「ハハハハ、しかし王都を襲ったドラゴンを人知れず退けたとは、流石は勇者。しかもその功績を誇らず胸に秘めるだなど、そうできることではない」
「いえ、私たちにできたことは荒ぶるドラゴンの足止め程度、その後訪れたドラゴンの群れには何の対処も出来ませんでした。
ただその中に一体人の大きさの者、ドラゴンナイトとでも呼びましょうか、私たちと意思の疎通を取る思いのあるドラゴンがいてくれたお陰で、王城の一部破壊という傷だけで済んだのでしょう。
あの出来事は自分たちなど世界の脅威の前では小さな存在であるということを教えてくれるいい教訓となりました」
グロリア辺境伯閣下からのお声掛けに堂々と言葉を返すジェイク君、さっきはジミーの鑑定書を見た後にいきなり噴き出したかと思えば必死になって笑いを堪えていたけど、もしかしてジミーの称号を<鑑定>しちゃったとか? でもジミーの称号って表題の下に「*」で隠されちゃってるから普通の<鑑定>どころか<詳細人物鑑定>でも分からないはずじゃ。
そういえばジェイク君のスキル<鑑定>って勇者特典だったわ。熟練度に関わらず、あらゆる鑑定を行う事が出来るとかなんとか、あなた様にスキル詳細を教えてもらった時は“勇者半端ね~”とか思ったもん。
でも<詳細人物鑑定>でも見れない情報まで鑑定できちゃうって、<神眼>と変わらないよね? その辺どうなってるんだろう。これって所謂転生勇者特典だったり? 俺も転生者だけどスキル優遇はなかったし、やっぱり転生勇者は選ばれし者ってことなんだろうね、うん。
しかしジミーは何なんだろうね、始まりの村でレベルマックスにしてから旅立つゲーマーか何か? 神様倒しちゃってるし、っていうか神様って倒せるものなの? まぁ修行の一環の手合わせの上でってことなんだろうけど、天上界に御呼ばれして神々と五十年修行して帰ってくるって意味が分からん。
あなた様経由の情報ではお馬鹿な戦闘狂共は前回同様管理神様から説教を喰らったって話だけど、ジミーの精神年齢ってどうなっちゃってるの? その辺は神様パワーでどうにかしているのかな、よく分からんけども。
そういえば喧嘩馬鹿が一度遊びに来いって言ってたな。絶対行かないことにしよう、体感時間で数十年単位で監禁されそうだし。昔あなた様にも同じような脅し文句を言われたことがあったもんな、時間の流れを操れる存在は危険危険、神力怖い、超怖い。
「ホーンラビット伯爵閣下、私はこの辺で、ミランダ奥様方のご様子も確認しなければなりませんので」
ここは北西部貴族連合の盟主グロリア辺境伯閣下の居城、オーランド王国西部に強い影響力を持つドレイク・ホーンラビット伯爵閣下がエミリーお嬢様の旅立ちの儀の挨拶に伺って“はい、さようなら”とはいかず、当然のようにお泊り決定。
<聖女>でもあるエミリーお嬢様は本日の主役の為晩餐会に出席しなければならず、<勇者>ジェイク君は<聖女>エミリーお嬢様とセットってことで居残り。ジミーとフィリーちゃんは王都学園に共に向かった盟友であり郷土の誇りってことで強制参加、王都学園の無事な卒業を祝ってってことなので断る訳にはいきません。
鬼神ヘンリーと剣鬼ボビーはグロリア辺境伯領でも大人気の有名人、若者たちの父親でもある為帰るに帰れず、トーマスおじさんはその巻き添えに。
「<勇者>ジェイク・クロー様のお父上様でいらっしゃいますね、是非お話をお聞かせ願えないでしょうか」なんて言われちゃうんだろうな~。頑張れトーマスおじさん、既に真っ白になってるみたいだけど、後でホーンラビット伯爵閣下から聖茶とクッキーを分けてもらって乗り越えてください。
で、俺なんですけどね、元“狡猾の魔王”が晩餐会出席は色々と問題がですね。ボルグ教国の聖教会からは撤回の知らせが出てはいるんですけど、悪事千里を走るのことわざの如く早々悪評ってものは消えないものでして。
普段はその辺の一般人ですって顔をしているんで誰も注目しないんだけど、こうした公式の場だとちょっと。流石魔王のネームバリュー。
「そうですね、ミランダたちは“小鳥の巣箱亭”に泊まるのが初めてですから多少戸惑うでしょう。皆のこと、よろしくお願いしますね」
ホーンラビット伯爵閣下は全ての事情を呑み込んだ上で仕方がないといった表情をされています。片やいつまでも少年の心を忘れない三匹のおっさんは、“お前一人だけズルくね!?”といった非難の顔をですね。
仕方がないじゃないですか~、政治的な大人の配慮が働いちゃったんですから~。
俺はタスマニア・フォン・グロリア辺境伯閣下とドレイク・ホーンラビット伯爵閣下に深々と礼をすると、一人来賓の間を後にするのでした。
――――――――――――
“カランカランカランッ”
ドアベルの付けられた扉を開き、店内を軽く見回す。カウンターには当番の若い職人が座り、剣の手入れ道具を並べてショートソードを磨いている。
「こんにちは、デリルのオヤジさんいる? マルセル村のケビンが訪ねてきたって言えば通じると思うんだけど」
俺から掛けられた声に顔を上げた若い職人は、騎士服を着た面倒な客が来たなといった感情を隠すこともなく、ノソノソといった緩慢な動きで店の奥に引っ込んでいく。
「馬鹿野郎!! それを早く言わねぇか!!」
“ドタドタドタドタドタ”
奥の工房から響く怒鳴り声、若い職人は自分が何で怒られたのかも分からず工房に残されてしまっているのだろう。頑張れ若人、これも一人前の職人になる為の試練だ。
「ワイルドウッド男爵閣下、お待たせして大変申し訳ありませんでした!!」
「イヤイヤ、オヤジさん、硬い硬い。普段通りでいいって。それよりも今回は面倒な仕事を頼んじゃって申し訳ない。金子先生が拵はその道の専門家に任せたいと言って引かなくてさ、俺としてもそうした職人の直感は大事にしたいし、完璧を求める金子先生の気持ちも分かるからさ」
ここは領都グルセリアを代表する武器装具工房ヘンドリック武具店、扶桑国で刀鍛冶師の金子守綱先生に作製を依頼し完成を見た名刀“黒竿”の拵を作ってもらう為、普段オヤジさんが作ったことがないだろう扶桑国仕様の片刃の曲刀の鞘を依頼したって訳です。
ただ流石のオヤジさんも本格的な拵の作り方は知らないので、そこは金子先生に御出でいただき、金子先生所有の業物を使ってのレクチャーをですね。職人の拘りがぶつかり合って、中々の見物(アリーナがぶりつき状態)でございました。
「おう、それじゃお言葉に甘えて話し方を崩させてもらうけどよ。あの鬼人族の御仁、半端ねぇじゃねえか、今回俺必要だったか?
いや、素晴らしい仕事に参加させてもらえただけで感謝の言葉しかねーけどよ、大体あの“黒竿”、昔ドワーフの国で一度だけ拝見したことのあるアダマンタイトの名剣にも引けを取らないとんでもない代物じゃねえか。そんな物凄い刀の拵を作製させてもらえるなんて、俺の職人人生の集大成と言っても過言じゃない物凄い大仕事だったわ。本気で命が削れたじゃねえかこんちくしょう!!」
オヤジさんはそう言い俺の背中をバンバン叩きます。金子先生の拵教室が終わった後は何時間も“黒竿”と向き合ってピクリとも動かなかったって聞いてるけど、どうやら満足のいく仕事ができたようです。
「ではオヤジさん、“黒竿”の拵は」
「おう、今広げるからちょっと待ってろ」
オヤジさんはカウンターの上に広がっている剣の手入れ道具を丁寧に片付けると、持って来た長箱を静かに載せ、ゆっくりと蓋を開きます。長箱の中にはワインレッドの布地に包まれた一振りの刀、取り出してゆっくりと広げられたそれは艶光りした漆黒の鞘に納められた“黒竿”。
「鍔にはケビンから提供してもらった<魔物鉄(地竜)>を素材として使わせてもらった。
それと柄部分の紐と紐の下の魔物の革、あれ絶対ヤバい素材だろう、聞かないから言うなよ、ケビンに渡された石剣以外歯が立たなかったって段階でヤバさが知れてるからな」
オヤジさんはどれだけ大変だったのかを拵の説明と共に事細かに教えてくれますが、俺の目は黒竿の仕上がりの素晴らしさに釘付け。下品な派手さはなくともすれば地味な拵ながら、見る者の目を引き付けてやまない素晴らしい造り。金子先生が“拵はその道の専門の者に任せたい”と仰っていた意味がよく分かります。
俺はオヤジさんに断りを入れると、黒竿を手に取りゆっくりと抜きます。
音もなく滑らかに抜ける漆黒の刀、そこにあってそこにない、ゆっくりと振るうだけで分かる、この刀は斬るべきものを前に“斬った”という結果だけを齎す刀であるということが。
“ツーーーーーーッ、カチンッ”
「フ~~~~~ッ、堪能させていただきました。予想を遥かに上回る仕上がり、“黒竿”があるべき姿にあるのだということが肌に伝わってくる素晴らしい出来でした。
オヤジさんに頼んで本当に良かった、どうもありがとうございます。
今度またオヤジさんに鞘の作製を依頼したい両刃の直剣がありまして、その時はどうかよろしくお願いします」
オヤジさんは俺からの感想に満足げな笑みを浮かべると、「オウ、任せてお・・・」と途中までで言葉を止めると俺の目を覗き込んできます。
「・・・またか?」
「いや、これまでの奴に比べればそこまで・・・そこそこ?」
「お前な~~~、マジでいい加減にしろ? その趣味、いつか身を亡ぼすからな?」
「いや~、そこまででも~」
俺が照れくさそうに頭を掻くと、額に手を当てながら「駄目だコイツ、誰かが何とかしないと」と心配の言葉を向けてくれるオヤジさん。でもオヤジさん、趣味って止められないのよ。魔剣とか呪われた剣ってロマンだよね、鵺はトワイライトのペットだけど。鵺の鞘はペットの服みたいなもの? お客さん相手にちゃんと看板猫してくれてるし、少しくらいは優しくしてあげないとね。
「それじゃオヤジさん、“黒竿”はもらっていきます。前金で渡した資金の残りは次の仕事の頭金ってことで「店主はいるか? 装具の注文票を持ってきたぞ。何だ客か、珍しいな。お前の所にもボツボツ顧客が付くようになったのか、まぁうちに比べれば弱小もいいところだけどな」・・・」
なんだろう、既視感っていうか、前にもこんなことがあったようななかったような。
「ほう、それはなんだ? 形状からして一般的な剣ではないな。まぁ貴族の中にはそうした珍品を好む者もいるからな。
そこのお前、運がいいな。この領都グルセリアで一番の鍛冶工房テンペスト工房の次期工房長であるこの俺様の目に留まるとはな」
その若いのは胸のポケットから金貨を一枚取り出すと、指で弾いて俺に向かって飛ばしてくる。
「あーーっ、思い出した。あの時の馬鹿ボン、まだこの業界にいたんだ、流石馬鹿ボン、全然成長してないでやんの、懐かしい~。
ねえオヤジさん、この馬鹿無礼討ちしていい? 俺っちこれでも男爵だから問題ないよね? あ、駄目だ、うちってばオーランド王国から独立しちゃったから他国扱いなんだった。じゃあ人知れず闇に葬るってことで」
「ちょっと待てケビン、いや、待ってくださいケビン・ワイルドウッド男爵閣下。この馬鹿の無礼は俺が謝ります、どうか、どうかご容赦を。
このド阿呆が、手前もさっさとその中身の詰まっていない頭を下げやがれ!!」
怒鳴ると同時に瞬時に移動するや腹から捻じり上げるようにボディーブローを決める親父さん。下半身の力を総動員した腰の入った鋭い一撃は、一発で若造を苦しみのどん底に叩き落し、そのまま意識を奪い取ります。
ヤベー、オヤジさんのパンチ、世界を狙えるレベルじゃん。
「本当に済まねぇ、この馬鹿の始末はこっちで付けさせてもらうから、どうかここは一つ・・・」
「イヤイヤ、それはどうでもいいんだけどさ、この馬鹿、腰にいい物を付けてるよね~」(ニヤリ)
俺の目に留まった物、それはいかにも立派な鞘に包まれたショートソード。俺は黒竿を引き抜き若造の腰からショートソードを引き抜くと「千切りデーコンの刑じゃ~♪」と言いながら芯を残した状態で細かく切り刻んでいくのでした。
―――――――――――――
「それじゃオヤジさん、また今度。時間が出来たら顔を出すから」
嵐の中心が帰っていく、俺は無事に事態が収まったことにホッと胸を撫で下ろし、その場に崩れるテンペスト工房の馬鹿息子に視線を落とす。
「いくらテンペスト工房の工房主が息子を溺愛してるといっても、今度ばかりはちゃんと動いてもらわんとな。自分のところの息子が“狡猾の魔王”に手を出したと知ればあの親馬鹿たちも流石に理解するだろう。
コイツも六年前に散々絞られて真面目にやっていると思っていたんだが、人間性根の部分はそうそう変わらないもんだな。面倒だが運んでやらんと理解できないだろうしな」
六年前、オーガの息子に喧嘩を売った馬鹿。あの時は剣鉈でミスリルの名剣を千切りにされてたか。今回は両刃のショートソードを両側から千切りにされて無残な姿になっていやがる。これだけ念入りに細かく切り刻まれていながらしっかり繋がっているところがワイルドウッド男爵の技量の高さを窺わせる。
「今やオーランド王国を二分する勢力の中心に位置するホーンラビット伯爵家、そのホーンラビット伯爵家に絶大な影響力を持つケビン・ワイルドウッド男爵閣下。知らなかったじゃ済まされない大失態、この馬鹿はどうなっちまうんだろうな」
俺は馬鹿息子を肩に担ぎ上げ店の者に声を掛けると、事の顛末を説明する為テンペスト工房に足を向けるのだった。
おはようございます。
いってらっしゃい。
by@aozora