「ホーンラビット伯爵家独立領マルセル村にお越しの皆様方、冬のマルセル村をお楽しみいただけておりますでしょうか?」
グロリア辺境伯領領都グルセリアの領都教会で旅立ちの儀を行い、グロリア辺境伯家居城での晩餐会に参加し一晩宿泊した俺たちは、翌日領都の宿“小鳥の巣箱亭”に泊まっていたマリアお母さんやチェリーちゃんたちと合流しマルセル村へ戻ることとなった。チェリーちゃんは領都での買い物は無論、高級宿である“小鳥の巣箱亭”での一時を甚く気に入ったようで、宿での様子を馬車の中で興奮しながら語って聞かせてくれた。
マリアお母さんはそんなチェリーちゃんに朗らかな笑みを向け、トーマスお父さんは・・・。トーマスお父さん、あなたは頑張りました、とても立派だったと思います。
晩餐会ではザ・貴族といった雰囲気の方々にお声掛けいただき、一生懸命受け答えをしていたトーマスお父さん。こればかりは慣れだから、マルセル村の農兵に社交界の礼儀を求められても無理だよな~。
そう考えるとエミリーは凄いと思う。俺と同じただの村の子供だったにもかかわらず、王都学園でもしっかり周りの高位貴族令息令嬢と渡り合ってたし。俺も頑張ってはいたけど、エミリーほど上手くできた自信はないです。
でもこの一大イベントが終われば俺には人生の一大イベントが、エミリーのことでホーンラビット伯爵閣下にご挨拶にお伺いするっていう試練が待っていたんですが、何故か目の前ではケビンお兄ちゃんが演説をですね。
「皆様方がマルセル村にご来村いただいてから一月半、それぞれがそれぞれの目的のまま過ごされていたと思います。
アルジミール様、ライオネス様、ヘレン様は魔纏いの習得、誠におめでとうございます。魔纏いには様々な使い道がございます、魔力障壁や触腕はその一形態に過ぎません。ただ魔纏いを習得しただけで満足せず、ご自分の技術として使い熟せるよう、これからも精進していってください。
フレアリーズ殿下におかれましては復習の意味合いが強くなってしまいましたが、技術は繰り返すことでより理解が深まるもの。分からぬことは大福に相談し、より繊細な運用を心掛けてください。
ラビアナ様、カーベル様、アリス様は覇気の習得おめでとうございます。鬼神ヘンリー・ドラゴンロード男爵の覇気に耐えられれば立派なものです、ご自身をよく褒めてあげてください。
世の中には他者より自分を少しでも良く見せようと言葉を弄し、権力をちらつかせる輩が多く存在します。そんなとき自分自身に信頼を置くことができる、何があろうとも両足で立つことができるという確信は大きな力となるでしょう。
身に付けた技術をそれだけで満足することなく研鑽し己がものとすること、これからの皆さんの人生を心より応援させていただきます。
ロナウド様、遂にジジイをぶっ殺してくれましたね、最高です。ジジイの後は大福ヒドラドラゴンモードが待っています。マルセル村の引き出しは多い、心行くまで自己研鑽に励んでください。
ジミー、ジェイク君、エミリーお嬢様、フィリーちゃん、改めて旅立ちの儀おめでとう。これで君たちは大人の仲間入りです、俺から言う事は何もありません。君たちは既に多くのことを学んできた、後はこれまでの学びを土台に前に進むこと。世界は広い、マルセル村では知り得なかったこと、予測もしないような困難が待ち受けているでしょう。
困ったことがあったらいつでも相談しに来てください。マルセル村は君たちの故郷、君たちの帰るべき家なんですから」
ケビンお兄ちゃんが何かいいことを言っている。ロナウドのところだけ目茶苦茶私情を挟んでいたけど、概ねこれまでの総評かな?
でもラビアナお嬢様とカーベルとアリス、ヘンリー師匠の覇気に耐えられるようになったって凄くね? やっぱり王都学園に通うような才能の塊って持ち合わせているものが半端ないっす。
アルジミールたちも頑張ってるよね、大福と偽ボール魔法のキャッチボールでもしているんだろうか。アレって魔力操作と魔力制御の訓練に最適なんだよね。大福の奴複数属性の偽ボール魔法を投げてくるから凄い質悪いんだけどね。
ただ遊んでいるだけなのに気が付けば一流の魔法使いになっているってんだから、意味が分からないよな。っていうかフレアリーズ殿下だったらテンション爆上がりで魔力操作と魔力制御を習得してるんじゃないかな? フレアリーズ殿下にとって頭を使いながら大福と遊ぶなんて、ご褒美以外の何物でもないもんね。
「ではこれから頑張られている皆さんをマルセル村ならではの観光名所にご案内いたします。マルセル村といえば“大森林に最も近い村”、“魔境の入り口”などと呼ばれていたりしますが、今回の目的地はその魔境です。
大森林とは、魔境とは一体どういう場所なのか、皆さん自身の身体で体感してみてください」
ブホッ、はぁ!? ケビンお兄ちゃんがケビンお兄ちゃん過ぎる。フレアリーズ第五王女殿下や高位貴族の令息令嬢を魔境にご案内って正気の沙汰とは思えない。
「ジミー、ジェイク君、エミリーお嬢様、フィリーちゃん、ディアさん、クルン。勇者パーティーに依頼します、依頼内容は要人警護と荷物の配達です。
配達先は先導の白雲が知っています、荷物も白雲の収納の腕輪に入っています。依頼報酬は届け先で受け取る手はずになっていますので楽しみにしていてください。それじゃ白、先導を頼んだ、俺は最後尾に就く」
「了解した、兄弟子。ジミーたちはお客人たちの周囲を取り囲め、指示出しはフィリーだったな、俺が先行するから後の指示は任せた。
それじゃ行こうか」
白雲さんはそう言うと俺たちに後を付いてくるように促し、魔の森へと入っていく。俺たちは互いに顔を見合わせるとコクリと頷き、フレアリーズ第五王女殿下をはじめとした高貴なる血筋の皆様を案内して白雲さんの後を追い掛けるのだった。
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「なぁジェイク、さっきの大木、アレってトレントだよな? お前が話し掛けたら返事してきてたけど、ジェイクってテイム系スキルなんか持ってないよな?」
白雲さんの先導で枯れ木の森を進むこと暫く、ツッコミ担当のアルジミールが声を掛けてくる。俺たちにはすっかり慣れてしまった魔の森の不思議も、こうして反応してもらえるとなんかとっても新鮮に感じる。
「あぁ、神代様だろう? 魔の森の主でマルセル村の守護者だな。アルジミールもマルセル村が“大森林に最も近い村”って呼ばれていることは知ってるだろう? スタンピードでいつ滅びてもおかしくないような立地、現にグロリア辺境伯領にこれほど大森林に接している村はないしな。
でもマルセル村は今まで持ち堪え続けてきた、それはどうしてだと思う?」
俺からの問い掛けに暫く考えを巡らせたアルジミールは、ハッと目を見開き「いや、そんなまさか、トレントが人を守るなんて」と呟く。
「ヨークシャー森林国の聖霊樹、エルフ族が守り伝えていると言われている世界樹、大樹が人と寄り添うなんて話は探せば他にもあるのかもしれないが、少なくともマルセル村は滅んでいないからな。
因みに神代様がいた所が魔の森と大森林との境界、俺たちは既に大森林浅層にいるから気を付けろよ? まぁ冬の時期は殆どの魔物が冬眠しているから安全なんだけどな」
俺からの言葉にギョッとした表情になり周囲を見回すアルジミール、これが普通の反応だよな。でも浅層とはいえ大森林に入ったことに気が付かないなんて、魔力纏いの弊害? 寒いから冬場は魔力纏いなしじゃ生活できないんだけど、ちびっ子たちにはその辺注意するよう伝えておかないと。遊んでいてちびっ子だけで大森林に入っちゃいましたなんてことになったら目も当てられない、ミッシェルちゃんによくお願いして周知してもらうようにしないとな。
あまりにも当たり前になってしまっていて気が付くことのできない落とし穴、アルジミールたちを見ていると意外な事に気付かされる。でも御神木様の聖域結界については秘密にしておこう、あれがバレたら第二回魔王討伐軍を送られかねないからね、人の欲は際限ないしね。
“““““ブブブブブブブブブブブブ”””””
「なっ、ジェイク、ジミー、不味いぞ、アレはキラービーだ。急ぎ魔力障壁を並べて壁を作らないと」
枯れ木の森に響く悪魔の羽音、大森林においても恐怖の代名詞とされるキラービーの接近に急ぎ対処の声を上げるアルジミール。
焦っている割に冷静な判断、変に逃げまどって大森林で逸れてしまう方がよっぽど危ないからね。ライオネスはすぐにフレアリーズ第五王女殿下の前に魔力の触腕を出しながら護衛に入るし、アルジミールとヘレン先輩は空中に何枚もの魔力障壁を展開してるし、修行の成果が確り表れている。
「あぁ、お迎えご苦労様。ここまで来る最中に冬眠に失敗してうろついているような魔獣はいなかった?」
“““““ブブ、ブブブブブブ、ブブ”””””
「そう、それじゃ先導と護衛をお願い」
“““““ブブブブブブ”””””
そんな空飛ぶ悪魔の前に行き護衛と先導を指示するケビンお兄ちゃん、その様子に呆気にとられるアルジミールたち。
「あっ、えっ、あっ・・・」
「聞いた話だけど、ケビンお兄ちゃんって大森林の中で養蜂をしているんだって。それでこれから向かうのが巣箱を置いてある大森林中層にある“秘密の花園”だね。
今から三百年前、大森林に居を構えて隠遁生活をしていた大賢者シルビア・マリーゴールドがこの世を去った際に、その弟子である賢者イザベルが造り上げた大結界、年間を通し春の陽気に包まれたそこは常に花々が咲き誇り、美しい光景を見せてくれる。
当時の建物はすでに崩壊してしまったけど、今でも大賢者シルビア・マリーゴールドのお墓は枯れることのない花々と花の蜜を目当てに集まった昆虫たちに見守られてひっそりと佇んでいるんだ」
俺の言葉に一体何のことといった困惑の表情になるアルジミール。多分だけど森の散策には休憩場所が必要とかそういった気遣いなんじゃないかな? 流石にフレアリーズ第五王女殿下に「その辺でトイレを済ませてください、見張ってますから」とは言いづらいもんね、配慮は必要だよね。
枯れ葉の積もる大森林の中、俺たちは白雲さんとキラービーの先導の下、第一中継地点である“秘密の花園”へ向けて進んでいくのだった。
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「ラビアナ、向きが逸れてるぞ。そっちじゃない、真っ直ぐ進め」
「カーベル、アリス、賢者イザベルの大結界に惑わされています。大結界は強者の侵入を拒みます、魔力を隠し、覇気を閉じ込めなさい。それくらいは出来ますね?」
ラビアナお嬢様たちがジミーとフィリーに注意されている。そう言えば“秘密の花園”は強い者には認識できない、いつの間にか向かう方向が変わってしまいそのことに気が付けないというとんでもないトラップが仕掛けられているんだった。大森林中層に辿り着けるような者は当然強者、大森林の魔獣を相手に生き残るような猛者がこの条件を突破できるはずがない。
でも子供の頃のケビンお兄ちゃんは逆転の発想で“誰にも気が付かれなければ襲われることもない”とばかりに、魔力を隠し気配を消して“秘密の花園”に辿り着いたんだとか。
そんなの目隠しすれば夜の暗闇でも一緒といってるのと変わらない暴挙、魔力や覇気という強力な防御を自ら捨てるんだから、狂気の沙汰としか思えない。
「アルジミールたちもだぞ、大福から魔力隠しは習ったんだろう? ここから暫くは魔力も気配も引っ込めて自分を森の小虫と言い聞かせるんだ。実際俺たちなんか大森林の魔獣たちにとっては小虫同然なんだ、下手な意地は張るなよ?」
「わ、分かった。フレア、ライオネス、ヘレン、そういうことだ。ここはジェイクの指示に従おう」
アルジミールが確りリーダーしている。そんなアルジミールを優しく見守るフレアリーズ第五王女殿下、これが姐さん女房、金のわらじでお迎えしろという伝承は嘘じゃなかった。その包容力は大福から学ばれたんですか? 大福先生、凄まじいです。
俺は何か上手くやっていけそうな友人夫婦(予定)の様子に勇気付けられ、“俺もこれが終わったらホーンラビット伯爵閣下へのご挨拶を頑張らないと”と自身に気合を入れるのだった。
おはようございます。
いってらっしゃい。
by@aozora