「ではそちらの席に座り、心静かにお待ちください。<詳細人物鑑定>」
ナビブ神官様の声が部屋の中に響く。長テーブルに置かれた水晶球が淡く光り、隣に座る書士のジフターナ氏が石板に目を向けるやもの凄い速さで表示された何かを用紙に書き記していく。
「<転写>」
ジフターナ氏が用紙と隣に開いた本に手を当て書士の職業スキル<転写>を唱える。これで教会に俺のステータスが保存されたことになり、旅立ちの儀が終了したこととなる。
ジフターナ氏は更にもう一枚用紙を記入すると、二枚の用紙と封筒をナビブ神官様に手渡す。ナビブ神官様は自身のスキルにより思い浮かんだ鑑定結果と水晶球に映し出された鑑定結果、ジフターナ氏より渡された鑑定用紙を照合し間違いがないことを確認すると、顔を上げ俺に説明を始めるのだった。
「鑑定の儀、お疲れ様でございました。まず鑑定結果の説明を始める前に、この鑑定結果は教会に保存されるものであること、この地の領主であるグロリア・フォン・タスマニア辺境伯閣下には閲覧の権利があるということ、オーランド王国国王ゾルバ・グラン・オーランド陛下には全国民の鑑定結果を照会する権利があるということをお話ししておきます。
尚原則的にオーランド王国より独立されているホーンラビット伯爵家独立領の領民のステータスをオーランド王国貴族が閲覧する権限はありませんが、ホーンラビット伯爵閣下とゾルバ国王陛下との話し合いの末、領民のステータスの扱いは従来のオーランド王国法に準じることになっているとお伺いしております。
ではこちらがジェイク・クロー騎士爵様のステータスとなりますのでご覧ください」
ナビブ神官様はそう言うと二枚の用紙を封筒にしまい、俺に差し出すのだった。
<鑑定書>
名前 ジェイク・クロー
年齢 十五歳
種族 普人族
職業 勇者(堅牢)
スキル
鑑定 魔力支配 身体支配 聖剣術 収納 挑発 堅牢堅固 不死鳥<不撓不屈 自己回復⇒自己再生(New) 自動修復(New) 再生強化(New)を統合>(New)
魔法適性
火 土 風 光
称号
スライムの王の弟子⇒スライム神の弟子(New) 理不尽の弟子⇒名状し難き何かの弟子(New) 神々の同情 王都を恐怖に落とせし者(New) 王都武術大会準優勝者(New) エミリーちゃん軍団の主(New) 王都をドラゴンより守りし者(New) 魔王討伐軍を撃退せし者(New) 何度でも立ち上がる者(New) 勇者の心を折りし者(New)
加護
・・・魔王? 闇落ちしてないのに称号が闇落ちして魔王になった元勇者なんですけど? でもそうか~、俺ってば光の勇者グロリアスに果敢に挑んでいただけなんだけど、グロリアスさん、結構無理してたんだな~。
って言うかアレって俺だけが悪いって話じゃないよねジミーとかヘンリー師匠とかボビー師匠が嬉々としてボコボコにしてたよね? なんで俺のせいになってるのかな? 凄い納得いかないんだけど。
それとスキル、ついに<不死鳥>になっちゃったよ。いや、勇者だし? 数々の死線を潜り抜けてスキルが成長するってんなら分かるよ? 俺まだ旅立ってもいないんだけど。数々の死線・・・日常?
いけない、これ以上は考えちゃダメだって本能が教えてくれている。勇者たるもの直感を信じないとだめだよね、すべては女神様と共にあらんことを。
そんで神々~!!
慈愛神様、鍋料理最高でした。健康長寿神って寿老人様ですかね? お供はサンダーディアですか?
お心遣い感謝いたします。
食料神様は旨い物食えってメッセージですね、酒神様は旨い酒飲んで憂さを晴らせと。
なんかこう涙が出そうなありがたさ、俺ってばめっちゃ見守られちゃってるんですね。“ジェイクの腹筋を見守る会”の皆様に心からの感謝を、俺、頑張ります。
「<聖女>エミリー・ホーンラビット伯爵令嬢様もそうでしたが、<勇者>ジェイク・クロー騎士爵様は多くの神々に愛されておられる。
ですが神々の加護は決して永遠ではないということを心に留め置きください。教会に残る記録には神々の加護に慢心し加護を取り上げられた者がいたと残されております。神々の加護が与えられているということはそれだけ注目されているということをお忘れなきよう。
それではスキルの再鑑定をさせていただきます。<鑑定:不死鳥>」
ナビブ神官様からありがたいお話をいただいた後、今度はスキルの再鑑定が行われました。
っていうかさらっと語っておられましたけど、<加護>って取り上げられることがあるんですか? 腹筋関係の加護がなくなると死活問題なんですけど!! 品行方正、これ大事。これから先もジェイク・クローは誠実に生きていく所存であります!!
“サッ”
書士のジフターナ氏が再鑑定の結果を用紙に書き写し、本に<転写>した後ナビブ神官様に手渡します。ナビブ神官様はその用紙を確認した後、俺に向かい差し出してくるのでした。
<鑑定書>
<スキル:不死鳥>
詳細:決して曲げず、折れず、己の思うがままに。どのような困難であろうとも必ず乗り越えられる、それは不死鳥のごとく何度でも蘇って。
無限再生、不撓不屈、瞬間自動再生。ただし寿命あり、不老不死ではない。
・・・これってヤバくない? 寿命以外じゃ死なないってことじゃん。俺って健康長寿神様から加護を授かってるんだけど? 多分めっちゃ長生きなんだけど?
よし、このことはあまり考えないことにしよう。今日も元気だご飯が旨い、それくらいのつもりでいることが幸せってことで。
「なるほど、<勇者>ジェイク様は何か大きな使命を授かっておられるのでしょう。ジェイク様、女神様は常にあなた様の傍におられます。苦しい時、困難に見舞われたときは教会の扉を叩いてください。我々は必ずや<勇者>ジェイク様のお力になることをお約束いたします」
席を立ち、俺に対し深々と頭を下げるナビブ神官様とジフターナ氏。「この場でのことは決して口外いたしません」とか言って力強い笑顔を向けてくださいますが、多分それもの凄い勘違いだと思います。
大体女神様からの使命って、そんなものがあったら鍋をつついているときに知らされてるから。おっちゃんとおばちゃんとお爺ちゃんたち、全くそんなこと言ってなかったから。
そんでもってこの<不死鳥>のスキルも、原因はエミリーだから。何かの使命があって授かったのとは違うと思うよ?
俺はお二人からの希望と期待の眼差しに曖昧な笑顔で応えながら、称号についてスルーされたことにホッと胸を撫で下ろすのだった。
―――――――――――――
「エミリー、ジミー、フィリー、お待たせ。大聖堂に戻ろうか」
鑑定の儀式の終わった俺は渡された二枚の鑑定書と追加のスキルの再鑑定用紙を封筒に入れ騎士服の内ポケットにしまうと、ナビブ神官様とジフターナ氏に礼の言葉を述べてから廊下で待つエミリーたちと合流し、大聖堂の家族の下へ向かうのだった。
「ジェイク君、無事に鑑定の儀式が終わってよかったね。授けの儀の時はエミリーとジェイク君の職業が<聖女>と<勇者>だってことが分かって大騒ぎになっちゃったもんね」
「俺とフィリーの時は魔力量と職業の関係でちょっとした騒ぎになったな。俺が授けの儀の祈りの後やらかしちまってな、あの時もケビンお兄ちゃんにハリセンで引っ叩かれたんだよな~。フィリーは賢者だったから当然として、俺の場合<剣天>っていうよく分からない職業だったんだが、魔力量が膨大だったということで王都学園行きが決まったんだ。なんか懐かしいな」
ブホッ、ジミーの奴、授けの儀と旅立ちの儀でハリセン二回目だったのかよ。案外学習しないんだな、変なところで抜けている辺りジミーらしいと言えばジミーらしいんだけど。
「あっ、そういえばナビブ神官様がフィリーに<王都をドラゴンより守りし者>の称号があるが俺も何か関係しているのかって聞いてきたんだけど、何でエミリーとジミーにその手の称号がないんだよ。二人して絶対何かやっただろう」
俺の言葉に驚いた顔をして互いを見合うエミリーとジミー。心当たりはあるけどどう答えたらいいんだろうといった表情で互いに唸りを上げている。
「う~ん、あのね、ジェイク君は私が神様に会ったことがあるって言ったら信じてくれる?」
「ん? まぁエミリーは<聖女>だしそんなこともあるんじゃないのか? 聖女が教会で女神さまの下に呼ばれるって話は有名だしな。どうやって神様の下に向かうのかはよく分からないけど、神様の行いを俺みたいな一般人に理解しろって話が無理難題だしな」
俺からの返事にホッとした表情になるエミリー。大前提が神様の話だからそこを信じてもらわないとどうしようもないとでも思っていたんだろう。
「私、授けの儀の時に天上界に呼ばれたの。天使様のお話だと何かの手違いだったみたいなんだけど、その時に色々なお話をさせてもらって、鑑定の儀式の前に自分のステータスを見ることができたの。そこで初めて称号ってものがあるって分かって、数が多かったから一つにまとめてもらったの。今回の鑑定の儀式で称号について何も言われなかったのはそれのお陰みたい。何でも称号が表の称号に隠されちゃうんだって。普通の鑑定だと<詳細人物鑑定>でも分からないんだって」
「俺も似たようなものかな。俺の場合<龍人族を凌駕せし者><霊獣を討伐せし者><鬼神を討ち倒せし者><魔国総合武術大会優勝者><元魔王軍四天王>といった中央大陸じゃかなり問題になりそうな称号が揃っていたからな。暗黒大陸の魔王問題解決にかかわったとして、天上界の計らいで称号を統合してもらえたんだ。それとその時に鬼神様をはじめとした神々と手合わせする機会をいただいてな、今回旅立ちの儀を迎えるに当たりもう一度修行を付けていただけたって訳だ。
ジェイクに秘密にするつもりはなかったが、話の内容が内容だろう? 迂闊に人に話す訳にもいかないから一生黙っていようと思っていたんだが、まさかエミリーが似たような体験をしているとは思わなかったよ」
ジミーの話に「え~、そうだったの!? 実はエミリーも拳神様と武神様に稽古をつけてもらったの♪」と楽しげに話すエミリー。
エミリーさん、あなた聖女ですからね。何で拳の神様と武術の神様から稽古をつけてもらっちゃってるのかな? 被験者は無論俺なのかな? 早速スキル<不死鳥>のお世話になっちゃうのかな?
「エミリーとジミー君は神様にお会いしたことがあるだなんて凄いです。そんな機会に給われた人物なんて歴史上でも相当に希少なのに、それが二人もいるだなんて」
「何を言ってるの? フィリーだって精霊様が付いてるじゃない。しかも上級精霊様って、ヨークシャー森林国の精霊使いに知られたら大騒ぎ間違いなしだよ?」
言われて気が付く事実、実はフィリーとディアも結構ヤバい存在でした。さらに言えばクルンは魔都総合武術大会の優勝者、暗黒大陸ナンバーワンが二人もいるって、うちのパーティーってば目茶苦茶ヤバくね? まぁそれでも大福には勝てないんですけど!!
俺が神様たちに会ったことは・・・うん、黙っておこう。俺って一緒に鍋つついただけだし、男神様たちの愚痴を聞いてただけだし。
「えっと、とりあえずこれで旅立ちの儀は終わりなんだよな? この後ってホーンラビット伯爵閣下のお供でグロリア辺境伯閣下のお城にご挨拶に向かうんだっけ?」
「あぁ、ケビンお兄ちゃんからは王都学園を卒業する前のご挨拶も兼ねてだから失礼のないようにって聞かされている。
俺たちのステータスも気にされているだろうから、そこで改めて発表ってことになるんじゃないのか? ジェイクのことだから何か変わったスキルにでも目覚めていて騒ぎになりそうだけどな」
「イヤイヤイヤ、それはジミーだろう。神様に修行を付けてもらったことのある剣士の話なんて聞いたことないから、そんなの絶対称号に残るはずなのに、ずるいんだよ本当」
思った以上にヤバそうなエミリーとジミーのステータス、これってグロリア辺境伯閣下の前で発表して大丈夫なんだろうか?
俺はホーンラビット伯爵閣下の胃痛が大変なことになるんだろうなと苦笑いを浮かべながら、無事に会談が終わることを祈らざるを得ないのだった。
おはようございます。
いってらっしゃい。
by@aozora