“ガタガタガタ”
街の真ん中を走る大通り、多くの荷馬車が行き交いあちらこちらから罵声や喧騒が聞こえて来る、ある意味活気に溢れた地方都市エルセル。そんな場末の街を訪れた辺境の村の子供たちは思う、“ヤッホー買い物だ~♪”と。
だって仕方がないよね、マルセル村にお店はないんだもん。硬貨なんて生まれてこのかた見た事も触った事もないんだもん。マルセル村って木札だからな~、要は村内通貨、人生ゲームのお金と一緒、他所に行ったらただの木屑。
それでここエルセルの街に到着する前にボイルさんに渡されたのが銅貨二十枚と銀貨二枚の入った小袋、エミリーとジミーも初めて見るお金に興味深々です。でも何か絵みたいなものが描いてあるんですけど、これって何なんだろうか?
「あぁ、それは世界樹の葉と王妃様だね。銅貨に描かれているのが世界樹の葉、世界樹って言うのは遥か東方の大地にあるとされているこの世界を支えていると言われている巨大な樹木の事だね。
それと銀貨に描かれているのがこのオーランド王国の正妃様のメルビア・リア・オーランド様、因みに金貨には国王様であらせられるゾルバ・グラン・オーランド様が描かれているよ。国王様が戴冠式を迎えると新しい硬貨が発行されるんだよ。
だからこの国ではお金を溶かしたり贋金を作る事は極刑に値するんだ。ケビン君なんかは“銀が無ければ銀貨があるじゃないか”とか言って溶かしちゃいそうだから怖いんだけどね。絶対にやめてよね」
そう言い顔をしかめるボイルさん。ケビンお兄ちゃんが“僕をなんだと思ってるんですか、そんな勿体無い事する訳無いじゃないですか!”とか言って抗議していますが、俺もケビンお兄ちゃんならやりかねないと思います。と言うか全員そう思ってます。
“良いもん良いもん”とか言っていじけたフリをしていますが、“今はまだ身近な素材だよね”とか絶対斜め上の事考えてるんだろうな~。最近少しジミーの気持ちが分かってきた俺です。
でもそうか、世界樹があるのか。ゲームだと世界樹の葉を求めて旅をするってシナリオもあったんだよね、確かエリクサーの原材料だったかな?“呪われた王妃”、呪いの森の暗黒魔導士が王都に呪いを掛けて、それで王妃様が倒れちゃうって話しだったんだよね。この呪いの厄介な点は元凶の暗黒魔導士を倒しても呪いが解けるどころか強まっちゃうって所、結局エリクサーの原材料を探して作製出来る森の大賢者(故人)の所に行って作製して貰わないといけないって言うね。
まさか大賢者様が死んでるなんて思わなかったもん、最初に辿り着いた時は挫折したよな。その後聖女様の<祈り>で亡霊が出て来るムービー展開になるとは思わなかったけど。パーティーメンバーに聖女様がいない場合は墓標に高級なお酒を捧げるんだっけ?祝詞かお供えで英霊が登場って制作陣の趣味だね、絶対。
でもその大賢者(故人)がいる場所って大森林の奥地なんだよね、モンスターレベルが・・・。その辺を彷徨ってるのがホーンタイガーやレッサードラゴンって・・・。インフレし過ぎだろうが、普通に中ボスクラスだろうが、何その無理ゲー。オークソルジャーが雑魚って一体、実際のオークソルジャーも雑魚だったけどもさ。
村の大人たちが大森林には絶対に行くなって言う訳が良く分かるわ~、魔の森との落差が激し過ぎ、育った村のすぐ隣がまさかのラスダン状態って。ゲーム開始時は王都スタートだから分らなかったよ、赤髪のジェイクって凄いところ出身だったのね、そりゃ勇者にもなるわ。
でもあのシナリオってマルセル村なんて出て来てたっけかな?大森林が激ヤバだってのと世界樹が目茶苦茶遠いってのは覚えてるんだけど、近頃前世の記憶も曖昧なんだよね。必要ないっちゃ必要ないし、下手にゲーム知識に引っ張られて大福との初戦みたいにへましてもな~。それにここって“ソード オブ ファンタジー”っぽい剣と魔法の世界だけど実際別物だし。
世界の歩き方を読んで旅行した気分になってたのが現地に行ったら全く違ってたってくらい違うし、ケビンお兄ちゃんキャタピラー食べてるし、我が家の主食ビッグワーム干し肉だし。そりゃ美味しいけどもさ、ゲームと現実の食文化の違いよ。(T T)
そう考えるとあのゲームでの知識ってこの世界の観光案内パンフレット程度のモノって考えておかないと詰むかも、魔物討伐の時に一撃撲殺の方が買い取り価格が高いだなんてゲームにはない知識だもん。仮に俺みたいな転生者がいたら絶対に近寄らない事にしよう、“同じ転生者なんだから助けろ”とか言って目茶苦茶な要求をしてきそうだし。と言うかそうなると赤髪のジェイクってバレたらヤバいじゃん、主要キャラは絶対チェックされるじゃん。
よし、現地人のフリをしよう。実際現地人には違いないし、幸い称号には“異世界転生者”みたいなモノはなかったから何とかなる、バレないバレない。
「どうしたのジェイク君?銅貨の模様を見て考えこんじゃって?」
「あ、エミリーごめん。ボイルさんが言っていただろ?この葉っぱの模様は世界樹の葉なんだって。世界樹の葉って言えば、確か勇者物語に出てきた魔法の勇者様が魔王討伐の後に探し求めていたエリクサーの原材料だったなと思ってね。
あのお話しでは魔法の勇者様は結局最後まで手にする事が出来なくて愛する人を救えなかったけど、その原材料の世界樹の葉は銅貨に刻まれるくらい有名なのになんでエリクサーが作れなかったんだろうって思って」
「そう言えばどうしてなんだろう?世界樹の葉っぱって“癒しと繁栄の象徴”だっけ?小さい頃お母さんが教えてくれたの。薬師ギルドのマークもこの世界樹の葉っぱなんだって。銅貨に刻まれてるってのは知らなかったけど」
こうした細かい設定は流石にファンブックにも載ってないだろうし、やっぱりここは全く知らない異世界って考えておいた方が安全だよね。昔の俺TUEEEEに憧れていた頃の自分に教えてやりたい、“早死にしたくなければ止めておけ、命大事に・安全第一”って。でも草原の野営の時に襲ってきた化け物みたいなのがゴロゴロいる様な世界なんだし、もっと強くならないとね。若いうちの努力を惜しむな、俺は明るい老後を目指すぞ!!
“ボビー師匠の様な老後も悪くない”と、尊敬の念をより強くするジェイク少年なのでありました。
「うわ~、可愛い髪飾り♪」
「すみません、あの投げナイフを見せて貰えませんか?」
「すみません、馬用のブラシとかってありますか?あと毛足の長い動物用のブラシがあったら一緒に見せて貰っても」
ボイルさんに連れられて街の雑貨屋さんにやって来た俺たちは早速お目当ての品を探して物色を開始します。
エミリーは髪飾りだったりペンダントだったり、ジミーは投擲用の武器を御所望の様です。ケビンお兄ちゃんは宣言通りブラシを物色、毛先の硬さを確かめてるみたい。
俺は何を買おうかな~。魔獣避けのペンダント?こんなペンダントで魔獣が避けれるのかね?銀貨一枚ってそれなりに高いし。
“キョロキョロ”
よし、誰も見てないって事で「<鑑定>」(ボソリ)
名前:ホーンラビットのお守り(低級)
詳細:ホーンラビットの角を加工して作ったお守り。ホーンラビットの匂いを察知し低級魔獣が避けて行く効果あり。臭いは角の先の方が強く、より効果が高い。
制作者:セシル・ゾイル
へ~、ちゃんと効果があるんだ。って言うか魔獣の嫌う臭いを出すんじゃなくてホーンラビットの匂いで魔獣が避けて行くんだ。流石“森の悪魔”、どれだけ畏れられてるの?って話しだよね。でもそれを利用する人間てやっぱり逞しいな~。
「おや、坊やはホーンラビットのお守りが気になるのかな?それは魔道具みたいに確実な効果があるって訳じゃないけど、“草原でグラスウルフに遭遇したけど近付いて来なかった”って言って、個人でやってる行商人や旅人には結構評判は良いんだよ?良かったらお土産にどうかな?坊やは他所の村から来たんでしょ?」
そう言い自然に後ろから話し掛けてくる雑貨屋の店員さん、現れ方がとってもスムーズ、この店員さん中々やるな。
「あ、ごめんなさい、僕あまり街って来た事がなくって。これって選んでもいいですか?」
そう言いこっそりと<鑑定>を掛けながらガサガサと。あった、じゃあこの二つを買おう。
名前:ホーンラビットのお守り(最上級)
詳細:ホーンラビットの角を加工して作ったお守り。ホーンラビットの匂いを察知し低級魔獣が避けて行く効果あり。臭いは角の先の方が強く、より効果が高い。
制作者:セシル・ゾイル
これって一本の角から何個も作ってるみたいなんだよね、そりゃ無駄を出さない様にするにはその方がいいけど、効果の高い品は限られる。この二つはどうやら先っぽの方で作った奴みたいです。
「あら、二つも買ってくれるの?毎度あり、銀貨二枚だけど大丈夫かい?」
「うん、お父さんとお母さんにお土産であげるんだ。このお守りで大好きな二人を守って貰うんだ♪」
「そうなんだ~、坊やは優しいわね。さぞや立派なご両親なんでしょうね、それじゃそんな優しい坊やにはこのホーンラビットの革製の組み紐を一本おまけしちゃおう」
「うわ~、本当?お姉さん、どうもありがとう」
「どういたしまして。エルセルの街に来る事があったらまた寄ってね。」
手を振る店員さんに、満面の笑みを返し、ホクホク顔になるジェイクなのでありました。
「見つけたぞこのヘボ鍛冶師!お前の所で買った剣すぐに折れちまったじゃねえか、お陰で依頼失敗、どうしてくれるんだよ!」
突然店内に響く怒声に誰もが視線を向ける。そこには背の低いひげを蓄えた筋肉質の男性に詰め寄る冒険者風の男達が数名。冒険者風の一人の男性が、苛立ちの顔を浮かべながら更に言い募る。
「お前の所の剣の評判を聞いて使ってみればこの
唾を飛ばしながら声高に叫ぶ男性、その仲間らしい男達は男性の後ろでニヤニヤといやらしく笑っている。
「ふむ、話しは分かった。先ずはその折れた剣とやらを見せて貰おうか」
小柄な男性は興奮する男性の事は意に介さず、まずは折れた剣を見せろと要求した。
「ほれ、ボッキリ折れてるだろうが」
冒険者風の男性が腰に刺した剣を引き抜くと、確かに刀身の半ばからボッキリ折れた剣が姿を現した。
「ふむふむ、ところでお主ら一体どう言った依頼でこの剣を使った?刀身を見るに血に汚れた感じも見られんのだが」
「あん?ロックタートルの討伐だよ!鈍亀が現れたって聞いて勇んで依頼を受けて見ればこの結果だよ、こっちは剣が折れたら仕事にならないんだよ!」
はっ?ロックタートル?それって岩のように固い亀の魔物だよね?それを剣で討伐?普通ハンマーかメイスの様な鈍器じゃないの?
店内にいる者から流れる“こいつ何言ってるの?”と言った空気。そんな中詰め寄られていた小柄な男性が深いため息と共に言葉を返す。
「あのな、俺の工房の入り口に大きく書かれている文字をよ~く思い出してくれるか?
“低級魔物用武器専門ゾイル工房”って書かれてなかったか?その横に“ゴブリン、ホーンラビット、グラスウルフ専用武器防具各種取り揃え、取扱指導承ります”とも書かれていたはずだが?
でだ、ロックタートルは低級魔物か?俺の記憶が正しければ、その討伐の面倒さから中級上位に位置していると思ったんだがな。あの肌の硬さ、甲羅の頑強さから“動く砦”とか言われてなかったか?そんな相手に剣で討伐?そりゃ折れるだろうさ。剣だけで討伐しろって言われたら金級冒険者でも厳しいんじゃないのか?
あの鈍間亀の討伐はハンマーかメイスで只管殴り続けるのが冒険者の定石だと聞いた事があるんだが、間違っていたか?」
うん、これは誰が聞いても完全な言いがかりだね。
「喧しい、お前は黙って金を払えばいいんだよ!大体亜人のドワーフがこの街で偉そうに工房を開いてるのがおかしいんだよ、俺たちに金だけ置いてとっとと出て行けや、この髭モグラ!」
うわ~、完全な揺すり
「う~ん、難しい所かな?集団で威圧は掛けてるけど手は出してないしね、実際に折れた商品はある訳だし、その商品に対する不平を言いに来たって言われちゃうとその場で解放なんじゃないかな?この街の冒険者はミルガルの街と違って質の悪い連中もいるから、こう言う事がたまにあるのよね。坊やも関わっちゃだめだからね」
そう言いそそくさと店の奥に引っ込む店員さん。でも店員さん、ウチの村には更に質の悪い人物がいるんです。
先程店内に響いた“大体亜人のドワーフがこの街で偉そうに工房を開いてるのがおかしいんだよ、俺たちに金だけ置いてとっとと出て行けや、この髭モグラ!”と言う煽り文句。この“ドワーフ”と言うパワーワードに敏感に反応した勇者病<仮性>重症患者の少年が一人。
ボイルさんが天を仰ぎ、ボビー師匠が頭を抱え、エミリーとジミーが大きなため息を吐く中、欲しかったブラシの購入を終えた我らがケビンお兄ちゃんは、満面の笑みで騒動のど真ん中に歩みを進めるのでした。
本日一話目です。