転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第98話 村人転生者、炎の匠と出会う

地方都市エルセル、その街の一角にある雑貨屋に訪れた俺達マルセル村の一行は、普段中々する事の出来ない数多くの商品を物色しながらのショッピングに心踊らせながら、お目当ての品を手に取ってはああでもないこうでもないと頭を悩ませていた。

そんな楽しい店内に突如響く荒々しい冒険者風の男の怒声、場所も弁えない男の行動に折角気持ちよく買い物を楽しんでいたのにと若干顔をしかめつつも、欲しかったブラシを店員さんに預け清算をしていた私の耳に飛び込んできた衝撃的な言葉。

“大体亜人のドワーフがこの街で偉そうに工房を開いてるのがおかしいんだよ、俺たちに金だけ置いてとっとと出て行けや、この髭モグラ!”

 

・・・えっ?今彼は何と?

「あの、店員さん。あそこで冒険者風の男に絡まれている小柄で筋肉質の男性ですが、先ほどドワーフとか呼ばれていませんでしたか?」

 

「あぁ、あの方は確かにドワーフですね。ウチに工芸品を降ろして下さっているセシルさんのご主人で武器工房を構えていらっしゃるフレム・ゾイルさんです。当店との付き合いも十五年くらいになりますかね、ウチでも取り扱っているんですけどフレムさんのナイフはよく切れるって評判がいいんですよ」

そう言い棚から一本のナイフを取り出して見せてくれる店員さん。

 

「ほ~、これは中々。美しい波紋、鋳物の削りだしじゃなく鍛造品ですか。丁寧な仕上がり、これだけの品なら大銀貨六枚は固い。店員さん、因みにこれってお幾らなんですか?」

 

「はい、こちらのナイフは大銀貨二枚になりますね、お客様は色々購入して下さったので特別に大銀貨一枚と銀貨七枚で如何ですか?」

「・・・はっ?いやいやいや、そんなはずないでしょう、いくらなんでも安過ぎません?物に溢れた領都でもこれだけの品をそんなお値段じゃ買えませんよ?少なくとも大銀貨六枚、七枚半と言われても納得の一品じゃないですか」

ナイフと店員さんの顔を何度も見まわし信じられないと言った顔になる俺に、店員さんが言葉を続ける。

 

「あ~、それなんですけどね、理由はそのナイフを作るための材料なんですよ。

この街には他に二つほど鍛冶工房があるんですが、フレムさんが工房を開くまではこの街及び周辺地域の鍛冶仕事の一切をその二つの工房が取り仕切っていたんですよ。ですので色々と圧力がですね~。

特に大変なのが材料の鉄のインゴット、これが全く回して貰えないんですよ。仕方がなしにゾイル工房はくず鉄を材料とした商品、農具や調理器具、ナイフと言った生活雑貨全般を主体とする工房になったんです。

お客さんがご存じかは分かりませんが、ゾイルさん曰くくず鉄を材料にすると火力の関係でどうしても脆くなるそうです。日常品の作製で使う分には支障はないが剣の作製となると鉄のインゴットを使った物にはどうしても勝てないんだそうです。以前ゾイルさんが鉄のインゴットを使って作ったナイフを見せてくださいましたが、明らかに別モノでしたから。

ですので話し合いの末このお値段に。購入されるお客様にもその事はきちんと説明して欲しいと言われております。鍛造製法に拘るのも材料のくず鉄から余分なものを除くための工夫だそうです。私はこの美しい波紋が好きなんですけどね」

 

そう言いうっとりとした表情でナイフの刀身を眺める店員さん。鍛造ならではの美しい波形、クズ鉄を幾重にも鍛錬したから現れたであろうそれは、刃物特有の妖しい美しさを放っている。

うん、いい、これ凄く良い。お世辞抜きに見ていて飽きない。

「店員さん、ナイフの手入れの道具込みで、さっきのお値段でどうです?」

 

「う~ん、お客さんはお若いのに買い物が上手いですね~。いいでしょう、その御値段でお譲りしましょう」

「ありがとうございます、ではこれで。またエルセルに来たら寄らせて頂きますよ、良い買い物をありがとうございました」

俺はそう告げると買った品物をカバンに仕舞い、笑顔を浮かべ製作者のフレム・ゾイルさんにご挨拶に向かうのでした。

 

 

「お取込み中の処失礼します。失礼ですがゾイル工房のフレム・ゾイルさんでよろしいでしょうか?」

 

「あん?何だお前は!?今は俺がコイツと話をしてるのが分からねえのか?ガキは引っ込んでな!」

なんか馬鹿が喚いていますが完全スルー、俺はフレム・ゾイルさんの目を見詰め笑顔で返事を待ちます。

 

「あぁ、確かに俺はフレム・ゾイルだが、君は?」

 

「はい、私はマルセル村のケビンと申します。先程こちらのお店で先生の作品を購入させて頂きました。いや~、素晴らしい。簡単なお話は店員さんにお聞きいたしましたが、材料が手に入らない中なんとか集めたくず鉄を使っての工房運営、さぞやご苦労が多かったと思います。ですがそこで生み出されたナイフ、これがもう。銀色に輝く美しい刀身に映し出されたあの波紋、思わず目が釘付けになりました。

そう言えば先程からこちらの男性は先生の工房で購入された剣をお使いになられていたと仰られていましたが?」

 

「そうだな、俺も確認したがあれは確かに俺が打った剣だったな」

 

「そうですか、申し訳ありませんがよろしかったらその折れてしまった剣を私にも拝見させて頂いてもよろしいでしょうか?」

 

「あん?何だってお前なんかに見せねえといけねぇんだよ。これは俺とそこのチビの問題であってだな」

 

「そこをなんとか、曲げて曲げてお願い申し上げます。この通りでございます」

俺は腰を九十度に折り、誠心誠意のお願いをする。冒険者風の男性はその迫力に押され渋々剣を引き抜いた。

 

「お~、これは何とも。先生、この中心部分が周りと若干素材が違う様ですが、これは折れ(にく)くする為の工夫か何かなんでしょうか?」

 

「あぁ、よく分かったな。中心部分に軟鉄を仕込む事で掛かる力を分散する工夫を加えている。くず鉄はどうしても材質にムラが出来やすい上に溶かす過程で硬質に偏り易くなるからな。これも苦肉の策だ」

 

「アハハハ、素晴らしい、先生は最高です。そこまでの工夫、さぞやその切れ味は凄まじいものであった事でしょう。この折れた剣からもその事が良く伝わってきます。

あ、こちらありがとうございました、とても良い物を拝見させて頂きました」

俺は冒険者に礼を言い恭しく剣を返すのだった。

 

「お、おう。あのよ、ちょっと聞くがよ?この剣ってそんなに凄い物なのか?」

 

「えぇ、それはもう。先程のお話ですと冒険者ギルドでこの剣の評判を聞き購入されたとか。その時こう言った言葉を聞いたのではないでしょうか?“よく切れる”と」

 

「あぁ、確かに連中はそんな様な事を言ってたな」

冒険者は俺の問い掛けに、何かを思い出したかのように言葉を返した。

 

「そうでしょうそうでしょう、この剣は切る為に生まれて来たと言っても過言ではない程切れ味に特化した剣なんですよ。但しその扱いが非常に難しい、刃筋を綺麗に立てられた時は獲物を何の抵抗もなく切る事が出来たでしょうが、それが少しでもズレればその抵抗は他の剣よりも強くなる。

一般的な剣が叩き潰す、叩き切る事を目的としているのに対し、この剣は純粋に切る事のみを追求しているんです。結果低級魔物専門の武器となってしまっているだけなんです。剣の声を聞き剣の求めるように振るう事を意識して頂けたのなら、あなた様はより高みに上る事が出来るでしょう。

でもそうですね、この様な言葉だけでは信用していただけないかもしれませんね。そうだ、ナイフはお持ちですか?」

 

「あぁ、持っているが?」

 

「そちらの品はお幾らで購入されたものですか?」

 

「デビット工房製で銀貨二枚だな」

 

「なるほど、細々(こまごま)とした使い方をするにはとても良い品ですね。ではそのナイフを横にして持っていていただけますか?はい、ありがとうございます。それと先程の折れた剣をお貸しください。ありがとうございます。ジミー、ちょっと来てくれ。

ジミー、ちょっとこの剣を使って刃筋をちゃんと立てて滑らかに通してもらえるか?”切る”と言う意識だけしっかり持ってくれればそれでいい」

 

「分かったよ、ケビンお兄ちゃん」

ジミーが意識を集中させる。構えるのは横に出されたナイフの十センチ上。その位置からスッと下ろされた剣身。

“ボトンッ” 

店の中に聞こえるのは落下音のみ、差し出されたナイフは見事な切断面を残し真っ二つに分かれてしまっていた。

 

「いや~、素晴らしい切れ味を堪能させて頂きました。こちらはナイフのお代になります、銀貨二枚、お納めください」

 

「あ、あぁ」

 

「フレム先生、是非工房で先生の作品を拝見させて頂きたいのですがよろしいでしょうか?」

 

「お、おう。それは構わんが少し待ってくれるか?これからこの店に納品をしないといけないんでな」

 

「はい、お待ちしております。ボビー師匠、勝手に予定を変更してしまって申し訳ありませんが、そう言う事でよろしいでしょうか?」

 

「うむ、構わん。と言うか儂も行くぞ。まさかこれほど近くの街にこの様な名工が工房を構えていようとは思わなんだ。現役時代の血が騒ぐ思いじゃわいて」

ですよね~、燃えますよね~、ジェイク君なんか目が爛々としてますし!!

 

「な、なぁ、ちょっといいか?」

俺たちがフレムさんの鍛冶工房の事で盛り上がっていると、先程の冒険者が声を掛けて来た。

 

「あ、はい、どう致しましたか?」

 

「もしかしなくてもこの剣は名品だったって事なんだよな」

 

「そうですね、私は大変素晴らしい剣であると考えますが、それは考え方、使い方次第かと。

獲物を倒す方法は様々、相手の攻撃を剣で受け、押し返し叩き潰す様な戦い方には余り向かないかと。そうした戦い方を好まれる方には、やや太さがあり粘りのある剣をお勧め致します。先程のデビット工房のナイフなどがそれに当たりますね、命を預けるに足りる素晴らしい剣を揃えていらっしゃるはずです。

かたやゾイル工房の剣は基本打ち合いを前提としていません。恐らくは攻撃を回避し切り抜ける様な、速さに特化した戦い方になるでしょう。じっくり足を止める戦い方にはあまり向かないのです。それ故低級魔物専用武器と謳っているのですよ。

あなた様もグラスウルフ等は順調に狩れていたのではないですか?それでつい格上のロックタートル相手にも使用してしまった。この剣なら行けると思ってしまった。

 

今回の件は不幸な事故なのです。誰が悪いと言う話ではない、認識のすれ違いだった、それだけの事。それでももしあなた様がより高みを目指すのならば、ゾイル工房の剣を使い低級魔物を狩り腕を磨く事をお勧めします。その切り口が静かな水面(みなも)の様になった時、貴方の剣技は更なる高みに昇る事でしょう」

 

「そ、そうか。な、なぁ、ゾイルさん、さっきはすまなかったな。あんたに言われていた事も忘れて調子に乗ったのはこっちだった様だ」

 

「いや、構わん。俺も言葉足らずだった様だ、その事をその少年から教えられたよ。この剣は折れ易い、その事を認めたくないばかりに低級魔物専門なんて変な言い訳を付けて。切れ味には自信があった、だがそれは一般冒険者の剣の使い方を考えていない拘りだったらしい。迷惑を掛けて申し訳なかった。その剣の代金は返却しよう、その金を新しい剣を買う足しにして欲しい」

 

「あ、いや、それはいい。その、出来れば俺にもう一度ゾイル工房の剣を売って貰えないか?今度は無理な使い方はしない、グラスウルフを狩りながら腕を磨きたいんだ。ジミーとか言ったか、綺麗な振り下ろしだったよ。俺はいつの間にか冒険者に憧れていた頃の情熱を忘れてしまっていたらしい」

そう言い自分の仲間たちと“すまん、恥をかかせたな”“いや、俺たちも調子に乗ってたわ、悪かったな”と言った会話をしながら店を出て行く冒険者風の男たち。

 

え~っと、何か良い感じに話しが進んでるみたいなんですけど、一体何だったんでしょうか?

ま、良いや。

ドワーフの鍛冶屋、滾る!

興味の無い事は意識の中からすっぱり切り捨て、思いは既にファンタジーの鍛冶屋。自らの引きの強さにガッツポーズを取る、ケビン少年なのでありました。




本日二話目です。
水筒を持ち歩く様にしました。
ジュースばかり買ってたら出費が・・・。
あ~、冷えた麦茶が旨い。
いってらっしゃい。
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