程の魔物と関係を持っているのかは分からないが、ミッシェルちゃんの相棒が子供ドラゴンだからな。エッガードの母親である大人ドラゴンを紹介された時は正直意識が飛ぶかと思ったよ、そんな大人ドラゴンと一緒にマルセル茶を飲んでるメアリーお母さんには一生敵わないと思ったけどな。
そういえばケビンお兄ちゃんはあれだけとんでもないことを引き起こしておきながら、まだ一度も身代わり人形の世話になったことがないそうだ。
ダンジョンの蘇生機構も、自身が死んでしまうことに対する備えじゃなく、生き返らせて面倒事をうやむやにする為の備えらしい。
ヘンリーお父さんが制約付きだけどあと一歩のところまでいったとかで、次こそは倒すって息巻いてたけどね」
そう言い肩を竦めるジミーの言葉に、その場の全員が頭を抱える。マルセル村の理不尽は世界の理不尽に、ドレイク・ホーンラビット伯爵閣下より聞かされた魔王騒動の顛末は、想像を絶する魔王物語そのものであり、王家がフレアリーズ第五王女殿下一行を差し向けて友好を深めようとするに十分な理由となるものであったからである。
「勇者パーティー一行は、長く険しい旅の末、聖剣を携えて魔王へと挑む。それは懐かしの故郷ホーンラビット伯爵家独立領マルセル村に棲むジミー・ドラゴンロードの実の兄、ケビン・ワイルドウッド男爵なのであった~」
「止めて、マジで止めて。王都を襲ったドラゴンとケビンお兄ちゃん、どちらかを倒さなきゃいけないとなったら迷うことなくドラゴン退治に向かうから、ケビンお兄ちゃんに挑むなんて、無限地獄に挑戦することと変わらないから、光の勇者グロリアス・ブリッジの二の舞は御免被ります!!」
フィリーから掛けられた言葉に必死になって言い訳をするジェイク、そんな彼の様子にその場の皆が笑い出す。
「ではお気をつけていってらっしゃいませ。それとジミー様は封印解放を行う場合、ゴーレム階層に到着してからでお願いします。現在ダンジョンマスターがダンジョンコアと共に設定の見直しに取り組んでおります。ダンジョンマスターからの伝言です、“まさか雌型ダンジョンモンスターが魅了されてしまうとは思わなかった、ご迷惑をお掛けし申し訳なかった”とのことです。くれぐれもよろしくお願いします」
そう言い一礼をし若者たちを送り出す受付職員。ジェイクとジミーとエミリーの三人はその言葉に苦笑いを浮かべながら、「でもパーティーとして活動する以上、素のジミーにも慣れてもらわないといけないんだよな~」と、幼馴染故に効くことのない天然の魅了を前に、深くため息を吐くのだった。
因みにジミーの魅了耐性訓練を受けるフィリーとディアとクルンは、「「「人生のご褒美です、これまで頑張ってきてよかった」」」と言って、毎回ウキウキ気分で参加しているのであった。
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そこはマルセル村の脇、ホーンラビット牧場の側に建てられた大きな厩舎。その中で魔馬の世話をするラビアナ・バルーセン公爵令嬢とカーベル・ハンセン侯爵令息、アリス・ブレイク男爵令嬢は、マルセル村に来てからの日々を思い起こしながら魔馬の背にブラシを掛ける。
「しかしまさか覇気の習得にこんな方法があったなんて、覇気を使える魔馬がいること自体驚きだったけど、私たちが行っていることって魔馬の世話と乗馬訓練じゃない? この方法がオーランド王国に知れ渡ったら、覇気の習得を求める者たちでマルセル村が大変なことになるわよ」
彼らが求めたもの、それは覇気の習得。ラビアナはジミーと共に旅に出る為に覇気習得は必須であるし、カーベルとアリスも卒業後オーランド王国立て直しに奔走するアルデンティア第四王子を支える為、周囲を納得させるだけの力を手に入れる必要があった。
「覇気を使う魔馬から常に覇気を浴び続ける、それによって自身の中の覇気に気が付き自在に使用することができるようになる。元は剣鬼ボビーに覇気を当てられまくったことで覇気に目覚めたケビン・ワイルドウッド男爵が考案したやり方だったそうだが、最初の頃は鬼神ヘンリーと剣鬼ボビーによる殺気を纏った覇気を当てられまくるという力技だったらしい。
ジェイクがえらく羨ましがっていたよ、「自分の時は毎回死にそうなくらい怖い思いをした」って。ジェイクによれば覇気には攻撃の覇気と癒しの覇気があるらしく、魔馬たちは癒しの覇気を発しているんじゃないかとのことだった。
確かに魔馬の世話をするようになってから体調がよくなったし、どれ程身体を動かしても翌日に引き摺るような疲れを感じない。最近は少しずつ魔力とは違う力を感じ取れるようになって来た、これを言ったら「“感覚が摑めるようになったら覇気習得もすぐだから頑張れ」と言われたよ」
カーベルの言葉に「私もそうなんです」と嬉しそうに笑うアリス。
何も苦行ばかりが修行ではない、着実に成果を上げるのであればどのような方法であろうとも正しく修行なのだ。
「そういえばアルジミールとライオネスたちはどうしてるのかしら? 彼らは魔纏いが出来ないから厚着でフレアリーズ第五王女殿下の傍に付いていたと思うんだけど」
ラビアナの言葉にアリスがそういえばと言って口を開く。
「アルジミール君たちにはフレアリーズ第五王女殿下のご要望で大福先生がお世話係に就いているじゃないですか。昨日話を聞いたら最近は大福先生の指導の下、魔力操作と魔力制御の訓練を行っているらしいですよ?
なんでも大福先生の慈悲でたった一日で魔纏いを習得してしまったんだとか、通訳に就いていたフレアリーズ第五王女殿下が「流石は大福先生です、私たちの神です!!」と言って大興奮なさっていたとか。
アルジミール君は「まさかスライムに魔力の使い方の指導を受ける日が来るとは思わなかった」とか言って凄い複雑な表情をしていましたけど」
アリスから語られた言葉に思わず固まるラビアナとカーベル。魔纏いの指導をするスライム、覇気の訓練を行う魔馬、マルセル村の魔物とは一体・・・。
「そういえばラビアナ様はミッシェルちゃんのチームドラゴンをご覧になりましたか? 私、ドラゴンって怖ろしい魔物だと思っていたんですけど、子供のドラゴンはあんなにも可愛らしいんですね。それにスネーク系魔物みたいな姿や人のような姿まで、ドラゴンって意外と知られていないことが多いのかもしれません」
「「・・・・・・」」
ニコニコと笑顔で語るアリスに対し、何とも言えない表情で言葉を詰まらせるラビアナとカーベル。
「カーベル様、この事って王家には伝わっているのかしら?」
「おそらくは。叔父上はドラゴンの件については触れていなかったが、王都諜報組織“影”の耳目が常に情報を送ってきていると仰っていた。
ただもしかするとベルツシュタイン卿が情報制限を行っている可能性も否めない。我が国は軍閥貴族とブライアント第二王子による反乱の際に複数体のドラゴンによる王都大侵攻の被害を受けており、ドラゴンという存在に対し過剰反応する恐れがある。今の状況でドラゴンの事を王都貴族たちに知られることは拙いだろう」
カーベルの言葉に頷きで同意を示すラビアナ。辺境の地の神秘は、神秘のままにしておいた方がいい。
「アルジミールたちには私の方から話を通しておきましょう、フレアリーズ第五王女殿下には大福先生を煩わせないようにする為と言えばご協力してくださるでしょう。
ロナウドは元々ホーンラビット伯爵家側の人間ですから問題ないでしょうし、しいて言えば諜報の為に派遣された御者ですが、その辺はベルツシュタイン卿が上手く取り計らうでしょう。
私たちはただ修行の為に訪れた、それだけで十分としておくことが一番平和的な解決方法なのじゃないかしら?」
ラビアナの言葉に頷きで応えるカーベルとアリス。
“““ブルルルルル”””
「あぁ、手が止まっちゃって、ごめんなさい」
魔馬の嘶きが聞こえる、お世話の手を止めていた若者たちが、再び作業を開始する。厩舎の中に広がる魔馬たちの優しい覇気、若者たちは徐々に強くなっていく覇気に気が付く事もなく、忙しなく魔馬たちの世話を続けるのであった。
おはようございます。
いってらっしゃい。
by@aozora