転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第951話 転生勇者、旅立ちの儀を迎える

 「トーマスお父さん、マリアお母さん、チェリーちゃん、お待たせ」

健康広場での朝の体操から戻り朝食を済ませた俺は、部屋で騎士服に着替えてから居間の家族に声を掛ける。トーマスお父さんとマリアお母さんは俺と同じく騎士服に身を包み、チェリーちゃんはこの日の為に用意したお出掛け用の可愛らしい服を着込んで機嫌良さげに席に着いている。

 

「ジェイク、お前の騎士服姿もすっかり板に付いたな。前は服に着られているといった感があったが、今じゃ誰がどう見ても一人前の騎士様だ」

「そうね、子供の成長は早いって言うけど、あの可愛らしかったジェイクちゃんが立派な大人の男性になって。嬉しくもあり寂しくもあり、お母さんとしては複雑な心境だわ」

トーマスお父さんは俺の格好を見るや誇らしげに笑みを浮かべ、マリアお母さんは何とも言えない複雑な表情を浮かべる。そんな中一人チェリーちゃんだけが「領都に着いたらお買い物に行くんでしょう? 色んなお店を回るんでしょう?」とワクワクを隠しきれずにいる。

 

「ハハハ、そうだね。先ずは教会に行ってお兄ちゃんの旅立ちの儀を終わらせてからになるけど、領都の街を色々と回れるから楽しみにしていてね。お兄ちゃんは儀式の後ホーンラビット伯爵閣下と一緒にグロリア辺境伯閣下のところにご挨拶に行かないといけないんだけど、ジミーのところのミッシェルちゃんやメアリーおばさんが一緒だから楽しめると思うよ」

俺は妹のチェリーちゃんの視線に合わせ膝を折ると、笑顔で語り掛ける。

 

「ほら二人共、おしゃべりはその辺にしてホーンラビット伯爵閣下の下に向かおう。いくらジェイクたちが今日の主役とは言え、あまり待たせてしまうのは失礼にあたるからな」

「「は~い、分かりました~」」

俺とチェリーちゃんはトーマスお父さんの言葉に返事をすると、どちらともなく笑い出し玄関へと向かうのだった。

 

「ジェイク君、こっちこっち~」

ホーンラビット伯爵邸の前には四台の馬車が並び、既に準備を終えたエミリーが俺たちの訪れを待っていてくれた。

 

「ホーンラビット伯爵閣下、お待たせして申し訳ありません」

「いやいやトーマスさん、まだ集合予定時間には早いですから、お気になさらずに。ジェイク君、本日はおめでとう。しかし君たちが旅立ちの儀を迎える年になったんだと思うと、私も年を取ったんだなと思い知らされるよ。ジェイク君、ジミー君、エミリーちゃんのことはおむつをしていた頃から知っているからね。

あの頃はまだまだマルセル村が貧しくて、子供時代の君たちにはずいぶん苦労を掛けてしまったけど、そんな君たちがこんなに立派になって。

トーマスさん、マリアさん、今まで本当によくマルセル村の為に尽くしてくれました。マルセル村の元村長として、心からお礼申し上げる、今まで本当にありがとう」

俺たちが到着するや、何やら既に感動しているホーンラビット伯爵閣下。

考えてみれば俺が子供の頃は村の子供は俺とエミリーとジミーとケビンお兄ちゃんの四人だけ。先々子供が増えるような希望もなく、マルセル村はいつ滅びてもおかしくない限界集落だった。そんな中でも出入りの商人と交渉を行い必死になって村を守ってきたホーンラビット伯爵閣下からすれば、あの当時を知る子供たちである俺たちが無事に成人として認められる旅立ちの儀を迎えることができたことは、俺たち以上に大きな意味を持つのだろう。

 

まぁそれを言っちゃえばケビンお兄ちゃんの方が先に旅立ちの儀を迎えているだろうってことになるんだけど、ケビンお兄ちゃんは見守り対象じゃなくて共にマルセル村を育ててきた同志みたいな立ち位置だっただろうからな~。

ケビンお兄ちゃん、しょっちゅうドレイク村長のところに入り浸って怪しい商談を持ちかけてたって言うし、やってる事が子供じゃないんだよな~。でも大福と緑と黄色を育ててたのもケビンお兄ちゃんなんだよな、スライムとビッグワームを飼うなんて行動は子供そのものだし、本当によく分からない。

でも今のマルセル村があるのは誰がなんて言おうとケビンお兄ちゃんのお陰だし、感謝しかないんだけどね。

 

「いえ、こちらこそ感謝の言葉しかありません。息子ジェイクがこんなに立派な男に成長することができたのは、ホーンラビット伯爵閣下が大きな心ですべての責任を背負い続けてきてくれたからこそ、そうでなければ今頃どうなっていたことか」

「そうですよ、あの理不尽は食料や富、生きていく為の術を与えてくれますがその代償に相応しい心理的苦労も確り残してくる。ホーンラビット伯爵閣下がいなかったら今頃私たちはどうなっていたことか。

今もフレアリーズ第五王女殿下が大福と毎日戯れていますし、こんな状況を収めることができるのはホーンラビット伯爵閣下だけです!!」

うん、ホーンラビット伯爵閣下の最も偉大な点は全ての心労をその身に引き受けてくれているところだよな。大体辺境の寒村の村長が伯爵家の当主って、俺だったらその時点で胃に穴が開いてるっての。俺の神々の加護も神経性胃炎には効かないだろうしな~、ホーンラビット伯爵閣下は本当に凄い御方です。

 

俺は胃痛の原因の一人として深々と礼をすると共に、改めてホーンラビット伯爵閣下に感謝申し上げるのだった。

 

「ジェイク、エミリー待たせたようですまなかった。ホーンラビット伯爵閣下、お待たせしてしまい申し訳ありませんでした」

声を掛けてきたのはジミー、その周りにはドラゴンロード家とソード家の面々が揃っている。

 

「ジミー君、フィリーちゃん、旅立ちの儀おめでとう。ヘンリーさん、メアリーさん、ボビー師匠、シルビアさん、お子様の旅立ちの儀、誠におめでとうございます。

本日この良き日を迎えることができたこと、ホーンラビット伯爵家当主ドレイク・ホーンラビット、心よりお喜び申し上げます。

早速ですがまいりましょう、領都教会のメルビン司祭長様にはケビンより話を通してありますので」

ホーンラビット伯爵閣下はそう言うと、それぞれ馬車に乗り込むように促すのだった。ホーンラビット伯爵家の馬車にはエミリーとミランダ夫人とロバート君とホーンラビット伯爵閣下が、俺たちの馬車にはトーマスお父さんとマリアお母さんと俺とチェリーちゃんが、ジミーのところはヘンリー師匠とメアリーさんとジミーとミッシェルちゃんが、フィリーのところはボビー師匠とシルビア師匠とイザベル師匠とディアとフィリーが乗り込んでいく。

 

「では行ってくる、デイマリア、後のことを頼む」

「はい、旦那様、いってらっしゃいませ」

“ガチャガチャガチャガチャ”

動き出した馬車、俺たちを乗せた馬車の車列はホーンラビット伯爵家の人々に見送られながら、屋敷前を旅立っていくのだった。

 

―――――――――――

 

「ジェイクお兄ちゃん、チェリー、馬車でお出掛けするのって初めて。領都にはどれくらいで到着するのかな? 夕方には到着するのかな?」

馬車の中、チェリーちゃんが両足をパタパタさせながら楽しげに質問を向ける。俺はその可愛らしい姿に顔がニヤケそうになるのをグッと堪えると、「そうだな~」と首を傾げながら考えを巡らせる。

 

「チェリーちゃんはマルセル村の村門前の草原をずっと進んだ先に何があるのか知っているかい?」

「チェリー知っているよ、ゴルド村でしょう? マルセル村航空隊の訓練で、上空から見たことがあるもん」

俺の言葉に胸を張って答えるチェリーちゃん、俺は「チェリーちゃんは凄いね」と言って質問を続ける。

 

「それじゃゴルド村の先にも大きな草原が広がっているのを知ってるかな?」

「うん、グラスウルフの草原でしょう? 今みたいに街道が整備される前は通過するのに一日掛かっていたってロバート君が教えてくれたの」

うん、会話が六歳児のものじゃない。もしかしてチェリーちゃん、お兄ちゃんに合わせて六歳児を演じてくれちゃっている? お目目キラキラさせているチェリーちゃんの気遣い、お兄ちゃんは凄く嬉しいよ。

 

“ガチャガチャガチャガチャ”

馬車は走る、緑の草原の中の石畳の道をただひたすら真っ直ぐに。

 

「そうだね、その大きな草原を抜けた先にあるのが地方都市エルセル、マルセル村に一番近い街になる。これからチェリーちゃんが大きくなって、トーマスお父さんたちが街へ買い物に連れていってくれると言った時に向かう先がこのエルセルの街になるかな。

そこから街道を更に数日進んだ先にあるのがミルガルの街、ここは中堅都市といっていい程に栄えていて、チェリーちゃんが欲しいものは大抵手に入ると思ってくれていいよ。それ程に大きな街だから人もたくさんいて、初めて訪れた際は凄く驚いちゃうと思うけどね。

そこからさらに十日以上の旅を続けて辿り着く大都会がグロリア辺境伯領領都グルセリア、オーランド王国北西部地方最大の都市だね。流石に王都ほどではないけど、王都にも引けを取らない大都会だと言えるよ、お兄ちゃんも授けの儀で初めて領都を訪れた時は圧倒されちゃったもん。

これから向かうのはその領都だから、チェリーちゃんも凄くびっくりすると思うよ」

俺の言葉に口を開けてポカンとするチェリーちゃん。マリアお母さんに視線を向けて話の真偽を問うも、コクリと頷きを返されて余計驚いた顔になっている。

 

「う~ん、でもそうなると今日はグラスウルフの草原で野営をすることになるのかな? この時期はグラスウルフも冬眠しているから魔獣に襲われる心配もないし、冬季期間は盗賊に夜襲される危険も少なくなるって執事長のザルバさんから聞いたことがあるから、大勢での移動には向いているのかもしれない。

問題は寒さだけど、魔力纏いで保温に気を付ければ問題ないし、食料は収納の腕輪に保存してあるから心配する必要がない。ジェイクお兄ちゃんたちの旅立ちの儀を今行うにはそうした意味もあったのね」

何かチェリーちゃんの幼女演技が破綻しはじめてしまった。ミッシェルちゃんの下で指導を受けているからか、考え方が大人っぽくなってしまったチェリーちゃん。今からこんなに立派になって、将来どうするつもりなんだろう。

俺は未だ小声でぶつくさ考え込んでいるチェリーちゃんの姿に一抹の不安を覚えつつ、トーマスお父さんとマリアお母さんに視線を向ける。

・・・なるようになると、了解です。どうやらうちの両親は、チェリーちゃんの成長を温かく見守ることにしたようである。(諦めたともいう)

 

「さて、チェリーちゃん。考え込んでいるところ悪いけど、そろそろ正解を教えちゃおうかな? チェリーちゃんがお兄ちゃんに聞いてきた“領都にはどれくらいで到着するのか”って質問だけど、正解は“そろそろ到着する”です」

「・・・・?」

俺からの回答にキョトンとした顔を向けるチェリーちゃん。その顔は“お兄ちゃんがまた馬鹿なことを言っている”といった呆れの感情がありありと現れている。

 

「ジェイクお兄ちゃん、いくら私が幼くても距離を進むには時間が掛かるってことぐらい知っているよ? さっきお兄ちゃんが教えてくれた話からすれば、領都までは少なくとも十五日くらいは掛かるってことになるよね? 私たちがホーンラビット伯爵邸の前から移動し始めてまだ三十分も経っていないんだよ? ゴルド村ですらまだまだ道の先だっていうのに、領都にそろそろ到着するって、どうしちゃったの?」

そう言い窓の外の景色を指差すチェリーちゃん、そこにはどこまでも広がる風に波打つ新緑の草原。

 

「・・・あれ? 何で草原が緑なの? 今の時期は何処も枯草色になっているはずじゃ」

「気が付いた? もうすぐもっと面白いものが見られるよ」

チェリーちゃんは馬車の窓に張り付いくと、外の不思議な光景に目を白黒させている。

 

「・・・え~~~~!!」

それは多くの人々が行き交う街道の光景。先程までの緑の草原の景色は一変し、冬の寒さに耐えるような服装をした人々が馬車や荷車を押して街道を進む光景に、呆気にとられるチェリーちゃん。

 

「お兄ちゃんも聞かされていた訳じゃないけど、ホーンラビット伯爵閣下が「早速ですがまいりましょう、領都教会のメルビン司祭長様にはケビンより話を通してありますので」って言っていたでしょう? アレは“ケビンお兄ちゃんの高速移動の力を使って今日中に領都に向かい、教会で授けの儀を行う”っていう意味なんだよ。貴族の会話は全てを説明しないから相手の言葉の真意をいかに詳細に理解するのかということが重要になるんだ。この辺はただ理解するだけじゃなくてそこからさらに駆け引きを行わないといけないから難しいんだけどね、マルセル村じゃそうした勉強はなかなかできないけど、いずれチェリーちゃんも覚えていった方がいいかな?

マルセル村は奥が深い、チェリーちゃんが知らないことやトーマスお父さんやマリアお母さんが知らないことだってたくさんある。

焦らずゆっくり覚えていくといいよ、それが子供の特権なんだからね」

俺はそう言うと、未だ意味が分からないといった表情で窓の外を眺めるチェリーちゃんの頭を優しく撫でるのだった。




おはようございます。
いってらっしゃい。
by@aozora
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