“ガチャガチャガチャガチャ、ブルルルル、ガチャリ”
「皆様、お待たせいたしました。どうぞ足下にお気をつけてお降りください」
馬車が止まり、ゆっくりと扉が開かれる。馬車の外では純白の鎧を着込んだ騎士が頭を下げ、俺たちが車内から降りるのを見守っている。
チェリーちゃんは初めて見る領都の様子に興奮しながら、「うわ~、私まるでお姫様になったみたい」と言ってはしゃいでいる。白騎士はそんなチェリーちゃんに優しく微笑みながら、「お嬢様、お足下が危なくなっております。どうかお兄様と手をお繋ぎになり、前へとお進みください」と声を掛ける。
白騎士さん、Good Job!! 俺は「チェリー姫、共に参りましょう」と声を掛けると、チェリーちゃんの手を摑み目の前に聳える大聖堂へ向け歩を進めるのだった。
「ホーンラビット伯爵閣下、ミランダ夫人、本日はエミリーお嬢様の旅立ちの儀、誠におめでとうございます。
ドラゴンロード男爵様、メアリー夫人、本日はジミー様の旅立ちの儀、誠におめでとうございます。
ソード男爵様、シルビア夫人、本日はフィリーお嬢様の旅立ちの儀、誠におめでとうございます。
クロー騎士爵様、マリア夫人、本日はジェイク様の旅立ちの儀、誠におめでとうございます」
大聖堂の階段の前には教会所属の司祭様やシスター様がずらりと並び、俺たちの訪れを歓迎してくれている。
その中にはどこか見知った若い司祭の姿が。笑顔を向けているのはピエール、何かすっかり教会の司祭の貫禄と言うか、落ち着いた雰囲気を醸し出している。
「ピエール、久し振り、一年振りになるか。何かすっかり落ち着いたというか貫禄が出たというか、一足先に大人になった感じだな」
「ジェイク、旅立ちの儀、おめでとう。お陰様で俺も見習い司祭から司祭に格上げしてもらってな、その分義父の雑用を振られて毎日走り回っているよ。地方教会じゃ司祭なんていっても何でも熟せてあたり前だからな、毎日が勉強だ。それにグロリア辺境伯領は自治領だ、教会組織も中央とは離れた関係になる。この辺はかなり面倒な話になるんだが、その分雑用が多くてな」
久々に会ったピエールは爽やかなイケメン笑顔はそのままに、かなりのボヤキキャラになってしまっていた。時々あのクソ親父がと付け加えるあたり、メルビン司祭長様とはうまくやっているのだろう。
頑張れピエール、先は長いぞ。
“ガチャッ”
大きく開かれた大聖堂の大扉の先には祈りの為の長椅子が幾つも並べられ、最奥には巨大な女神様像が訪れた者たちを優しい笑顔で迎え入れてくれている。俺たちがピエールとシスター様方の案内で先へと進むと、女神様像の前で待っていたメルビン司祭長様がにこやかな笑顔で声を掛けてくる。
「皆様、ようこそグロリア辺境伯領・領都教会にお越しくださいました。
ドレイク・ホーンラビット伯爵閣下、ミランダ夫人、エミリー・ホーンラビット伯爵令嬢の旅立ちの儀、誠におめでとうございます。今日この良き日を迎えることができましたのは、皆様方が愛情を以ってエミリーお嬢様をお育てになったればこそ、女神様のお導きはそんな皆様の思いに応えられたのでしょう。
ヘンリー・ドラゴンロード男爵様、メアリー夫人、ジミー様の旅立ちの儀、誠におめでとうございます。ジミー様はこれまで教会で記録されたことのない<剣天>という稀有な職業を授かられた才能溢れる御方、旅立ちの儀を迎えられたジミー様がこの先どのような物語を紡いでいかれるのか、一人の男として楽しみでなりません。
ボビー・ソード男爵様、シルビア夫人、フィリーお嬢様の旅立ちの儀、誠におめでとうございます。フィリーお嬢様は奥様によく似られたのか魔法の才能に長けておられるとか。本当に義父に似なくてよかった、この頑固爺の下で頑張ってこれたのです、フィリーお嬢様の未来は明るいものになるに決まっています。あなたの人生がより良いものになるよう、頑固爺の旧友として祈っていますよ。
トーマス・クロー騎士爵様、マリア夫人、ジェイク様の旅立ちの儀、誠におめでとうございます。ジェイク君、よくぞこの年まで真っ直ぐに生きてきましたね。君の生き様は多くの男たちが見守っていました。そして影ながら応援してきました。
私たちにできることは少ない、でも君は決して一人ではないということだけは覚えていてください。耐えること、我慢することは確かに素晴らしい、でも偶に愚痴を吐くことは決して間違いなどではないのです。
教会の扉は常に開かれています、飲みに行きたくなったらいつでも誘ってください、いいお店を紹介しましょう」
・・・ヤベ、つい泣きそうになっちゃった。
なんだろう、分ってくれる人がいるってだけで凄い救われた気持ちになるなんて。まぁそんなことはおくびにも出さず緊張していますって表情を続ける選択肢しか、俺にはないんですけどね。
エミリーが小声で「ジェイク君はそんなお店に用なんかないよね~」って呟くのが超恐いんですけど!! 無論行きませんとも、仮に行くことになってもエミリーさん同伴は必須です、はい!!
「ではエミリー・ホーンラビット伯爵令嬢様、ジミー・ドラゴンロード男爵令息様、フィリー・ソード男爵令嬢様、ジェイク・クロー騎士爵様、女神様像の前へお願いします」
メルビン司祭長様の言葉に従い、俺たちはそれぞれの両親の傍を離れ女神様像の前に進むと、膝を突き頭を垂れ目を瞑って祈りの姿勢を取る。
「“我らを見守る偉大なる女神様、本日あなた様の子が巣立ちの時を迎えました。願わくは彼の者の人生を見守り、より良いものに導かん事を”」
メルビン司祭様の祝詞が厳かに大聖堂へ響き渡る。温かな光が全身を包み込み、心の奥がとても穏やかなものへとなっていく。
空気が澄み、音が消え、自分が神聖な空間にいるのだということが否が応にも伝わってくる。
永遠にも思える時間、メルビン司祭長様からの声掛けはなく、その場でジッと祈り続ける俺。
・・・長過ぎない? いくら何でも長いよね? あれから十分くらい経ってるんだけど? っていうか誰も何も言わないっておかしいよね? 修行なの? 試練なの? お貴族様の旅立ちの儀式ってこんな感じなの?
どうやらお貴族様はたくさん寄進を積んでいる分、矢鱈長いお祈りタイムが用意されているようです。
つーか長過ぎだわ!! 俺はいい加減長いお祈りタイムにそっと目を開ける、するとそこには。
「はい、ここまで、十四分五十六秒。惜しい、もうちょっとで十五分の壁が破れたのに、本当に惜しい!!」
「・・・は? えっと、どちら様? っていうかここってどこ? 俺って教会の大聖堂で旅立ちの儀を受けていたよね?」
目の前にいるのは見知らぬおじさんたち、でもなんだろう、なんかやたら親近感があるというか、随分前から知っているというか。
「お、流石<堅牢の勇者>、直観力も中々。まぁそうだよな、直観力を鍛えておかないとエミリーちゃんの鋭いツッコミが腹筋に炸裂するもんな。やっぱり人間は追い込まれることで更なる高みに登れるんだって、ジェイクがそのことを証明しちまったじゃん」
「おいおい、止めてやれよ、そんな阿呆な理論がまかり通ったら、戦の神どもがまた訳の分からんことを始めそうだろうが。まぁなんにしてもジェイク、お疲れさん。今日は目出度い旅立ちの儀だ、俺たち“ジェイクの腹筋を見守る会”が祝ってやるからゆっくりしていけや。
因みにエミリーちゃんは拳神と武神が型稽古を付けるっていってたな。その後は愛神や他の女神たち恋愛話に花を咲かせるとかなんとか。
ジミーは剣神と闘神と鬼神を中心としたジミーを鍛える会の連中が、無限試合を行うって言って張り切ってたな」
その言葉に俺はハッと気が付く。親近感が沸くのもその筈、この方々は常に俺のことを見守り守ってくださった恩人なのだから。
「神様方、本当にいつもお世話になりありがとうございます。お陰で俺、生き残ることができました!!」
「おう、俺たちも嫁には頭が上がらない方だからよ、何か他人事に思えなくってな。俺は堅守楯神、それでこの筋肉ダルマが筋肉神、こっちのおっさんが回復神。それと慈愛の神が煮物作ってきてくれたから一緒に摘まもうや。確かお前さん転生者なんだろう? 普段食えないような懐かしい食い物をいっぱい出してやるからよ、今日は祝いだ、好きなだけ楽しんでいけ」
クッ、神様~~~~!! 俺はその後合流した慈愛の神様(優しそうなおばちゃんでした)の煮物料理に感激しながら、前世のファーストフードなんかを堪能し無茶苦茶楽しい時間を過ごさせていただきました。
「何か色々ありがとうございます。それにお土産まで貰っちゃって」
「いいっていいって、ジェイクは見てて楽しいっていうか応援したくなるからな。後ピザくらいは自分で作れよな、材料だったら既にマルセル村で手に入るんだからよ。何事も創意工夫だ、お前のところの理不尽はいつもそうしているだろう?」
堅守楯神様から理不尽扱いされるケビンお兄ちゃん、他の神々も一緒になって頷いておられます。神々から理不尽認定されるケビンお兄ちゃんって一体何者なんだろう。
「それじゃ大聖堂に戻すけど、ちゃんと祈りの姿勢を取れよ? いきなり立ち上がっていたら変に思われるからな。ジミーとエミリーちゃんもすぐに戻ってくるはずだから気が付かないフリをしてやれよ、その辺は男の度量ってやつだからよ」
「ハハハハ、分かりました。それじゃまたいつかお会いできる日を楽しみにしています。皆さんもお元気で」
瞬間的に変わる景色、目の前には祈りを捧げるメルビン司祭様と巨大な女神様像、そして静かに目を瞑り祈りを捧げ続ける家族たちの姿。
訪れた奇跡と神々との出会い。俺はあの陽気で心優しい神々の事を思い出しながら、いつかうまい酒でも奉納しにこようと心に誓い、口元を緩めるのだった。
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「“我らを見守る偉大なる女神様、本日あなた様の子が巣立ちの時を迎えました。願わくは彼の者の人生を見守り、より良いものに導かん事を”」
メルビン司祭長様の厳かな祝詞が大聖堂の空間に響き渡る。柔らかな聖なる光が女神様像より広がり、この場の空気が清廉で神聖なものへと変化する。
俺は瞑っていた目を静かに開くと、大きなため息の後女神様像に向かい祈りを捧げる。
「‟もしも~し、どうも、地上世界からこんにちは。グロリア辺境伯領・領都グルセリアの大聖堂からお伝えしております、地上世界のイレギュラー、大特異点ケビン・ワイルドウッドです。
な~んかまた時間遅延空間が発動しちゃってるんですけど、どなたか事情をご存じの方がいらっしゃったらお返事をいただけませんか~。姿を消したのは本日旅立ちの儀を迎えたジミーとジェイク君とエミリーちゃんの三人です。こっちは他に異常は見られません”」
ここはオーランド王国北西部地域で一番大きく多くの信仰を集める大聖堂、つまり太い回線が繋がっている場所ってことでこちらからの呼び掛けにもすぐに回答がですね。
「“・・・はぁ? 離界の扉を出すんですか? 申請手続きに時間が掛かるって、面倒がらないでくださいよ。召喚してくれてもいいって、召喚したら力一杯痕跡が残っちゃうじゃないですか、後処理が面倒なんで勘弁してください”」
何故か俺がこき使われるっていう意味の分からないことにですね。仕方がないので収納の腕輪から離界の扉を取り出し居酒屋ケビンに繋ぐと既にそこには待機しているあなた様。何を勝手にトワイライトにビールを注文しているのかな? 駆けつけ一杯って、仕事しろ仕事。
俺の言葉に渋々ジョッキから手を“ゴクゴクゴクッ、プハ~”って飲むんかい!! まぁいいですから説明プリーズです。
「え~、まずはジミー君、ジェイク君、エミリーちゃん、フィリーちゃんの旅立ちの儀、おめでとう。ご家族の無事な成人を、天上界の者として心より祝福いたします」
「これはこれはご丁寧に、マルセル村の年長者として、兄弟として、祝福の言葉に感謝申し上げます。
ってそれは分かったけど一体何がどうなってるんです? 前回は俺が神器を持っていたこととエミリーちゃんが聖女だったことで呼び出されちゃったんですよね? ジミーは大分事情が違ったみたいですが、ジェイク君は呼び出し対象じゃなかったですよね」
「あ~、それなんだけど、ジェイク君って神々の加護を受けてるじゃない? 勇者だから特に人数制限もなくたくさん加護を受けれるんだけど、皆してジェイク君の身体を心配しちゃってたのよ。
ほら、ジェイク君ってエミリーちゃんの深い愛を身体で受け止めてるでしょう? それで多くの男性神や世話好きの女神様なんかからの同情がね。
今回旅立ちの儀を迎えるにあたってみんなでジェイク君を労ってあげようってことになったみたいで、御呼ばれして食事会をしているみたい。
エミリーちゃんは愛神様を中心とした“エミリーちゃんとジェイク君を見守る会”の皆さんと女子会を開いてるわ。拳神様と武神様が型稽古を付けるとか言っていたから、そっちが先になるとは思うけど、天上界じゃ時間の感覚はどうとでもなるから。
ジミー君は相変わらず喧嘩馬鹿たちに囲まれて修羅道を邁進してるわよ。成人前の最後の仕上げとか言ってたわね、理不尽をぶっ殺せとか言ってみんな気合十分だったって話よ」
・・・嬉しくね~。特に最後、あの馬鹿野郎様方、人の弟に何を教え込んどるんじゃド阿呆!! あ~、これって最終的にジミーが俺に襲い掛かってくる流れじゃん、しかも神々の訓練を受けた完全体じゃん、三年前はなんとか勝てたけど、もう武術じゃ勝ち目ないじゃん。
「まぁまぁ、無様に負けるのも兄の役目ってね。ケビンの敗北シーン、楽しみにしてるわね~♪」
「クハッ、あなた様超笑顔、何か酷くね?」
俺は来るべき戦いの日を想像しがっくり肩を落とすと、“最後は兄として潔く散ってやる!!”と半ばやけくそになりながら、拳をギュッと握り締めるのでした。
おはようございます。
いってらっしゃい。
by@aozora